薄暗い小さな部屋、四方に置かれた蝋燭の炎がゆらゆらと部屋を照らしている。
部屋の中央にはクロスをかけた小さなテーブル。そのテーブルを挟んで二人の人影が向かい合って、背もたれの無い円形の椅子に腰をかけている。
テーブルの上にはシャンパングラス、蝋燭の明かりに合わせ、ゆらゆら、ゆらゆら、と淡い影を揺らす。
二人の影も、ゆらゆら、ゆらゆら。
テーブルの影も、ゆらゆら、ゆらゆら。
彼女の呟きが見える。でも私にその言葉は届かない。ただ、ただ緩やかな言葉の渦が、私を巻き込んでいくのを感じる。
気持ちいい…。
言葉の渦が私を解かしていくのが、とても、とても。
私の身体も、ゆらゆら、ゆらゆら…。
私の心も、ゆらゆら、ゆらゆら……。
世界がゆれる、ゆらゆら、ゆらゆら………。
…そして彼女の頭は、静かにテーブルの上に沈んだ。
Hypno Breaker
「VS 剣崎ルミナ」-前編-
発車する通勤快速。
改札口から吐き出される人の波。
家路を急ぐ人々の中に矢島園美の姿が有った。
背は高くも無く低くも無い、中肉中背、ややたれ気味の目じりを気にしてか?眉はきりりと引き締めている。一般的に普通の可愛い女の子である。しかし、それが彼女のコンプレックスでもあった。
人間には、自己顕示欲と言うモノが有る。人より目立とう、認められたいと言う気持ちだ。
矢島園美はそれが強かった。確かに十人並みの顔ではあるが、この顔で多くの異性の気を引けるか?難しいであろう。しかも彼女は自己顕示欲のついでに気が強い。煙たがられはすれども、憧れられる事は少なかった。
そして彼女の主観の中では、その僅かな憧憬さえも自分に向けられたる事は無かった。
さて、今日も吹奏楽部の練習の後、早々に音楽室を追い出されてしまった為、学校の屋上で自主トレを気の済むまでやってから帰路についた。
いつものこの時ばかりは、学校が高台の上にある事が有り難かった。暗くなるまで練習しても回りに迷惑をかける事が無いし、風とうしが良い屋上で、.自分の演奏に集中するのは気持ち良かった。
坂を下りながらいつも思う事。たった今後にしてきた学校の、音楽室。先生…。
今も居残りで、遅れている子達の面倒を見ているのだろうか?
あたしを見て欲しい、あたしを見とめて欲しい、みんなよりも。その為にも毎日残って練習してるのだから…。
頑張って、頑張って、あたしがもっともっと上達したら、あたしの事をもっと見つめてくれるだろうか?私の憧れの先生は…。
彼女に決してレズの気があるとゆう訳では無い。しかしそれでも尚、その音楽教師は魅力的であった。彼女だけでなく、吹奏楽部全員にとって。
-Hypno Breaker-
バス停に続く通路の先、自分が向かっているちょうどその先で、人並みが割れているのに気が付いた。通路の真ん中に立っている街灯の根元、そこを避けるように人の流れが大きく膨らんでいる。
そして、矢島園美はその流れを分かつ空間の中心に向かって、人の流れから吐き出される結果となった。
ホームレス?最初はそう思った。しかし彼が着ているのは、病院の入院着の様にも見える。
薄汚れた病院着、ぼさぼさの頭、どう見てもホームレスか、病院からの脱走者。年齢は自分と同い年ぐらい、高校生ぐらいに思えた。
「ねえ、君」
園美は、魅入られたように少年に近づいていった。自然と言葉が口に出る。
「行く所が無いなら、家にこない?」
彼女の言葉に、少年はうつろな瞳を上に向けた。
-Hypno Breaker-
「上がって…。大丈夫よ今日、お父さんもお母さんも用事で遅いから」
虚ろな瞳の少年に、と言うよりも、その少年の目に写った自分に向かってか、彼を家に上げて良いの?
二人きりになっても良いの?
問い掛け、問いかけられる。不思議な感覚。
そんな感覚に翻弄される自分。
理由は分からないが、少年に対して心を開きかけている。
その事が不思議で、それがたまらなく心地良かった。
今まで男の子に対しこんなに気安く接する事など出来なかったのに、そんな疑問も浮んだが、考えるのを止めた。答えは出ないような気がしたから。
園美の家は、駅からバスで5分、歩いて15分の所にあった。さすがに少年を連れてバスに乗ることは気が引けた。
15分かけて歩いて来て、更に途中でコンビニによって来たため、左手の時計は8時を回っていた。
園美はまず少年をバスルームに押しこめ、コンビニで赤面しながら買った男性用下着を脱衣所に置いた。
次に母親が用意してくれていたシチューを火にかけ、炊飯器のスイッチを入れた。
鼻歌が自然と口に出る。
帰宅して、両親が留守で寂しいと思ったことは無い。
自分は人より自由な時間に恵まれている。と思っていた。
何より両親とも遅くまで頑張って働いてくれているから、自分は裕福な暮らしが出来る。文句を言うのは筋違いだ。
学校に遅くまで居残るのも練習のため、より一層の上達のためと思っていた。
でも誰かの為に鍋を火にかけ、野菜を刻むのがこんなに心弾ませるとは…
この家の中に居るのは自分一人では無い事実が、こんなに心を和ませるとは…
「いたっ」
包丁の先端にに人差し指を突かれ、園美は小さな悲鳴を上げた。
「あぁ、やちゃった」
薬箱を取りに振り返った園美の前に、少年が立っていた。シャワーを浴びたばかりで髪の毛も乾いてない、着ているものはシャツとパンツだけ、園美は赤面しつつ、顔を背けるのも忘れ見入ってしまった。
彼を。
家に来るまでの道中、ずっと虚ろだった表情が微笑を浮べている。たったそれだけの違いで人間が、こんなにも変わって感じるモノだろうか?
園美にとって、人の顔に見とれるなんて事は生まれて始めてだった。決してその顔は絶世の美男子では無い、しかし今の雰囲気と相成って、園美の目を引き付けて止まない。
そして何よりその目だ。さっきまでの暗く淀んだ瞳では無く、澄み切って、精気にあふれ、しかし底の見えない深淵の様な、見ていると吸い込まれそう……な……。
「大丈夫?」
彼の声が正気を呼び戻した。
「え、えぇ」
自分でも腰砕けな返事をしてしまったと思う、少し恥ずかしかった。
鈴のように響いた彼の声が、心地よく胸にに染み渡り、園美の身体に活力を呼び戻してきた。
声も不思議な声だった。
声変わりはとうに済んでいるはずだが、高く響くボーイソプラノのような声、今は覚醒に向かわせる口調だったが、この声で“お休み”と囁かれたらすぐにでも意識が遠くなって行きそうな、不思議と説得力と安心感を呼び起こす彼の声。
「血が出てるじゃないか」
園美は自分の指が彼の唇に吸い寄せられて行くのを、魅入られたように見つめてしまった。期待と恐れが入り混じった心が、園美の動きを止めた。
我に帰る事が出来たのは、彼の唇が自分の指にすいつく瞬間だった。
「だ、大丈夫!これぐらい何ともないわ!…ちょっと傷バン張っていれば、すぐに治るから!」
慌てて指を引っ込めた園美は、自分の行動に安堵すると同時に、後悔した。もう少しじっとして居れば…でもそんな事したら絶対に後戻りできなくなっちゃう。
葛藤と想像が、再び園美は顔を真っ赤に染めて行った。
次のの瞬間。
グッ、グググゥゥゥ。間抜けな音がキッチンに響いた。
「ご、御免」
今度は彼が顔を赤くする番だった。
そしてそれは一気に園美の緊張を吹き飛ばした。
「あははは。御免ね、今仕度するから!」
コンロの上では、シチューがおいしそうな匂いを立ち上らせていた。
「あっ、そうだ。食事の前に自己紹介だけでもしましょ。私は矢島園美」
「名前……。井南ユウ、僕らは皆そう」
「いみな?変わった名前ね。それに僕らって……」
園美は言いかけて止めた。小さな言い間違えをいちいち突ついて、やな女だと思われるのも面白くなかったからだ。
それとも、自分の聞き間違えだったかもしれないし……。
ただ、心の片隅に、小さな違和感が残った。
「ささ、冷める前に食べて」
かすかにほてる頬をユウに気づかれまいと、彼の分のシチューを慌てて取り分けた。
-Hypno Breaker-
市街地の外れにある山のふもとの、一寸開けた場所にその建物はあった。
だだっ広い敷地の真ん中に、祠とも茶室ともつかない小さな社の様な物がぽつんと、立っている。
社の中は蝋燭でも燈しているのか、ゆらゆら揺れる明かりが漏れている。
静かである。
その静寂を破りシャリシャリと、こまかな石を踏む足音が近づいて来た。その音が社の前で止まる。
「ルミナ様、今井初枝参りました」
足音の主が発した声に、震えが感じられる。未だあどけなさの残る少女であった。
年齢は16歳ぐらいだろうか?純朴そうな外見と雰囲気から、田舎娘との印象を受ける。今にも消え入りそうな声と、不安げな面持ちから、彼女の緊張が見て取れる。
「お入りなさい」
社の中から気取った風な声が返る。若い女の声だ。
初枝の顔に軽い驚きの気配が走った。彼女が社の中の人間について予備知識が無いのは明白だったが、先ほど「ルミナ様」と名前を呼んだところを見ると、名前だけは教えられていたのだろう。
「私の声が思ったより若いので、驚いたか?」
心を見透かされたかの様なタイミングで声をかけられる。
出かけるときに、祖母に重々言い聞かせられてきた事と合わさって、初枝はすっかり中の人物に圧倒されてしまった。
まだ一度も顔を合わせて居ないうちに、である。
「し、失礼します」
学校の職員室に入る時より緊張の面持ちで、初枝は入り口の戸をくぐった。
社の中に入るとそこは四方に燈された蝋燭だけで照らされた真四角な部屋だった。
中央に布を掛けた小さなテーブルがありその前後に小ぶりの椅子が置いてありその向う側の椅子に彼女は腰掛けていた。
「ルミナ様…ですか?」
目の前の椅子に座った女性は声のとおりまだ若かった。多く見積もっても30歳は越えてはいまい。思っていたより大仰な格好ではなく、神社等の巫女のような、白い上着に赤い袴を履いて、肩甲骨ぐらいの髪を後ろで縛っただけの飾り気の格好をしている。
「こちらに来て、椅子に掛けなさい」
すっかり圧倒されている初枝は、素直にルミナに向かい合い、腰を下ろした。
「私の事を、どう聞いている?」
あの方に隠し事は出来ない。祖母の言葉が脳裏に浮ぶ、ここで彼女の力を試そうなどと考えを浮かべる事は、初枝には出来なかった。
「すごい力をお持ちの、霊能力者の方だと伺っています」
ルミナは口元に笑いを浮かべた。
「すごい力など持ってはいない。霊能者とゆうのも正確では無い。私はただ、人の運命と、それを修正する方法が解るだけだ」
さらりと凄い事を言っているのだが、口調はいたく普通に語っている。しかしその言葉の意味は確実に相手に届くように。
「そなたの周りには、そなたの御婆様に言った通り、良くない運気がこもっておる」
初枝の祖母が、この霊能者にこう言われた。
「そなたの最も身近な、成人を迎えてない女性に良くない兆しが見える。この兆しから逃れる方法は、社にこもり当人と差し向かいで、その運気を読んで見ないとはっきり言えぬ、一度当人をここへ寄越して見せい」
古い人間らしく、迷信深い祖母は慌てて家に駆け戻り、その条件に唯一合う縁者、孫の初枝をその日のうちに、この社へよこす運びとなった。
初枝の祖母は家の中で一番発言力が強く、初枝の父も母も頭が上がらない。両親としても、初枝としても、それで祖母の気が済むなら、と初枝を送り出した。
ところが最初は半信半疑だった初枝も、話すうちに、すっかりルミナに呑まれてしまっていた。
「そんなに緊張する事は無い。ここに来たからにはそなたの運気、確実に晴らして見せる」
ルミナはそう言うと何処からか、細工の施してある小ぶりのワイングラスの様な物を取りだし、テーブルの上に置き、
「これは霊峰富士より汲んで来た神水だ」
そう言うと、竹筒より透明な液体をグラスに注いだ。
「まずは深呼吸をし、気持ちを落ち着けよ」
ルミナは、初枝の目をじっと見つめて深呼吸を促した。
「そう、すーっと息を吸って、ゆっーくりはいて」
「繰り返して…、ほら、ゆーっくり息をすって…」
語りかけながら、ルミナの話し方が徐々に柔らかくなって行く。
「息を吐くと同時に、身体の力が抜ける…」
語句を区切って、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。語尾を薄れさせる口調が、初枝の緊張と肩に入った力を抜いていく。
「さぁ、今度はこのグラスを覗いて。ここにそなたの心が映る…」
肩の力が抜けた事に自覚の無いまま、初枝は言われるままにグラスを覗きこむ。
「さぁ、じーっと見て…、何が見える…?水面に…、浮びあがってくる…、何が見える…?」
そう言いながら、ルミナはグラスの根元を指先でトンッ、トンッ、と規則正しく叩き始めた。
水面に波紋が浮ぶ、規則正しくトンッ、トンッ、と波紋が広がる。
グラスを叩く、チン、チン、という単調な音が、初枝の中に響く。
「この中心に、意識がスーッと吸いこまれて行く、そなたの意識がスーッと吸いこまれて行く、もう目を離す事が出来ない。離したく無い」
もはや初枝は、ルミナの口調が変わっていることにすら、気づく事が出来なくなっていた。グラスに揺れる波紋の中心に、視線が吸いこまれていく。
「ほら、だんだん目が疲れて来た、目を開けては居られない、目を閉じたい、目を閉じても良い、閉じてしまおう、閉じるがよい」
ゆらゆら揺れる蝋燭の明かりも、初枝の視神経を刺激し、暗示の効果を倍加させる。
「目を閉じても平気だ。そなたは本当に眠るわけではない、眠った振りをするだけ、ほら…、眠っている時のように、呼吸を静かに、静かに…」
なぜ眠った振りをしなければならないのか?すでに、初枝の頭はそんな疑問さえ考える事が出来なくなってしまっていた。
ただ、素直にルミナの声を聞いていたい、ルミナの言うことに従って居たい、そんな気持ちでいっぱいだった。
「眠った振りをしていると、首の力が抜けて、頭がふわふわしてくる。ふわふわして来ると、頭が左右にゆっくりゆれて来る。ゆれて来る、右に、左に、右に、左に」
ルミナは、初枝が半ば催眠にかかりながら、観念運動を始めたのを見て、口元を歪め立ち上った。
「右に、左に、右に、左に」
暗示を与えながらゆっくりと初枝の後ろに回る。
「さぁ、今度はゆっくりと、止まって行く。ゆっくりと…。ほうっ…ら、止った。」
ルミナは椅子に座ったままの初枝の顔を、両手で挟みこんで上を向かせると、その顔を覗き込むように自分の顔を近づけた。
「さぁ、初枝。目を開けて、目を開けることが出来る。静かに目をあけて…
ほら、私の目が見える。私の目を見ていると、どんどん深いところに入っていく、
私の目に吸いこまれて行く、私の中に吸い込まれて、私のものになる。
いい事、これから私が五まで数えて、おまえの額に口付けをする。
すると、おまえは深―い、深―い所に落ちて行き、私の言うがままになる、
私のものになる。
私の奴隷になる。
私の人形になる。
そう、一ぉつ。
二ぁつ、ほら、だんだん近づいていく。、
三ぃつ、おまえは、とっても気持ち良い感覚に包まれて行く。
四ぉつ、おまえはもう、深―い所に落ちかけている。後一つで、深―い所に落ちて行ってしまう、深―い所に…。
五ぅつ、はいっ、深い所に落ちる、落ちる、ずーんと落ちて行く、深い所に落ちて行って、初枝は私の言うと通りになる…」
ルミネの唇が触れた途端、額から全身にかけて何かが走り抜けた様な感覚に、初枝は蕩けた。文字どおり自分の身体がどろどろに蕩けて、細胞の一つ一つが、液体に変っていく。その快感にまつげを振るわせながら、初枝の瞳は閉じられていった。
ルミナは初枝の額に長いキスをすると、初枝の頭をゆっくりテーブルの上に置いた。
「ふふふ…これでおまえは私の物、身も心も、そして命も」
彼女は邪悪な笑みを浮かべ、初枝の頬を異様に長い舌でなめ上げた。
そこには初枝が社を訪れた時と、にても似つかぬ雰囲気の剣崎ルミナが居た。
-Hypno Breaker-
園美はユウを自分の部屋に招き入れると、再び念を押した。
「いい、絶対にこの部屋から出ないでね。パパもママもあたしの部屋には入ってこないの、ここに居れば絶対に見つかんないから」
ユウは不思議そうに園美を見かえした。
「なぜ?ここまでしてくれるの?もし、両親に見つかったら君の立場無いよ?」
シャワーを浴び、夕食までご馳走になっておいて、今更こんなことを言う。おっとりした外見からは想像もつかないが、意外と図々しい。
彼の中のそんな所も、今の園美には見えない。顔を上気させ、心臓が早鐘を打つ、園美は興奮していた。それもさっきからずっと。
彼女の心臓はその動きを休めない、ドキドキと彼女の心を急かしている。まるで、魅了の魔法でもかけられたかの様に。
「解んない…。本当に解らないの…。井南君を見ていたら、なんかほっとけなくて、
自分でも変だと思うんだけど止まんないの!」
あくまでもその微笑を絶やさぬまま、潤んだ目で自分を見つめる園美の手を取ると、ユウは彼女を抱き寄せた。
心臓がバクバク、激しく音を立てるのを、血管を通して彼女は聞いた。
「君に、ここまでしてもらって居るのだから、お礼をしなくてはならない。私達からの、ね」
「私達?」
ユウが、自分の事を複数で呼ぶのはこれで二回目。始めは聞き間違いだと思っていた園美も、今更ながらその違和感に気が付いた。
「心臓がすごくドキドキしているね…。チョット落ち着こうか…。さぁ、ゆっくりと深呼吸して…」
今までとは口調が違う?心を痺れさせる変わらぬユウの声。
しかし彼の言葉は、彼の中の別の側面が新たに紡ぎだす。別の言葉に取って代わって行った。
この口調、低くなる声。確か何処かで…?
「目を閉じて、息を深―く吸って…、ゆっーくりと吐いて…」
ユウの言葉が、園美の中のに眠っていた感覚を甦らせる…。
「頭の真ん中に、光を思い浮かべて…。そう、それがだんだんと大きくなる…」
これは、あの時の…。
「その光が、大きくなる…。大きくなって、全身を包んで行く…」
あれは…。
「先生…?」
意識が跳ぶ直前。脳裏に浮んだ姿に、園美は呼びかけた。
「?…先生?」
園美は落ちた…。それもあまりに呆気ない位に。
「肩透かしだな、これは誘導の内にも入らんよ」
園美をベッドに寝かせると、ユウは頭を掻きながら身を起こした。
「これじゃぁ、お礼のしようが無いな」
口調が元に戻ったが、次の瞬間また変わる。
「興味あるわね。彼女のご主人様…。先生って呼んでたわよね」
不思議な光景だった。一人の人間の表情と声が、クルクルと変わる。
同じ顔で有りながら、次の瞬間にはまったく別人に見える。一人の中に複数の人格。
ユウの、僕ら、私達、との言い方は、このためか?
「いずれにせよ、彼女の中にこれ以上深く入っていくのは危険だ」
安らかな寝顔を見せる園美の髪の毛を、片手でそっと掻き上げてやる。
「僕らにせよ、彼女にせよ…。もっとも僕らは望む所だけど、これ以上彼女を…ね」
その表情は、園美の心を蕩かしたあの笑顔。
「しょうがない、僕がここに居る事が、彼女へのお礼か」
再び17歳の少年の顔に戻って、彼は笑った。
To Be Continued!