Christmas Time
第1話 「そんな事言われたって私は嬉しくない」
「Merry Christmas!!」
みんなは言う
でも私はそれを無視する。
私の欲しい言葉はそんなのじゃないから……
去年、私は友達と4人で騒いだ。そして今年。
『今年はゴメンネ。みんなと遊びたいけど、やっぱりクリスマスは彼氏と過ごしたいし……。と、いうことでハッピーメリークリスマス!!』
ほぼ同様のメールが3通来た。
『今年はゴメンネ』は別にいい。『彼氏と過ごしたいし』も百歩譲って気にしない。(少しするけど……)問題は『と、いうことでメリークリスマス』の部分だ。
なんで『誕生日おめでとうじゃないの?』
そう、私の誕生日は12月24日、クリスマスイヴだ。
25日に生まれたらしい「聖なる人」のせいで私の誕生日はメチャクチャだ。
子供の頃から誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントは兼用されるし、ケーキだって同じ……あぁ……鬱……
私はなんだか自分の家に一人いるのが嫌になって外へ出る事にした。
実家にいればこんな寂しい思いはしなくて済んだと思う。大学生になって一人暮らしを始めたのは良いけど、こんな副作用があったとは気付かなかった。
私の足は何故だか賑やかな方、賑やかな方へと進んでいく。
途中すれ違う幸せそうな家族を見つけると、その中でも一際幸せそうな子供を睨みつけ、半泣きにさせた。でも何より幸せそうなのはカップルだった。
『はんっ!!どうせクリスマス一人になりたくなくて付き合っただけの、にわかカップルのクセに調子こかないでよ!!』と心の中で街中に群がるカップルに毒づく私。
…………ふと立ち止まる…………
なんだ……私……一人じゃん……
そう思うと冗談にもならない寂しさがこみ上げて、私はそれを隠すように、コートの襟を自分に引き寄せた。
もっと人がいる所へ行きたい。私はなるべく無害で悲しい気持ちにならない賑やかな所を探した。
そこで見つけたのは銀行だった。これなら3時まではしのぐ事が出来る。銀行ならみんな考える事はお金の事だけ。しかも、何だか人は絶える事がない。
私は街中から逃げ出すように銀行へ入った。
第1話 終わり
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Christmas Time
第2話 「そんなことしたら!!私お嫁に行けないじゃないっ!!」
私は相当、ついてないらしい。
何で隣り合ってる人と手足を縛りあわなきゃいけないの?
「おらぁ!!ソコ!!ブツブツ言ってんじゃねえよっ!!!」
そう言って私を脅かした男は銃を持っている。
私は銀行強盗に巻き込まれたのだ。
「…………」
とりあえず、文句を言うわけにも行かず黙って隣の人の手足を縛る。
っていうかこの銀行強盗、金を取ったらさっさと逃げればよかったのにっ!!
目の前にいる私とあんまり変わらないような風体の男は金を取った後、シャッターを閉めろと要求した。そして、最初のパニックから逃げ遅れた私を含む20人ぐらいは人質となったのだ。
シャッターを閉めているからわからないけど、外からはサイレンの音が聞こえる。どうやら警察はもう前にいるみたい。
人質全ての人が手足を縛り終わると、銀行強盗は私たちを並ばせた。そして、一番前にいる恰幅のいいオヤジに強盗が話しかける。
「お前、今日の予定は?」
「え、え?」
突然の質問にオヤジは戸惑っていた。
「『クリスマスイヴの予定は』って聞いてるんだよ!!」
「あ、あ、あ、か、か、家族で外食を……」
「ふうーん。すると、そのためにお金の引き出しに来てオレに巻き込まれたと」
「は、はい……」
がっくりしたオヤジの反応を見ると、男はニヤリとしてジャンバーのポケットから錠剤のようなものを取り出した。
「コレを飲め」
「い、嫌です……」
「飲めって言ってんだよ!!」
そういうと男はオヤジに銃をつきつけた。さすがにこの状況では飲まないわけにはいかないと思ったのか、オヤジは錠剤のようなものを飲み込んだ。
「ちゃんと飲んだかチェックするからな」
男はオヤジの口を開けさせ、丹念に調べた。
「よし次」
そう言うと次々と今日の予定を聞きだし、その後ポケットから取り出した錠剤を飲ませるのだった。
それにしてもココに居る人質は、みんなこの後の予定がある人ばかりだった。
私は少し“コイツ等いい気味”とか思った……しかし、そんなことを思うのも少しの間だけだった。
とうとう私の番が来たからだ。
「お前、今日の予定は?」
「…………」
私は答えられなかった。だって、予定なんてないんだもん。恥ずいじゃん。
「……答えろ……」
「…………」
無言で銃を突きつけてくる強盗。私は自分の命と自分のプライドを秤にかけた。結果はアッサリと自分の命が勝った。
「……特に……ない……です」
なるべく他の人に聞こえないようにボソッと言った。
「あぁ?何だって?」
「……特に……ないです」
「聞こえねぇー」
何か私は腹が立ってきた。なんで私だけがこんな目に遭わなくちゃいけないわけ?他の友達は男と上手くやってるのに!!私は誕生日なんだよ!!
「予定なんてないわよ!!悪い?!えぇ?悪い?!誕生日が今日で悪い?どうせ私なんか誕生日にこんな所へ暇つぶしに来て、こんな不幸な目に遭って死ぬんだからっ!!!!」
今上げられる一番大きな声で怒鳴ってやった。どうせ言ったって言わなくったって変な錠剤飲まされて死ぬんだから!!
すると、強盗は私を暫く見つめると何事もなかったように次の人に質問をした。えぇ?私には飲ませないわけ?
もしかして私、強盗を怒らせちゃった?後で私だけ見せしめに銃で殺される?という新たな不安を抱えつつ、言いたい事が言えたスッキリした気分半々で強盗を待つ事になった。
ようやく人質全員へ質問が終ると、強盗は私たちから少し離れた所で座り込んだ。
そして、2,30分経過した。強盗は座り込んだまま動かない。私達も動かない(というか動けない)。そんな時……
ドサッ
何かが倒れたような音がした。
私は音のほうへ振り向くと最初に薬を飲まされたオヤジが倒れ込んだのだ。私は戦慄した。これから私を除く全員がこうやって死んで……
グーグー
はい?今なんか聞こえてきましたけど……
すると次々回りの人質も倒れ込むように……寝だした。
「睡眠薬が効き出したようだな」
声の主は強盗だった。強盗はおもむろに立ち上がると。軽く体を動かし始めた。
そして、体が暖まったのか何回か軽くジャンプした後、私のほうへ近づいてきた。
「こ、こ、殺すの?」
私が抵抗しようとすると強盗は力ずくで私を抑えた。
「大人しくしろ!!すぐ終るから!!」
え?マジで?ここでするの?
え――――――――――――――っ!?嫌―――――――――――!!
第2話 終わり
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Christmas Time
第3話 「そんな使ったことないのに出来るわけないじゃん!!」
人生どうなる判らないものだ。
私は今、とんでもない事をしようとしているのだ。
「じゃあ、お前にはコレだ」
そういって渡されたのは小型の銃だった。
強盗が私を押さえつけたのは結んだ紐を取るためだった。
私は手足が自由になった。だからといって、自分の身が安全になったわけでは全然ない。
「今からお前には手伝って欲しい事がある」
そう言うと強盗は持参していた大きなスポーツバックを漁りだした。
「あのー……私は何をすれば……」
すると男はこっちを見ずに言った。
「警察と銃撃戦」
「えぇーーーーーーーーーーーーーーーー!?」
「お前どうせこのままやってても何も予定がないんだろ?だったら手伝え」
「うぅ……意味わかんないんですけど……」
すると強盗は外を指差した。
「街を見てみろよ。幸せなヤツがゴロゴロしてる」
「はぁ……」
「そいつらに風穴を開けてやるんだ。不幸せな人間がココにいるぞって表現するんだ」
「そんなの違う事ですればいいじゃない?(何も私を巻き込まなくてもいいじゃない!!←心の声)」
「俺、銃撃戦が好きなんだ。どうせ」
「…………」
黙ってる私に強盗は困ったような顔をした。
「……って説得力ないか……まぁ……お前に言っても判らんとは思うけど、俺……ちょっとした失敗をしちまってな。今では命を狙われる身さ。そんでもって昨日は工事中の土管の中で一夜を過ごしたんだ、震えながら。震えながら聞こえてくるのは何だと思う?楽しげなクリスマスソングさ。こんなにオレは震えているのにこんなにオレは怯えているのに世間の奴らは楽しげに過ごしてるんだぜ?そんなパーティーに参加しない訳にはいかないだろ?世間の奴らが喜びでクリスマスを祝うならオレ達は……この鉛の弾でクリスマスを祝ってやろうじゃないか!!」
「もしかして……オレ達の中に私も入ってる?」
「あぁ、お前もオレの気持ちがわかるかなと思ってな……独りなんだろ?」
「アナタ、変。人質なんかに銃を渡してただで済むと思ってるの?」
「だったらオレを殺せばいい。そうすればお前は自由になれる」
「自棄になってるの?」
「……かもな。どうせ死ぬんだし……それに見ろよ警察の奴らは完全防備だ。こんな銃撃った所でどうにもならんさ。お前には迷惑かけない。全部オレがやった事にするから」
私は強盗に気持ちは理解できなかった。
でも1つだけ判るとすれば……独りだろってところ。
この強盗は震えながら、殺される恐怖に怯えながら、楽しげなクリスマスソングを聴きながら、一晩を過ごしたんだと思うと(他人事だけど)なんだか哀しかった。
「私はあなたに脅されてやった……それでいいんでしょ?」
「おぉ、ありがとう!!」
こうして強盗と私の短い銃撃戦が始まった。こんな聖なる日に……。
とりあえずガラスか覗いた感じでは、機動隊の盾がビッシリ並んでいた。
「隙がない……」
「隙なんかなくてもいいさとりあえず撃つべし!!」
そういうと強盗は外に向けて発砲した。ガラスも開けずに撃ったので、ガラスの割れる音ともに意外と淡白なパンという音がして機動隊へ弾が飛んでいった。
すると、着弾したと思われる付近がにわかに騒ぎ出し、いままで一糸乱れず並んでいた盾がガタガタ動き出した。慌ててる……
「おもしれー!!お前も撃ってみろよ」
私は頷き、銃を構え発砲した。
再び、ガラスが割れ機動隊がやたら慌てていた。
「親指の付け根が痛―い」
私はあまりの痛さに銃を落とす。
「バカだなぁ。銃には撃ち方があるんだよ。お前みたいな撃ち方したんじゃあ、親指に負担がかかるだけだぜ」
そういうと、強盗は見本を見せた。私は手の痺れが取れると強盗のまねをして発砲した。
「あっ、痛くない」
「だろ?」
「それにしても、警察は撃ち返してこないね」
「日本の警察だからなぁ……アメリカだったら今頃どうなっていた事か」
その後はただ夢中で発砲していた。何だか凄く気持ちいい。
なんだか全部忘れられそうな気がした。嫌な事も良い事も全部……
「オレだって好きでこんな生き方してんじゃねぇーっ!!」
強盗は何か叫びながら発砲していた。私も真似がしたくなった。
「○○スのバカヤロー!!アンタのせいで私は一人になった気になるじゃない!!それから、くたばれこのバカップルー!!聖なる夜の『せい』の字を勘違いしてんじゃねぇよ!!」
そして発砲。
「お前等に言っても判んねぇだろうけど、オレだって死にたくねぇんだよ!!テメエに遅かれ早かれ死ぬオレが他の人に迷惑かけたくないから独りでいる気持ちが判るかよ!!土管で震える気持ちが判るのか?判るわけなぁよなぁ!!」
二発発砲。
「アホ!!アホ!!アホ、由紀子!!あのメールホントはゴメンが言いたいんじゃなくて自分が彼氏と過ごすんだってアピールしたいだけじゃない!!いままでコソコソとバレない様に付き合ってんじゃねぇよ!!」
わからないぐらい発砲。
「『鉄砲玉なんてやくざ冥利に尽きますねぇ、実はオレには出来ないですけど憧れてます』だぁ?ふざけんな!!てめぇの心内なんてバレバレなんだよ!!くだんねぇおべっか使ってんじゃねぇ!!この適当に話だけ合わすコバンザメ男!!」
堪らなく発砲。
「みんな、みんな、私を置いてとっとと結婚して子供つくって孫出来て、『あ〜シワセダナァ』とか言って愚にも付かない家族生活送ればいいじゃない!!あぁ、お前らメデテエナァ!!」
意味わからず発砲。
とにかく私達は色々な意味で発砲した。
第3話 終わり
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Christmas Time
第4話 「そんな事言われたって、私……私……」
外においてあるパトカーのガラスも殆ど割れた。
警察は乱れ飛んでくる弾に動く事もできず、私達はただストレス発散の為に撃っていた。
しかし、その終わりもあっさり来た。
私の発砲した弾がとうとう人を捕らえたのである。
適当に撃っていたのでまさか当たるとは思わなかった。
外がにわかに騒がしくなり、倒れた人の周りに人だかりが出来た。
「あ……当たった?」
「……そうみたいだな」
ようやく私に現実感が戻ってきた……手が震えてくる……
強盗はため息を一つ付くと頭をかきながら言った。
「ゲームは終わりだ。お前は寝てるフリをしろ。他の人質と一緒にいましたっていうフリをするんだ」
そういうと強盗は身支度を始めた。
「で、で、でも撃ったのは私だし……」
「言ったろう?お前には迷惑かけないって」
「でも……」
私は泣きそうだった。
その時、私の頭にふわっと強盗の手が乗せられた。
私は強盗を見上げた。
「誕生日おめでとう」
「え?」
「誕生日なんだろ?お前」
「う…うん……」
「悪いな。このセリフを言うのがオレなんかで。お詫びにオレがクリスマス生まれの聖なるオッサンに文句言ってやるから」
そういうと強盗はポケットから初めとは違う薬(らしきもの)を取り出し口に含む。
「じゃあいってくるな」
そういうと自らシャッターを開け、強盗は警察に投降した。
その後の事はしばらく良く分からなかった。
大勢の警察官が銀行へ入ってきて、私達人質は保護された。毛布にくるまれながら私はただ呆然としていた。
一体、彼はなんだったんだろう?分かり合う暇もなった。でも……分かり合えた気もする。
その時偶然刑事の話が耳に入ってきた。
「おい、あの強盗いつの間にか口に青酸カリ飲んでて、今さっき病院に運ばれたが手遅れだったらしい」
「!!!!」
そこでようやく私は涙がこぼれた。
『お詫びにオレがクリスマス生まれの聖なるオッサンに文句言ってやるからな』
「アンタ……どうせ……地獄逝き……じゃない……バカ……」
私は声を上げて泣いた。
それを見た婦警さんが私に近づいた。
「よっぽど怖い思いしたのね。さっ、コレでも飲んで落ち着きなさい」
そう言って温かいココアを差し出した。それを泣きながら飲んだ。
ココアは私を温めてくれた。
Christmas Time 終わり
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