evolike
〜それでも続く世界〜

目次

 










evolike
〜それでも続く世界〜


第25話 「夏のウサギは考えない」




 私と姉は常に対角線上に居る。
 姉の黒く長い艶のある髪を見て私は髪を染め、短くした。姉が女らしいと言われれば、私は男っぽく見えるようにした。
 姉は私にとっての正解を示してくれる羅針盤だ。彼女の反対を行けばそれで大丈夫。
 そんな姉と距離を取ってからかなりの時間が経った……



 今から一週間ほど前、私は美世達とキャンプへ行くことになったので、着替え等の準備をするために家へ帰った。
 3ヶ月ぶりの帰宅。なるべく誰もいない時間を選んだ。「用意をしたらすぐ帰ろう」そう心に決めていた。帰るって言っても澄川の家なんだけど……



 何の変哲も無い木造二階建ての家。それが私にとってはとてつもなく大きく見えた。
 玄関のドアノブを握ると鍵がかかっていた。私はホッとして合鍵を取り出し玄関を開ける。
 あまり生活感が無い静かな家。私は他の部屋を覗くこともなく真っ先に2階の自分の部屋へ向かった。



 自分の部屋に入る。
 普通、3ヶ月も放置した部屋は埃っぽくて居心地は良くないのだけど、そういう感じは受けなかった。きっと姉が定期的に掃除や換気をしてくれているのだろう。
 私はその辺にあったスポーツバッグを手に取ると、色々とモノを詰め込んだ。
 昔は自分で服の場所分からなかった。姉に聞いて出してもらっていた。
 でも、今は分からないなりにテキパキと自分でやっている。姉から離れて私も変わったということだろう。
 喜ばしい事じゃない…………本当に?



「亜衣……帰ってきたの?」
「!!」
 聞き覚えのある声に私はあからさまに嫌悪感を出す。
「何?帰ってきたら悪いわけ?」
「……そういう訳じゃないけど……」
「じゃあどういう訳?」
「…………」
「そうやって都合が悪いとすぐ黙る。変わってないね、お姉ちゃん」
 私の言葉に姉は黙ったままだ。



 そんな姉を私は無視してバッグに荷物を詰める。姉はどうして良いか分からないのかただ私の姿を眺めていた。やがて、痺れを切らしたのか姉は私に話しかけた。
「……亜衣……ちゃんとご飯食べてる?」
「…………」
「学校へは行ってる?」
「…………」
「お友達にご迷惑を……」
「五月蝿い!! ……今ここ居るんだから大丈夫に決まってるだろっ!!」
 すると姉は凄く悲しそうな目をした。
「……私は亜衣のことが心配で……」
「何?心配だったら何でも聞いていいわけ?保護者面するのもいい加減にしろよ!!」
「ごめんなさい……」



 私はなるべく考えないようにした。
 あらかた準備を終えた私はバッグのジッパーを閉めた。
 後はそのままこの家を出れば完了する。
 そう思った時、姉が話しかけてきた。もちろん無視すればいいだけの話だ。
「良かったら、夕食食べていかない?……今日は元樹(もとき)さんも早く帰ってくるみたいだし……少し会っていけば……」
「!!」
『少し会っていけば』その言葉に私は無視し続けることが出来なくなった。



「……よくそんな事が言えるね」
「え?」
「……自分の夫を寝取った相手に向かって『少し会っていけば?』なかなか面白い冗談だね。一切笑えないけど」
「…………」
 姉は下唇を噛締め下を向いた。
「そうやって耐える自分に酔ってんじゃないの?悲劇のヒロイン?目出度いわね」
 ここで初めて姉は睨むような目つきで私を見る。
 その瞳にはハッキリと憎しみの色が付いていた。私は少し……ほんの少し悲しくなった。
 ホントはこんな事言いたくない。だから、私は家を出たんだ。
 なんで私はいつもこうなんだろう……嫌になる……



 私はそれ以上何も言わずに家を出た。
 ほんの少しの悲しい気持ちは私の中で拡大を遂げ、凄く泣きたい気分だった……きっと夜だったら泣いてたと思う。
 この悲しみは何処から来るんだろう……それはきっと……嫉妬だ。
 早足で澄川の家に帰る。玄関を開けるとそこには美世と澄川が居た。
「あっ、お帰り!! …………どうしたの?」
「……え?」
「目が真っ赤だよ……何かあった?」
 私は気付かない間に涙を流していたのかもしれない。



「何でもない、何でもない。ただの充血だって。最近夜更かししてばっかだから」
「……そうなんだ……気をつけて。せっかくキャンプに行くんだから体調を整えようね」
「美世、それは私のセリフだよ」
 私と美世のやり取りを見ていた澄川が急に立ち上がった。
「わーい、上杉の目はウサギだ〜!!う〜さ〜ぎ!!う〜さ〜ぎ!!」
「五月蝿い!!」
 私は澄川にスポーツバッグを投げつけた。
 スポーツバッグは見事に命中し、澄川はその場に倒れた。
「う〜ん……グッジョブ……」
「澄川君!!」



 ただ一言が言えずに今日も過ぎていく。
 前なら簡単に言えたはずなのに。
 言わなくても通じると思っていたあの頃。
 私はただ……考えないようにしていた……考え出すと止まらなくなる。
 次第に重みを増していく言葉。





第25話 終わり



目次に戻る

トップに戻る








evolike
〜それでも続く世界〜


第26話 「がんばらなくちゃね」




「後どれぐらいで退院できるの?」
「うーん……一週間ぐらいだと思うよ」
「一時はどうなるかと思ったけど良かった、元気になって」
 キャンプの一件があってから一週間経つ。
 夏休みになって特にする事もない私は今日も美世の病室にいる。
「今生きていられるのも澄川君のお陰だよ」
「んな大袈裟な。元はといえばアイツが……」
 すると美世は首を振る。
「違うよ。むしろああなって良かったと思ってるぐらいだから……」
「うーん……私には分かんない」



 美世と澄川の間に何が起こったか私は知らない。
 ただ、美世の様子を見ると悪い思い出ではないみたいだ。
「ねぇ……亜衣ちゃん」
「なに?」
「気のせいかもしれないけど澄川君って最近変わったよね」
 澄川が変わったと感じたのは私だけじゃなかった。
「……気のせいじゃなとおもう。私も光彦か正宗か分からないというか……キャンプの前後ぐらいから、丁度中間ぐらいに性格になった思う」
「……多重人格って治ったのかな?」
「……そういうものなのかな?良くわかんないけど……人格が同化したっていうのに近い気がするけど……」
「でも前より優しくなったから良いけど」
「あーあ、ノロケですか?」



 それを聞いて美世はため息をついた。
「……人の気持ちって難しいよね。本当に人を好きなるって簡単じゃない……気持ちが急ぎすぎたよ……」
「え?どういう意味?」
「……私もう一回澄川君のこと仕切り直しするね」
 美世はそう言うと窓の方を向いた。柔らかく微笑むその横顔が、大人っぽく見えた。



「美世、成長したんじゃない? ……でも、美世は若いんだからもっと思い切って行動した方が良いともうよ」
「亜衣ちゃんこそ、がんばらなくちゃ。若いんだし」
「うっ……」
「気持ちぐらいは伝えたんでしょ?」
「まだっていうか……私のは認められない気持ちだから……」



 焦った私は何とか話題を変えようとした。
「あの花瓶一杯バラ凄いね!!一体何本あることやら……誰にもらったの?まさか澄川?」
 ホントに見事なバラだった。ココへ来た時少し見とれていたぐらいだ。
「違うよ。昨日、真田先生の代理だって言う人が置いて行ったの」
「真田の仕業かぁ……キショい〜」
「でも代理の男の子はカッコ良かったよ」
「マジで?」
「うん」
「真田……まさか男をかこっているとか?」
「亜衣ちゃん、そのオヤジ的発想を何とかした方が良いと思うよ……」
 その後も適当に談笑をして、私は病院を後にした。



 何か嫌になっていた。
 夏なので日はなかなか沈まないし、ガキは夏休みだからか、やたら楽しそうに自転車乗ってるし、それに以前に暑いし。
 こんな風に高2の夏が過ぎてゆくのかなぁ……
 最近、病院帰りに思う愚痴。病院と澄川の家を往復する毎日じゃあ愚痴りたくもなるよ。
 私はその辺にあった石を蹴飛ばしながら澄川の家に近づく……と、そこでとんでもないモノを見てしまった。



 玄関口に姉がいて、澄川と話をしていたのだ。私はダッシュで玄関まで急ぐ。
 二人は私に気付いたらしく一斉にこっちを見てきた。
 近づく私に姉が話しかける。
「亜衣ちゃん。今帰ってきたの?」
「……何でココに居るの!?」
「アナタがお世話になってるって学校の真田先生に聞いたから……」
「……アイツ……内緒にするって言ったのに!! ……私は家に帰るつもりないから、とにかく帰ってよ!!」



 この状況を見かねてか、澄川が口を挟む。
「……心配するな。お姉さんはお前の着替えを持ってきただけだ」
「えっ……」
「真田先生に『責任は自分が持つから温かく見守ってやって欲しい』って言われて……私も無理強いしないって決めたの」
 せっかく、意気込んできたものの、少し拍子抜けの展開に私は「……そうなんだ」なんて気の抜けた返事をしてしまった。



 そのまま姉は帰って行き、夜になった。
「はぁ……私何やってんだろ……夏休みにもなって、こんな部屋でゴロゴロ……バカみたい」
 私はまだ澄川の家で厄介になっていた。澄川は一人暮らしだし、出てけとも言わないのでそのままいる……そういうずうずうしい自分がかなり嫌い。
「そういう事は独りの時か心の中で言ってくれ」
「うるさいなぁ……これはアンタにも言ってるの!! ……そういえば最近仕事行ってないよね」
「……この前仕事に失敗したから、なかなか仕事を回してもらえなくなった」



 この前と言うのは恐らく私が邪魔した予備校講師の殺しの事を言っているのだろう。
「…………アレに関しては悪かったとは思ってないから……そもそも人殺しに良いものなんてないし」
「……別に僕だって良い事をしてるなんて思ってないさ」
 何だかイライラする。コイツ最近、人殺しのクセに偽善っぽい事を話すようになった。それは良い事なのかも知れないけど腹が立つ。それは何処から来るのか……それは……
「何?好きな人のためなら悪い事もしょうがないって言いたいわけ?」
「……別に僕は……」
「ねぇ、『好き』ってそんなに偉いわけ?恋愛が絡めば何でも許されるわけ?バカじゃないの!!」
「…………」
「答えられないでしょ?自分が間違ってる事を認めたくないから答えたくないんでしょ!!」



「上杉……」
「何!!」
「……お前少し変だぞ……」
「あー、うるさいなぁ!!もう寝るから電気消してよ!!」
「えっ……だってまだ8時……」
「うるさい!!うるさい!!みんなうるさい!!」



 布団をかぶり目の周りが真っ暗になると少し落ち着いた。
 あぁ……私が一番うるさい……





第26話 終わり



目次に戻る










evolike
〜それでも続く世界〜


第27話 「謀」




 「仕事が無い」なんて言っていた次の日から澄川は頻繁に外出するようになった。
どうやら次の仕事が決まったみたいだ。
 でも、澄川を止める事はしなかった。どうせまだ相手を好きになる段階だろうし。



 独りになった部屋は静かで、私はいつの間にか眠り込んでいた。





…………泣いている。
声を上げて泣いている。
部屋の隅……小さい頃の私。
きっとまた怒られたに違いない。
昔からそうだった。褒められるのは姉で怒られるのは私。


 でも、しょうがないと思っていた。
姉は綺麗で頭も良くて無欲で、そして……



「泣かないで亜衣ちゃん」
 俯いている私の頭にそっと置かれる柔らかい手。仰向く私。
「……お姉ちゃん」
 目の前には微笑む顔。
 そして……姉は優しかった。
 小さい頃、姉はそういう存在だった。



それがなんであんな事になってしまったのだろう……


 3年前……たまたま早く起きた日曜日。
 車に細工をしている姉を見た……いや、まだこの時は細工しているなんて知らなくて……黙って見ていた……はずだ……
両親は仲が良く、頻繁に二人でドライブへ出かけていた。
そして今日もドライブへ行く。私と姉は笑顔で見送った。



 夕方になり、家の電話が鳴った。
 私がでると、相手は警察だと名乗り、両親が交通事故で病院に運ばれたと告げた。
 私と姉は病院へ急ぐ。移動中、お互いに一言も喋ることは無かった。
 病院へ着くと連れて行かされたところは霊安所だった。
 山道、カーブでブレーキと踏むことなくそのまま突っ込み崖へ転落。即死だったらしい。
 横たわる姿を見る。母親の方はともかく、父親の方は原形をとどめていなかった。
 それを見た私は吐き気がしてトイレに駆け込んだ。



 泣いている。
 嘔吐を繰り返しながら私は涙を流していた。
 朝まではあんなに元気だった二人の変わり果てた姿。それを見て逃げ出す私。
 何もかもが悲しかった。
そんな時、誰かが……いや、いつものように姉の手が私の背中に置かれた。
「亜衣ちゃん、大丈夫?」
 姉の声はいつものように優しかった。仰向こうとする私、でも上手く行かない。
「…………!!」



 見てしまった。
 ……俯いた前髪の間から覗いた姉は微笑と呼ぶには口元が歪みすぎている……嘲笑、冷笑、ほくそ笑み……そんな言葉が当てはまるような表情だった。
 この時ようやく姉が両親を殺したことに気付いた。



 お葬式。
 準備や進行は全て姉が仕切った。
 両親をなくしても気丈に振舞う姉を集まった親戚は皆感心し、健気だと泣き出す人までいた。
 だけど、私は見逃していなかった。誰もいない一瞬をついて薄笑いを浮かべる姉の顔を。
 葬式などの一連のやるべき事を終えると、姉はこの家は自分達姉妹が守ると宣言した。当時、姉は大学を卒業したばかりで、親戚達は最初、難色を示していたものの葬式での姿を見たこともあり、最後には折れた。
 姉は我家の全権を握った。



 ここから姉の暴走が始まる。
 まず、手始めに姉は家中のカーテンを取り替えると言い出した。
その後、家具や壁の色など次々と姉の好みに変わっていく。
とうとう半年もしないうちに以前の家の痕跡はなくなった。
 あまりに激しい変化に疑問を感じ、姉に尋ねる。



「お姉ちゃん、ここまで家を変えること無いんじゃない?」
 私の問いに姉は微笑みながら言った。
「前のままだと“あの人達”の事思い出しちゃうでしょ?」
「…………」
「だから変えるの。今は私達の家なんだから」
「……“あの人達”ってお父さんとお母さんのこと?」
「…………そう、“あの人達”のこと」
「…………」



 姉はどうしたいのだろうか?
   ……私には分からない……この時もそして現在も……
 中2も終わりごろの話。





第27話 終わり



目次に戻る

トップに戻る










evolike
〜それでも続く世界〜


第28話 「家族ゲーム」




 いつの間にか部屋の窓が赤く染まっていた。
 どうやら私は眠っていたらしい。時計を見る。すでに19時をまっていた。
 しばらくして玄関のドアが開く音がして、澄川が帰ってきた。家に上がるなり澄川は真剣な面持ちで床に座り込む。
「おかえり」
「…………」
 返事は返ってこない。黙り込んだままだ。
 私もそれ以上は何も言わなかった。
 何も言葉を交わさなくても分かり合えるような間柄ではないけど、沈黙が続くことを怖がるような間柄でもなかったから。


 それになにより、思い詰めたような澄川の横顔があの時の顔とダブるから……





 中3になってすぐ、姉は男の人を家に連れてきた。
「はじめまして。僕、松田元樹って言うんだ、よろしくね」
 その男性はいかにも人のよさそうな笑みを浮かべて私を見た。私もとりあえず挨拶をした。それを見届けた姉は嬉しそうに何度も頷いた。
「亜衣ちゃん。実はね私と元樹さん、結婚しようと思うの」
「えっ?」
 私もどう応えていいか分からない。姉は両親が死んでからよく物事を突然決めるようになったのだけど、今のが一番だと思った。



 こうして、元樹さんが加わった生活が始まる。男の人がこの家に入る事で初めはギクシャクした。他人が入ってくるというのはそういうものだ。
 それに加え私は高校進学という大切な学年をむかえた。
 なにかと不安定な時期、二人は最大限の協力してくれた。元樹さんは徹夜で勉強を教えてくれるし、姉は自分の仕事があるのに夜食なんか作ってくれた。
 この頃、姉に対しての違和感はあまり感じなかった。家の様子も変わったし、両親の話もしなかったというのもあるけど、なにより私が受験だった事が大きい。
 受験という目標を3人で解決していく過程で、元樹さんとの仲も良くなっていった。
 今考えればこの3人が一番上手くいっていた時期だと思う。
 こうして私は無事高校へ入学する事が出来た。



 高校へ入り、それなりに友達ができ、高校生活も安定して私の心にも余裕が出来てくる。  すると今まで気付かなかった事が見えてきた。
 気のせいかもしれないけど、姉夫婦はあんまり仲が良くない感じなのだ。
 上手くは言えないが、死んだ両親とは少し違いお互いに壁を作っているように思えた。二人の私に対する態度は変わることは無かったけど、夫婦で二人きりになるとロクに会話が無い。
 特に姉の態度にハッキリと表れていた。元樹さんが話しかけないとお姉ちゃんは絶対に話をしなかった。そりゃ夫婦にも色々な形がある事は分かる。
 でも……これじゃあ見知らぬ他人同士が生活しているみたいじゃない。



 もしかしたら、私の受験に構っていたせいで2人の時間をもてなくなったせいかもしれない、なんて思ってしまった私は、なるべく2人でいられるような状況を作ることにした。
 映画のチケットを買ってきて二人で行くように勧めたり、カラオケにみんなで行って、途中で私がいなくなる、なんて事もした。お節介かもしれないけど、これが受験の恩返しだと思っていた。
 しかし、結果は良くなかった。



 それでも何とかしようと色々考えていた夜、私はのどが渇いてキッチンへ行こうと一階へ降りた。薄暗い廊下を歩いていると、リビングを過ぎたあたりで人の気配がした。
 変に思った私は恐る恐るリビングを覗いた。
 室内は月明かりしか光源は無く、ハッキリと見て取れなかったけど、時間が経つにつれて、ソファーに座る人影が見えた。体格からして恐らく元樹さんだと思った。
 月明かりに照らされた元樹さんの顔は陰影がくっきり表れ、酷く深刻そうな顔をしているようにみえる。その表情に私は目を離す事が出来なかった。さらに良く見ようと私は見を乗り出す。
 しかし、その拍子にバランスを崩し室内に入ってしまった。



「誰だ!?」
 突然入ってきた私に元樹さんは驚いているようだ。もちろん私も驚いているけど……
「ごめんなさい。脅かすつもりじゃなかったんだけど……」
「ん?……あぁ、亜衣ちゃんか……まだ起きてたの?」
「……うん」
 近くで見た元樹さんの顔は何だか疲れているみたいだった。
「元樹さん何かあったの?明かりもつけないでソファーに座って」
「え!?……うん……ちょっと考え事をね……」



 私はよくお節介焼きだといわれる。
 美世のことにしてもそうだけど、ついつい首を突っ込んでしまう。生来そういう性格なんだと思う事にしている。
 だから、この時も元樹さんの表情が冴えない事に首を突っ込んでしまう。
「もしよければ、力になるよ……って高校生の私に何が出来るって訳じゃないけど……話を聞くぐらいはできるから……」
「ははは…………ありがとう」
 元樹さんは力なく笑った。私はその原因が何であるか何となく分かった。



「……もしかしてお姉ちゃんと何かあった?」
「!!……いや別に……僕は……」
「元樹さん、余裕無さ過ぎ。バレバレだよ」
 さらに焦りだす元樹さん。
「ち、違うんだこれは……」
「元樹さんには結構世話になってるし、何かお返ししたいの。幸い、お姉ちゃんのことなら大抵のことは答えられるし。これでも16年一緒に住んでるんだからね」
「…………」
「……私じゃあ役不足かな」
「そうじゃないよ……大丈夫、これは法(のり)さんとの約束だから」
 お姉ちゃんとの約束?何の約束だろうか?
 気になるけど、そこまで問いつめる勇気は無かった。
「……わかった……でも話したくなったら……」



 その瞬間だった。私の声を遮って背後から声がした。
「私たち本当は夫婦なんかじゃないの」
「!!」
「法さん……」
 振り返った先には姉がいた。暗くて表情までは伺えない。
「亜衣ちゃんも高校生になったことだし、いい機会だから言っておくね。お葬式から何ヶ月かして、私がこの家を相続するのに反対する人が出たの。まだ二十歳そこそこの私がこの家を持つことが気に食わない人達がいるってこと。だから、元樹さんに頼んで夫婦を装って世間体を良くしたの……全てはこの家を守るため」
「…………」
 私は信じられなくて元樹さんを見る。元樹さんは苦々しい顔を浮かべながら、何も言わずに頷いた。
「僕も一人暮らしだったし、家賃や諸経費なんかを払わなくて済むから、その条件を飲むことにしたんだ……」
「そんな……」



 今まで騙されていたのか……私は急速に現実感を失っていった。耳鳴りがして話しかけられた言葉がよく汲み取れない。
 何も言えないでいると、姉は私の肩に手を置いた。
「落ち込む気持ちは分かるけど、これも全てこの家と亜衣ちゃんを守るためにやったことなの……解ってね」
「……!!」
 姉の言葉は私の怒りを促す発火点になった。
「家を守る為って何なの!?お父さんとお母さんがいればそんな事考えずに済んだじゃない!!」
 この言葉に姉は動揺することなく、極めて抑揚の無い声で言った。
「しょうがないでしょ……あの人達は死んだのだから」



「ふざけないで!!殺したのはアンタじゃない!!」
「えっ……」
 このとき初めて私は姉に『アンタ』と言った。姉の方もここで初めて表情を崩した。
 そのままの勢いで私は家を飛び出した。





第28話 終わり



目次に戻る

トップに戻る










evolike
〜それでも続く世界〜


第29話 「望む世界」




 澄川は特に何と言うわけでもなく、食事の準備を始めた。私もそれを黙って見ていた。いつもだったら、仕事について問い詰めてたかもしれない。でも、そんな気力は無かった。
 用意された食事を黙って食べる。澄川も何も言わない。黙々と進む食事。
 最近じゃあ美世もいないので、こんな感じだ。澄川も誰なのか判らないけど全然人格の変化が無いから光彦のバカ騒ぎも今となっては懐かしくさえある。
 何も無いまま時間も流れ、寝ることにした。
でも、昼間寝たせいもあってなかなか寝付けない。



 暫くすると、隣で寝ている澄川がベットから起きた。私は床で寝ているから歩く振動が伝わってくる。トイレにでも行くのかと思い、無視しているとガサガサ物音が聞こえだした。気付かれないように寝ながら様子を伺うと、どうやら澄川は何処かへ出かけようとしている。瞬間的に人殺しという言葉が浮かぶ。
 それにしては早過ぎる。ターゲットに会ったその日に殺すなんて出来るはずが無いのだ。好きになるまでの時間が必要だから。私は澄川に尋ねようとした……が、すぐ思いとどまる。



 行動を起こさなければ結局私には何も起きないのだ。
 だったら、何もしないほうがいい。何も知らなくていい。何も考えなくていい。
 あの時だってそうだ何もしなければ思い出さなかったのだ。





 家を飛び出した私は有希の家へ行った。幸い、有希はまだ起きていて、夜も遅くに突然私が来たことに驚いていた。
「亜衣!?」
「……ゴメン、こんな夜遅くに……2,3日泊めてくれない?」
「え!?どうしたの?……まぁ、とにかく入って」
 有希に促され家に入る事になった。彼女の部屋に入ると、あれこれ聞かれる前に詳細は隠して、姉とケンカして家出した事を告げた。
「ふーん、なるほどね。まぁ、2,3日家にいればいいよ。よくあることだし」
「……有希……よくあることなの?」
「うん、私なんて中学の時、よく家出したよ」
 あっさり有希は納得してくれた。よくある姉妹ゲンカだと思ってくれたみたい。
 今日が金曜日でよかった……土日の間とりあえずはここにいよう。



 そう思ったのもつかの間、次の朝には姉が有希の家まで私を迎えに来た。 玄関に姉を待たせ、家の奥で有希が私に尋ねた。


「亜衣、どうする?帰る?」
「……嫌……」
「そう言うと思ったよ……でも、いい機会だから話し合ってみたら?」
「…………」
「アンタの場合ケンカして家出したんだから、話す時間が足りなくてすれ違っただけだと思うよ」
「…………わかった」



 有希の説得に応じ彼女の部屋で姉と二人きりになる。
「…………」
「…………」
 お互いに話す機会を伺っている。時間が経てば経つほど気持ちが急いてくる。こういう状態が何分か続いた後、まずは姉の方から切り出した。
「……黙っててゴメン」
 私は……ホントは落ち着いて話したいのに……ついついムキになってしまう。
「何が?……元樹さんの事?それとも両親の事?」
「…………」
「どっちしても……許さない」



「……許してなんて都合のいい事は言わない……けど……分かって欲しいの……全ては……守るため……」
「家を守るためって昨日も同じこといったよね?そんなに大事?ウソの夫婦を装ってまで、しなきゃいけないことなの!?」
 私の問いに姉は黙って答えない……ただ、今までと違い傍目から見ても分かるぐらい悲しそうな顔をしていた。
「……そうじゃない」
 姉がようやく搾り出した答えがそれだった。



「は?」
「……守りたいのは……亜衣ちゃん……アナタのことだよ……家を守るなんていうのは二次的なものでしかない……」
 言われた意味が分からず、少し面食らう。
「……何言ってるの!?そんな事……誰が信じる……」
「覚えてないの!?」
 突然、姉は声を荒げた。私はどうして言いか分からずただ姉をじっと見つめた。すると、姉は我に帰ったのか俯いた。
「…………私は亜衣の望む世界を作りたかっただけなのに……」
「……どういう事!?」
「あなたが言ったのよ……お母さん達なんか死んでしまえって……」
「!!!!!」



 次第に記憶の傷が開く。塞がっていたものが一気に流れ込む。
「あぁ…………私……」
 私の反応を見て、姉は微笑んだ。





 澄川が出て行ってからどれぐらい時間が経ったのだろうか?私は相変わらず寝られなくて、寝返りをうってばかりいた。
 行き場の無い想いだけが頭の中を行き交う。その想いは次第に混沌として私の中で膨れ上がり、膨張が最高潮に達した時、玄関のドアが開いた。



 ドアは開くと、大きな物音を立てて何かが倒れる音をたてる。
 私は驚いたが、それでも動かない。どうせ、澄川が転んだのだろう。その後、引きずる様な音がして、水音が聞こえてきた。懸命に何かを洗っている音が聞こえた。
 水音は20分以上続いている。さすがに私は不安になり、洗面所のほうを覗き込んだ。



 そこではやはり、澄川がいた。後姿しか見えないけど、手を洗っているみたいだ。20分も手を洗うなんて明らかにおかしい。私はようやく立ち上がり、澄川に近づいた。
「……澄川……なにやってるの」
 私の呼びかけにも聞こえないのか懸命に手を洗っている。さらに近づいて背後から覗きこむ。やはりというか澄川は手を洗っていた。
 今度は澄川に分かるように肩を掴んで話しかける。



「アンタ、いつまで洗ってるの?もう十分に洗えて……」
「……まだだ……」
「え?」
「……キレイにとれないんだ」
 振り向かずに応える澄川。何かに取り憑かれているかのようだ。
「十分キレイだって……」
 私の声に反応して澄川の動きが少し止まった……直後、澄川は振り返ってどなる。
「とれないんだよ!!」
「!!」



 振り返った澄川の服には……おびただしい血がついている。
「……血……とれないんだ……何度手洗いをしても……」
 言い終わると再び澄川は手を洗い出した。





第29話 終わり



目次に戻る

トップに戻る










evolike
〜それでも続く世界〜


第30話 「境界線」




 ……分からない……何故そこまでしなきゃいけないの?
 皆、みんな、ミンナ……好キダカラ……デキル……
 あの時、お姉ちゃんが言った言葉……





 …………泣いている。
 声を出して泣いてるよ。
 部屋の隅……あの頃のお姉ちゃん。それを見ている小さい頃の私。
 優しいお姉ちゃんが人を傷付けたんだって……お父さんとお母さんが怒ってた。
 なんか変だよ……だって……いつもほめられるのはお姉ちゃんで……怒られるのは私なんだから。
 泣いてるお姉ちゃんを見るのはかなりショックで近寄りにくい。
 でも、そんな事言ってらんない。お姉ちゃんに何かしてあげたい気持ちがあるから。
 考えた、すごく、すごく考えた。それで、出た結論は……



 そっとお姉ちゃんの頭にふれる私……お姉ちゃんの動きが止まった。
頭をなでる……怒るかなぁ……
「泣かないで…………」
「…………」
 ゆっくりお姉ちゃんは仰向いた。
 大切な人が泣き顔を見るのは凄く悲しいけど、私はいつもお姉ちゃんがしてくれたみたいに精一杯、微笑んで言う。
「……何があっても、私はお姉ちゃんの味方だからね」
「!!」



 その瞬間、お姉ちゃんの目からいっぱい涙が溢れだした。
「お姉ちゃん泣かないで…………私まで悲しくなっちゃう……」
 よく分からないけど私まで悲しくなってきて、泣き出してしまう。
 しばらく二人で泣いた。



 時間が経つとお姉ちゃんは泣き止んで、私はまだしゃくり上げてた。
 そっと私の頭をお姉ちゃんの腕が包みんで、抱きしめられる。
「ありがとう……亜衣ちゃん……ありがとう……」
「……お姉ちゃん……ちょっと苦しい……」
 お姉ちゃんは抱きしめていた腕を少し緩め、私の顔をじっと見てきた。私は少し照れくさくて下を向く。
「私も亜衣ちゃんにどんな事があっても……ずっと味方でいるから……」
「お姉ちゃん…………!!!!!!」



 嬉しくて上を向いた瞬間、お姉ちゃんの唇が私の唇と重なった。
 突然のことで私は何が何やら分からなくてパニックに陥りそうになる。
 でも、お姉ちゃんに髪をなでられて少しずつ落ち着く。
「お姉ちゃんどうして……」
「……好きだから……亜衣ちゃんは嫌?」
 私は首を振った。
「お姉ちゃんが望むんだったら……」



 それからお姉ちゃんとよくキスするようになった。
長く、深く、時間をかける……お姉ちゃんの唇が優しく私の唇を噛む。
拒んだり、受け入れたり……駆け引きは私の気分を高ぶらせる。
唇同士が触れ合う感覚に私は悦に浸ってた。
 次第に私は体の力が抜けていく……
この時間だけ……私とお姉ちゃんは繋がっていられる……嬉しい……
私とお姉ちゃんだけの世界……もう、これしか要らない。
 倫理的な善悪というよりも感情が先にほとばしり、抑えられない。
それほどまでに私は幼かったのだと思う。



 でも……こんな関係がいつまでも続くはずが無い。
 いつものように唇を重ねた……次第に頭が真っ白になる……目の焦点も合わなくなってきた。
……あぁ…………
 ぼやけた視界の中で何かが動く。
「…………?」
 私はそれを見ようと懸命に目のピントを合わせる。
お姉ちゃんの肩越しに見えてきたものそれは……



「あなた達……何を……」
「………え……?……」
「何をしてるのっ!!!!!!!」
「!!」
 悲鳴のような声をあげ、大きな足音を立てて部屋に入ってきたのはお母さんだった。
 肩を掴んで私達を引き裂くと、お姉ちゃんの顔を何度も何度も殴打する。
そのままお母さんはお姉ちゃんを引きずって一階へ連れて行った。
 私は部屋に独りきりになり、恐怖で震えてた……お母さん怖いよぉ……どうしてお姉ちゃんを叩くの?
 私達は……ただ……好きだからしてただけなのに……



 それ以来、二人でいることを極端に制限され、いつも両親の監視がついた。
いつも周りに気を使い、ほとんど会話を交わすことはなかった。  私は両親に不満を言った。
「どうしてお姉ちゃんと話しちゃあいけないの?」
 次の日、両親は私を病院へカウンセリングに連れて行った。



 病院の先生は優しく私の言う事を黙って聞いてくれ、その後私にも分かるように少しずつ噛み砕いて話をしてくれた。
 それは恋じゃないと……愛じゃないと……愛情ではなく、情愛だと……
 次第に、私は好きだとか嫌いだとか、愛してる、愛してないなどの境界線が非常に曖昧だったと気付き始めた。姉妹愛と恋愛感情とが混沌としている状態。
 しかし、同時に私の中で姉に対する気持ちが変わっていくことに畏怖していた。あれだけ満たされた時間をもう何も感じなくなってしまう恐怖。不安定な気持ち。



 当時、お姉ちゃんと連絡を取っていないわけではなかった。内緒でお互いの部屋のドアから差し入れる交わす手紙があった。
 だから、私は……書いてしまった。
『お姉ちゃん。私はもうすぐ変わってしまうかもしれません。病院へ連れて行かれなかったらこんな事にはならなかったです。怖い……
お母さん達なんか死んでしまえばいいのに……』
 私の手紙にお姉ちゃんはすぐ返事を書いてくれました。
『もう少し……あと5年待って……私が自立したとき……その時は誰にも邪魔されずに二人の時間を過ごそう……約束だよ……』



 この手紙から少しして私は手紙を書くのを止めた。
 カウンセリングの成果として、気持ちの整理がついたのと、作為的にお姉ちゃんとの記憶を消されていったからだ。
 私に残ったのは姉妹愛とぼやけた記憶だけだった。





「思い出した?……うれしい……催眠治療を受けているっていう話を聞いてたから不安だったけど……」
 気がつけば有希の部屋だった。そういえば、元樹さんとの事を知って私は家出したんだ……そして今、欠落した記憶が戻ってきた。
 目の前に姉がいる。



 私のせいで皆こうなったんだ……お父さんとお母さんは死んで……お姉ちゃんは両親を殺し、見知らぬ人と結婚生活を装って……
 私は……私は……
 お姉ちゃんが注ぐ私への気持ちと、起こった事態の深刻さに押しつぶされそうになる。
 そんな私に構わず、お姉ちゃんは嬉しそうに話す。
「これで約束が果たせるよね!!二人だけ時間を過ごせるんだよね!!」
「…………」
 私は全身の血の気が引くのを感じ、震えだした。お姉ちゃんはその異変に気付き怪訝そうな表情をする。



「亜衣ちゃん……どうしたの?」
 姉は近づき触れようとした。しかし、私はとっさに体を逸らす。
「…………何で逃げるの?」
「…………」
 さらに姉の手が伸びる。私は必死に飛びのく。
「…………」
「……何で……殺したりなんかしたの……」
 姉は事も無げに答える。
「決まってるでしょ……好きだから……好きだから出来たの」
「……ごめん……お姉ちゃん……私……どうして良いのか……分からない……」
 そのままドアを開け、私は部屋を駆け出た。
 この場で私とった行動……それは逃げ出すこと。





第30話 終わり



目次に戻る

トップに戻る










evolike
〜それでも続く世界〜


第31話 「後悔と懺悔」




 有希の家から逃げ出した私は宛もなく歩いた。
 不甲斐ない自分が情けなかった。辺りがぼやけてくる……涙が出てた。
 お姉ちゃんとの日々を思い出してさらに混沌とする心。



 夜になったところで私の行く場所もない。
 だから、ここへ来てみた……学校。音楽室にある窓の鍵が1つだけ壊れているのを知っていたので、そこから校舎内へ入る事にした。
 夜の学校なのでもちろん誰もいない。それが今の私にとっては重要だった。
 自分の教室へ行き、自分の席に座る。肘をつき俯く。
 涙はすでに止まっていた。私の心とは対照的に静かな時間が流れる。
 ……あんな事をするお姉ちゃんが許せないのに……私の言葉を信じて、あそこましてくれたお姉ちゃんが……
 でも、受け止められない。
 お姉ちゃんの気持ちを受け止めたら……お父さんとお母さんの死を私が容認してしまう事になる…………



「!!」
 気のせいだろうか?足音が聞こえた気がする。
 宿直してる先生の見回りかもしれない。私はとっさに机の下へ隠れ、様子を伺う。
「確か、3階って聞いたんだけどなぁ……」
 この声……廊下にいるのは…………元樹さん!?なんでココへ?そう考える暇もなく教室のドアが開けられた。
「…………」
 私は必死に息を潜めた。初めは見当違いの方向をさがしていた元樹さんは次第に近づいてきた。そして一定の距離を取ったところで立ち止まる。



「そこにいるんだろ?出てきなよ」
「…………」
「黙ってたって分かるよ。だって、この辺床に土が落ちてるからね。今度学校へ来るときは靴を脱いだほうがいいよ」
 自分の足元を見て軽く舌打ちをして、ゆっくりと立ち上がる。
「…………なんで学校だと思ったの?」
「僕も昔、家出したとき学校に泊まった事があってね。それで、もしかしたらと思って有希さんに学校の場所を聞いて来てみたんだ」
 元樹さんは相変わらす人のよさそうな笑顔を浮かべて私を見てる。



「さぁ、帰ろ。お姉さんも心配してる」
「嫌」
「……亜衣ちゃんの気持ちは分かるけど……」
「いい加減な事言わないでよ!! ……分かるわけないじゃない……」
「でも、このままって訳にもいかないだろ」
「…………」
「帰ろうよ」
 私は元樹さんに促され、家に帰ることにした。



 家に帰ると姉はいなかった。どうやら、まだ探しているようだ。 「法さん携帯持ってないから連絡つかないけど、もう少し待てば帰ってくると思うよ」
「…………」
「お腹空いてるだろ?今なんか作るよ」
 元樹さんはキッチンで何やら料理を始める。その後姿を眺めながら私は疑問に思っていた。
 お姉ちゃんはともかく、どうして元樹さんまで私を探してくれたのだろう?
 ただの同居人として暮らしているなら、別に夜になるまで私を探す必要ないと思う。
 だから尋ねることにした。



「どうして、こんな生活を始めようと思ったのですか?」
「だから、お金が掛からないし……」
「それだけとは思えません」
「……………」
 元樹さんは頭に手を置きながらため息を一つついた後、口を開いた。
「一言で言えば……法さんが好きだからかな。彼女が僕のことなんて何とも思ってないことは知ってるけど、彼女の役に立てばそれで良いと思ったんだ」
……結局、元樹さんの口から出てきたのも「好きだから」。
「……何も見返りがなくても?」
「見返りならあるさ……法さんのそばにいられる」
 にっこりと微笑みながら言う姿に私は痛々しさを感じた。



 この人をこんなにしたのも元を辿れば私が原因だ。
「…………」
 おそらく償いにはならないと思う。でも、私に出来ることといえば……
「!!……亜衣ちゃん、どうした?服なんか脱ぎだして!?」
「……お姉ちゃんじゃなくてゴメン……でも、こんなことしか思いつかなくて……」
 私は元樹さんの胸にもたれかかる。
「何言ってるんだよ、こんな事出来るわけないじゃないか!!離れなさい!!」
「…………お願いします…………このままじゃ不安で…………」
「……亜衣ちゃん?」
 結局、償いだとか言いつつ私は誰でいいから、しがみ付きたかっただけだった。自分じゃ抱えきれない気持ちを……少しでも楽にしたいから……
 私の気持ちを察してくれた元樹さんは抱きしめてくれた。
 温かい私以外の温もりを私の中で感じる……それは初めての事だったけど、安らぎだった。



 事が終り私は身なりを整えようとして立ち上がろうとした時、偶然リビングのドアの隙間が開いていることに気付いた。
 その隙間から垣間見えたものは……睨みつけるような眼。
 間違いなくそれは……お姉ちゃんだった。
 暗い隙間からしっかりと見開かれた眼だけが浮かび上がっている。
 私は背筋が凍るのを感じた。



 幸い、元樹さんは何も気付いていなかった。私もお姉ちゃんが入ってこない限り、気付かないフリをして身なりを整える。
 その後、お姉ちゃんは何食わぬ顔して部屋へ入って来て、私の帰宅を喜んだ。
 しかし、私はあの時の眼が忘れられずにいた。
 もしかしたら私の考えすぎかもしれないけど……元樹さんが殺されるかもしれない。両親を殺したお姉ちゃんなら考えられる。
 そこで私は再び家出をすることにした。
 私が家に帰らない限り、お姉ちゃんは元樹さんにヘタな事はしないだろうと踏んだから。
 そして、私がお姉ちゃんに好きと言わないように。



お姉ちゃんと一生分かり合えないこと。それが私の出した結論、償い。





第31話 終わり



目次に戻る

トップに戻る










evolike
〜それでも続く世界〜


第32話 「考え始めたウサギ」




 あの夜、教室で見た殺人者澄川の面影は何処にもなかった。
「どうしたって言うの?澄川……」
「…………」
 澄川は答えない。いや、答えることが出来なかった。
 今度は嘔吐し始めたのだ。
 すでに何回も戻したのか、口からは何も出ず、空嘔を繰り返すだけ。
 私はその姿を直視する事が出来ずに顔を背ける。背けた先には血染めのナイフが床に転がっていた。



 人殺しまではもう少し時間が掛かると思った私は驚きを隠せなかった。
「……今日、殺したの? ……なんで?」
「…………」
 澄川は相変らず肩で息をして苦しそうに洗面器へ向かったまま。しばらく、この状態が続くと私はだんだんイライラしてきた。
「アンタ、人殺しをするには時間が掛かるんじゃなかったの!?ちょっと、こっち向きなさい!!」
 私は澄川の肩を掴んで強引にこっちを向かせる。
「!!」
 振り返らせて見えた澄川の表情には生気がなかった。顔面蒼白で口はだらしなく開かれ、気のせいか少し痩せたように見える。それなのに眼だけが鋭く血走っていた。



「あの時、教室で人殺しをした元気はどうしたの?今も刹那なんでしょ、答えなさい!!」
 私の問いかけに答えられる状態では無い事は十分に分かっている。でも、コイツは人を一人殺してきたのだ。
「……もう、刹那はいない……」
ようやく息も絶え絶えに澄川は答えた。
「え?……どういう意味?」
「……もう僕は……僕しかいない……澄川……光彦も正宗も……刹那も……存在しない」
「!!」
 確かに澄川の様子が変わったのは感じていたがまさか、そこまで進んでいたとは思いもしなかった。
 そう思ったときあることに気付いた。



「じゃあ……人殺しをしたのは……アンタ本人……」
 そうだ。今さっき光彦でも正宗でも刹那でも無いとコイツは言った。つまり、殺しを専門にしてた刹那がいなくなり、自分で人殺しをして……苦しんでるって事?
 ……だったら、話は早い。
「いい気味。今まで犯してしまった殺人の重みをとくと感じなさい!!」
「…………」
 私はそのままにしておくことにした。下手に側にいれば澄川に孤独感を与える事が出来ないから……独りで後悔すればいい。
 そのまま私は家を出た。今夜一日ぐらいなら時間を潰せるだろう。暗い夜道を独りで歩くのも慣れたし。



 良く考えてみれば、好きな人のために殺すといいながら、実際は刹那という人格に殺人という面倒な事を押し付けていたのだ。澄川の覚悟の程が知れてる。
「…………でも……今回は自分でやったんだよね……」
 『人を殺す』ってあそこまで苦しむものなのだろうか……お姉ちゃんや刹那は平然としていた気がする。
「…………」
 ……考えるのは止めよう。考えたら多分、澄川に同情してしまうかもしれない。
 そうだ私は考えない事にしたんだった。お姉ちゃんのことにしても何にしても……その方が楽でいい。
 その後、マンガ喫茶で適当にマンガを読んで朝まですごした。



 次の日。
 八月も半ばにさしかかって、暑さもひと段落……するわけもなく、今日も強烈な太陽は私の体力を少しずつ削っていく。
 堪らず、美世がいる病院へ行く。病院は空調が効いてて涼しい。美世には澄川の事は黙っておいた。澄川に遠慮したわけじゃなくて、入院している美世が心配すると嫌だからである。 たいした話をするわけでもなく、時間一杯まで私は美世と無駄話をする。美世はもうすぐ退院すると言って、嬉しがっていた。
 病院を出た後、澄川の家に帰るのが躊躇われたので今日は有希の家で泊まることにした。



 突然来ても彼女は歓迎してくれる。有希は一人っ子なので来てくれて嬉しいという。しかし、やたら澄川の事を聞いてくるので少し鬱陶しい。
 次の日、有希が買い物に行きたいというのでついて行く。久しぶりに遊んだ。そのまま流れでその日も泊まってしまう。
 その次の日は有希が夏休みの宿題を手伝ってというので、二人で分担してやる。後で答えを見せ合えば労力が二分の一で済むから。ある程度できたときには夜中になっていた。ということで泊まる。
 一日だけ泊まろうと思っていたにもかかわらず、勢いで三日泊まってしまった。有希はもう一日だけ泊まれと言ったが、さすがに四日目には帰ることにした。



 四日泊まるのは申し訳ないという気持ちと、澄川がどうなったか気になったという気持ちがあったからだ。
 あっというまに玄関の前に来る。悩みすぎて自殺してるなんて事はないよね。少し……いや、かなり入りにくかったけど、意を決してドアを開ける。
 ドアを開けると目の前に澄川がしゃがんでいた。
「あっ……」
「…………」



 どうやら、澄川は何処かへ出かけるみたいで、靴を履いている途中だった。
 澄川をざっと見る。顔色はあんまり良くないけど、五体満足でいるようだ。
「……何処か行くの?」
「……上杉こそ今までどこへ行ってたんだ?」
「アンタには関係ないでしょ」
「……だったら、僕も言う必要が無い」
「そうね、アンタが何処行こうが勝手だよね」
 そこで会話を打ち切ると私は家に上がりこんだ。澄川も靴を履くと出て行った。



 静かになった部屋で私はため息をつく。
……これじゃあ、お姉ちゃんに対する態度と同じじゃない……
 しかし、お姉ちゃんと澄川は好きな人のために人を殺すという一点で似ている。元樹さんにしたってそうだ。お姉ちゃんを好きだからあんなウソの結婚生活を送る事が出来る。
 美世も有希もきっと好きな人のためならある程度のことはするのだろう……
 そんな取り止めの無い事を思いながら時間は過ぎていった。



 夜、澄川はなかなか帰ってこない。今度は澄川が家出?……あぁ、もうどうでもいい。今日は寝よ。私は澄川を無視してとっとと寝ることにした。
 次に目が覚めたのは、水の音が聞こえたから。私は起き上がると洗面所のほうへ行く。
 そこでは澄川が手を必死に洗っていた……もしかして今日も……殺してきたの?
 懸命に洗う姿はこの前と同じだ。しばらくして、またしても嘔吐し始めた。


 …………信じられなかった。
 この前あんなに酷い状態だったのに、今日も同じ事を繰り返してる。
 私は自然に歩き出していた。そのまま澄川の肩を掴み、強引に振り返らせる。
「なんで!?なんで!?そんなにまでなっても人殺しをするの?」
「…………」
 澄川は答えない……そんな余裕は無いみたいだ。この前とは違い虚ろな視線で私を見る。
「……もういいじゃない……好きだからって……ここまでする必要無いよ……」
「…………駄目だ……」
「!!」
「……僕がしなきゃ……皐月は……」
「止めて!!」



 これ以上何も言わせたくない……咄嗟に私は澄川の口を塞ぎたくてキスをした。
 しばらく私達はそのまま……とても長い時間に感じられた。
 そして私は唇を離す。
 澄川は驚いた表情を見せていた……私だって自分のした事に驚いていた。
 でも、次の言う事は決まっていた。
「今は考えなくていいよ……私に集中して……」



 もう、好きな人のために傷ついていく人を見るのは嫌だった。
 何も出来ない私が惨めになる……考えたくない……感じるだけでいいじゃない……
 私は澄川に体を重ねた。



 澄川は力ずくで私を引き離そうとしたが、体力を著しく消耗していてそれが出来ない。
「……止めてくれ……」
 微かに聞こえる澄川の声、私はそれに構わず続ける。
 それでも、澄川は力を出し、私をなんとか引き離した。
「!!」
 私は突き飛ばされ床に倒れこむ。澄川は最後の力を振り絞ったのか、肩で息をして動かない。
「…………」
「…………」



「なんで……なんで、アンタはそんなに強いの……」
「……強くない……自分の気持ちがゆれる事に臆病なだけだ……」
「…………」
「僕は……皐月が目覚めたら……好きだと伝えたいだけ……たとえそれが人を傷つけるとしても…………」
「…………」
「僕の我が儘に……上杉が僕に巻き込まれることは無い……同情したのなら……それは一緒に暮らしたから情がうつっただけのこと……錯覚だ……」
「…………」
 何も答えることが出来なかった。
 私に澄川をとやかく言う権利はない。あの時私は逃げ出してしまったのだから。
 でも……もしかして……私も……覚悟1つで変われるのかもしれない……
 少しずつ私は考え始めていた。





第32話 終わり



目次に戻る

トップに戻る










evolike
〜それでも続く世界〜


第33話 「evolution of like」




「…………」
「…………」
 気まずい朝食。昨日あんな事があったからいつもより50%増しの重い雰囲気。
 私は……めちゃめちゃ後悔していた……なんであんな事したんだろう?……鬱……
「……ごちそうさま」
 小さい声で澄川は一言言うと食器を片付け始める。食器の中はほとんど残っていた。
「……食べないの?」
「…………うん」
「勿体無い。食べないんだったら私が……」



『食べる』と言おうとして途中で止めた……下らない事かもしれないけど、間接○○なんて意識してしまったのだ。
「あぁ、そうだな……勿体無いし……食べてくれるか?」
「嫌」
「えっ?……さっき『食べないんだったら私が』って言ったじゃな……」
 澄川も言いかけて途中で止めた。どうやら分かったみたい。無言で食器を片付け始めた。何やってんだろ私達。
 このまま家にいても気まずいだけなので、いつも通り病院へ行く事にした。



 しかし、行って後悔する。美世の顔見たら余計に澄川の事を考えてしまった。
「……それでね……?……亜衣ちゃん?」
「…………」
「……亜衣ちゃん、聞いてる?」
「……え!?……あっ、うん!!大丈夫!!大丈夫!!未遂だったから」
 私は焦って変な事を口走る。美世は怪訝な表情を浮かべた。
「何の話をしてるの?」
「いっ!?……ごめん、話聞いてなかった……」
「亜衣ちゃん、何か変だよ」
「そ、そう?……まぁ、それは置いておいて……何の話だっけ?」



「もう、誤魔化さないでよ……あのね、私、明後日で退院できることになったの」
「マジで?」
「うん!!」
「おめでとう!!良かった、良かった!!」
「……それでね、私……退院したら、もう一回澄川君に告白しなおそうと思うの」
「は?」
「それでね……ふられようと思うの」
「何言ってるの?」
「仕切りなおし。この前は正攻法じゃなかったから。スタート地点の確認」



「……そんなことしなくてもいいじゃない。今のままで十分……」
 美世は首を振る。
「このままじゃあ、また自分の気持ちだけ伝えるだけの空回りだよ。この前のことで分かった。もう少しハッキリと人を好きになりたいの。自分の事だけじゃなくて相手のことまで考えて好きならなきゃって気付いた……ただ『好き』って伝えるだけじゃ駄目なんだよね」
 そう言う美世の目は、ふられようとしてる人の目じゃない。これから起こることが楽しいことのように輝いている。



「ふーん、じゃあきっと美世の中で『好き』が進化したんだね」
「えっ?……進化?……うん……そうかも……」
 何気なく言った私の言葉に美世は自分に言い聞かせるように呟く。素直に彼女が羨ましく思える。
 そういうことだよね……相手の事も考えて……
 昨日の自分を思い出した。私が辛いからって澄川に無理やりその気持ちをぶつけようとしたんだ……謝らなきゃ……
「……亜衣ちゃん!!」
「えっ!?」
「もう、また話を聞いてない」
「……ごめん」
 しばらくして私は夕食を作る当番だということもあり、家に帰ることにした。



 家に帰ると澄川が夕食の準備をしていた。
「おかえり」
「……あれ?今日、私の当番じゃなかった?」
「そうだけどさ……なんか落ち着かなくて……それにまた上杉が家に帰ってこないかもしれないし……」
「…………」



 いつもの私ならここで食って掛かるところだけど、今日はそんな気分になれなかった。
「……ごめん……私がいると……迷惑だよね」
「えっ?なんだよいきなり」
 私の言葉を聞いた澄川は大げさに驚いた。
「……頭でも打ったか?」
「んなわけないでしょ!!……あの……その……あれよ……結局何も無かったけど、あんなことになったし……」
「…………」
「だから……このまま一緒に暮らすっていうのは……」
 昨日の事は澄川も意識せざるおえない出来事だったのだと思う。私は俯き、二人とも黙り込んでしまった。
 やっぱりよくないよ……『この家を出る』とハッキリ言おうと思った。



 決心して私が仰向いた時、澄川から声をかけてきた。
「……バカバカしい」
「はぁ?」
「ホントにバカバカしい」
「何?……私は本気で言って……」
「まぁ、ちょっと待て」
 澄川は私の言葉を遮った。
「あのさ……僕達はそんなに意識しあうような関係でもないだろ?……もっと……こう……なんていうか……友達?……なんか違うなぁ……兄弟?……ありえない……うーんと……平たく言うと……漫才の相方みたいな……」
「……全然、平たく言ってないけど……」
「うーんと……居たら居たでウザいけど、居なかった居なかったで何か物足りないような……そんな……つかみ所の無い関係って言うか……」
 腕を組みながら本気で考え込んでる澄川が何だか可笑しかった。



「いい……もう、考えなくていいよ……そうだね、私勘違いしてた。そうだ!!私はアンタに毒づいてこそ私なんだ!!」
「いや……それは困るが……」
何だか気持ちが少し楽になった。思い込んでいた私がバカみたい。
「それにさ……僕……悪くないなって思えてきたし……」
「は?何が?」
「『おかえり』って言う事」
「!!……バカ……」
 お姉ちゃんとあんな事があって以来、私の帰る家は無いと思って、独りで気を張って頑張ってきたつもりだった。
 でも、いつの間にかここでの暮らしが無くてはならないものになっている自分に気付く。
 帰る場所……そう言っていいのかな?
 そう考えたら……何だか涙がこぼれてきた。止めようと思っても自分ではどうにもならない。澄川は私を見て焦ってる。
 うれし泣きなんていままでしたことが無かった。すごく心がくすぐったい。



 その後、久しぶりに楽しい夕食をした気がした。
 テレビを見ながら冗談を言ったり、残り1つのおかずを取り合ったり、ワイワイ騒いだ。
 他の人から見たら、空騒ぎに見えるかもしれない……いや、空騒ぎでもいい……だって、私は心から笑ったから……
「はぁ……なんか疲れた……もう寝るか」
「私、今日はベッドで寝たい」
「なんだよ、いつもは遠慮して床で寝るくせに」
「もう、そういうのは止めたの!!さぁ、どいて、どいて」
「はいはい」
電気が消され、部屋の中は暗くなる。



「…………」
「…………」
「…………ねぇ」
「何だ?」
「そっちにいっていい?」
「はぁ?」
「……何もしないから今日だけ」
「上杉……なんか今日は妙に甘えるなぁ……って入って良いなんて言ってないぞ!!」
「いいじゃん、もう入ったし」
「……ベッドの意味ないじゃないか」



 こういう関係もあるのだなと思えた。
 なんだか一緒にいたい気持ち……隣に誰かいるってやっぱり嬉しいんだと思う。
 美世には悪いけど今日だけ、今日だけで良いからこうしていたい……
 しかし、現実は私を自由にはさせてくれないようだ。



 そして……アレは突然やってきた。
「上杉、お前の携帯が鳴ってるぞ」
「うぅん……せっかく、寝られそうだったのに……はい……もしもし……」



……意味が分からなかった。

…………分かったのは有希がやたら泣き声だった事。

………………ウソでしょ?そんなはず無いじゃん。だって今日あんなに楽しく話してたし。



……………………美世が飛び降り自殺?





第33話 終わり



目次に戻る

トップに戻る