紅く咲く白い薔薇

接 触

作:ユキヲ さん

夕暮れが深まった午後5時前、駅のロータリーからすこし離れた道路脇に黒塗りの高級外
車が停まっていた。後部座席の窓に貼られた真っ黒なフィルムから中を窺い知ることはで
きない。後部座席には初老の男と大柄な秘書らしき女がいた。初老の男は身持ちのよい紳
士といった風貌で、服装や顔立ちからもことのほか若く見えた。女がメモを書いて手渡す。
「『優紀は素直なペット』か・・・よく考えるもんだな。キーワードが毎回ちがう」
男は渡されたメモを見ながら呟いた。
「まあ、彼女なりの用心なんですわ。きっと・・・」
男の隣に座る大柄の女性がクスっと笑った。
「その『アルテミス』とかいう女セラピストのか?」
「ええ、まさか桐生優紀があなたの専属ペットとは伝えてませんから・・・。毎回違うご
主人さまに仕えていると想定しての自衛の手法なんですわ・・・きっと」
「よくわからんが、なんで言わんのだ?」
「教える必要がないからです。必要以上の情報はお互いの身を滅ぼす危険性も持ち合わせ
ていますもの・・・それとも教えてもいいんでしょうか?祖父が孫を専属のペットとして
仕わせているのだと」
「わかった、わかった。よく、わかったよ。それを口にせんでくれ」
男は慌てて女の言葉を制し、落ち着かぬ様子でたばこを口にした。一口吸って気を落ち着
かせたか、満足げに長いままのたばこを揉み消した。煙は車内のクリーナーに吸い込まれ
ていく。
「いつものようにここに300万用意してある。遊ばせてもらった後、いつもの口座にあ
と300振り込もう。経営コンサルティング費用の名目だ、処理を忘れるな」
「どうも、いつも過分すぎるほどのご配慮感謝します」
女の言葉には感謝する気持ちなど、どこにも持っていよう筈もないことはお互いが理解し
ていた。女は男が差し出した300万の大金をバックへと押し込んだ。
「それから、くれぐれもー」男が言いかけたとき、女が男の言葉を遮った。
「承知しております。優紀は以後も桐生様専属として管理いたします。彼女たちは平常時
の私生活においてもむやみに男を受け入れないよう『タガ』をかけてありますので、ご心
配なく・・・」
うんうんと男は満足げに首を縦にふった。
「ただ・・・・」女が口篭もる。
「ただ・・・なんだと言うんだ?」
「アルテミスがいたずらなもので・・・暗示を与える際におそらくは優紀さんの体を・・」
「その程度ならかまわんよ。他の男に触れさせるなということだ」
「承知しました」女が頷いた。女は続けて言う−。
「桐生様、失礼を承知でお話しさせていただきますが、いつもこれだけのご支援をいただ
いておれば、私どもの桐生様への感謝の気持ちとして、優紀さんご本人の意思を操作して、
あなたへの隷属を刷り込んで差し上げることもできますのに、あなたはいつもそれを断ら
れますわ。意思操作ができればおそらくあなたへの反抗的な態度も消え、あなた御自身の
欲求も満たされるような『女』に仕立て上げられますのに・・・・」
桐生と呼ばれた男、優紀の祖父、桐生仁は思い出し笑いのような笑みを浮かべて再びたば
こをくゆらせた。
「いやいや、それでは面白味がないのだよ。普段私に物を見るような眼差しさえしないほ
ど毛嫌いしている反抗的な態度をとっていてこそ、君たちの「魔法」によって奴隷のよう
に傅(かしず)く優紀が私にはたまらなくいいのだ。私もまだまだ多忙な身で、こうして
あんたにセッティングしてもらう方が楽でいい。あのコも寮生活で、たまにしか自宅に戻
らんし・・まあ、無論自宅であのコを弄ぶことなどできんのだからな。遊びだよ、少し危
険な大人の遊びだ。そのうち、うちの嫁にでも『隷属の意思』を刷り込んでもらおうか。
あれも息子が他界してから私に刃向かい、会社を自分のもののように仕切っておる。乗っ
取る気でおるんだろうが、私はそこまで勝手にさせるつもりはない。いずれ思い知らせて
やろうと思ってたところだ」
「それでまず『連れ子』の優紀さんを貶(おとし)めたとか・・・」
女が冷ややかに微笑んだ。ふふんと桐生は鼻を鳴らした。
「よく調べてるじゃないか。そう、嫁と優紀はわが桐生グループにあっては、もはや血縁
ではないのだよ。自分達が飼われていることも忘れて、主人に逆らうなど私が許すはずも
ない。君たちには引き続き協力を惜しまんつもりだから、これからも私の私的な行動集団
として支えてもらいたい」
「光栄ですわ。では桐生圭子様への『刷り込み』の件・・・依頼があったものとして承っ
てよろしいわけですね」
「ああ、急がんからよろしく頼む」
「次回お会いするときに計画概容をお持ちしますわ・・・それにしても桐生様、男の方の
征服欲は仕事についても『危険な遊び』ついても尽きないものですね。私の理解の範疇を
超えていますわ」女は笑った。
「おいおい、わからんはずないだろう。君も男なら・・・」
桐生は意外な言葉を口にした。
「あはは、桐生様はニューハーフといった者を理解できませんの?お年からしてオカマと
いわないと理解できません?もっと懐の広い方だと思っていましたわ,」
「いやいや、君には敬意をもって接しているつもりだよ。ただ、お店にいるコ達の中には
まだ君のようになるまで努力の足りない者が多いな・・・。心が女ならば自然と女らしさ
が外面に現れるものだ、仕種や身だしなみにね・・・。君はどれをとっても街を歩く女の
子よりよっぽど愛らしいよ。スキも見せんがね」
「本当にそういっていただけるのなら嬉しいかぎりですわ。また懲りずに「メデューサ」
に遊びに来て下さい。大切なお客様」
女(男?)はそう言って時計に目をやる。
「まもなくペットがこの駅に降りてきます。あの赤いベンチに座るでしょう。そうしたら
メモに書かれたナンバーを電話して下さい。そのキーワードであの子はあなたの思いのま
まになるはずです。ただし、いま申し上げたとおり・・」
「わかっとるよ。門限と優紀の体に傷をつけないことだろ・・。もう何回も遊ばせてもら
っとる私にまだくどく言うのか」
「申し訳ありません。気を悪くなさらないで下さい。それでは私はこれで・・・それから
桐生様、わたくしのことは再三申し上げている通り、『メデューサ』とお呼び下さい」
「もう少し呼びやすい名にしたらどうかな。そのぅ・・呼びかけるこっちが赤面してしま
う・・。店にいるときのように『ママ』とよんではいかんのかね?」
桐生は照れ隠しに頬を掻きながらメデューサに言った。
「まっ、あなたもだれかさんと同じことを・・・もういいですわ。そうそう、あの子の持
っている封筒をすいませんが桐生様の手で破棄しておいて下さい。では失礼・・・」
メデューサは対向車線側に待たせていたタクシーに乗り移り去っていった。
「さて・・・」
桐生は自分の携帯電話を取り出して教えられたナンバーを打ち込む。視界に優紀が入った
らすぐに発信するためだった。時計は5時に近づいている。桐生は窓越しに指定された赤
いベンチを凝視する。優紀が現れたのはそれから7分後だった。

優紀は駅の改札を出た。ここから学院付属の大学病院まであとわずかだったが、駅のロー
タリーにある赤いベンチを見たとたん、なぜか「お使い」を面倒と思うようになった。優
紀はその赤いベンチにどかっと座り込んだ。
「な〜んか、かったるくなっちゃったなぁ・・・。それになんでわたし制服で来ちゃった
んだろ?せっかく麗佳ちゃんが外出許可もらってくれて遠慮なしに遊んでこれるのに、こ
れじゃ、どこからみたって高校生バレバレじゃん」
優紀の独り言−制服は麗佳の暗示によって定義づけられていたものだった。
携帯が鳴る。ポケットから取り出した携帯を自分のものと疑いもせず、優紀は画面に目を
やる。090・・・相手の電話には思い当たる者がなかったが優紀は応対する。
「もしもし・・・」
「やあ、優紀ちゃん。元気だったかな?」
「だれ?」
若くはない男の声が優紀の名を呼んだ。優紀はだれだか検討がつかなかった。
「君の大事なご主人さまだよ、くくく」
男はわざと声色を使っているようで、しかも下卑た笑いが優紀の神経を逆なでする。
「誰よ、あなた。いわなきゃ切るよ、気分悪い!」
「まあまあ、じゃ言おうかな。聞いてる?ふふ」
「超むかつく!その笑い声・・・じゃあね!!」
優紀は電話を切ってしまった。足元にあった空缶を蹴り飛ばす。もう、さっさと「お使い」
を終らせて遊びに行こう−そう思った優紀はそれでもなぜかそのベンチから腰を上げるこ
とが億劫に思えていた。
「ふふふ・・・あのふて腐れよう、それでこそ小生意気な優紀だ。今からお前を変えてあ
げるよ、この私の言葉でね・・・」
車の中から優紀の行動を見ながら桐生は呟いて、再び携帯をコールする。優紀の電話がま
た鳴り始めた。電話の番号から、かけてきているのがさっきと同じ主だとわかった優紀は
コールを無視した。電話はしつこく鳴り続ける。
「ふふふふ、無理だよ優紀。お前はその電話にでないわけにはいかない・・・」
なぜか我慢しきれずに優紀は再び携帯をとる。
「ちょっとしつこいわね!用があるんだったらちゃんと名乗りなさいよ!」
「・・・・・・『 優 紀 は 素 直 な ペ ッ ト 』・・・・・」
「えっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
優紀の表情が明らかに変わっていく様を桐生は車の中から、まるで時間をかけて料理を楽
しむように、眺めていた。
言葉をなくした優紀から、”はぁー”っと切ない甘い吐息が携帯電話を通して桐生の耳に
伝わってきていた。窓越しに見る優紀はだらしなくベンチにもたれかかって、携帯電話を
耳にあて無言のまま、目を虚ろにしてどこか遠くを見ているようだった。
(さすがに「魔法」だな、こうも人を一瞬に変えられるものか・・・)
いつもながら桐生は催眠の効果に驚きながら、これからの優紀とのひとときに胸を躍らせ
た。
「優紀、私の優紀、聞こえるかい?」
「・・・・はい。ご主人さま・・・・」
先程の金切り声のような怒号とはうって変わった濡れたか細い優紀の声が桐生の耳に入る。
窓越しに見る優紀はおだやかな、別人のような笑みを浮かべていたがどこか意思のぬけた
ような寝むたげな表情だった。
「そう、私はお前の大切な主人だ。わかるな」
「はい・・」
優紀は声と同時に頷いた。
「私に会いたいか?」
「はい、会いたい、会いたいです・・」
優紀は麗佳の暗示から性感の昂ぶりに再びおそわれていた。体全体が欲している−堪えら
れないほどの渇きが優紀の全身を支配していた。
「くくくくく、私に会いたければ、お前は私の言うことに素直に従うんだ」
「はい・・・よろこんで」
「いまお前は男としたくてたまらない。やりたい、私とやりたいんだ。もう我慢できない。
さあ、誰にも気づかれないようにその空いた左手で自分の体を慰めるんだ。スカートのポ
ケットに手を入れて、そこから自分の一番感じるトコロを触ってごらん・・・さあ」
切なげな表情の優紀は左手で携帯を耳にあてたまま、もうここがどこであるかなど意にか
いさない、まるで桐生が目の前にいるかのように頷いてみせた。
ベンチからずり落ちるかのような上体を寝かせかけた姿勢で、優紀はポケットに入れた右
手を更に無理矢理奥へと突っ込んで体に触れた。
「あっ・・・・」
携帯から優紀の声が漏れ伝わった。
「どうだ、気持ちいいだろう。私に会うため、お前は一生懸命だ。体は快感に打ち震えて
いく。そうだ、気持ちいい、お前は私のかわいいペットだ。さあ、命令だ、優紀、お前は
今から一度携帯を切って、バイブレータモードに切り替えた後、携帯電話をそのままお前
のアソコに入れるんだ。いや、お前はそうしたくて堪らなくなる。下着の中に直接入れる
んだ。お前のやりたいように・・・。私がコールするとお前は今までにない快感を得る事
ができるぞ。携帯の振動はどんどん大きくなる。どんどん昇りつめたお前は5回目の振動
が止んだときすぐに電話に出るんだ。その時お前は私に会える。優紀、わかったら頷いて
微笑んでおくれ。私はお前を見ているよ」
優紀は言われたとおり頷いた。彼女の微笑むのを車中から見たとき桐生もたまらなくなっ
た。もはや優紀は桐生の言いなりになっている。
「よし、いい子だ。いわれたとおり携帯を切りなさい。もうすぐ私に会えるぞ」
「ハイ・・・」そう言って優紀は携帯を切る。
優紀は一度上体を起こして座り直した後、携帯のボタンを操作した。周囲は5時を過ぎて
家路を急ぐサラリーマンの姿が見え始めた。ベンチに座る優紀に気を留める者もいない。
優紀はスカートへと携帯を持った右手を突っ込んでいく。しばらくして戻された右手から
は携帯が消えていた。両手がスカートの上から押し当てられる。優紀は薄ら笑いを浮かべ
ていた。
「ふふふふ、よしよしいい子だ、優紀。・・・・おい、車を近くまで寄せてくれ」
「はい」
桐生に言われて運転手は車を優紀の近くまで寄せた。
「さあ、優紀。今日はどんな表情を見せてくれるかな・・・」
桐生は携帯の発信ボタンを押した。すぐに優紀の体に電気が走ったように小刻みに震えた。
喜悦に充ちた女の表情に桐生は満足する。
1回・・2回・・3回・・4回・・・5回目のコールが終ったとき、優紀はあっという間
に制服のスカートを捲り上げると、白いパンティーに右手を突っ込んで携帯を引き出すと
応答のためにボタンを押して携帯を耳にあてる。周囲は一瞬の出来事に気づかなかった。
「もしもし、優紀です。もしもし・・・」
「優紀、私に会いたいか?」
「会いたい・・会いたい・・です・・どこにいるんですか。お願い、私を可愛がって・・」
「立ち上がって対面のマクドナルドの前を見なさい。黒い車がハザードランプをつけて止
まっているね。さあ、おいで、優紀、後部座席のドアを開けるんだ」
優紀は桐生が話している途中から、もう車に向かって走り出していた。飛び出すように道
路を横切る。ドアを開けて携帯を持つ桐生の首に手を回し、力強く抱きついた。桐生の右
太腿を跨ぐように下半身を押し当てる。桐生のスーツがその部分だけ湿りだすのに時間は
かからなかった。優紀はもう相手を自分の祖父だとは認識することすらないようで、桐生
の手を自分の胸や下半身に押し当てるようにリードした。
「優紀、いまなにがしたい?」
「したい、したいのぉ!」
際限のない劣情に突き動かされて優紀はただの雌になっていた。
「なにをしたいんだ?」
「せっくす・・・・ご主人様とせっくすしたい・・・ですぅ」
桐生は勝ち誇ったような不敵な笑みをこぼした。
「おい、車をだしてくれ。森林公園側の別宅の方へ」
「かしこまりました」
車は夕闇のなかに消えて行く。

To be continued


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