『メモリーズ』
僕は渡り鳥。人間達はガンと呼ぶ。
今年ももうすぐココを発つときが来た。
大人たちが旅立ちの準備で忙しい中、僕は疑問に感じていた。
だから、お母さんに聞いてみた。
「ねぇ、どうしてココから旅立たなきゃいけないの?」
「どうてって・・・・そうしないと寒いでしょ?」
「僕、ここを出たくないよ。だって僕はココで生まれたんだよ?」
「バカなこといってないで早く準備しなさい」
お母さんは僕の言う事なんかちっとも聞いてくれない。
お母さんはいつもそうだ。すぐ『バカなこと言ってないで』っていう。
馬鹿なことじゃないやい!!僕はこの場所が好きなんだから。
お母さんに聞いたのがバカだった。物知りの長老さんに話を聞こう!!
長老さんは僕が生まれてからずっと僕の疑問に答えてくれた偉い人だ。
今までだって色んな話を聞かせてくれた。
長老さんのところに行くと水面には浮いているものの、長老さんは体調が良くなさそうだった。
「長老さん、どうしたの?」
長老さんは最初、僕に気付かなかったみたいだけど、暫くして気付いたのか僕を見た。
「どうした?」
「長老さん。なんで僕らは旅発たなければいけないの?」
「お前は旅立ちたくないのかい?」
「うん!!僕、ココが好きだもん!!」
すると長老さんは僕に近づいた。
「お前は気にならないか?」
「何を?」
「この湖の向こう側。新しい発見、出会い、感動。全てがこの向こう側にあるんだよ」
難しすぎてよく分からないよ。長老さんは僕の様子を見て微笑んだ。
「ゴメン、ゴメン。分かりにくかったようじゃな。では、ワシの話を覚えているかな?」
「長老さんが話してくれた、ココより大きな湖や塩辛い水とか毛むくじゃらの生き物とか?」
「そうじゃ。そういった事がたくさんお前には待っているぞ」
僕はチョット、ワクワクした。でも、住み慣れたココも捨てがたい。でも、毛むくじゃらは見てみたい。
「心配するな。お前はまたココへ帰ってこれる」
「ホント?」
「渡り鳥とはそんなものじゃ」
「じゃあ、行くッ!!ありがとう長老さん!!僕お母さんのところへ行って来るね?」
という事で僕は行く事にした。
一羽、また一羽大人たちが旅立っていく中、僕は長老さんの姿が見えないことに気がついた。
「お母さん、長老さんは?」
「・・・・・・・」
お母さんは黙っていた。僕は不安になった。
「僕、長老さんを呼んでくる!!」
「あっ、待ちなさい!いっては駄目」
僕は母さんの言う事を無視した。
長老さんはまるで僕達に気付かれないように湖の隅っこに居た。
「長老さん?」
「・・・・・!!お前、ここで何をしてるっ!!旅立つのではないのか?」
「長老さんこそ、どうなのさ。何でここに居るの?」
「・・・・・ワシは体が重すぎて飛べんのじゃ」
「嘘だ!!だって長老さん痩せ過ぎてるじゃないか!!」
すると長老さんは僕に背を向けた。
「見た目の話じゃないのじゃ。今まであった楽しかった事、嫌だった事、怒った事、泣いた事、すべてがワシの体に巻きついているのじゃ」
「・・・・・・分かんないよ・・・・・」
「当たり前じゃ。お前はまだ何もしていないではないか・・・・・いつか、お前にも『想い』が『重い』に変わる瞬間が来る。その時が人生の・・・・・いや、まだまだ先の話じゃな」
「要するに年取ったから行かないの?」
「そうかもな・・・・自然の法則には逆らえん」
ちょうどその時、お母さんが現れた。
「ココで何やってるの!!さぁ行くわよ」
お母さんは長老さんを無視して僕をせきたてる。僕は無理やり連れて行かれた。
「酷いよ!!酷いよ!!長老さんを残して行くなんて!!」
お母さんは僕の方を見ないでポツリと言った。
「生きるって大変なのよ。アナタにはまだ分からないかもしれないけど」
分からない!分かりたくないよ!!僕はお母さんを睨み付けた。
でも・・・・お母さんは、ひどく悲しい顔していた。僕は睨むのをやめた。
僕は黙って旅立った。
終わり
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