『信号待ち』


 夜、それも真夜中、僕と彼女は歩いていた。しばらくすると横断歩道が見えてきた。しかし、目の前の信号は赤なので僕は立ち止まった。
止まっている僕に構わず、彼女は横断歩道を渡った。

 彼女は横断歩道を渡りきると、振り返り、
「こんな深夜に車なんて来るわけないじゃん」
と向こう側で叫んだ。
僕は何気なく止まったが、彼女は何のことはなく渡った。僕はそれに少し腹が立った。
「別にオレは赤だから止まったわけじゃねぇ。こんな深夜でも赤で止まる余裕が欲しかったんだ。お前も少しは止まる勇気を持てよ」

 すると彼女はムキになって言い返してきた。
「なにさ、アンタは止まってばっかじゃない!アンタこそ少しは渡る勇気を持ったら!だから、いつも見逃すのよ!」
僕はとりあえず笑うことにした。だが、顔の引きつりは取れない。
「よし、そこで待ってろ!今、渡ってやる!!」
僕は勢いよく渡ろうとした。

 その時、僕の目の前をトラックが猛スピードで通り過ぎた。僕はその場へしりもちをついた。彼女は大笑いした。
「いつも、これだよ」
僕はいつもこれだ。進もうとすると、いつも邪魔が入り、しり込みする。そうやって立ち止まって見過ごすんだ。『もういいや』って・・・・。

 一通り笑い終わると彼女は僕に駆け寄ってきた。
「何で戻って来るんだよ!無理にでも渡ってやるからな!!」
彼女はそれでも近づいてきて、僕に手を差し伸べる。
彼女の手を取り、僕は立ち上がる。
「無理に渡ってもいいことないよ。そういうときは戻る勇気も必要だよ。私も一緒に待ってあげるから」
僕は結局、笑うしかなかった。


終わり



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