『でばすかー』



 木に縄をくくりつける。近くにあった手ごろな箱を台にする。台の上に登り、目の前の縄でできた輪を見つめる。

―あぁ、これで逝ける―

ここはとある樹海。僕は自殺しようとしていた。それはなぜだろう?人生に疲れた?漠然とした不安?
理由なんかどうでもいい。どうせ死ぬんだから・・・・・・。
僕は縄に手をかけた。


ガサ、ガサッ!!近くの草むらが揺れた。



「もーっ!!ここドコだかわかんなぁぁぁぁい!!」
訳の分からん叫び声とともに出てきたのは、女の子だった。
年齢は僕と同じ二十歳前後、長い茶髪を揺らせて近づいてきた。そして僕らは目が合った。
「あっオトコがいる」
「・・・・・・・・」
女の子は急に下を向いたかと思うと、次に肩を震わせ僕を見つめた。目は潤んでいた僕にすがりつく。


「ねーっ!!助けて!!リンちゃんこんなところ、お断リン!!」
「何だ?何なんだ?」
「リンちゃんねー、カレシと車でここまで来たのぉ、リンちゃんねぇー、車からおりてって言われねー、リンちゃん置いてけぼりなのぉ〜」
「待て、待て、いきなり現れて、そんなに矢継ぎ早に言うな」
僕は女の子を落ち着かせた。


「俺は今から大事な用があるから、悪いけど自力で帰ってくれる?」
もういい。これ以上人と絡むのはゴメンだ。
しかし、そんな事とはお構いなしに女の子は吼えた。
「いやーーーーーーーーーっ!!!!一人ぼっっちは、さみしいのぉぉぉぉっっっ!!!!そんなの“激”お断リンっっっっっ!!!」


あんまり耳元で言うから耳鳴りがした。
どうやらこの子に何を言っても無駄みたいだ。僕はとりあえず彼女を樹海の外に出す事にした。死ぬのはその後にしよう。
その主旨を彼女に伝えると僕に「ぎゅっ」とか言って抱きついてきた。
その拍子に何かが彼女のポケットから落ちる。目薬だった。
全く、僕の死も安くなったもんだ。目薬に負けるとは・・・・・・。


樹海を歩く。元々自殺目的でここまで来たのに、帰り道をちゃんと覚えていた。
「ねーまだ、つかないの?リンちゃんつかれたぁ〜。リンちゃんノドかわいたぁ〜、リンちゃんオナカすいたぁ〜。リンちゃん、リン界点寸前〜」
「あーもう、リンちゃん、リンちゃん、ウルサイよ!!」
「だってぇー、リンちゃんは琴和リンっていうんだもん!!」
「別に名前なんか聞いてない!!」
「えーん、タッチンがいぢめるぅ〜っ!!」


「誰がタッチンだ!!俺は沢村健二って言う名前があるんだ!!」
「じゃあサワジ」
「駄目だ」
「えぇーん!!サワジがいぢめるよぉ〜っ!!」
「・・・・・・お前バカだろ?」
すると散々、わめいていたリンが、黙った。
・・・・っと思ったら、これでもかって言うぐらいの満面の笑みで答えた。




「ばかでーすっ!!!」




ほんとに気持ちよく言った。
チッ、僕は舌打ちした。何かコイツを見てるとイライラする。
その原因も分かっている。それは・・・・・


臆面なく自分をバカと言えることだと思う。
それは決して「どうせ私なんか・・・・」という自嘲的なバカじゃない。
自分というものを本当に分かっているバカ。
僕にはその勇気がない。「どうせ・・・・」が取れない。
変なプライドが邪魔をする。
だから自殺しようとしたんだ。


こんなプライドを守るために・・・・・・・
     ・・・・・・・これじゃあ僕がバカみたいじゃないか。



「おんぶ〜」
僕は仕方なくリンをおんぶした。人の重みが感じられた。
後ろではリンが変な鼻歌を歌っている。なんか死ぬのがアホらしくなった。


そうしている間に僕らは樹海を出た。近くの駅まで行き、二人分の切符を買い僕らは駅のベンチに座る。
僕は自殺するのを止めた。少なくとも隣のこいつを見てるとその気もうせる。
僕は彼女に感謝の言葉を言おうとした。でも、恥ずかしくて言いにくい。僕は下を向きながら言った。


「あのさぁ・・・・ありがとな・・・・もしかしてお前、俺の自殺を知ってて、あんな事してくれたのか?だったら俺・・・・・。なぁ、これからお前どうするんだ?よかったら俺と一緒に・・・・」
そして僕は横を向いた。
だが隣には誰も居なかった。
やっぱり・・・・・・僕を自殺させないために・・・・


「ねー、リンちゃんを家まで連れてってぇー」
聞き覚えのある声に後ろを振り返ってみる。
そこにはリンと見知らぬ男が立っていた。
「えぇー、でも君、目の前にカレシいるだろ?」
男に言われてリンは僕の方を見る。
「あんな男、お断リン!!」
「・・・・・・・・」
その時、ちょうど電車が来た。



終わり



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