『光』



どこまでも暗い空。ただ星々を輝かせ、地上からは何も受け付けない宇宙。
それでも地上から必死に夜空に向かって光を照らす人。
冗談なのか、本気なのか?少なくとも彼女の顔は神妙だ。


「なぁ、石田。そんなことしても無駄だって」
「うるさいなぁ、三輪は。そんな事を言うんだったら、黙っててよ」
「毎晩のようにこんな山の頂上に連れてこられるオレの身にもなってくれよ。自転車の二人乗りは結構きついんだぜ」
「だったら、車の免許取りなさいよ」
そう言って彼女は懸命に空に向かって懐中電灯の光を照らす。
しかし、光はすぐに暗闇へと消えていく。その隣でオレは寝転んでいた。


彼女は必死に夜空に向かって懐中電灯のスイッチを、入れたり切ったりしている。
「それって何か意味があるわけ?」
オレの言葉を振り向きもせずに彼女は答える。
「モールス信号に決まってるじゃない」
「へーっ、石田はモールス信号を知ってるんだ」
「知らない」
「・・・・・」


月への定住計画が発表されたのは1年前。
半年かけて希望者を募り、つい3ヶ月前、10万人規模の人類が第1陣として月へ行った。
石田の彼氏は彼女を置いて一人、月へと旅立った。


「ココから照らしても月から見えるわけ無いだろ。バカだなぁ」
その時、オレはそんなバカな行為に、1ヶ月も付き合ってるオレも相当バカだなと思った。
「バカだっていいの。地球上で一番速い光で伝えるの・・・・・こんなやり方しか思いつかないし。本当は私の想いは光よりもずっと速くて強いんだから」
「チッ、そんなにしてまで、伝えたい事があるのかよ!!」
「あるっ!!!」
「・・・・・・」


世界で一番離れてる遠距離恋愛だもんな。
月への手紙は何ヶ月もかかるし、電話だって普通の電話じゃあ圏外だし・・・・・。
せいぜい一般市民が出来るのはこれぐらい・・・・・。
こんなに近くに居たって、繋がらない想いもあるのに・・・・不公平だな・・・・・。


「聞かないの?」
飽きもせず彼女は夜空を照らしながら言った。
「何を?」
「何を伝えようとしているか」
「そんなバカな真似はしたくない」
っていうか、そんな事誰が聞くかっ!!


「聞いて」
「嫌だ」
「それでも言う」
「勝手にしろっ!!」
すると彼女は懐中電灯の光を切った。辺りが一気に暗闇に包まれる。
「・・・・私・・・・この人と付き合います・・・・・って伝えてるの」
「・・・・・はい?・・・・・・」


暗闇の中、彼女の声だけ聞こえる。
「気付くのが遅い!大体なんで毎晩、三輪を誘ってると想ってるの?ココに来るだけなら一人でも来れるっ!!折角、チャンスをあげているのにぃっ!!!」
僕は彼女の声の勢いに圧倒され、思わず告白してしまった。
「あっ・・・・・じゃ、じゃあ・・・・・す、好きです・・・・・」
「『じゃあ』はいらない!!」
「好きです!!」
「よろしいっ!!」


そう言うと彼女は再び懐中電灯の光を点け、僕に向けた。
「これからは三輪に向かって光を照らし続けるから。覚悟してね♪」
「は・・・・・はい・・・・」
光を一身に受けて僕は覚悟した。



終わり



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