タランテラの章 PART2
(七)
双子は千尋に心服した。かなわないと素直に認め、千尋が開いてくれた新しい世界に夢中になった。
転入してわずか二週間で、千尋は新聞部を自分の根城と変えてしまっていた。千尋の言葉のままに、部員たちはみなスカートを脱ぎ下半身をさらけだした。そのまま平然と編集作業に打ちこむ。誰もおかしいとは思っていない。双子は興奮した。
「ね、ボクたちにもできる? 催眠術……」
「やり方は教えたるけど…………あとは個人個人の能力やな。どんだけ他人の心を捕らえられるかってのは、人づき合いと一緒や。口は回るし話題も豊富やけど全然人望ないやつもおるし、無口でぼそっとしかしゃべらんけど頼りがいのあるやつもおるし。絶対うまくいく方法なんてあらへん。けど、経験豊富にこしたことはないっちゅーことだけは真実やね」
千尋は双子に“練習”させた。丁度三日ほど前に部室のドアを叩いた一年生が相手だった。
「下ごしらえはしといたるさかい」
どうやら簡単なテストで、その子が催眠にかかりやすいということは確かめてあるらしい。
その日、千尋はその一年生に、新入部員の仕事ということでかなり大量の単純作業を課した。パソコンのディスプレイ相手にひたすら文字列を追う仕事を続けさせられた相手の神経は、夜を迎えてすっかり疲労しきっていた。
双子はそこに近づいた。二人はどちらも新聞部に正式に入部したことになっている。
「大変だね。疲れたでしょ」
「先輩からのサービス。肩もんであげる」
「あ、すみません……」
「うわあ、すごいこってる。がちがち」
「疲れた時のいいリラックス方法教えてあげる。……」
目を閉じさせた。
「深呼吸して。体の力を抜くの。ぐたーってするんじゃなくって、ひとつひとつ意識しながら、順番に抜いていくんだよ。足からいってみよ。足の爪先に気持ちを集めて。爪先が楽になる。楽になる。ほら、楽になった。次は足首ね。足首の力が抜ける。抜ける。ほら、抜けた。足全体がだらーんってなったでしょ。次は膝……」
全身を脱力させて暗示を重ねると、あっけなく催眠状態に落ちていった。
色々な秘密を聞き出し、お風呂に入る暗示を与えて服を脱がせた。
「ま、最初にしては上出来や。この先あんたらにも色々手伝ってもらわなあかんから、頑張ってや」
千尋の目論見を聞かされた双子はさすがに唖然とした。
新聞部を足がかりに、この学園全体を支配下に収めたいらしい。
そのために新聞部に入ったそうだ。取材と称すれば誰に会いに行っても警戒されない。
先日、生徒会長有原悠華を落としたのは計画の第一歩にすぎなかった。
「どや。みんなうちらの操り人形になるんやで。わくわくせえへんか?」
双子は考えた。想像した。
「……うん!」
心からうなずいた。
千尋は満足げな笑顔を見せた。
「やっぱうちの目は間違っとらんかったな。……」
千尋の話によると、同志を求めてもう何人かあたってみたのだという。
「オカルト研ってあるやろ。あの奥の変なとこ。あそこで催眠術も研究しとるってんで、最初は四組の北沢と和田ってえ二人にしよと思ってたんや」
「あの、あやしいって噂の二人?」
「それな、大正解やったわ」
「……ってことは、もう落としたの?」
「うち転入生やし、入部希望っちゅうことで話聞きに行った。簡単に落ちたで。あの部屋で、二人ともうちが見えないまま抱き合って、そりゃもう熱烈に唇を。……」
「うわあ」
「あの二人、部員に催眠術かけて、好き放題しとったわ」
「え? そうなの? ボク同じクラスだけど、そんな風には見えないよ。二人で自分たちだけの世界に入ってる感じでさ」
「そやろ。他の子に手え出す度胸がなかったんよ。探ってみたら色々野望は持っとった。智佳子も、悠華も、この学校の可愛い子ほとんど全部ターゲットリストに入れとったわ」
「だったら、ボクたちよりもそっちの方がいいんじゃないの?」
「けど、誰もなんにもされてへんかったやろ? 所詮その程度の連中なんや。あんなヘタレじゃあかんねん。そのうちついてこれんようになるの、目に見えとる」
「……ボクたちだって、わかんないよ」
「大丈夫や、あんたらはその辺の連中とはちゃう。ようわかっとる」
「ほめてんの、けなしてんの、それ?」
「ほめ言葉に決まっとる。あんたらみたいなのを探しとったんや。夢見とるみたいな気分なんやで、うち」
そんなに賞賛されるような、何を自分は持っているのだろう。双子は顔を見合わせた。
それはそうと、と千尋は話題を変えた。
「次は部屋の確保や」
「ここじゃ駄目なの?」
「大声出せへんやろ。この間の会長はんやって、よがり声出させんような暗示与えとかなあかんかった。あんまり音が外に漏れんような部室が欲しいんや。あんたらの時みたいに、いきなり人に入ってこられるのも困るし」
「じゃあさ、音楽室は? あそこなら防音完璧だよ。そんなに人も出入りしないし。氷上先生落としてさ。あの超絶美形がこっちのいいなりになるのって、すごいわくわくしない? それにブラスって結構可愛い子多いしさ。やりがいあるよ。やろうよ」
「駄目や。絶対」
千尋はやけに強く言った。
「あそこにだけは手え出したらあかん」
「なんで?」
「ちょっとな。あの先生だけはあかんねん。嫌な予感するんや。……」
千尋の頑なな態度は不審だったが、双子にしても氷上教師、特にあのサングラスの下の眼がどことなく恐ろしいのは同じだったので、それ以上主張することもなかった。
「それよりな、うちが考えとるのは武道場やねん」
高陵学園には体育館とは別に武道場がある。使用しているのは剣道部と柔道部、あと人数こそ少ないが空手部がある。
武道といってもそこは女子校、練習場には立派な部室、広い更衣室、シャワールームまでもが付属しており、また校舎とは別棟になっているので声もそれほど心配しなくてよい。部外者が立ち入ることが少ない場所でもある。
「ああ、それいいね」
「あそこ押さえといたらこの先何かと役に立つやろ。場所の上でも、人の上でも」
「人……?」
「腕っ節も時には必要や」
「なるほど」
双子は小野寺智佳子を屈服させた時のことを思い出す。
「で、どうやるの?」
「慌てんといて。まずは生徒会をしっかり押さえるこっちゃ。それから順番に、な」
(八)
練習が終わり、部員がみな帰った後、剣道部の柏木貴子は竹刀を構えた。
武道場の窓には一面カーテンがかけられている。武道場にカーテンというのもおかしな話だが、以前貴子を取材しようとする記者が校地内に入りこんできたことがあったので、急遽学校側が設けた。じきにブラインドがつけられる予定である。
振り上げる。細めに閉じられた瞳が鋭い光を放つ。
貴子は昨年は一年生ながら先輩をさしおいてインターハイに出場、近畿の選手に接戦の末敗れた。今年はベスト8以上は確実と見られ、優勝候補の一人にもあげられている。
しかも美人だ。
美少女、というのとは少々違う。目鼻立ちはよく整っているし、手も足もすらりとして長い。そういう造形美とは別に、他の生徒にはない独特の雰囲気を持ち合わせている。
抜き身の白刃。あえて言うならそういう感じか。どこにも年頃の女の子らしい飾り気はなく、今時珍しいくらいに剣一筋に打ちこんでいる。マスコミに取材されても笑顔の一つも浮かべないことで有名で、そのためにかえって全国区の人気があった。
「お願いしまあっす!」
言われて竹刀を振った。制服を着ているので妙な緊張感があった。稽古着も防具もなしだと身が軽い。同時に頼りなさも感じる。今は素振りだけだからいいが、スカート姿で大きく踏みこんでの突き、身をかがめて胴払いなどの動作はしたくない。彼女は古風な恥じらいをいまだに持ち合わせている。
素振りに合わせてフラッシュが光る。タイミングがずれたらしく、すみません、もう一度とお願いされた。こんなに速いなんて思ってなかったなあと愚痴っている。プロではないので仕方がない。それに、こちらを高校生と侮って図々しく色々要求してくる連中に比べれば、同じ学年の相手は気が楽だ。
新聞部の取材申し込みがあったのは昨日のこと。
校内新聞なら特に断る理由もない。
やってきた三人組は道場で写真を撮らせてほしいと言ってきた。
「制服でお願いできはりますか?」
新年度に転入してきたらしい関西弁の小さな子はそう求めてきた。皆と同じ服装で竹刀を握る、その姿勢の中に他の生徒とは違うものを見いだしたいそうだ。新聞部が変わったという話は耳にしていた。その原動力はこの迫水という子らしい。納得し、練習が終わるまで待ってもらってから、制服に着替えて取材を受けた。
またフラッシュが光る。
前と横からカメラを構えるのは、まったく同じ顔をした二人だった。こちらは当然知っている。片方とは一年の時同じクラスだった。もっともその“白河文月”には何かとよくない噂があり、それほど親しくはなっていなかった。一方の“葉月”は確か生徒会だったはずだが、聞いてみると千尋に新聞部に誘われたとのことだった。
撮影が終わると部室でインタビュー。
とは言ってもお互い同学年なので、雰囲気はなごやかに、ほとんど雑談といってもいい感じで終始した。
「……人間が刺激を受けてから反応するまでの時間は0,3秒ぐらいらしいな、平均」
千尋がそんなことを言い出した。
「鍛えとると、かなり速いんちゃう? 試してみたいんやけど、ええかな?」
千尋の大きな目は生き生きとした光に満ちていた。取材とは関係ないことだが、好奇心いっぱいでたまらないといった風だ。どんなことであれ、熱心に取り組む人間には好感が持てる。いいよと答えた。
千尋は鈴を取りだした。
リ……ィン……、と不思議な音が鳴った。
「目ぇ閉じて。この音が鳴ったら、右手上げてみてくれまへんか」
鈴は心が落ちつく響きで、これを区切りに体を動かすのはちょっと難しいかなと思う。それでも貴子は素早く反応した。
「うわ……」
「はっやーい! さすがあ!」
容姿に関する賛美には関心がないが、反射神経のはたらきをほめたたえられるのは悪い気持ちはしなかった。
「んじゃ、もう一回。文月、あんたも一緒にやってみい。いくで」
数秒の沈黙。貴子は心を澄ませた。こういう緊張感は心地よい。鈴の音を待ち受ける。
貴子と文月の手の動きにはレーシングカーと普通乗用車ぐらいの差があった。
「手だけじゃなくて、足はどう?」
右脚の腿が、これも素早く上がる。
千尋たちは盛り上がってきて、首だの肩だの、足指、右の眉、左手の薬指等々、普段あまり意識しない箇所の動きを求めてきた。何度も鈴が鳴った。貴子もそういう所に神経を通わせてみる試みが案外面白く、夢中になった。
「よく時代劇なんかで、寝てるときにくせ者が襲ってきて、がばっとはね起きて刀をびゅっ、ってのがあるやんか。そういうのはどないで? まあ現代人にゃあ無理やろうけどな」
千尋がさらりと言った言葉に反発をおぼえた。
確かに昔の剣豪のようにはいかないだろうが、自分まで見下すように言われるのは気に入らない。
「いいわよ、やってみましょう」
ここまでの勢いで自分から言いだす。
「とは言うても、まさかここに寝てもらうわけにもいかへんし……」
「いいでしょ、誰も来ないし、ちょっとの時間だけだし」
もう引っこみがつかなかった。靴を脱いで机の上に横たわった。
「ほんまにええんか?」
「いいわよ」
「ほな、まず体の力抜いてな。でないと試しにならへん」
もっともだ。他人の目を意識して体が強ばっている。思えば去年のインターハイでは観客を前に固くなってしまった面が多少あった。こういう経験も足しになるかも。貴子は深呼吸した。文月葉月がタオルを頭の下に入れてくれた。ありがたい。
「家で寝てる時を思い出して。体の隅々、指の一本一本まで全部力を抜くんや。息を吐くたびに、今日の練習の疲れ、気にかかったこと、何もかも出ていって、楽うになる……」
千尋の声が徐々に間延びし、低いものに変わっていった。文月と葉月が顔を見合わせてにやりとしたことに貴子は気づかない。
「すううっと力を抜いて。足の力が抜けるう……。腕の力が抜けるう……。腰がずううんと重くなる……。胸も、肩も、全然力が入らへん…………首が楽になる…………首が楽になる……頭がすううっと重くなって……痺れたようになってくる…………ほら、もうすっかり力が抜けた……」
千尋の声は頭の中にしみこんでくるように感じられた。貴子は言われるままに弛緩した。すぐ脇にいる文月、葉月のことが意識から遠ざかる。きちんとそろって宙を向いていた爪先がばらばらになり、合わさっていた脚がゆるんで離れた。
「鈴が鳴ったら、体がぴんと固くなって、動かなくなる!」
いきなり強めに言われ、鈴が鳴った。
それまで鈴の音をきっかけに何かをすることを繰り返していた貴子は、おかしいと思う間もなく千尋の言葉に絡めとられた。閉じていたまぶたがさらに固く閉じ、ひくひくする。どこにも力を入れていないのに体が硬直して、指一本さえも自由にならない。けれどもおかしな感じはしない。それどころか貴子はたまらない心地よさにとらわれ、うっとりとさえなっていた。
「ほうら、ええ気持ちや……。頭がぼうっとして何も考えられへん。もっと楽になりたいやろ。楽になろうな……楽に……」
文月葉月が手指を立てて貴子の頭部を包みこんだ。同時に二十カ所は多すぎて、どこに触れられたのかとっさに判別できない。
「次の鈴の音で、頭が痺れる」
リ……ィン……。
「触られている所から、頭の中に電気が流れてきて、痺れて、痺れて、何も考えられんくなる。めっちゃええ気持ちや。痺れる。頭も体も痺れる。何もかもぴりぴりしてもうて、わからん、わからん、何にもわからん。ほれ、頭は空っぽ、もう何も考えることができへんようになってしもうた」
貴子の思考は止まった。千尋の声だけが脳裏にやわらかく響いた。
「何も聞こえない。うちの声以外、もう何にも聞こえない」
貴子は信じられないほどの安らぎに深くひたった。何も考えなくてもいいというのはこんなに幸せなものなのか。千尋が言葉を切り、沈黙した。その間、暗闇に一人置いて行かれたような気分になり、早く何か言ってほしいと千尋の声を待ちこがれた。そうしてますます深く催眠にはまってゆく。
また鈴が鳴った。
「んじゃ、起きてみような。体が軽くなって、楽に起きあがれる」
双子が支え、貴子の上体を起こした。床に立たせる。
「練習終わって疲れたな。着ている汗くさい胴着脱いで、はよシャワー浴びて帰ろ」
言われるとすぐに貴子は制服を脱ぎ始めた。疲れが肩に出ている。一度シャワーは浴びているのだが、練習の後であることには変わりなく、貴子の心中に混乱はなかった。
「……ええ体してはるなあ」
「オヤジだよ、それって」
「写真取っていいかな?」
「フラッシュに気いつけてな」
貴子は後ろにひっくくっていた髪をほどいた。ブラジャーを外し、赤い小さなワンポイントがついただけの白いパンティをためらうことなく下ろした。胸は薄く、肩やお尻が少年のように引き締まった、中性的な魅力のある裸身だった。
「さあ、熱いシャワー浴びよ」
千尋に促されると貴子の手が何もないところをつかむようにした。シャワーコックをひねったつもりなのだ。貴子はあごを上げて真正面から“シャワーのお湯”を浴び、さも心地よさそうに全身をなでまわした。
「何だかいつもより気持ちええ。どうしたんやろ? なんだか肌がぴりぴりするな。シャワーがあたるのが快感や。ほれ、ちょいと胸突き出してみい」
千尋の目配せに合わせて文月がそっと貴子の乳首をさすった。
「あ、あっ!」
貴子の体に震えがはしり、胸を抱いて身を縮めた。目を開けたが、自分がシャワールームにいることを疑っていない。すぐ隣にいる文月葉月も見えていない。
「何だか体中を見えない手にいじられとるみたいな感じがする。でも快感や。ちっとも嫌やない。ここはシャワールーム、他には誰もおらん。どんなことをしても誰にも気づかれへん。ほうら、だんだん大胆な気分になってくるで。誰もいない所で、ちょびっとだけ、冒険してみたい。そう思うと、ほらほら、どんどん快感が生まれてくる……」
普段抑圧していた欲望が頭をもたげてくる。胸を固く抱いていた腕がほどけ、胸を張って尖った乳首を突き出すようにした。
「そうら、気持ちいい。たまらない気分や。胸がどきどきして、体のどこもかしこもくすぐったいような、切ないような、たまらない気分になってくる。
……ほな、おっぱいをちょっとだけ触ってみよか。触りたい。ちょっとだけや。ちょっと触るだけ。何も恥ずかしいことはない」
貴子は息を弾ませ、喉を鳴らす。千尋の声は貴子の心。竹刀だこの浮いた、いささか女性らしくない右手が初々しい色合いの乳首に近づいてゆく。見ている双子も一緒になって固唾をのんだ。
指が触れた途端に貴子の裸身が波打った。
「んああっ!」
「やめたらあかん! 手が胸から離れない! 勝手に動いて触り続ける!」
貴子の左手が右手の手首をつかんだ。離れようとする右手を押さえつける。激しい葛藤を示して背中に背筋が浮き上がる。その間にも指は言われるままに乳首をいじり続けた。貴子の口から再度甘い悲鳴がほとばしり、体が小刻みに震える。裸身を数回突っ張らせると、膝が砕け、その場にへたりこんでしまった。
「こんな気持ち、はじめてや。もっと感じてみたい。もっともっと気持ちようなってみたい。どうしても我慢できへん。そうら、手が気持ちええところをどんどんいじり出す……」
「あ、あ、あ……!」
貴子の脚が徐々に開いていく。先刻までのきりっとしたものは溶け崩れ、だらしないくらいにとろんとした顔つきに変わっていた。大口を開けて息を弾ませている。
「手伝ってやりい」
「OK」
文月葉月は喜びいさんで貴子にかぶさっていった。
文月は貴子の脚を大きく開かせる。陰毛が薄く、秘裂の色は乳首以上に鮮やかだ。
「ほら、こうするんだよ」
貴子の手首をつかんでもってきて、指をつまみ上げて陰唇をこすらせる。貴子の腰が大きく跳ねた。
その間にも葉月は空いている方の胸を愛撫し、指先を貴子の引きしまった腰や脇腹にはしらせ、微妙な刺激を与えている。
「大丈夫やで、ここには他に誰もおらへん。あんたは一人きり、どんな声出しても、どれだけ気持ちようなってもええんや。わかるな、何をしても絶対にばれへんのやで」
その暗示に貴子の最後の自制心が溶けた。
貴子は口を閉じた。固く固くくいしばった。目もつぶり、眉間に深いしわが何本も寄る。顔中がくしゃくしゃになった。こめかみに血管が浮き、耳、頬、顎の下から首筋まで真っ赤になった。それまでとは違う強い震えが体をはしった。喉の奥から地鳴りのようなうなり声がこぼれはじめた。
「う……あ…………あ……」
「そら、来る、来る、来る! 最高の気分になる! そら!」
リ……ィン……。
「イッたのはじめてか。すごいやろ? もっともっと味わいたいやろ? 欲しい、欲しくてたまらない、そうやな。そうら、するとまたどんどん気持ちようなってくるで……」
「この音を聞くと体が燃えるようになる。波みたいな熱いのがずうんと襲ってきて、めっちゃ感じる」
「ついでや。文月、葉月、あんたらも愉しみいな」
千尋は双子を差し招いた。貴子の痴態に魅入られていた二人はふらふらと寄ってゆく。額に手をあて、千尋はぐんと押すようにした。後ろによろめいた二人はもう催眠状態に入れられている。
「貴子はんのことが好きで好きでたまらん。ほうら、体がうずいてきたやろ? 貴子はんも待ってる。さあ、可愛がってやりい」
双子は熱っぽい目つきで貴子を見つめ、自分たちも服を脱ぎ始めた。下着はもう濡れてしみができていた。
「あんたら、いっつもそないなことしとるん? プロ顔負けやで」
千尋は貴子を責める双子のテクニックを見て感心したようにつぶやいた。
暗示で快楽を底上げされた貴子は、体全体を使う双子の愛撫にのたうちもがき、連続したオーガズムに襲われた。オナニーの経験すらほとんどない少女剣士の脳髄は淫液漬けとなった。
鈴が鳴り、三人はまとめて絶頂に達した。
(九)
千尋と双子は剣道部員たちを次々と落としていった。
まず二年生からはじめた。
何でも言うことをきくペットとなった柏木貴子を使い、一人ずつ呼び出しては催眠をかけてゆく。
一通り終わると、三年生を狙う。これには生徒会長有原悠華が役に立った。
予算のことで話があると生徒会室に部長を呼びだし、同席した葉月が施術した。あまり深くかけられなかったので、千尋の助けを借りた。温厚な人柄の部長は皆が自分の悪口を言っている暗示を与えられ、辛さのあまりに泣きじゃくり、優しくかばってくれる千尋の胸の中で下僕に変貌していった。
「大がかりなこともやってみよか」
伝統の精神集中訓練法を教えるという名目で、一年生七人を遅くまで残した。薄暗い武道場の中央に講師役として千尋が立つ。絶対的エースである貴子の言葉を信じ、これが剣道に役立つと思いこんで千尋の手を見、声に耳を傾けた少女たちは、目が開けられず、体の揺れが止まらなくなったことに悲鳴をあげ、やがて恍惚となりながら一人また一人と深い所に沈んでいった。
「残るは、みなっちゃんだけやね」
剣道部顧問、体育教師藤堂美夏。
英語教師長峰麗子、美術教師榛名桜花と並んで高陵学園三美人に数えられる美貌の女性教師で、かつて剣道でインターハイ準優勝の経験がある。まだ赴任二年目だが、剣道部は彼女のもとで着実に力をつけてきていた。
謹厳実直、涼やかな眉ときりっとした目が印象的な、柏木貴子と姉妹のようなストイックな雰囲気の持ち主だ。生活指導担当、生徒に厳しい態度を取るので嫌う生徒も少なくないが、筋の通った物言いと毅然とした物腰を慕う生徒はそれ以上に多い。
「大事に残しといたメインディッシュや、じっくり料理したるでえ」
「でもさ、“文月”は目ぇつけられてるからやばいんだよね」
「大丈夫や、今みなっちゃんはあの水南倉っちゅう一年にかかりきりやさかい、あんたの……あんたらのことなんて忘れとるわ」
「そうなの?」
「だから新聞部最初に押さえた言うたやろ。あちこちから情報入ってくるんや。みなっちゃんも疲れとる。合宿の時にやるで」
剣道部はゴールデンウィークを利用して合宿の予定を組んでいた。とは言ってもどこかへ行くわけではなくて、学校の武道場に泊まりこみ、新入生との親睦を深めるのが主目的である。
「一晩使って念入りにうちらのものにしたる。さて、どないしよっかな……」
「ねえ、ちょっと考えがあるんだけど……」
千尋は剣道部全員を集めて鈴を鳴らした。十数人がいっせいに足を開いて悶えはじめる様は壮観だった。
手はまったく動かせないようにする。そうしておいて、性感だけを高めてゆく。みな秘所をぐしょぐしょに濡らし、悲鳴をあげる。
「うちの言うことようく聞きい。今のその感じがな、藤堂センセ見たらいつでもよみがえってくる。センセの姿見ただけで胸がきゅんってなる。同じ部屋に入ってきたらどきどきしてたまらへん。もし体に触れられたりしたら、今みたいに体が熱くうずいてうずいて、アソコが濡れてどうしようもなくなる。ええな。……」
※
合宿初日。と言っても授業が終わったあと、武道場にそのまま居残るだけだ。
(どうも……おかしい……)
藤堂美夏は体育準備室の自分の席で、剣道部のことを考えていた。
この一週間、部員たちの様子が変だ。
やけに上の空で練習している。何か別のことが気になって仕方がない風だ。自分が入っていくと、空気が明らかにそれまでと変わる。おどおどしたような、今にも泣き出しそうな、柔弱な顔ばかりになる。それまで何を話していたのか、真っ赤になってうつむいてしまう者もいる。
そこは女子高生、教師の自分にはうかがい知れない秘密のようなものでもあるのだろうと気にしないできたが、誰よりも目をかけてきた柏木貴子までが変になっていては、もう放置できなかった。あの稲妻のような太刀筋が見る影もない。稽古姿を遠目に見ている分には今まで通りなのに、自分の前では目を覆うようなひどいものになる。何かあるのか、この合宿で何としても聞き出さなければならなかった。自分が手に入れられなかった全国優勝の賜杯を貴子に手持たせるために、美夏はどんなことでもしてやるつもりだった。
「よし!」
自分の頬を叩き、腹中に気合いをこめて武道場へ出向く。
――――まただ。
扉を開けた途端に、張りつめていたものがしぼみ、代わっておかしな気配がたちこめる。
礼儀をやかましく言っているので、部員は皆きちんと挨拶してくる。だがその時の目が……妙だ。熱でもあるような、うるんだ目つきをしている。
皆の手が止まり、こちらをじっと見ている。妙な熱気を感じる。居心地が悪くなって怒鳴る。
「どうした! 練習しろ! 手を休めるんじゃない!」
再び竹刀を打ち合わせる音が鳴り始めるが、くぐもったような、鈍い音ばかり。ちょっと聞いただけで全然気合いが入っていないことがわかる。
「何をやっている! 全員、素振り百本からやり直せ!」
苛立ちがつのる。柏木貴子だけはまだましだが、それにしても他があまりにひどいからよく見えるだけで、前と比べてみれば話にならないていたらくだ。
自分の思い通りにならないからと言って生徒にあたるのはよくない。苛立ちを静めてできる限り丁寧に指導してやる。手をそえてやると相手の表情が輝いた。これなら何とかなるだろうか。
「きゃあっ!」
一人が足をつらせて倒れた。
「大丈夫か?」
面を外し、部屋の隅へ連れてゆく。痛むのか、肩を貸してやると強くしがみついてきた。その場の全員が注視している。――――なんだろう、この不穏な気配は?
「うっ!」
別の子がふくらはぎを押さえてうずくまった。こちらも足がつったと言い出したが、痛がり方が不自然だった。抱きかかえるふりをして突き放すと、よろめいてちゃんと普通に立った。きつい声が出た。
「そんなに練習が嫌なら帰れ! ここは真面目に剣を極めようとする者のための場所だ!」
怒鳴られた部員は――――泣き出すどころか、うっとりと幸せそうな顔になった。わけがわからず、逃げ出したくなった。
すっかり暗くなった頃、新聞部の生徒が差し入れのジュースをぶらさげてやってきた。インターハイまで密着取材をしたいということで、今回の合宿に特別参加することになっている。
迫水千尋、白河文月、白河葉月、それから小野寺智佳子。彼女は柏木貴子の親友ということで、様子を見に来たらしい。生徒会長の有原悠華も、一応各部の事情は把握しておかなければならないという口実で加わっていた。美夏はこの生徒会長のことは信頼している。
「センセー、こんな所で何してるんです? みんな探してますよ」
武道場で一人端座しているジャージ姿の美夏に、メガネの“葉月”が声をかけてきた。隣に文月もいる。他の生徒たちは私服に着替え、校庭でバーベキューにうち興じている。皆やけに自分の側に寄ってこようとするので、逃げたのだ。
「どうもこうも。……」
ため息をつく。昼間も、水南倉綾乃という問題児の新入生のことで教頭からねちねちと注意された。生徒と一緒に竹刀を振ることが気分転換になっていたのに、その剣道部がこの有様では……。
「なんか疲れてますね。ボク、面白いリラックス法知ってますよ。試してみません? たったの十分で一晩の睡眠以上の大効果!」
「通信販売じゃあるまいし」
苦笑しながらもOKした。少しは気がまぎれそうだ。
椅子に座ってもらった方がいいと、部室へ誘われる。
「じゃあ、深く腰かけて、手は膝の上、足は投げ出すようにして、気を楽にして、目をつぶってください」
「……催眠術でもかける気?」
「あ、わかります?」
あっけらかんと葉月は言った。
「ち、ちょっと待って」
「大丈夫ですよ。センセーって精神集中するの慣れてるでしょ? そういう人ほどかかりやすいんですよ。センセーぐらい剣道できる人なら、簡単にかかります」
こう言われては嫌だと言えない。それは剣道ができないと認めるようなもの。……簡単な言葉のトリックだが、根がまっすぐな美夏はまず断りにくい精神状態に誘いこまれてしまった。
「はい、目を閉じてください」
言いなりになって目はつぶったものの、まだ催眠術をかけられることを認めたわけではなかった。
「ねえ、ちょっと。……」
とまどいを舌にのぼせた途端、
「「ほら、もう目が開かない」」
別々の場所にいる双子が声をそろえて言った。
まったく同じタイミングだった。近くと遠く、二カ所のスピーカーから同時に音が出るのとはまた異なり、わずかな声音の違いが聞いたこともないような響きを生んだ。ぎょっとした一瞬、額に手を置かれ、わずかに押される。
「「目が開かない! まぶたはしっかりくっついてしまった…………どうやっても開けられない…………開けようとすればするほど固く固く閉じていく……」」
丹念に練習した芝居の台詞のように、双子の声は強さもタイミングも少しもずれることなく重なった。響きの方に気を取られ、言葉の内容は吟味されることなく脳髄に流れこんでくる。あれと思ったときにはもうまぶたが固く閉じて、どうやっても開けられなくなっていた。
(あ、あれ…………どうして……?)
「「体の力が抜けてくる…………どこにも力が入らないよ…………立ち上がることができない……もう立てない…………」」
これも言葉のトリックだ。どこか体を動かすことならできただろうが、こう言われて美夏は立つことしか考えなくなってしまった。椅子に深く座り、足を前に投げ出して額を押さえられていると当然立ち上がることはできない。
(かかっちゃったの? まさか!)
「「首の力が抜ける……首がやわらかくなって、だらーんとなる……だらーんとなる…………」」
額を押されるままに、首が後ろに傾いてゆく。
「三つ数えたら、息を全部吐きだして。はい、一、二、三!」
今度の声は一人だった。おやと思ったせいで命令口調に反発する暇もない。つい言いなりになり、息を吐く。口が半開きになった。
すかさずまた二重の、やわらかみのある声で、
「「ほうら、体の力が抜けるよ……。いい気持ちだよ……。体のどこにも力が入らなくなって、だらーんとなるよ……だらーんと……」」
首をそらし口を開けた状態では、手足に力を入れるのは難しい。少し耐えたものの、次に息を吐いた時に自然と筋肉のこわばりが失われていった。膝の上の手が左右にずりおち、ぶらさがる。そのことは意識したものの、痺れたようになって動かせない。妙に心地よく、そうする気にもなれなかった。
「体が軽くなる……軽くなる。体中が風船に変わってしまったみたいに、ふわーっと軽くなる……」
「手が軽くなる。手が軽くなる。手に糸がくっついて、上にゆっくりひっぱっていく」
双子は交互に声をかけた。一人の人間がしゃべっているようで、美夏はどちらがどちらの声か分けて考えることをやめた。
美夏の腕が両方とも簡単に持ち上がっていく。
「体も一緒にふわーっと軽くなるよ。ほうら、ふわふわと浮き上がっていく…………」
「「さあ、立ってみよう。体は軽いまんまだけど、必要な所には力が入って、楽に立つことができる。……」」
声をそろえて言った双子は美夏の体を左右から引っ張り、立ち上がらせた。
気をつけの姿勢にさせ、硬直暗示を与える。美夏の体は棒のようにがちがちになった。
「三つ数えると後ろに倒れるよ。大丈夫、しっかり支えているから何も怖くない。はい、一、二、三!」
割と大柄な美夏の体を双子は力を合わせて受け止めた。斜めに傾け、床に倒してゆく。
「ほうら、頭の中が空っぽになって、いい気持ち。体の力が抜けて、頭の中も何もなくなって、とてもとてもいい気持ち」
もう一度立たせる。また三つ数えて後ろに倒す。今度は上体だけを起こし、三つで後ろに寝かせる。美夏の平衡感覚は乱され、同時にわずかに残っていた思考力もなくなり、何もかも双子の言葉に委ねるようになっていった。
「……大したもんや、あんたら」
物陰に隠れて様子をうかがっていた千尋が感心してうなった。
「そのコンビネーション、すごいもんやな。使えるで。それに、うちはこないなチビスケやさかい、どうしても後倒法は苦手やったんや。二人がかりなら男でも支えられるな。うらやましいくらいやわ」
椅子に座りうつろな目をしている藤堂教師の頬に手をかけた。目がわずかに動いて千尋を見るが、誰なのかまったく認識できないようだ。
「よっしゃ。ほんじゃ、たっぷりと遊ばせてもらうわ」
(十)
食事の後はレクリエーションタイム。
武道場に集まってみんなでわいわいやるのだが、部外者のはずの千尋が進み出て、余興を見せると言い出した。
「うちの特技の催眠術見せたるでえ〜」
藤堂教師は興味を引かれた。無論、催眠術についてある程度は知っているが、かけられたことなどない。一度もない。練習の後は部員たちと一緒に仲良く食事したのだ。
千尋は希望者をつのり、一年生三人を椅子に座らせた。
目を閉じさせ、深呼吸から脱力、簡単な硬直暗示とオーソドックスな手法を重ねて催眠状態に導いてゆく。
ショーなどでよくやることを千尋は何のひねりもなくやらせた。全身を硬直させての人橋。前に伸ばした腕が固くなり、他の人がどれだけ力を入れても下に降ろせなくなる。自分の名前が言えなくなる。特定の数字だけを忘れてしまう。
最初怖いものみたさ風だった部員たちは、次第に慣れてきて笑いはじめ、一人が毛糸のパンツを五枚持っていることを告白させられたときには爆笑した。
「それじゃ、次いこか。次はな、この子を赤ちゃんにしてしまうで」
千尋は一人を床に座らせ、退行暗示を与えた。
「そら、まだまだ小さくなる…………六歳……五歳……四歳……三つ……二つ……ひとつ……ゼロ! あんたはもう赤ちゃんにもどってしもうた!」
手を叩き、額を押すと相手はころんと後ろに倒れ、手足を丸めてだあだあ言いはじめた。
「センセ、ちょいと手伝ってもらえます?」
「え、私?」
「センセにはおかん役やってもらいたいんですわ。……」
千尋は美夏を引っ張り出して椅子に座らせると、赤ん坊をうつぶせにし、目を開けさせた。
「ほら、見てみい。あそこにあんたのお母さんがおるで。がんばってあそこまでハイハイしていこな」
高校生の女の子が床の上を這いずってくる様はなんとも奇妙だった。
「しっかりだっこしたってください」
千尋に言われ、美夏は相手を膝の上に抱きかかえた。相手はこれ以上ないくらいの安らぎの笑顔を浮かべ、身を丸める。
「可愛いなあ」
千尋が耳元にささやいてきた。
「とっても可愛い。じいっと見てみい。まるで自分の赤ちゃんみたいに、かわゆうてかわゆうてたまらなくなる。この子のためにはどんなことでもしてやりたい……」
突然、美夏の心に強い感情が湧いた。もし今この子を奪われたら、相手を木刀で殴り殺してしまうかもしれない。……
「なんだかお腹空いとるみたいや。おっぱいあげなあかん。お母さんは赤ちゃんにおっぱいあげなあかんのや」
美夏は迷わずジャージの前を開き、シャツをまくりあげた。
周囲のどよめきも耳に入らず、ブラジャーをずらして乳首を露出させる。“赤ちゃん”の口をそこへ持っていった。
千尋が手を叩く。
「センセ、のりすぎですわ」
美夏は我にかえり、悲鳴をあげた。“赤ちゃん”が転げ落ち、大声で泣き出す。ひどい罪の意識と恥ずかしさがまぜこぜになって、両手で顔を覆った。
「ほんじゃ、次いきましょ」
相手を元の高校生まで“成長”させた千尋は、次の子に暗示を与えた。こちらも時間を戻してゆき、中学生にする。
「はじめて彼氏とキスした時に戻る。さあ、立って。
……じゃあついでや、センセ、またお願いしますで」
有無を言う間もなく引っ張られ、立ち上がった。目の前の少女は瞳をうるうるさせ、気恥ずかしくてこちらを見ていられない、けれども顔をそむけているのも恥ずかしい、その連続で首振り人形のようになっている。
二度と今みたいな真似はしない。固く誓ったその耳に千尋が言う。
「さあ、目えつぶって」
どうして素直にまぶたを下ろしてしまったのか、わからない。
「センセは男の子になる。男の子になって、目の前にいる女の子のことが好きでたまらなくなる」
目を開けた途端、心臓が大きく高鳴った。
相手が剣道部員の一年生であることはわかっている。私は女だ。男の子なんかじゃない。……だけど、この子、こんなに可愛かっただろうか……。なんてやわらかそうな唇をしているんだろう……。
誰かわからない相手に背中をぽんと叩かれた途端、周りのことも何もかも吹っ飛んで、いとおしさで頭の中がいっぱいになった。
抱きしめ、顔を上向けさせた。相手がうっとりと目をつぶる。心臓がまた高鳴り、唇以外何も見えなくなり、夢中になって自分の唇を押しつけた。
「きゃあ!」
「いやあ!」
黄色いもの半分本気半分の悲鳴が飛び交うが、世界は二人のためにあって、外野の雑音などどうでもよかった。
技巧などなきに等しかったが、情熱のおもむくままに舌を絡めあう。糸を引きつつ唇を離すと、相手は陶酔しきったうるんだ目をしていた。この細く、やわらかい体をもっともっと抱きしめ、触りたかった。
もう一度キスしようとしたところで千尋が手を叩いた。
「…………!!」
相手は教え子に戻った。女の子で、教師の自分も女だった。
真っ青になって口をぬぐった。股間がひどく湿っていることに気がつき、その場にうずくまりたくなったがさすがにそれは我慢した。
「さあ、次や」
「ちょっと待って、もう嫌よ、こんな……!」
「かまへんかまへん、上出来や」
何が上出来なのか文句を言う暇もなく、三人目の女の子を示される。嫌でたまらないのに、なぜか千尋が指さす方に視線がはりついて動かせなくなる。
いつのまにかその子の左右に双子が近づき、耳に何か吹きこんでいる様子だ。
「センセにゃもう一度男になってもらいますわ」
「だから嫌だって……!」
「あきまへん。そうら、足に力が入らんようになります」
「……え」
美夏の膝ががくりと崩れた。膝立ちになったその両肩を千尋がつかむ。大きくきらきらした光の満ちる千尋の瞳を見つめていると、世界がぐるぐる回りだすような気分になって、目をつぶったようだがはっきりしなくなり、ぱんと手を叩く音と共に意識が明瞭になると、自分はしっかり立っていて、目の前には椅子に腰かけた女の子しかいなかった。この場には他には誰もいない。誰の姿も見えない。
「あの子はえっちしとうてたまらんようになって、服脱がされんのを心から待ち望んでる。な、センセ、据え膳食わぬは男の恥いうやないか、あの子の望む通りにしてやりい」
少女は頬を淫らな期待に上気させて自分のことを見つめてきた。下半身が熱くなる。服を脱がせたい。あの子に触りたい。いやらしい気持ちが一気に嵩を上げ、堰を切る。
何かに憑かれたようなぎらぎらした目、口を半開きにして、欲望に突き動かされるままに足を運びだした美夏をよそに、千尋は大きく手を挙げた。
「みんな、こっちを見い! そうら!」
鈴が鳴る。
真っ赤になって、隠した指の間からちらちらと様子をうかがう一年生も――――
隣の友人と一緒になってきゃあきゃあ言っていた二年生も――――
うつむいて、正視できないでいる三年生も――――
おろおろしているお嬢様、小野寺智佳子。
いい加減やめさせようと眉を吊り上げていた生徒会長、有原悠華。
同じく、敬愛する顧問が笑いものにされていることに激怒し、ほとんど殺気に近い気配を放って片膝立てた剣士、柏木貴子。
全員の顔からたちまち表情が消えた。
「うらやましくなる!」
すでにたっぷりと暗示を植えつけられている皆には、その一言で十分だった。
藤堂美夏が生徒の服に手をかける。……
途端に、全員の口から羨望のため息がこぼれた。
美夏は息を荒げながらボタンをひとつひとつはずしてゆく。
白い肩があらわれた。
まるで自分の服を脱がされたように、何人かが熱い吐息をこぼして身を抱いた。
女の子は自分から肩を動かして美夏に協力する。
「ようくにおいかいでみい。なんだか体が痺れるような、たまらん気分になってくる……」
美夏は衣服を脱がせるたびにひとつひとつ顔に押しあててぬくもりを味わい、鼻を鳴らした。いやだあと女の子ははにかみ、腰をもじもじと揺する。
衣服の山の上に、ブラジャーが置かれた。
「よく見てみい。めっちゃやわらかそうや。女の子ってなんてやわらかそうで、すべすべしているんやろ。どないな手触りしとるんかな。確かめてみたいやろ。ほうら、向こうも待っとる。触りたい。触って、気持ちよくさせてやりたい。……」
美夏は震える手をまず相手の首に置き、肩から腕へと滑らせていった。女の子と一緒に美夏自身も恍惚となる。
乳房に手をかけた。まだ若干硬さの残る、つつましやかなふくらみ。こわれものを扱うように慎重に掌にくるみ、やわやわと揉みたてる。
「あ……」
周囲の数人がはっとして自分の胸に手をやる。どの目も血走りはじめている。何十匹もの飢えた獣がうずくまっているような気配が室内に充満してゆく。
「下も…………お願い……!」
女の子は腰を持ち上げて催促した。美夏は柔肌の感触に夢中になり、相手を抱きかかえて床に寝かせる。覆いかぶさり、肩口から首筋へと唇を往復させながら、手をスカートの中にさしこんでいった。
やりかたなどわからない。とにかくあちこちまさぐり、触れてまわった。小さな突起が特に気持ちいいらしかった。痛がるのでできるだけ静かに触れてやる。次第に硬くなってきた。指先にぬるぬるするものをなすりつけ、小さな円を描いてこする。これがいいようだ。気持ちよくてたまらないらしい。可愛い。もっともっと気持ちよくしてやりたい。
細いからだが鍛えられた美夏の下で幾度も跳ね上がった。激しい声をあげて身もだえするが、美夏はしっかりと押さえつけて逃れることを許さなかった。暴れられるほど意地悪な気分になって、指を激しく動かしてやった。
「あああっ! 気持ちいいっ! いい! 好き、好きいっ!」
美夏の背に腕を回し、爪を立てながら女の子は果てた。
美夏は夢うつつの表情でゆっくりと身を起こす。肩で息をしている。ジャージの下、自分の秘所も大洪水となっており、湿った下着の感触に居心地悪げに太腿をこすり合わせた。
「さあ、次や! 同じことセンセにしてほしい人、早いもん勝ちやで! 早く服脱いで、センセにお願いするんや!」
千尋が叫んだ。鈴が鳴った。
狂乱がはじまった。
※
美夏の意識はいきなり正常に戻った。――――戻されたのだが、本人にはそんなことはわからない。
(え?)
自分の状態が認識できない。
と、そこへいきなり生まれてこのかた味わったこともないような快感が来た。灼熱の大波だった。腰が勝手に跳ねて、ねっとりしたものが激しく分泌されたのを感じた。こらえるどころではなく、突き上げられるままに声をふりしぼり、身もだえた。
(な、何! これ、何なの!)
目の前が暗くなった。人が上からのぞきこんでいた。頭を人の手がはさんでいる。髪の毛の中に手を入れてなで回している。気持ちいい。
「せんせい…………」
逆さまだが、見知った顔だった。剣道部の部長。なぜか裸だ。顔を近づけてきて、額にキスしてきた。女性同士なのに、気にならない。これも気持ちいい。指が耳にかかる。耳たぶをもてあそぶ。どうしてそれだけのことでこんなに声が出てしまうのだろう?
「どないですか、藤堂センセ?」
迫水千尋という生徒の声がした。
部長が引き剥がされ、小柄な少女がかがみこむ。にこにこしている。
「あ、あなた……?」
「インタビューでえす。今のお気持ちをひとこと」
「……?」
その間も絶えず快楽の波が押し寄せてきている。ともすればとろけそうになる意志を必死でかき集め、首を上げた。
「きゃあああっ! なに、何これええええっ!」
自分は人肌に埋まっていた。
いずれも全裸の少女たち。
全員が正気を失った顔つきをして美夏の四肢を押さえつけ、まるで天上のご馳走ででもあるかのように美夏の体にむしゃぶりついている。何十本かわからぬ手指が肌をいじる。足指をしゃぶられる。ふくらはぎ、腿にも舌が這う。脇腹、腰骨も巧みに愛撫されている。肌は誰のものかわからぬ粘液でてらてらとしており、どこを触られてもたまらない快感が伝わってくる。
「あ、あ、あ、ああっ!」
何か言おうとして果たせず、目をいっぱいに見開いて千尋を見つめたまま美夏はイッた。涙がこぼれて両のこめかみにつたった。部長がすかさず舐め取り、喉の奥であえいで腰を揺すった。
「めっちゃ気持ちええやろ? センセ、まだ処女なんやてな。ならようおぼえときい、これがセックスの快感や」
「なに、なに、あ、私になにし、した、し、あ、ふ、ひああっ!」
叫ぼうとしてまたイッた。
「今のセンセは何回でもイケるんやで。世間にゃイきたくてもイケへん人もおるんやから、初めてでこないになるなんて、贅沢もいいところや」
「い、いやあ、や、いや、やめ、や、やめて、たすけて、たすけてえっ!」
美夏は狂おしげに見回した。
部長はもとより話にならぬ。
「有原…………さん……」
教師の言うことをよくきく堅物の生徒会長は、片手で己の秘所をまさぐりながら、陶酔しきった顔で美夏の右の乳房を口にふくんでいた。それを見た途端に乳首から鋭い快感が流れこんできて、美夏は悲鳴をあげた。
次から次へと絶頂が襲ってくる。手足はもう自分の制御を離れ、勝手にのたうち回っている。けれどもどうなろうともすぐにやわらかい肌身にとらえられ押さえつけられ、また快楽の導路となる。
裸体乱舞の向こうでは、あぶれた子を文月葉月、小野寺智佳子がいいようにもてあそんでいる。横倒しになって動かなくなっている子もいる。こちらに向けられて時折ひくっと動く小さなお尻を見た途端、またしても美夏は絶頂に押し上げられた。
「一番大事な所は一番弟子がええやろ、やっぱり」
言われて、喉をぜいぜい鳴らしながらあごを引いて下半身を見やる。
大きく広げられた脚の間に全裸で四つんばいになり、鼻から舌を愛液まみれにしているのは――――あの期待の星、妹のように思っていた柏木貴子だった。
陰唇を上下する貴子の舌、恥毛にすりつけられる貴子の鼻、腿の付け根に触れる貴子の頬、それに媚肉を広げ膣内にもぐりこんできている貴子の、たこの浮いた指……。出入りするたびにその突起がまだ敏感な柔襞をこすり、たまらない。
まだ残っていた理性は衝撃とともに吹き飛んだ。貴子に愛されているという幸福感ばかりが押し寄せてきた。肉体への甘い刺激と貴子への愛情が一緒くたになって殺到してきた。もはや抵抗しようという意志は蒸発していた。来るということさえ理解できず、美夏は大嵐の中の木の葉と化して混沌に落ちていった。
「う、ひゃ、あ、あ、あああああああああっっっ!」
眼球が裏返り、舌を突き出して絶叫した。全身の細胞ひとつひとつが爆発したみたいになって、意識が完全にばらばらになり、括約筋がゆるんで貴子の顔に熱い液体を注ぎかけたことにも気づかず、美夏は人としての尊厳を全て失って肉人形となり果てた。
※
「やりすぎじゃない?」
「死んで……ないよね」
双子がこわごわのぞきこむ。数人の子をイかせ、自分たちも興奮にとらわれて肩で息をしている。服の胸元は大きく開き、肩にはブラジャーの紐があらわになっていた。メガネを外しているのでどちらがどちらかわからない。
「大丈夫や、人間てな、結構丈夫にできとるもんや。これでみなっちゃんは完全にうちらの奴隷やで」
「そ」
双子はあっさり納得した。藤堂教師の身を案じたというより、取り返しのつかないことになって自分たちに面倒が降りかかってこないか気にしている様子だった。そうでさえなければ相手がどうなろうと知ったことではないのだ。
「まあ確かに、いきなり性格変わってしもうて、気づかれたらあかんけどな」
「……気づかれるって、誰に?」
「あんたらは気にせんでええ。こっちの話や」
まだ女の子たちは美夏の体に群がって舐め回している。放り出された腕を抱えこみ、乳房をすりつけてよがっている子もいる。
「さ、今度はみんなを片端からイかせてやりい。頼むで」
双子は顔を見合わせてにんまりとした。
「それもいいけどさ。……」
千尋をはさむように立つ。
「え」
千尋のスカートがまくり上げられた。手が後ろから下着の中に入りこんできた。尻をまさぐり、秘所へ。――――
「ひゃあっ!」
「すごい、濡れてるじゃん。我慢してたんでしょ」
「ね、一人だけ醒めてないでさ、千尋も楽しもうよ。ボクたちが気持ちよくしてあげるからさ……」
「ま、待ちい!」
「駄目。逃がさない」
「あかん! うちの目を見……むぐっ!」
暗示を放とうとした口を、片方が素早く自分の唇でふさいだ。
手首を押さえ、鈴を奪う。
押し倒した。
「むぐっ! ううっ!」
もがくのはまったくお構いなしで、例の完璧なコンビネーションで千尋の服をはいでゆく。
千尋の肌は透き通るようで、きめ細かい。二の腕や肩はぽっちゃりとして、体のラインはやや丸っこいが、腰はきゅっと締まっており、足首も細い。
「うっひゃあ、可愛い!」
なだらかな丘のような胸、そのゆるやかな頂上にぽつんと色づくサクランボのようなきれいな乳首。
指と舌がねっとりと絡みついた。たちまち勃起してつんと突き出す。
スカートもあっという間に脱がされた。隙間無く合わせられていた太腿を割って指が忍びこみ、開いた脚の間に腕、足、体と押しこんでいって閉じられないようにする。
その間も片方は千尋の頭をしっかり抱きかかえ、重ねた唇の間でひたすらに舌をうごめかせている。強い怒りを示していた千尋の瞳が次第に光を失い、目尻がとろんと垂れてきた。もがいていた足も別な痙攣をはじめる。
「あふ……」
千尋は鼻息と共に顎の力をゆるめた。すかさず舌が歯を割って滑りこんできた。双子同士でたっぷり練習したテクニックをもって、小さな口腔内を蹂躙しつくす。
太腿からお尻、腰回りを触れるか触れないかぐらいの微妙な手つきで愛撫していた指が、力を得て下着の隙間に潜りこんできた。
「んんっ! んっ!」
千尋の体が反り返る。道場に入るので裸足になっていた、その足指が折れ曲がり、開いた。
「すごい、濡れてる……。ちーちゃん、はじめて? ……違うね。じゃあ大丈夫か。ほら、力抜いて。指、入れるよ……」
淫靡な音が千尋の中から漏れてきた。千尋は何度も何度ももがき、痙攣し、やがて虚脱した。
「どう? いっつも気持ちよくさせてくれるから、ちょっとしたお返しだよ」
「後でもっと沢山してあげるね」
双子は満足げに微笑み、同時に千尋の頬にキスをすると、まだ残っている女の子たちを眠らせるために離れていった。
天井を見上げて大の字になっている千尋の耳に、次から次へとけたたましい声が響いてくる。時には暗示を与えられ、時には押さえつけられて指を使われ、忘我の境地へ追いこまれる、至福の悲鳴。
(………………なんちゅうスケベども……)
(ホンマに………………あいつらで……ええんやろな……)
(…………早まったかな?)
千尋は快楽の名残のけだるさに身をまかせながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。