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第1話 「プレゼント」
「た、・・・・武内明さん・・・・あの僕と・・・・つ、付き合って・・・・く、くさ・・・・じゃなくて、ください!」
私は今、告白されている。相手は同じクラスの男の子。
この子の事はよく知らないし、別に好きでもない。返事をイタズラに延ばすことは相手にも悪いし、私もはっきりさせたいので即答した。
「悪いけど私、今それどころじゃないから。ゴメン」
私は早々にその場を離れた。正直、本当にそれどころじゃない。
なんせ今日、決行されるんだから。
私の家は母と双子の弟と私、そして同居人の母の友人の4人で住んでいる。
いわゆる、父親のいない母子家庭だ。
別にこの時代、珍しいわけじゃない。それでも周りから結構、色々言われる。その殆どが悪口だけど・・・・・。
私は、生まれたときから父親のいなかった私達双子を育ててくれた、母に感謝してる。だから、誹謗中傷なんか撥ねつけてきたし、私達親子は普通の家族より、結束が固いと思う。
それだけに、母の日のプレゼントは毎年欠かしたことがない。
特に今年は特別な母の日になると思う。
私は死んだ父の家に急ぐ。
私達が生まれる前に死んだとはいえ、私達にとっては父の両親は祖父母である。幸い祖父母は二人とも私たち双子を可愛がってくれる。
特に祖母は私たちのために書庫まで造ってくれた。
「こんにちわ、お祖母ちゃん!書庫借りるね」
すると、居間から祖母の声がする。
「いいのよ、アレはあなた達の物なんだから」
二階に上がって突き当りまでいくと、そこには、隠し扉がある。
私は近くに隠して設置してある音声のセンサーに向かって、叫ぶ。
「くたばれ!!」
名誉のために言えば、この合言葉は弟の貴が考えたものだ。
この頃は周りから、とやかく私達家族のことを噂されていた時期で、弟はその鬱憤をこの合言葉にこめたのだと思う
鍵が開く音がする。私は壁を押した。すると、壁が回転し、書庫が見える。
私が書庫に入ると弟の貴(たかし)がいた。貴は私に歩み寄る。
「遅いじゃねえか!!まさかワザとじゃないだろうな!」
「まさか。ちょっと告られてただけよ」
貴の動きが止まる。
「・・・・お前、今、物凄いことを、めちゃめちゃ簡単に言ったな・・・・で、どうだったんだ?」
「何が?」
「なにがじゃないだろ!返事だよ!なんて言ったんだ?OKしたのか?」
貴の興味津々の顔を見て私はあきれた。ため息をつく。
「するわけないでしょ。そんなことより早く始めましょ」
「お前って、いつもそんなんだな。冷静というか、事務的というか、ホントにオレの姉か?告ったヤツが可愛そうだな。お前、好きな人とかいるのかよ」
「アンタこそ女の子に「好きな人いる?」とか平気に言う無神経さは直した方がいいわよ」
「ちっ、ホント嫌なヤツ!理屈っぽいし、そんなんじゃあ、いい魔法使いになれないぞ!魔法に1番必要なのは気持だぞ!フィーリング」
「馬鹿ね。魔法使いに1番必要なのは知識よ。私はアンタみたいに1つの魔法しか使えないような落ちこぼれとは違うのよ」
それを聞くと貴は私を見下ろすように見た。
「へー、どうりで何でも出来るわけだ」
今、貴は明らかに嫌味を言った。
突然だけど、私達は魔法が使える。父方の家系が代々魔法使いらしく、その技術や書物は子供の私たちに受け継がれている。
というこで、今から、母親へのプレゼントを魔法で生み出そうとしている。
それは偶然、貴が書庫で見つけた。
貴は今までは散々魔法の勉強を避けていたのに、最近、急によく勉強するようになった。原因は詳しくは知らない。
特に異次元とのコンタクトに興味があるらしく、そのての書物を片っ端から読み漁った。
その中にたまたま、今回使う魔法が載っていた。
しかし、その魔法を使うには私達は未熟すぎた。
貴は力があるにもかかわらず、魔法の勉強をサボり、使える魔法は少ない。
私は使える種類は多いけど、その力はたいしたことない。
だから、今回のやろうとしている魔法は二人の力だけでは無理だった。
でも、解決方法は簡単に見つかった。それは今私が勉強している魔法「召喚」である。
要するに、私たちより力のある妖魔や霊魂を呼び出し、使役して、今回の魔法を使うというものである。
私は床を見る。そこには二重の同心円から成り立つ、魔法陣がすでに書いてあった。
「ちゃんと魔法陣を書いたでしょうね。間違ってたら大変なことになるんだから」
「分かってるさ。ラテン語もばっちり練習したから大丈夫」
魔方陣は念のために2つある。
1つは召喚するためのもの、もう1つは仮に前の魔法陣が破れて襲われても大丈夫なように、自分たちの身を守るためのもの。
「ほんとに大丈夫なのか?もし、呪縛できなかったらどうするんだよ」
「もうちょっと本を信じなさい。私は自分たちの力でやるよりは、よっぽど信じられる」
私の目指してる魔法は、鮮血魔法のような血やその他のものを媒介として使う魔法ではなく、こうして儀式に則った魔法である。
この魔法は時間がかかるし、多大な労力と集中力を使う。
でも、この方法だと魔力のない人間でも使うことが出来る。ただし、魔力がない人間が完全にマスターするためには、並大抵の勉強では使うことすら出来ない。幸い、微力ながら魔力がある私はある程度省略できる儀式があるので、何とか使うことが出来る。
「いくわよ」
「・・・・お、おう」
私達は魔法陣の中に入り、呪文を唱えだした。このためにラテン語を勉強し、何度も練習したのだ。
実はこの呪文というものはあまり言葉自体に意味はない。
さっき、私は「魔法使いに1番必要なのは知識」と貴に言った。だけど本当のことを言えばそれだけじゃない。魔法を成功させたいという強い意思だとか、集中力、場合によっては媒介物、だとか必要になる。
呪文を唱えるというのは、唱えることによって雰囲気を作り、魔法の成功に向かって意識を集中させる効果があるのだそうだ。
この行為が数時間続く。二人とも精神的にも体力的にもきつかった。でも、この魔法は絶対に成功させたい。母のためだけじゃなく私のためにも。
しばらくすると、床に書いた魔方陣が次第に実体を伴って浮かび上がってきた。
「!!」
私たち二人は息を飲んだ。
その実体は人の形になり、その姿を現した。
「あー、なんか久しぶりに出てきたな」
その実態はそう言うと私達を見た。
「なんだ?・・・・・まだガキじゃないか・・・・ちっ、ついてねぇ」
貴は私に耳打ちした。
「コイツ本当に妖魔か霊魂なのか?」
「・・・・おそらくは霊魂ね。見た目からして。一応、召喚されたんだし」
そいつは茶髪のロンゲでフライトジャケットにジーンズをはいている。歳は私達とそんなに変わらないぐらい、背は高く、痩せている男の霊であった。やたら髪をかきあげる姿は『馬鹿な若者』そのものだった。
「あーっ!お前らいまオレのこと怪しんだろ!」
「怪しむも何も、端から信じられん」
貴は、歳があまり違わない感じだったので、遠慮無しに言う。
「あぁっ!くぉら、そこの馬鹿面!チョーしこいてんじゃねぇーよ!これでもオレは王の使いだぞ!」
「・・・・・・・うそくせぇ・・・・世の中に未練があるなら、早くその辺のテレビ局に行け!陰陽師気取りの馬鹿とか、暇な中年主婦霊能力者に相手してもらえよ」
「やめなさい、貴。いく何でも言いすぎよ。せめて、成仏することぐらい勧めなさい」
「お前ら、ぶっ殺す!」
「召喚を戻すわよ」
「OK」
「おい、話をき・・・・・」
私達は魔方陣へ戻す呪文を唱えた。すると、霊は消えていなくなった。
しかし、その後何回やっても魔法陣からはさっきの霊が出てくる。
「おい、人・・・・もとい、霊を外見で判断するのはやめろ!お前らいい加減にしろよ、この程度の魔方陣なんか、いつでも破れるんだからな!!」
そう言うと霊は魔方陣の見えない壁を叩きだす。
すると貴は慌てた。
「おい、どうするんだよ!なんかあいつ怒ってるぞ!」
「っていうか、私達が怒らせたんだけど・・・・でも安心しなさい、あんなの、ただの脅しよ。」
貴は私の顔をじっと見る。
「何?」
「・・・・つーか、お前、本当に冷静だな。オレなんかアイツが魔方陣の壁を叩きだしただけで、こんなに慌ててるのに」
「別に私だって少しは慌ててるわよ。でも、私達の目的を果たすまで、やらなくちゃ」
「・・・・お・・・おう・・・」
私は霊に向かって話す。
「アナタが十分王の使いだって事は分かった。疑ってごめんなさい」
霊は壁を叩くのをやめた。
「・・・・分かればそれでいいんだよ。・・・・で、何をすればいいんだ?」
「やけに素直だな」
「私達に召喚されたんだから当たり前でしょ?」
向こうでは霊が何か叫んでいる。
「・・・・早く言えよ!オレはせっかちなんだから!」
私はこんなヤツで願いが本当に聞き入れられるのか心配になり、少し躊躇したけど、やがて決心を固めた。
「黄泉の王の使いに告ぐ!!私達の父、広野貴明をよみがえらせて!!!」
母へのプレゼント、それは父の広野貴明の復活であった。
第1話 終わり
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第2話 「初恋の決着」
「あの人の話、聞かせて!!」
それが私の小さい頃、眠る前のおねだりだった。
家は私達親子3人と、母の友人の坂本亜由美さんの4人暮らしだった。小さい頃、母は元気過ぎる弟の貴にかかりっきりで、私は亜由美さんと過ごすことが多かった。
なかなか寝付かない私に、亜由美さんはある人の話しをしてくれた。
その話はとても強く、正義感もあって、何より優しい、危機的な状況の時は必ず助けに来てくれるヒーローの話。
ヒーローの名前は広野貴明、私の父である。私は夢中になって、その話を聞いた。
もっと話を聞きたくて、母にも父の話を聞いたのだが、あまり多くは話してくれなかった。
だから、私の中の父親像は亜由美さんの中に出てくる話の中の「広野君」だった。
その父に私は16年間片思いをしている。ファザコンと思う人は思えばいい。でも、父は私が生まれるかなり前に死んだ。死因は交通事故だと聞いている。
目の前にいない事で、理想化された広野貴明は、その辺にいる同年代の男のより、ずっといい男の子だった。
それに、正直言えば、広野貴明に対して父という感覚はない。実際に見たわけじゃないし、話に出てくる広野君は高校生で、現在の私と同年代なのだ。
「広野貴明をよみがえらせて」
黄泉の王の使いは少し眉を吊り上げ、私達を見る。
「そんなに会いたいか?会ってどうしたい?」
「あなたには関係ないでしょ」
すると、使いの者はあごに手を当て
「それもそうだな・・・・・よし、いいだろう。5年で手を打とう」
「5年?」
「お前らの命だよ。おいおい、お前らは何の見返りもなしに蘇生して貰えるとでも、思っているのか?」
貴は私に耳打ちした。
「おい、どうするんだ?オレはいいぜ。5年で父さんが蘇るのなら安いもんじゃないか?」
「・・・・・・・」
確かにそうかもしれない。少なくとも今の私達からすれば、寿命の5年がどれだけ大切なものかよく分からないし、何より憧れの人が目の前に現れるのだと思えば、考えるまでもない。
「・・・・・わかった」
「交渉成立だな」
使いの者はフライトジャケットのポケットから紙に包まれたものを取り出した。
「これを受け取れ」
そう言って私達にその塊を投げた。
「何これ?」
「それは、通称ゾンビパウダーと呼ばれるモノで、その中に入ってる粉を死体や遺骨にふりかけると、たちまち人が蘇るって感じだ」
貴は投げ込まれた塊を拾いに行く。
「おい!それじゃあ、父さんがゾンビになるじゃないか!」
「オレは善意でやっているんだぜ。ほんとに人を蘇らそうと思えば、それと同等の命が必要なんだ。でも、ゾンビ化すれば5年の命で生き返る。お前らなら、どっちを選ぶんだ?それに、ゾンビといってもピンキリだ。映画やゲームに出てくるようなゾンビもいれば、高度な知識を持って、自分から行動するゾンビだっている。そのゾンビパウダーは後者のゾンビにするパウダーなんだぜ」
「うぅ・・・・・・」
貴は言い返す言葉が見つからず、何か唸ってる。
「それじゃあ、お前達の命を頂くぞ」
「くっぞーっ、もってけ、ウスノロ!」
「誰がウスノロだ!」
「・・・・・・待って」
私はあることを確かめたくて、使いの者を試すことにした。
「このゾンビパウダーってあれ?ハイチに伝わる、“あのゾンビパウダー”よね?」
すると、使いのものは少し間を置いて言った。
「・・・・・そうだ。あの『ゾンビパウダー』だ」
「そう、それを聞いて安心したわ。・・・・・・貴、それをアイツに返しなさい!」
貴は慌てて私に駆けよる。
「明、何言ってんだよ!!これさえあれば父さんは・・・・そりゃあ・・・・ゾンビになるのはチョット嫌だけど・・・・・」
「貴、残念だけど、そのゾンビパウダーがハイチに伝わる本物だったら、死んだ人間は生き返らない」
「なんだって!!」
私は使い物を見た。薄笑いを浮かべてる。
「お前、騙したのかっ!!」
「貴!!魔方陣から出ちゃあだめ!!」
飛び出そうとした貴を慌てて止める。すると、使いの者は大きく笑い出した。
「よく見破ったな。確かに、ゾンビパウダーは生きた人間を仮死状態にするものに過ぎない。騙して悪かった。最近よく、知識も力もないのに召喚する人間が多くてな。そういう馬鹿は騙して命をとることにしているんだ」
「じゃあ、私達は・・・・」
「合格だ。正確に言えばアンタだけ合格だ。ゾンビパウダーのことは知識があるやつなら誰でもわかる。でも、それだけじゃあ合格にはしない。さっき、わざわざ『ハイチのゾンビパウダー』って聞いてきたのは、オレの知識を試すためだろ?オレは嘘をついて誤魔かすことも出来た。でも、そのお前の度胸と冷静さに感心して本当のことを言ったんだ。そこの馬鹿面とは大違いだな」
「明、俺はあいつを殴る!!」
「まぁ、待ちなさいよ、一応合格なんだし」
これで、私の初恋にも決着がつく。
よく、男の子が最初に意識する異性は母親だということを耳にする。ということは女の子も最初に意識する異性は父親ということになる。
だったら、私はその最初の段階でつまずいてる。
父親を好きになって、そこから止まってるんだから。そういうことに薄々気付いてから、私は悩みだした。
『このまま現実の男の子を好きになることはないのだろうか?』
周りの友達も皆、それなりに好きな人はいる。でも、私は会った事もないような人のことが好きなのだ。どんな男の子を見ても、『広野君に比べたら・・・・』と思ってしまう。
私は自分が創った広野君に押し潰されそうになってる。いい加減、自分でも分かっている。
『理想化された広野君はきっと現実とはすでにかけ離れた存在なんだと』
だから、確かめたいのだ。本当に父は私の理想の人なのか。
それに・・・・・・・できれば、私の気持も伝えたい・・・・・。
しかし、次の使いの者の言葉は、そんな私の気持ちを打ち砕いた。
「だが、これだけは言っておくぞ。生き返らせるには、やはり、それと同等の命が必要だ」
「・・・・・!!」
「当たり前だ。それが天地の法則だ」
私達は愕然とした。人一人を生き返らすには、やっぱり人一人の命が必要なのだ。やっぱり無理なの・・・・・・。
すると、使いの者はこっちへ向いて歩いてきた。さっきは魔方陣の見えない壁に阻まれていたのに、今回はするりと抜けてきた。
「そんな馬鹿なっ!魔法陣を破ってくるなんて!!」
私達は身構えた。
第2話 終わり
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第3話 「犠牲」
私達は身構えた。
「俺達の命を狙ってるのか?」
「わからない。でも、戦うしかないみたい」
「まぁ、そう構えるなよ。だいたいこんな下手くそなラテン語が神に通じるわけがない」
そう言いながら、ドンドン近づいてくる。
「それ以上近づかないで、近づいたら・・・・」
「なんだ、魔法で何とかするのか?時間の調節しか出来ない弟と、普通の人に比べて毛の生えた程度の魔法しか使えない姉の二人で何が出来るというんだ?」
バレてる。使いの者は私達の魔方陣の前で止まる。
「はっきり言って、お前らじゃあ、召喚魔法が操れる力はない。でも、お前らの父親に会いたいという願いは王に届いた。だから、一度だけ、一度だけ蘇らせてやろう。それが言いたくて近づいただけだ」
私たち二人は喜んだ。
「やった!!」
「ただし条件がある。生き返らせるのは3日。1日につき1年寿命を貰う。これは父親の生きるための燃料だ。もう1つは私の頼みごとを聞くこと。無理は言わない、ただ、人に会ってもらうだけだ」
私達は考えた。
「どうする?」
「『どうする』って決まってるでしょ?条件を飲む・・・・・私が全部」
「何言ってるんだ!」
「やらせて」
「・・・・・・」
私にはコンプレックスがあった。それは魔法の効力について。
私の魔法は傍から見れば殆ど分からない。空中に浮こうとすれば、30センチぐらい浮くだけ。目だって、1.5が2.0になるぐらい。これもすべて私には魔法を使う際、何も犠牲が無く行われるからだという事は明白だった。
弟は時間を犠牲にすることで、強大な力が使えるし、死んだ父も何かを犠牲にして魔法を使っていたと聞いている。
「私の命を使って」
「おい!!ちょっと待てよ!」
そういって止めようとする貴を私は睨むように見る。
「・・・・・私だって・・・・なにかを犠牲にしてでも掴みたいものがあるの!」
私の必死の顔を見てかどうか知らないけど、貴は許してくれた。
「・・・・・・分かったよ・・・・でも、いやだったらすぐ言えよ」
「ありがとう」
「今度こそ交渉成立だな」
私は覚悟を決めた。
「先に3年分の命を頂く」
「こっちの願いが先だ!!」
貴が叫ぶ。使いの者は慌てることなく言う。
「慌てるな。その代わり私の『真の名前』を教える」
『真の名前』を教えるということは、召喚した人間に自分の身柄を預けることを意味する。
相手の呪縛などの魔法は『真の名前』が必要となるからだ。命をとる引き換えに『真の名前』を教える。そのぐらい重要なものなのだ。
「オレの名前は横山拓味」
「・・・・分かった・・・」
私は命をとられることを覚悟した。
使いの者の横山拓味が私に向かって手をかざす。すると、私の体から光が漏れる。
「わわっ、何なんだ?」
貴はそれを見て驚いてる。
光は次第に私の心臓辺りに集まってきた。そして、横山の掛け声とともに、光は私から離れた。それとともに私の心臓に強烈な激痛が走る。私はたまらずしゃがみ込んだ。
「明、大丈夫か!?」
貴が私の背中をさする。私はあまりの痛さに声も出ない。でも、こんな痛さには負けていられない。
私にだって出来る。犠牲なんて怖くない。
光の塊を持った横山が言う。
「広野貴明の遺体か遺骨を出せ。これを埋め込む」
私はスカートのポケットから骨を取り出した。これはダウジングのときに使う骨だけど、父の遺骨なのだ。骨を渡すと横山は光を骨にうずめた。
すると骨は自ら成長を始めた。
「うぇっ、気持悪ぃ」
貴は目をそらす。確かに骨から肉や皮膚が再生される様は気持いいとは言い難い。私は、と言うと胸の痛みで、再生を見る余裕はなかった。
「おい、見てみろ」
横山の言葉に私達は振り向く。そこには裸の男の子が寝ていた。横山はその子にフライトジャケットをかける。
「ちょっと、女の子には刺激が強すぎたかな?」
「別に・・・・貴ので慣れてるから」
「え?オレの裸見てたのか?」
「アンタいつもお風呂上りにその辺をぶらついてるじゃない」
「チョット待て。それだけ聞いたら変態だぞオレは」
まじまじと顔を見る。顔自体は亜由美さんが今でも大切に持ってる、古ぼけた遊園地での写真で見たことがある。後はお祖母ちゃんの家で父の小さい頃の写真で見たぐらいだ。
生で見た広野貴明はなんだか普通で少し拍子抜けした。別にカッコイイ姿を思い浮かべていたわけじゃないけど、理想が先行している私の広野貴明と比べるとちょっと・・・・。でもまぁ、それはしょうがない事と諦めていたのでショックとまではいかない。
「これって、いつ目が覚めるの?」
「あと1時間ぐらいじゃないか?外見上は再生されているが、内部の細かいところがまだみたいだからな」
「・・・・・そう・・・貴、アナタはお母さんと亜由美さんを呼んできて、私はお祖母ちゃんに言って、父さんの着替えがないか聞いてみる」
「わかった!」
そういって、元気に貴は出て行った。
私がお祖母ちゃんに事情を説明すると、喜んで服の用意をしてくれた。死んでから17年経つというのに、父の部屋は当時のままで、服にも困らなかった。
私とお祖母ちゃんで父の服を着せる。お祖母ちゃんは父の姿を見ると泣いてしまった。その姿を見て私は「良い事をしたのかな」と思った。
「おい、忘れてないか?オレのこと」
見上げるとそこには横山拓味が立っていた。
「あ、忘れてた。今、お祖母ちゃん紹介するね」
「その必要は無い。オレは霊魂だ。召喚した人間ぐらいしか、オレのことを分かるものはいない」
そういうと、横山は少し寂しそうな顔をしたように見えた。
「・・・・それより、オレの頼みごとのこと忘れるなよ」
「頼み?・・・・あぁ、人に会うってやつ?」
「そうだ」
「大丈夫、忘れないよ」
「そうか・・・・よかった・・・・」
その時なんとなく横山が優しく微笑んだように思えた。
「連れて来たぞ!」
貴が勢いよく書庫に入ってきた。その後に続いて母と亜由美さんが入ってきた。
「へーっ、初めて入るけど、凄い本の量ね」
亜由美さんはそう言って周りを見渡している。私は二人を驚かせようと、父と二人の間に立って視界をさえぎった。
「ところで何?私達に見て欲しいものって」
亜由美さんは興味津々といった表情を見せている。私は母の方を見た。なんだか浮かない顔をしている。私は母のあまり喜んでない様子に一抹の不安を感じた。
「あなた達、なにか危険な魔法を使ったんじゃないでしょうね」
母の言葉に私達は言葉に詰まる。
「・・・・・え?そ、そんなことより、今からある人に会って貰います」
私はとりあえずはぐらかす事にした。
「質問に答えなさい」
「まぁまぁ、亜也、そんなに怒らないで。子供達が何か私達にしてくれるらしいから」
「・・・・・・」
亜由美さんの言葉に一応、母も私達の話を聞いてくれるみたいだ。
私は道を開け、母と亜由美さんの視界に父が入るようにした。
父を見た二人は目を見開いて、驚いていた。
「!!!!!・・・・・・ウソ・・・・・信じられない・・・・・」
亜由美さんは口に手を当て、涙を流した。そして、父に駆け寄る。
母はその場に立ち止まって動かない。
「驚いた?これが母の日のプレゼント」
私がそう言うと、母は私に近づいた。
「どうやったの!」
「え?」
「死んだ人間がそんな簡単に生き返るわけがないでしょ!!何を犠牲にしたの!!!」
母は私をにらみつけた。私はてっきり、喜んでもらえると思っていたので、弁解した。
「なんで?なんで、怒ってるの?お母さんも会いたかったでしょ?せっかく、私が3年の命を犠牲にして、そりゃあ3日だけだけど、生き返ったんだよ!もっと喜んでよ!」
私がこの言葉を言い終わるか、言い終わらないかのうちに、母は私の頬を平手打ちした。
「誰も・・・・誰もそんなこと頼んでないでしょ!!」
「!!」
「何かうるさいなぁ・・・・・」
「広野君!!」
亜由美さんの声の方に振り向くと、父が目を覚まして起き上がっていた。
第3話 終わり
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第4話 「Heart breaker」
「なんだ?人がせっかく気持ちよく寝てたのに」
皆の視線が一点に集まる。もちろん視線の先には父がいた。
「広野君!!」
そういって父に抱きついたのは亜由美さんだ。
「・・・・・え?え?あ、あの・・・・・・どなたですか?」
父は戸惑っているようだ。
「わからないの?私よ、坂本亜由美!!」
「え?・・・・でも坂本は高校生で・・・・もっと若いはずだし・・・・あれ?っていうか、ここはどこ?たしか、オレは死んだはず・・・・」
どうやら父は死んでからのことはまったく知らないらしく、まず、今の状況から説明しなければならなかった。
ということで私達家族は、家に帰ってじっくり説明することにした。
「・・・・・なるほど・・・・・大体分かった。新聞の日付も17年後だし、本当みたいだな・・・・でも、オレに子供がいたなんて・・・・」
意外に父はあっさり事実を受け入れた。これも、魔法使いだからだろうか?
「信じられない?」
亜由美さんはさっきから父に付きっきりだ。
「はい、お茶しかないけど、よかったらどうぞ」
母は実に淡々としていて、亜由美さんとは正反対だ。
「あ、ありがとう・・・・あの・・・本当に武内なんだよね・・・・・?」
「そうだけど・・・ちなみにそこにいる二人も武内」
「・・・・年とったな・・・・」
「そりゃ、17年も経てば年もとるでしょ」
相変わらず母はそっけない。
「ちょっと、二人で良い雰囲気にならないでよ!!」
亜由美さんはやきもちを焼いている。
その光景を貴と私は傍目から見ている。
「いつも、こんな風だったのかなぁ・・・・」
「なんか幸せそうね・・・」
「なんかさ・・・・いざとなると『父さん』って呼びにくくない?」
貴の言葉に私も賛成した。でも、私はおそらく貴とは違う理由で呼びにくいのだけれど・・・・。
そんなとき、向こうから声が聞こえた。
「色々聞かせてよ、これまであったこと。そこの二人も一緒にさ。貴君と明さんだっけ?なんか、自分の名から付けられた名前だと照れるなぁ」
突然話しかけられ、私達二人は緊張した。
「は・・・・・はい」
この日、私達双子も混ざって色々な話を聞いた。そうしているうちに、次第に打ち解けていった・・・・・・私以外は。
「父さん、父さんこれ見てよ、これなんかさ・・・・・・」
貴はいつの間にか父さんと呼んでいた。こういうとき貴をうらやましく思う。私は一人何も話せず、聞き役に徹していた。すごくもどかしい。
夜も午前1時を過ぎた頃、
「はいはい、子供はもう寝る時間よ、寝た、寝た」
と、亜由美さんは私達を追い出そうとした。
「え、なんで?いつもはそんなこと言わないくせに」
という貴の言葉に、亜由美さんは私達双子に顔を近づけていった。
「あんた達もう少し気を使いなさい。お父さんとお母さんは17年ぶりに再会したの」
「ちぇっ、わかっったよ。でも、父さんだって同じ高校生じゃないか。子供扱いするなよ」
「あんた達と広野君は違うの。さぁ、さっさと寝なさい」
ということで私達は渋々、部屋に帰った。
結局、私はこの日何も話せなかった。本当は話したいことが沢山あったのに・・・・・。こういう時、本当に自分に腹が立つ。貴の様にすぐ打ち解けられる性格に私はなりたい。
そういう後悔をしているうちに完全に目が覚めてしまった。居ても立ってもいられない。
好きな人がこんなに近くに居るのに何も出来ないなんて・・・・・・苦しい・・・・・。
私は父がいる居間へそっと行くことにした。幸い居間はまだ明かりがついていた。居間をそっと覗き込む。そこでは父と母が話をしていた。
「ごめん・・・・・武内ばかりに苦労かけちゃって・・・・・」
「別に・・・・・私は・・・・・・苦労なんて思ったこと・・・・・・無いもん」
私は母が実際「〜もん」と使うところを初めて見た。
私達双子は亜由美さんから口癖だったと聞いたことがあるだけだった。
それを面白がって、亜由美さんや貴が使っていたに過ぎないのだ。
「・・・・何か、素っ気無くない?」
すると母は顔をそらす。
「そ・・・・・そんなこと無いもん・・・・」
「その口癖、変わんないな・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「何かあった?オレに言えよ。今の内だぞ。昔みたいに言えよ、『土屋君が好きなの』ってな具合にさ」
「・・・・・・・・・」
土屋って誰のことだろ?私には分からなかった。
「・・・・・・バカ・・・・・・」
そういって、再会して初めて母は涙を流した。
「急に帰って来るんだもん、ビックリするじゃない・・・・・・それに・・・・・・またいなくなっちゃうんでしょ?・・・・・辛いもん・・・・・仲良くすると・・・・・」
こんな弱音を吐く母を見るのは初めてだ。母はいつも私達を気遣ってか、涙も見せないし、愚痴もこぼさない。亜由美さんは愚痴こぼしまくりだけど・・・・。
だから、私には母は少し、人間味に欠ける人だと思っていた。
「仲良くすると辛くなる」という母の言葉は、すごく気持がこもっていた。私は少し嫉妬した。
「・・・・・ゴメン・・・・泣くなよ・・・・そんなこと言われると俺まで辛くなるだろ?」
「だって・・・・だって・・・・だって・・・・・今まで・・・・頑張ってきたもん・・・・子供達にお父さんがいなくても、不安を与えないように・・・・・ズルイじゃない・・・・今頃現れるなんて・・・・・折角、私の中で整理がついてたのに・・・・・・」
「・・・・・・ゴメン」
そういって、父は母にキスをした。
私は頭の中が真っ白になった。
どれだけ、私が好きになっても、父は母のことが好きなのだ。母も父のことが好きだ。そこには、入り込めないような何かがあった。
私はいたたまれなくなって家の外に出た。なんとなく、この家の中にいたくない感じになったから・・・・・・。
何も話さないうちに私の初恋は終わった。「失恋」という言葉が私の脳裏に浮かんだ。
考えてみれば当たり前のことで、父と母が愛し合わなければ、私達双子は生まれてないわけで、再会すれば、ああいう風になることは分かっていたはずだった。
でも私は心の中で、もしかしたら「私の気持が伝わるかも」なんて思ったりした。本当にバカだ。現実は父に一言も話をすることも出来ずに、自分ひとりで舞い上がっていた。
好きな人が他の誰かと仲良くすることがこんなに辛いなんて思わなかった。とても一人じゃ抱えきれない・・・・・。
私はあても無く歩いた。何も考えたくないし、何もしたく無い。何も何も・・・・・。
気付いた頃には夜が空け、日が昇ろうとしていた。
「おい」
「おいってば」
「聞いてんのか!!」
「・・・・・・?」
私はようやく自分が呼ばれていることに気付いた。ふと、声のした方向に顔を向けると、そこには横山が立っていた。
「おい、どうしたんだ?こんな時間に散歩か?・・・・・・ってそんな感じじゃないみたいだな・・・・・とりあえず顔拭けよ」
手渡されたハンカチにを見て、私はようやく涙があふれていることに気付いた。
「なんだ、なんだ?涙なんか流して。冷静沈着なお前らしくないな」
私は過剰なまでに、その言葉に反応した。
「私らしい?・・・・・アンタに何が分かるっていうの!!何も、何も、何も私の事、知らないくせに!!!!」
私にしては珍しく感情をあらわにした。今思えば誰かに何でもいいから、気持ちをぶつけたかったに違いない。
「・・・・・たしかに・・・・チョット前に会ったばっかだし、お前の事は何も知らん・・・・」
「・・・・・・・」
「じゃあさ、教えてくれよ。お前の事」
「え?」
「人が泣くのって、やっぱ理由があると思う。それを人に言った方が楽になるって事があるかもしれない。それに、オレはお前の事もっと知りたいし・・・・・」
「・・・・・・・・・」
私は静かに頷いた。
私達は近くにあった公園へ行った。そこで、横山に私の今の気持ちをぶつけた。あまり喋った事は覚えていない。おそらく、辛いってことを何回も言ったと思う。それを横山は黙って聞いてくれた。
「・・・・・なるほど。確かに辛いだろうな。なんとなく・・・・・なんとなくだけど、わかるぜその気持・・・・・まぁ、なんとなくだけどな」
そう言った横山の顔は何か寂しそうだった。
「よし、お前もなんか家に帰りづらそうだし、ここは一丁、オレの頼みごとを聞いてくれるか?」
「頼みごと?」
「あぁ、条件のひとつにあった“ある人に会う”ってやつだ。オレはその人には会っちゃいけない約束があるんでな・・・・・」
「・・・・・・わかった」
今は気を紛らわせる事なら、何でも良かった。
「どんな人なの?」
「それは・・・・・」
横山は話し始めた。
第4話 終わり
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第5話 「cutting snatch」
「どうだ?」
オレはいつものように聞く。
「完璧ッスよ!!部品も変えたし、潤滑油だって良いの使ってますからね」
正次はいつものように答える。さらに、正次の運転で俺達は2ケツで原付に乗る。
「今日はどれ位やりますか?」
「そうだな・・・・モノにもよるけど5回ぐらいでいいだろ」
風が気持良い。やるには絶好の日だ。
大通りを走っていると、目の前に婆さんの手を引いて歩く、まどかが見えた。
「正次、止まれ」
「今日はついてる。勝利の女神が前にいるぜ」
スクーターは、まどかの前に止まる。
「よう、偽善者。今日も得にもならないことやってるよな」
まどかは俺に近づく。
「拓味あんたには関係ないでしょ」
まどかは俺達を無視して婆さんの手を引こうとした。
「なぁ、今日も頼むよ」
「何を」
「キス」
「は?」
まどかは顔を赤くした。
「勘違いすんなよ。スクーターにだぞ」
「嫌よ、きたない」
「この前はしてくれたじゃねぇか。そのお陰で大漁だったんだから」
「そんなの忘れた」
正次はニヤニヤしながら俺達を見る。
「ホントお二人は仲が良いッスね」
「お前バカか?オレがこんな偽善者に気があるとでも思ってるのか」
「あら?正次君は『仲が良い』って言っただけでしょ?『気がある』なんて一言も言ってないじゃない」
何か勝ち誇ったようにまどかは言う。
「揚げ足取るなよ」
「別にそんな汚い足、取りたくない」
「・・・・・行くぞ正次」
「ちょっと・・・・・本当に今日もやるの?もうこんなことは止めて・・・・」
オレは、まどかの話も途中で走り出した。
「いいんですか?」
「いいんだよ、アイツはすぐ奇麗事ばかり言いやがる。それに、幼馴染じゃなかったら、俺との付き合いもなったはずだからな。これ以上話してるとあいつの評判にも影響が出る」
「拓味さんって結構、まどかさんのこと考えてるんですね」
「うるさい。黙って運転しろ」
オレとまどかは小さい頃からのお隣さんだ。何気なしにいつも一緒にいた。それも大きくなるにつれて、その関係も少しずつ崩れていった。オレが高校を退学になり、今みたいな生活をしていると余計そうなる。
アイツはさっきみたいに、弱者がいると手を差し伸べるタイプの人間だ。逆にオレは弱者がいるとさらに痛めつけるような人間である。そんなオレをアイツは気遣ってくれる。
そんな時、たまらなく自分が弱い人間に思える。オレが弱者だからアイツはオレにも気を使ってくれているに違いない。オレの気持はさておいて・・・・・。
それからしばらくして、俺達の原付はターゲットを見つけた。徐々に近づく。相手に気付かれないように、この原付は部品やオイルを変えたので音も静かだ。
「よし今だ!」
オレの言葉を合図に正次が飛ばす。そして一瞬の隙を狙って自転車のカゴから鞄をひったくる。
「よし成功だ」
そのまま全速力で飛ばす。
その際、俺達は自己の力を誇示するためにナイフを取り出し、アスファルトにこすり付ける。火花が散りすさまじい金属音をたてる。これで俺達の仕事は終わる。
そう、俺達の仕事はひったくりだ。
この付近じゃあ結構、有名だ。犯行の時はさっきの様にアスファルトに引っかき傷を残す。同業者や警察なんかは「カッティング・スナッチ」と俺達を呼ぶ。
何人かひったくる。今日は意外と大漁だ。金額も20万は超えた。
日も暮れかかったので、これで最後にする。
「よし、次で最後にするぞ」
そうして今日最後の獲物を探す。
なかなか大きな鞄を持った婆さんが歩いていた。そしていつものようにひったくる。
その時、たまたまその婆さんと目が合ってしまった。凄い形相でオレを睨んでいた。だが、オレはお構い無しにひったくる。それにしてもこの婆さんどこかで見た顔だなと思う。錯覚だろうか・・・・・?
老人はひったくるのが本当に楽だ。しかも、大金を持ってる。さっきひったくったヤツも動きが緩慢な婆さんだった。
走りながら、ひったくった鞄を開ける。そこには、幾らかの金が入ってるはずだ。
「・・・・・・」
俺は凍り付いた。
「どうしたんですか?」
正次が不思議がって聞く。
オレは鞄の中身が何かは理解できた。
でも、なぜ“それが”そこにあるのかが、分からなかった。
鞄の中身は大量の血に染まっている。その中に1つの塊が入っていた。
それは人の首だった。
しかもオレの良く知っている・・・・・
「う、ウソだろ・・・・・まどか・・・・・」
それはまどかの生首だった。
「・・・・・・警察に・・・・・届けましょうよ」
正次は泣きながら言う。
「バカ!そんなことしたら、俺達のことがばれるだろ」
「・・・・・そんなこと・・・・・言ってる場合じゃ・・・・・・ないッスよ」
正次の言う通り警察に言ったほうがいいのかもしれない。
だがそんなことより、オレは・・・・やりたいことがあった。
「俺達で解決するぞ!今思い出したが、あの婆さん・・・・・今朝まどかが手を引っ張っていたヤツだ!!あの婆さんを探すんだ!!!」
不思議と悲しくは無かった。それより、怒りの方が先行していた。
その日から俺達は婆を探し始めた。
やり方はいたって単純で、このカバンを持って街中を原付で走ること。
そんなことをもう一週間も続けてる。
「こんなんで、本当に見つかるんですかねぇ?」
「わからん・・・・でも、生首を持ち歩いているような婆さんだ、きっと探してるに違いない。」
適当だった。自分でもこんなので見つかるとは思えなかった。でも、何かをしなくては居ても立ってもいられなかった。
日が経つにつれて現実味が増してきた。
もう、1週間もあいつの声を聞いてない。
情けないが、今、独りにはなりたくはない。だから、ずっと正次の家に泊まり続けている。これは現実逃避だろうか?
「・・・・・・あの・・・・・拓味さん・・・・」
考え事をしながら走っていると、正次が話しかけていた。ふと気付けば辺りは暗くなっていた。
「どうした?」
「あの・・・・・・さっきから、ずっと俺達の後ろを付けてきているヤツがいるような気がするんですが・・・・・・」
「・・・・・とうとう来たか!!」
来るべき時が来たか!俺は緊張した。
「あの・・・・それがですねぇ・・・・・・・・自転車なんすよ」
「はぁ?」
俺は後ろを振り向く。
そこには確かに自転車らしきものが、原付のスピードに付いてきていた。しかも、オレが振り向いた時から、自転車のスピードは上がった。みるみる原付に近づく。
「クビカエセ!!!!!!」
横付けされた自転車には、あの時、動きが緩慢だった婆さんがすごい高速回転で自転車をこいでいた。
「ばっ・・・・化け物か・・・・・・」
「カエセ、カエセ、カエセ!」
「うわぁぁぁぁぁっ!」
正次は恐怖のあまりなんか叫んでる。
俺はというと逆に冷静になっていた。こいつが、まどかを殺したのかと思うと、確実にこいつを殺そうと考えた。
オレはいつもアスファルトに傷をつけるために用意してあったナイフを取り出した。
「ぶっ殺す!」
婆さんを切りつける。ナイフは確実に婆さんの首を捉えた。婆さんは切られた衝撃で自転車から転げ落ちた。
「やったぞ!!正次、戻れ!本当に死んだか確認する!」
「えぇぇぇっ!!」
「早く戻れ!」
「・・・・・・はい・・・・・」
正次はしぶしぶUターンをした。近くまでいくと、自転車は潰れ、使い物にならなくなっていた。婆さんはそこから少し離れたところに倒れていた。
「こ、コイツ本当に死んでいるんですかねぇ・・・・」
婆さんに近づく。うつぶせに倒れた婆さんは動かない。
「・・・・・・拓味さんコイツ・・・・・血が・・・・・・血が出てません!」
「!!!!」
その時突然、婆さんが動き出した。
第5話 終わり
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第6話 「人身御供(ひとみごくう)」
「!!!!」
動き出した婆さんは正次を襲う。体当たりとまともに食らった正次は吹き飛んだ。
「正次!!」
婆さんは近くにあった、あのカバンを持って走り去る。俺は正次に駆け寄ろうとした。
「拓味さん!!オレのことより、アイツを追ってください!!!」
「・・・・・・わ、わかった!!」
俺は少し迷ったが、正次を置いて婆さんを追うことにした。
「なんなんだ?あのババァ、速過ぎる」
これでもオレは18歳だ。あんな婆さんに負けるはずが無い。足がもつれそうに何度もなる。日頃、体を動かしていない罰だ。だが、諦めるわけにはいかない。必死で走った。
そのかいがあってか、婆さんは近くの工場跡に入っていった。
「よし、アジトを突き止めた!!」
俺はさらに加速を付けて走った。
工場跡に入る。そこには大きな建物が3つ建っている。どの建物もガラスが割れ、草も生え放題の荒れ果てた状態だった。その一番奥の建物に入る、婆さんの姿を見つけ、オレはそこへ向かった。建物に着くと、外壁に体を付け、慎重に覗く。
そこにはたくさんの蝋燭、鐘、分厚い書物、地面には2つの同心円が描かれていた。(これは後々魔方陣だと分かった)
婆さんはカバンからまどかの首を出す。一週間経って腐敗していた。
実はあれからカバンは開けてなかった。怖かったのと、現実を確認する様で嫌だったのである。
婆さんは首を円の中心に置くと、しゃがみ込み、何かブツブツ言い出した。その内容はさっぱり分からない。
オレは戦うため、近くにあった鉄パイプを手に取る。そして恐る恐る近づく。婆さんは必死になって何かを唱えているようで、気付かない。
「これでも喰らえ!!くそババア!!」
オレは思いっきり、鉄パイプで側頭部を殴る。鈍い音と共に、婆さんの首はへし折れる。
しかし、婆さんはしばらくして、首が折れたまま、こっちを見た。
「ジャマスルナ・・・・・」
そう言って立ち上がると、オレに近づく。その姿はさながらゾンビだ。
オレは恐怖のあまり、全身の毛が逆立つような感覚に陥った。必死に鉄パイプを振り回す。
それは、ことごとく婆さんに命中する。それでも、歩くのはやめない。
「うわぁぁぁぁ!!」
オレは婆さんの顔に鉄パイプを突き刺した。眉間に見事、突き刺さる。すると婆さんは歩みをやめ、崩れるように倒れた。・・・・・・・やったのか?
おそるおそる近づく。ピクリとも動かない。どうやら本当にやったらしい。
その時、後ろで何かが光った。
「望むものはお前か?」
いきなり、オレの後ろで声がした。声に反応して、振り向き、身構える。
そこには、長身の金髪の男が立っていた。
「何なんだ?お前は」
「私はただ召喚によって呼ばれた者に過ぎない。お前は何を望む」
「何言ってやがる・・・・・・」
すると完全に動きを止めたと思っていた婆さんが、再び動き出した。
「!!」
「ワタシニ、ワタシニ、カンゼンナル、エイエンノイノチヲ」
「うるせー!この化け物!!」
オレは鉄パイプで叩きのめす。今度こそ確実に動けなくなった。
“永遠の命”?なんのことだ?
「その者の望みでよいのだな。では、永遠の命を与える」
「・・・・・?もしかしてお前、本気で言っているのか?永遠の命だぞ」
「私はいつも本気だが・・・・・」
信じられん。まったくもって、信じられん。こんな事があるはず無い。
だが、信じられないことなら、ここ数日間で散々起こった。
目の前にいる、いつの間にか現れた、望みを叶えると言っている金髪の男。永遠の命を欲しがって、ゾンビのようにしぶとく生きている、婆さん。
そして、まどかの死・・・・・・。
何か頭で整理した瞬間、涙がこぼれそうになった。
そうだ。まどかは死んだのだ。もう二度とあの顔は見れないし、憎まれ口も聞けない。喪失感がようやく襲ってきた。
おそらくこの婆さんが、まどかを殺した。親切にしたまどかを殺した。困った振りをして、殺すターゲットを探してたんだ。よくは分からないが、この男を呼び出すのに必要だったんだろう。
その婆さんもオレが殺した。オレに出来ることはすべてやった・・・・・・・・・・・・・・のか?本当にそうなのか?オレに出来ることは・・・・・・・・。
「おい、その望み変更だ。そこにある首だけの人間を生き返らせてくれ!」
「それはできん」
金髪の男は即答した。
「何で!?」
「この首は人身御供として私に献上されたものだ。この者の魂を私の僕として使役するのだ。それを蘇らせてどうする。他に人身御供がいれば別だが・・・・」
人身御供?よくわからないが生贄みたいなものか?代わりの生贄ねぇ・・・・・・。オレはふと、下に目が行った。
「じゃあ、この婆さんならどうだ?」
「無理だな。魂が同等でない。その婆さんだけでは釣り合わん」
「・・・・・・・・・」
オレは生まれて初めて土下座した。
「頼む!!なんとか、なんとか、生き返らせてくれないか?コイツはいいヤツなんだ!!こんなことで死んじゃあ駄目なんだよ!!こいつが生き返るためなら何でもする!!頼む!!」
「今言ったことは本当か?」
「え?」
「何でもするといったな」
「ああ!!何でも言ってくれ!!」
金髪の男は少し考えた後、
「いいだろう、あの者を生き返らせてやろう。その代わり、貴様には死んでもらう」
「!!」
「死んで、私の僕となれ。そうすれば、この者との魂の釣り合いも取れるであろう」
「それでアナタは死んだわけ?」
公園で武内明と話しこんでしまった。
「あぁ、あの時2,3時間は考え込んだかな・・・・・・」
「それで?まどかさんは助かったの?」
彼女はオレの話しに夢中になっているようだ。
「あぁ、たぶんな」
「わからないの?」
「人身御供になって、黄泉の王の使いとして使役されるようになってからは会ってない」
「なんで?」
「それが約束だから。オレがそういう誓約を立てることによって、オレの魂の価値を上げて、初めてまどかの魂と釣り合うんだ。会えば、人身御供とまどかのバランスが崩れてアイツが死んでしまう」
ここまできて、俺は喋り過ぎたと後悔する。ここまで話さなくても良かったのだ。だが、こんなチャンスはめったに無い。
「だから・・・・一目、一目でいいんだ、アイツが元気にやってるかどうか見て来て欲しいんだ。これはオレの勝手な頼みごとに過ぎないが・・・・・・」
武内明は考え込んでいた。そりゃそうだ、やっと会えた憧れの父親が3日しかいられないのに、その一日を潰す事になるから。
だが、ここで了承してもらわないとオレの一石二鳥の計画が崩れてしまう。
「やっぱり、だめか?」
「・・・・・・・いいよ。私も話を聞いてもらったし、今から行きましょ?場所はどこ?」
オレは心の中で歓喜した。
第6話 終わり
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第7話 「画策」
私はある家の前に立っていた。まどかという人の家だ。二階建ての普通の日本家屋。隣には横山と表札のある家がある。私は横山との約束を果たすため、ここに来ている。
朝早い電車の車内は空いていた。
「ホントに見てくるだけでいいの?私でよかったら何か伝えようか?」
電車に揺られながら、私は横山に聞く。横に座っている横山は黙った。少し間をおいて、
「いい、別に無い」
と、そっけなく言った。私はその言葉が信じられなくて、思わず言ってしまった。
「ウソよ、そんなの」
横山は私の方を向く。
「そうかもね・・・・でも、もういいから。オレ死んでるし」
「だからこそ、伝えたいことがあるんじゃないの?今のうちだよ?伝えるなら」
それを聞いた横山はため息をつく。
「何かお前は勘違いしてるぞ。現実はそんなに甘くない。映画やドラマのようにいつまでも死んだ人を思い続けるなんてありえないんだ。10年経ってるんだぞ。まして、まどかがオレの事好きだったかどうかも分からないし・・・・・・・」
「私は信じてる。だって、私がそうだもん。16年間、広野貴明を想い続けてた」
「それは、お前が子供だからだよ」
「隙があったら伝えるから。まだ、アナタが好きだって事」
「勝手にしろ。10年前に死んだ人間の伝言なんか、誰が信じるか」
電車で2時間揺られたところに、横山の住んでいた街があった。私が住んでいる街よりも大きく、人がたくさんいた。そこから、15分ほど歩いた町外れに、まどかという人が住んでいる家があった。
「後は頼んだ。オレは会えないから先に書庫に帰る」
「何で近くにいればいいのに」
「いい。多分、ここで待ってると、会いたくなるから・・・・」
「・・・・・・わかった。じゃあ、行ってくる・・・・」
私と横山は別れた。
私はとりあえず外から眺める。すると、中庭らしきところに、一人の女性が立っていた。外見からして20代後半に見える。微笑みながら庭の花々に水をやっている姿は、まさしく私の描いた「想い続けている人」だった。私は思わず声を掛けてしまう。
「すいません・・・・・・桧山まどかさん・・・・・ですよね」
突然、家の垣根越しに話しかけられた女性は驚いた様子だった。
「す、すいません!いきなり・・・・・あの、決して怪しいものじゃあありません!・・・・あ、あの・・・・・・横山拓味さんって知って・・・・・・・ます?」
焦って喋ったものだから、ますます、怪しまれるようなことを言ってしまった。
当の女性は私を見たまま固まっている。私もそれを言ったきり、固まってしまった。
私と目の前の女性はしばらく黙ったまま見つめあった。しばらくして、最初に口を開いたのは女性の方だった。
「なぜ、あなたが拓味のことを知ってるの?」
「・・・・・・なぜって・・・・・それは・・・・・横山拓味さんのし、知り合いのものです」
「知り合いって・・・・・・彼は10年前に死んでるのよ」
「えっ、それは・・・・・・」
「おい、どうしたんだ」
家の方からなにやら呼ぶ声がして、家から男性が出てきた。
「あっ、正次。なんか怪しい女の子がいるの・・・・・」
「正次?あの?正次さん?」
「アナタ、正次のことも知ってるの?」
正次さんは私を見た。
「君は誰だ?何で俺たちの事知ってるんだ?」
私はこれ以上混乱するのがいやだったので、思い切って正直に話すことにした。
「あなた達は信じないかもしれませんが、私は横山拓味さんから頼まれてここまで来ました。あなた達のことは横山さんから聞いています。カッティングスナッチのことや、ゾンビのようなおばあさんの話、そして、そのおばあさんに殺されたまどかさん、あなたの話も・・・・・・・」
これを聞いた二人は、一気に顔色が変わった。
「何でそのことを・・・・・と、とにかく、ここじゃなんだから家に上がらない?」
「・・・・・え?はい!喜んで!」
私はすぐ、帰るつもりだったが、まどかさんの家にお邪魔することになった。
「そこで何をしている」
「何って魔方陣を直しているんですよ。不完全なままじゃあ、帰るのに一苦労しますから。」
「・・・・・・娘は無事か?」
「へぇ・・・・・父親気取りですか?たった3日しか、ここにいられないのにご苦労なことですね」
「うるさい。質問に答えろ」
「残念ですが、あなたに主導権は無い。質問するのは私だ」
「・・・・・・・・」
「まぁ、でも、これだけは答えておきましょう。娘さんは無事です。安全なところにいます。今の所はね。分かってください。こうでもしないと、アナタは質問に答えてくれそうに無いものですから」
「質問は何だ!言え!」
「まぁ、そう怒らずに。では、時間も無いので単刀直入に言わせてもらいます。」
「・・・・・・・・・」
「『Suicide Magic』ってCD-R知ってますか?」
「!!・・・・・お前・・・・・・何を調べてる・・・・・」
「それは、あなたには関係ない。あなたはただ、質問に答えてくればいい」
「・・・・・・お前、黄泉の王の使いなんていうのはウソだな」
「・・・・・・・まぁね、でも私の主はあなた達家族に縁のある人ですよ。さぁ、今度はアナタの番だ」
第7話 終わり
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第8話 「生きる屍」
私は家に中へ通され、居間らしきところに案内された。
フローリングの部屋で、テレビがあって、ソファー、お酒の入った棚、その上に飾られた数々の写真。どれを取っても幸せな生活の香りが漂ってきそうだ。
私がソファーに座ると少しして、紅茶が出て、正次さんとまどかさんは私の向かい側に座った。
「聞かせて。なぜ、アナタがあの事件のことを知っているのか」
「横山拓味さんから聞いたんです」
「ウソ!そんなはずは無い!あの人はもう死んでる・・・・・」
少し取り乱しそうになったまどかさんを正次さんが落ち着かせる。
「まぁ、そう慌てるな。・・・・・もし良かったら、どうやって聞いたか教えてくれないか?あの人のことを避けているわけにはいかないから・・・・」
「正次・・・・・」
「分かりました」
私はこれまで起こったことを話した。もちろん、私に関する部分は外した。
「・・・・・幽霊で、黄泉の王の使い?そんなもの信じられるわけがない」
まどかさんはやはり信じてくれない。
「いや・・・・・・・・俺は信じる」
そう言ってくれたのは正次さんだった。
「正次?」
まどかさんは正次さんを覗き込んだ。
「まどか・・・・・実はオレ・・・・・あの時、拓味さんが金髪の男と取引するところを隠れて見ていたんだ・・・・・。怖くて・・・・・俺は何も出来なかった・・・・・」
そう言って俯いた正次さんに、まどかさんが彼に寄り添う。
「そう自分を責めないで・・・・・・状況が状況なんだから・・・・」
お互いをいたわっている姿を見て、私は父と母の事を思い出して、少し落ち込んだ。
二人に視線を合わせるのが、なんだか嫌になり、二人より、さらに向こう側にある棚の上にある幾つかの写真立てに目をやる。そこには、タキシード姿の正次さんと、ウエディングドレス姿のまどかさんの並んで写っている写真があった。
「あの・・・・・お二人は結婚なされているのですか?」
「・・・・・・・ええ・・・・・三年前にようやく結婚できたの」
「ようやく?」
まどかさんの視線は私より少し遠くを見ていた。後で気付いたのだけど、私の後ろの窓からは横山家が見えるのだった。
「私達はようやく横山拓味という『幻』を乗り越えることが出来たの」
「幻?」
「あの事件の後、私は拓味を想い続けるのが義務だと思っていた。だって、あの時は間違いなく拓味のことが好きだったから・・・・・・・思い続けることで彼と繋がっていられると思ってた。だから私は、心の中に横山拓味という幻を創って、幻を愛することにしたの・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「その幻は彼が死んだ直後は、彼そのままの等身大の姿だった。でも時間が経つにつれて、段々その幻は大きくなってくるの。私の中で抱え切れないほど大きな存在になっていった・・・・・・。もう、“誰も好きになれない”と思う程に・・・・・・」
私は“ここにも私がいる”、そう思った。私も父、広野貴明という理想の大きさに戸惑っていた。私だって“このまま現実の男の子を好きなることはないのだろうか?”と思っている。
「そんな時に、いつも私の心の支えになってくれていたのが、正次なの。私の中の拓味を一緒に引き受けてくれたの・・・・・・それで分かったの、いつまでも想い続けるなんて、間違ってる。いつまでも、このままじゃあいられないって・・・・・・・」
そう言うまどかさんは、真剣そのものだ。ウソや強がりではない事が窺い知れる。
でも、私は口走ってしまう。
「そんなのウソよ!」
「本当の・・・・・本当の想いはもっと、もっと強いもの!!私の母は父が死んで17年間、ずっと父だけを想い続けている!!!」
私はこう言ったものの、後悔した。なんで、母の例を出したのだろう・・・・・・・。
何で私のことが言えなかったのだろう?
私が子供で説得力が無いから?
母と父は今でも相思相愛だから?
私の思いを語ったところで、報われる想いじゃないから?
それとも・・・・・・・・
自分の想いに自信が無いから?
しかも、気付いたら立ち上がって力説してるし・・・・・・・。
私のこの台詞に正次さんはますます、うなだれているようだった。一方、まどかさんは私をじっと見ている。というより、睨んでいる感じだ。
そして、まどかさんも立ち上がった。
「ごめんなさい」
「え?」
私はまどかさんの意外な発言に戸惑った。
「今から言うことは、きっと悪口になると思うから、先に謝っておくね」
そう言うと、まどかさんは軽く息を整えた。
「私から言わせれば、アナタのお母さんは死んだ人を理由にして、次のステップに進むことを放棄したに過ぎない。それって、逃げてるようにしか思えないの。人間は先に進むことをやめたら、死んだも同然だわ!
そんな“生きてても死んでるような生き方”、私は嫌なの!!」
まどかさんはそう言うと、私から視線をそらした。
「・・・・・・・悪いけど、帰っていただけますか?死んだ人間の伝言なんか聞きたくない・・・・・・・私は目に見えるものしか信じない。今は隣にいてくれる正次だけ信じられる・・・・・」
結局、私は横山の気持の事を何1つ伝えられぬまま、家を出た。
今の私は、本当に何もかも上手くいかない。
これは私が色々なことに対して幻想を抱いているからだろうか?
同じ人を思い続けることは、先に進むことを放棄したことになるの?
そんな生き方は、死んだも同然なの?
だったら、母や私、亜由美さんまでもが、今までずっと死んでたことになるの?
そして、これからも死に続けるの?
私は子供だから結論は出ない。
ただ、ただ、足取りは重く、私は帰りの電車に乗った記憶がないまま、自分の街に着いた。
第8話 終わり
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第9話 「release」
電車を降りる。歩きながら、横山にどうやって伝えようかと考えていた。しかし、そんな時間も無いことが分かる。駅を出ると横山が待っていた。
「何か気になってさ、迎えに来た」
「・・・・・・・」
「ん?・・・・・・とりあえず、公園へ行こうか?」
私達は朝話をした、公園に行くことになった。
公園は朝と違って、人が何人かいた。私達はベンチに並んで座った。
「・・・・・・・まどか元気だった?」
「・・・・・・・・・」
私は頷くのが精一杯だった。
「そうか・・・・よかった・・・・・」
私は本当のことを言おうかどうか迷った。そういう私を見かねて横山が言う。
「・・・・・・・なんで、そんなに落ち込んでるの?・・・・・・まどかに何かあったのか?」
私は頭を振った。
「オレ、今朝言ったよな。映画やドラマみたいに上手くは行かない、現実は甘くないって。だから・・・・・・驚かない・・・・・まどかにどんな変化がおきても・・・・・」
そう言う、横山の真剣なまなざしを見て、私は本当のことを話す決心がついた。
「そうか・・・・・・・正次とねぇ・・・・・よかった・・・・・幸せに暮らしてるんじゃん」
嬉しそうに話す横山の姿は、私にある疑問を持たせた。
「でも・・・・・少しは信じてたでしょ?『まだ好きでいてくれているかも』って・・・・・」
横山は黙ったまま、何も言わなかった。私も何も言えず黙ってしまう。
「・・・・・・死んだ人間ってさ、生きてる人間に何が起こっても、何も出来ないんだよ。たとえそれが、自分にとって悲しいことであっても・・・・・・こんな姿じゃあ、どうにもならない。」
そう言うと横山は上を向いた。
「泣こうと思っても、泣けないよ・・・・・・オレ死んでるから涙もでないし・・・・・・なんでオレ、死んだんだろ?・・・・・・これじゃあ、報われないよなぁ・・・・・・・・現実に対してここまで無力だなんて・・・・・・好きだって事も伝えられないなんて・・・・・」
そんな横山を見て、なんだか私は涙が出てきた。横山の言うことはすべて自分に返ってきた。
「なんで・・・・・お前が泣いてるんだよ・・・・・」
「・・・・・・・・現実に対して無力なのは、死んだ人間だけじゃないよ・・・・・私だって・・・・・何も出来ないし・・・・・・好きなのに・・・・・伝えられない・・・・・」
「・・・・・・・」
横山は立ち上がって、私の前に来て、しゃがみこんだ。
「それは違うぞ!・・・・・・生きてる人間は出来る!!いや、お前はやるんだ!!!」
「・・・・・・・」
両腕で私の両肩をつかむ。
「よく聞け、今から広野貴明が来るはずだから、お前は、お前の気持を伝えろ!!」
「えっ!!」
「頼みごとを聞いてくれた御礼だ。二人っきりで話せ」
「で、でも・・・・・・私・・・・・・」
戸惑う私にさらに言う。
「変に整えなくてもいい、迷ってたり、悩んでいるなら・・・・・それごとぶつければいい・・・・・・・・」
悩んでいた私を同じような想いでいた、まどかさんに会わせたり、今から父に二人っきりで会わせてくれたり・・・・・・・・・横山ってどこまで計算しているのだろう?
まるで、私が壁を乗り越えられるように準備してくれているかのようだった。
数分後、本当に父は来た。
父は横山の方を少し見ると、一直線に私の方へ走ってきた。
「・・・・・あの・・・・・・」
私が話しかけようとすると、父は私を抱きしめた。一瞬、時が止まる。
「よかった・・・・・無事で・・・・・・心配してたんだ・・・・・」
突然のことで、私は何がなんだか分からなかった。ただ、ただ、抱きしめられるだけだった。
「あの・・・・・・」
「・・・・・・あぁつ!!ゴメン!!いきなり・・・・・」
そう言うと父は私から離れた。
「いえ、良いんですけど・・・・・・私だって急に、家から居なくなっちゃって、ごめんなさい・・・・・・・・・」
それから、私達二人は沈黙が続いた・・・・・・。
「あっ・・・・・・武内・・・・・じゃなくて、お母さんも心配してるし、帰ろうか?」
そう言って、広野君は向きを変え、帰ろうとした。
このままじゃあ、同じだ。伝えなきゃ、伝えなきゃ・・・・・
「・・・・・・あの・・・・待ってください!!」
広野君は振り返る。
「なに?」
私はこの状況になっても、何を話していいか分からなかった。
ただ、『好き』と伝えるのがこんなに難しいなんて・・・・・・・・。
その時、さっきの横山の言葉が頭に浮かんだ。
“迷ってたり、悩んでいるなら・・・・・それごとぶつければいい”
「今日、凄く悲しいことがあって・・・・・・その・・・・・・お母さんの・・・・・悪口言われたんです。『死んだお父さんを思い続けてる母は生きてても死んでる』って・・・・・・・」
私は自分でも何言ってんだろう?と思いながら喋っている。
「・・・・・・・」
「思い続けてもらえるって、どんな気持ですか?嬉しいですか?それとも、早く忘れて欲しいですか?」
父は少し戸惑った顔をしたように見えた。
「・・・・・・・それは、僕の気持を答えればいいんだね?」
「・・・・・・はい・・・・・」
「忘れて欲しい。それが生きるって事だと思うから、死んだ人間に生きてる人間を縛る権利はないよ・・・・・・・」
「・・・・・・それが建前。本当は忘れて欲しくない」
そういうと、父は微笑んだ。
なんだか、今なら言えそうな気がした。
「お父さん・・・・・いえ、広野貴明さん・・・・・私・・・・・あなたのことが好きです」
「・・・・・・え!?」
父は驚いていた。
「それが本音。でも、これからは『好きでした』に変えます。それが、生きるって事なら・・・・だから・・・・・だから・・・・・もう一度・・・・・もう一度でいいですから・・・・・抱きしめてくれませんか・・・・・・」
父は私を見つめたまま、動かなかった。でも、何かに押されたように私に近づき、抱きしめてくれた。
『ふれる』という事は、嬉しかったり、怖かったり、色んな感情が一気に押し寄せて・・・・・・なんだか泣けてくる・・・・・・・。
そんな私に気付いた父は耳元でささやいた。
「気付かなくてゴメン・・・・・・・・・もういいから・・・・・・・
他に好きな人・・・・できていいから・・・・・」
私は何かから、解放されたような気がした。
「・・・・・・・はい・・・・・」
私の初恋は今、終わった。
第9話 終わり
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第10話 「発動」
私は今、書庫にいた。それは、公園での父の言葉のせいなのだが・・・・・・。
「じゃあ、帰ろうか?」
そう言って父は私の手を引き、二人並んで歩く。歩きながら、父はにこやかな表情で前を向いたまま私に話しかけた。
「そのままこっちを向かずに聞いてくれ」
何だか緊張感のある父の言葉だ。
「今から一旦、家に帰る。でも、少ししたら貴君と君でオレの家の書庫に行くんだ」
私は父の言っている意味が、よく分からなかった。
「横山を知っているね・・・・・・・アイツは危険だ。書庫にある魔方陣で良からぬ事を考えている」
「そんな・・・・・・」
私には信じられず、父の方を向こうとした。
「そのまま!こっちを向かないで!!今でもアイツは後ろから、オレ達を監視している」
「・・・・・・うそ・・・・・」
「ウソじゃない。現にヤツは自分で、黄泉の王の使いじゃないと認めた」
「!!」
私にはどうしても信じられなかった。だからこうして、真相を確かめるべく書庫にいるのだ。
「マジかよ・・・・・ほんとに描き換えられてる・・・・・」
貴はしゃがみこみ、魔法陣を見ている。
「そうね。確かにアンタのヘッタクソな字じゃないわね」
「なんだよ、その言い方。なに怒ってんだよ。」
「別に」
「とにかく何の魔法陣か調べよう」
「どうしたんですか?こんなところへ呼び出して。明日でもう、お別れなのに・・・・」
「土屋か?」
「何のことです?」
「とぼけるな。あの描き変えた魔方陣で、土屋を呼び出そうとしているか?」
「・・・・・・確かに、あの魔方陣ならそれも可能かもしれませんね。だってあれは・・・・」
「霊魂を集める魔方陣だ。この形態だと魔方陣から半径10キロの範囲内の漂っている霊魂を集める事ができる」
貴はそう言いながら、魔方陣と本を交互に見ている。私は未だに信じられず、ただ見ているだけだった。
「土屋はオレがいた世界にはいなかった」
「ほう、死後の世界ですか?」
「お前はそれを知っていた。だから、まだこの世に土屋が漂っていると思ったんだろ?」
「・・・・・・・・なるほど。そういう考え方もあるな」
「ふざけるな!!」
「なんかお前、さっきから横山の味方ばっかりしてるな」
貴は私を疑いを持った目で見る。さっきから、貴と私は口論していた。貴は横山を真の名前に則って、呪縛するべきだといい、私はそれをする前に理由を聞くべきだいって、意見が対立している。
「だったら、今から横山に聞きに行きましょう?それからでも遅くは無いでしょ?」
「ためだ!それじゃあ、遅すぎる。呪文を発動されたらどうするんだよ。そのまえにこの魔方陣を描き変える!!」
そう言うと貴は魔方陣を消し始めた。
「お前の思惑もこれまでだな」
「・・・・・・どういうことですか?」
「今頃、貴君と明さんが魔方陣を描き変えてるはずだ」
「!!」
「さすがに驚いたみたいだな」
「あんたはバカか?オレがそんなミスをするとでも思ったのか?あの部屋には二つ魔法陣がある。一方が霊魂を集める魔法陣。そして、もう一方は魔法陣が描き換えられた時に自動的に発動して霊魂を集める魔法陣なんだよ!!」
「!!!!!!!」
貴が魔方陣を消した瞬間、周りが見えなくなるほどの光が私達を包む。
「!!!!!!」
目を瞑ってもあまり効果が無い。顔を覆っても指の間から光が漏れてくる。私達は今いるところが、どこなのか分からなくなるぐらいだった。
しばらくして、光は消え、落ち着きを取り戻した。
「なんだったの?今の?」
「わからない。でも、俺達は無事らしいことはわかるなぁ・・・・・・・」
私の顔を見た貴は、目を見開いて驚いている。
「なんだこりゃあ!!」
私もようやく目がなれて周りを見渡す。・・・・・・というか、見なくても分かるぐらいに私達も周りには大勢の幽霊がいた。
大勢の幽霊達は書庫の中をところ狭しと暴れた。私達はそれから、ただ逃げるのが、精一杯だった。その幽霊達の中から、ただ一人の幽霊だけはじっと私達を見つめている。私は偶然、その幽霊と目が合ってしまった。
目があった、その幽霊は私の方へ、少しづつ歩いてきた。見た目、とても物静かな印象を受ける、年齢は私達と同じぐらいだろうか?何にしろ若い幽霊である。
私は何故だか、そこから動けなくなっていた。まるで金縛りにあっているかのようだった。
幽霊は私の目の前までくると、私の耳元でささやいた。
「アナタのお母さんの様に君を殺したい。できれば、今度は絞殺で・・・・」
「!!」
私は動けない。しかも、この幽霊の言っている意味が分からなかった。
「・・・・・私の母は生きてる・・・・」
すごく間抜けな返答をするのが精一杯だった。
それを聞くと、幽霊は薄笑いを浮かべた。
「だったら、聞いてごらん?『土屋に殺された時はどんな気持だった?』って・・・・いや、まてよ・・・・・『広野の命と引き換えに生き延びている気分はどう?』ってのもいいなぁ・・・・・でも、後者は僕の感想だね」
私は何も答えられない。今、一度にたくさんの情報が私の頭をめぐった。
「しかし、残念だけど聞くことは出来ないよ。だって、今から君を僕が殺すんだから」
そう言うと、幽霊の手が私の首を捉えた。
「そこまでだ!!土屋!!」
そういって叫んで書庫に入ってきたのは父だった。
「・・・・・・いつも君は僕の邪魔をする。亜也の時もそうだ、そして今回も・・・・・だが、今回は助けることは出来んぞ。今、お前は生きていて僕は幽霊だからな。僕に触れることも出来ないだろう?」
「悪いがお前を呼んだのは、このオレだ」
そういって、幽霊の腕をつかんだのは、同じ幽霊の横山だった。
「『お前を連れて来い』という主のお言葉だ。お前に拒否権は無い。ただ、わが主に使役されるのだ」
「嫌だ!!離せ!!僕は僕の思うがままに生きる!!」
「無駄だ」
幽霊と横山はそのまま、魔方陣の中へ消えていった。
それと同時に大勢の幽霊達は我先にと横山の後を追って魔法陣に吸いこまれて行った。
残ったのは私達親子三人だけだった。
第10話 終わり
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living dead
最終話 「別れと出会い」
最後の一日は静かに過ぎていった。
「本当のこと、知りたい?」
父の言葉に私は答える。
「ううん、いい。知ったところで何も変わらないから」
父や母の過去に何があったか?知りたい気持もあるけど、今日は家族がそろって何気ない時間を過ごすことが重要なんだと思う。余計な気持は持ちたくない。
おどける貴、ツッコミを入れる亜由美さん、大笑いする父、それを眺めて微笑む母。何かすごく満たされた気分だ。これが家族の団欒なのかも。
・・・・・それでも別れはやってくる。
書庫。私達は魔法陣の前に立っている。
「なぁ・・・・・父さん・・・・あと、三日いてくれよ!オレの命3年ぐらい何でもないからさ・・・・・・ここにいてくれよ!!」
貴は涙目になりながら父に訴えかける。
「・・・・・ありがとう貴。その気持だけ受け取っておくよ。オレのことぐらいで命を削るなんて言うな。もっと自分を大切にしろ、母さんが悲しむから」
父は貴の肩に手を置いた。貴は下を向いて震えている。
「ねぇ、広野君・・・・・ありがとう。私、ホントはアナタに居て欲しいけど、いつまでもこのままって訳には行かないモンね・・・・・昔に比べたら私も、モノ分かり良くなったでしょ?・・・・・これでも立派に大人やってんだから・・・・・」
亜由美さんは引きつった笑顔で言う。
「坂本・・・・・・自分の子供でもないのに、二人も面倒を見てくれてありがとう。・・・・・これからは、自分の幸せを見つけてくれよ」
「・・・・・・バカ・・・・・・なんでそんな事言うの?・・・・私は・・・・・ううん・・・・そうね・・・・・これからは広野君はもういないんだから・・・・・そんなことは高校生の頃から分かってたこと・・・・・絶対、幸せになるから」
亜由美さんは笑って答えた。目から涙がこぼれていた。
そして、父は私の方を向いた。
「明・・・・・本当にありがとう。君の命を犠牲にした三日間、武内・・・・いや、お母さんには悪いけど、すごく楽しかった」
私は自分のしたことは良くない事だと自覚している。どんな理由があるにしろ自分の命を粗末にしたのだから。
でも、後悔はしていない、今、父から礼を言われその気持をあらたにした。
父はいきなり、私と貴を引き寄せた。
「貴も明もこれから色々なことが自分達の身に起きると思う。もしかしたら、家族バラバラになることがあるかもしれない。でも、そんな時は今日のことを思い出して欲しい。誰がなんと言おうと、僕らは家族だ」
私達双子は頷く。力強く、今を忘れないよう、頷く。
「武内・・・・・・改めて言うよ。この子達を産んでくれてありがとう・・・・・そしてこれからもよろしく頼む」
私は横目で父を見た。見た目は高校生なのに、すごく父親してた。
私の中で、本当に父親になったんだなと思う。
「・・・・・いや・・・・・いてよ・・・・・一緒に・・・・いてよ・・・・ずっと・・・・ずっと・・・・・」
母はそう言うと、父へ駆け寄り抱きついた。
「もう何処にも行かないで!寂しいもん!!心細いもん!!!・・・・・・・つらいの・・・・」
母は私達の目もはばからず、泣きじゃくっていた。それはさながら、聞き分けの無い子供のようだった。
父はそんな母の髪をそっと撫でながら言った。
「武内・・・・・ゴメンな・・・・今まで頑張ってきたんだよな?・・・・知ってたよ。お前のやってきたこと全部・・・・・・すべて見てた」
「!!!!!」
一瞬、父以外全員が凍りついた。
「あれ?みんなどうしたの?」
「広野くん?それじゃあ最初に何も知らないといったのはウソだったの?」
「あっ・・・・」
「『あっ』じゃないでしょ?」
「いや・・・・・君達に長い間会ってなかったし、いきなり物知り顔で話し始めたら、打ち解けないかなーって思って・・・・・・ゴメン・・・・・」
私達はあっけにとられた。
父は計算していたのだ。周りの人間の感動をよそに、知らん振りを決め込んでいたのだ。
「じゃあ行くから・・・・・・・って武内、何か怒ってない?」
「・・・・・別に・・・・・それじゃあ、向こうに行っても元気でね・・・・・ってもうとっくに死んでたわね」
「やっぱり怒ってる・・・・・・」
母もどうやらいつものペースを取り戻したようだ。
魔法陣が光りだした。父が光の中に包まれていく。
「別れに涙は辛いからな。元気に別れられて良かった・・・・・・そんじゃあ、行ってくる」
光は完全に父を包む。
「もしかして、さっきのも計算だったの?」
「まさか・・・・・・」
光が消えた。魔方陣には遺骨だけが残っていた。
骨は何も答えてはくれない。これからは自分で考えるしかない。
こうして母の日は終わった。また明日からは、いつもの暮らしが待っている。
数日後、私はいつものように学校から帰っていた。
「よう、もう父親がいなくても大丈夫か?」
聞き覚えのある声に私は振り向かずに答えた。
「・・・・・・あんたは・・・・・なんでここにいるの?」
聞き覚えのある声は言う。
「うーん、主人からクビだって言われちゃってな。代わりが出来たらしい」
振り返ると、立っていたのは横山だった。
「まどかさんの命は大丈夫なの?」
「大丈夫だろ多分、オレが彼女に会わなければ」
「・・・・・・で?これからどうするの」
横山は私に近づき耳打ちした。
「新しい主人を探すよ。今度の主人は前向きで、明るくて、可愛い、父親ことを想い続けている様な、魔法が使える女の子がいいな」
ニヤついてる横山を見て、私は彼に乗ってみる事にした。
「ふーん。そんな、すごーくいい子がホントにいるの?」
「何処かにいるだろ?まっ、そんな訳だからしばらくお前の家に住み着こうと思ってさ」
「アンタ幽霊だから、別に家にいなくても良いでしょ?」
「幽霊だって家でノンビリしたいんだよ」
「へーっ、まぁ、勝手にすれば?主人が見つかるまで散々コキ使ってあげるから」
こうして、私は父を失い、幽霊を得た。
最終話 終わり
あとがき
やっと終わったーっ!長かったねぇ・・・・・・・。ホント11話で終わるんだったら、もっと早く書けよって感じだね。(自分で言うな)
今回ほど「自」が出た作品も珍しい。
第7話の横山と明の会話なんて、書いた瞬間に「これ今の僕と昔の僕の会話じゃん・・・・」と思って恥ずかしかった記憶がある。
さらに第2話とか第8話なんかは、やばいくらいにそのまんまだよ。第8話は自分でも結論でなくて、疑問文ばっりの文章になってる。これを何とか解決させたくて書いたのが第9話。題名もそのまんま「release」(解放)なのです。
第9話に出てくる「迷ったり、悩んでるなら・・・・・それごとぶつければいい」ってセリフは本心です。第8話の結論が全くでなくて、どうしたら良いんじゃー、とか思っていたら、ふと、「そのまま書けば良いじゃん」と一人納得した次第であります。
まぁ、なんとかそこで、気持の整理はついたのですが、思わぬ副作用が・・・・・。書いたとたん、一気にテンションが下がった。ホント、気持を立て直すのに結構時間かかったよ。
ちなみにこの「living dead」で一番最初に書いたのは第5話です。
さて、次回作ですが(書くのか?)次に登場するのは武内亜也です。
題名も決まってます。「gemini」です。(また英語です)
意味は普通ならふたご座ですが、今回は双子と言う意味で使いたいです。
短めの話にはなると思いますが(といいつつ、いつも長くなっている)、結構重要かも。
多分、先が見えてくるような話になると思います。
それは、また次回作で。
あとがき 終わり
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