『天使になんてなれなかった』



僕は天使・・・・・・の卵。
今、丁度天使試験の真っ最中だ。
ハッキリ言ってこれに賭けてる。これを逃したら100年は待たなくちゃあならない。


僕は100年も待てない。なぜなら、人間と天使の子供だから。寿命が普通の天界の人間と比べて半分もない。それに天界では僕のことを半人前以下にしか見られない。
それも全て、天使の輪を手に入れれば解決する。
僕は猛勉強をした。それによって倍率1012、15倍の難関をいくつも潜り抜け、ついに最終試験まで来た。最終試験は人間界に降りて行われる。


「という事で君に課す、最終試験はあれ」
そういって試験官は下に居る一人の少女に指をさす。
「あの人間に天罰を下す事、つまり不幸にしなさい」
「・・・・・不幸ですか?奇跡じゃなくて?」
「その通り。別に人を幸せにする事自体が天界の仕事ではない。不幸にして試練を与えるのも仕事の一つ」
「確かに・・・・・」
「期間は一週間です。頑張りなさい」


こうして僕は最終試験に臨むことになった。
まずは少女の身辺調査からだ。この試験は不幸にするにしてもどのくらいの不幸にするかで、採点が決まるので慎重に行かなければならない。
彼女からは僕は見えないので、すぐ隣について歩く。


何日か付いて分かった事は、凄くいい子だということ。
近所の人にも挨拶するし、道端のゴミだって出来うる限り拾う。困っているお年寄りがいれば助けるし、学校の友人達からも信頼が厚い。
この子を不幸にするのか?さすがは最終試験だ。ただ悪い人間を罰するのではないらしい。
今のところ、この子を罰する気にはなれない。


彼女の家に帰るとさらに僕の気持ちを困らせる出来事が起きた。彼女は両親が居ないのだ。
今は叔母夫婦の家に世話になっているらしい。与えられた彼女の部屋に入る。以前は物置小屋だったような感じで、部屋の雰囲気はしない。粗末な部屋だ。
奥にあるのは両親の位牌と両親の形見だろうか?ゴルフクラブと包丁が置かれてあった。
「ごめんね、お父さん、お母さん。今日もあんまり良い事出来なかったよ。明日はもっと良い事するからね」
『ごめんね』で始まるこの挨拶を彼女は欠かしたことはない。
そして、夜遅くまでバイトをして帰ると、今度は叔母の家の食器洗いが待っていた。
黙々と洗う。


こういう子が居るのだ。不幸に不幸を重ねる子。
人間の幸、不幸はプラスマイナスゼロではない。
幸運ばかりの人間も居れば、不幸ばかりの人間も居る。こればかりは前世からの積み重ねだとか、生まれた家の盛衰にも左右される。
この子はとことん貧乏くじを引いているようだ。


こんな子に僕は天罰を下せるのだろうか?
運命だと思えばそれで済むかもしれない。
でも、僕はその運命をも変えることが出来る天界の人間なんだぞ。
迷いに迷った挙句、答えは出ず、とうとう一週間が過ぎようとしていた。


彼女を見る。今日も何かを埋めるように必死で良い事をしている。真剣な顔だ。
僕は天使になりたいという自分の欲のために人を一人不幸にしようとしているのだ。

これが天使か?人を罰する事は悪いことじゃない。

でも・・・・・・頑張っている人を罰するのが天使の仕事なのか?

だけど・・・・・これを逃したら僕は受験資格を失う。半天界人の受験対象年齢ぎりぎりなのだ。僕だって不幸なんだ!!

・・・・・だから彼女の気持ちが痛いほどよくわかるんだ!!


天使って何なんだよ!!不幸って何なんだよ!!


僕の手が彼女に向けられる。手に集まった黒い不定形な物体は彼女へ向かって飛んでいった。そして、彼女の体内へ入って行った。
その直後、歩道を歩く彼女にバイクが突っ込んだ。彼女は宙に舞った。
これが今回設定された一番軽い罰なのだ。
僕はやるせなさに下を向いた。
その直後、試験管が下りてきた。


「・・・・・これでいいんでしょ?これであんた達試験官は満足なんでしょ!!」
僕は試験官をにらみつけた。
「・・・・・・・残念ながら君は不合格だ」
そう言うと試験官は手から黒い塊を彼女にぶつける。
その途端、さらに彼女めがけて乗用車が突っ込んだ。彼女はぼろ切れのように転がる。


「何をするんだ!!」
「これが正しい解答。君は彼女の善行で気付かなかったかもしれないが、彼女は以前、両親を殺害したんだ。原因も単純で快楽殺人だ。このまま放置しておいたら叔母夫妻まで殺されていた。両親を殺した手口と同じゴルフクラブで殴り殺しか、包丁でメッタ刺しかでな」
呆然としている僕の肩に試験官は手を置く。
「これが天使の仕事だよ」
僕は天使になんてなれなかった。



終わり



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