HITOMI

ACT-02

作:kurukuru さん


「およしなさい!!」
「あ、あなたは!!」
「お姉さま!!」

 彼女の名は伊集院エリカ。学院の生徒たちからは、同級生、下級生を問わず「お姉さま」の愛称で慕われている美少女だ。
「3年生が新入生いじめ?みっともないですわね」
「い、いえ私はただ指導を……」
「知ってるわよ、あなたが新入生を捕まえては、催眠を使って良からぬ事をやってるってこと」
「……ふ、ふん。なによ、同級生のくせにゴールドクラスだからっていつも偉そうに……。催眠の腕なら私の方が……」

 開き直ったように、エリカへ詰め寄ろうとするマキ。ヒトミたちと同じようにエリカにも催眠をかけるつもりだった。

 エリカはあわてた様子もなく、にっこりと微笑んで一言声をかける。
「赤く咲く白い薔薇!!」
 エリカが発したその言葉を聞いた途端、マキの足が止まり、顔から表情が失われ、目が虚ろになっていく。
「あ……」と小さな声を発してその場に膝から崩れ落ちる。
「私の声は聞こえるわね、榊原さん」
 しゃがみこんだまま、こっくりと人形のようにうなずくマキ。
「あなたはとっても悪いことをしたわ。でも今あなたはその事を後悔している。ほら、とっても後悔しているわ。ほぉらほら、後悔してとても悲しい気持ちになっている……」

 マキの肩が突然震えだし、涙が目から溢れだした。顔の表情が悲しみでクシャクシャに歪んでいる。
「う……うっ……私……私は……」
「いいのよ榊原さん。もういいの。あなたは十分に反省しているんだから」
「さあ、お立ちなさい」

 ほっとした顔つきでゆっくり立ち上がるマキ。エリカの催眠術で、感情まで支配され、さっきまでの居丈高な様子は微塵も無い。
「そうよ、そう……とっても良い子ね。さあ、そのまま歩いて寮へ戻ってゆっくりお休みなさい。」
 命ぜられるままにマキは歩き出した。
「す、す、す、すっご〜い!!!」
 呪縛の解けたヒトミとユミが、同時に叫ぶ。
「大したことはないわ、後催眠よ。前に何度か彼女を相手に催眠術の練習をしたことがあって、その時にキーワードを埋め込んでおいたの」
「ごさいみん、って言うんですかーっ。まるで魔法みたいですねーっ!!!」
「あなた……後催眠も知らずにこの学院に入ってきたの?」
 エリカがちょっとあきれ顔になる。
「お姉さま、助けていただいてありがとうございます。あたしは……」
「夢見坂さんね」
「えっ、えっ、あたしの名前をご存知なんですかあ!!」
「お母様は、あの伝説のマジシャン、マリア夢見坂でしょう。私、ファンだったのよ。特に催眠イリュージョンショーは素敵だったわ」
「あなたも将来はマジシャンの道を……?」
「ええ、母みたいになりたかったんですけど、あたしって生まれつき手先が不器用で。それで催眠術なら出来るかなあ、なんて思って……でもやっぱり無理みたいです」
「いい、催眠術をかけるコツはね、自信を持つことなの。相手は必ずかかるっていう自信をね」
「自信かぁ……あたしが一番無いものだ……」
「もちろん自信だけではダメよ。血の滲むような練習を繰り返して技術を身につける事も大事。」
「大丈夫よ、あなたならきっと出来るわ。だってマリア夢見坂の血を引いてるんだもの。あなたの綺麗なブルーの瞳、とってもヒュプノティックで素敵よ」

 学院一の催眠術の達人であるお姉さまに、そう言われると不思議にやる気がわいてくる。
「そうだ、これをあげるわ」
 エリカはポケットから金色の振り子を取り出してヒトミに差し出した。
「わあ、きれいな振り子。いいんですかぁ!!」
「私はこのペンデュラムを使って、振り子催眠を毎日練習したの。何千回も何万回も素振りをやってね。」
「す、
素振り!?……な、何万回も!!」
「それじゃ、頑張ってね」
「はい、お姉さま!!」
 やさしい笑顔を残してエリカは去っていった。

「何万回かあ……それだけやれば、あたしもお姉さまみたいに催眠術がうまくなるのかなあ。あたしがやってもただ腕力がつくだけかも……」
「ヒトミ、催眠百人組み手って聞いたことある?」
「え!?
催眠百人組み手!?何ユミ、それ」
「一対一の催眠術勝負で、連続して百人に勝ち抜かなければいけないという、わが学院最高の荒行よ。しかもたった一本の振り子だけを使って」
「ええっ!?」
「挑戦した生徒は沢山いるけど、ほとんどの人が、途中で暗示をかける声が出なくなったり、振り子を振る腕に力が入らなくなったりして、最後は相手の術中に陥って挫折したらしいわ。催眠の技術だけでなく、超人的な精神力と体力が必要とされるから……」
「そ、そんなの誰も出来っこ……」
「お姉さまはね、学生の中で、その百人組み手をクリア出来た初めての人なのよ」
「ひええっ!!!」
「つまり、お姉さまと私たちじゃ、器が違うのよ。いくら頑張っても……」
「…………」
「あ、ごめんヒトミ。また落ち込ませるよーな事言っちゃったかなあ」
「やるわ!!」(ビクッ!!)
「お姉さま、あたしも頑張ります!!頑張って早く一人前の催眠術師になります!!」
「だってあたしの夢は日本一の女性ステージ催眠術師になることなんだもん!!」
「ど、どーしたのヒトミ、その異常なやる気。ひょっとして、さっきお姉さまに暗示をかけられたんじゃ……」
「ユミ、もう一度、寮に帰ってから練習つきあって!!」
「今夜は寝かせないわよ!!」
「ね、寝かせないって、それって一度も催眠術が成功しないってことぉ?じょーだんじゃないわよヒトミぃ!!」

 夕闇の迫る校舎の中庭を二人は寮に向かって駆けていった。

つづく