露領沿海洲「秘密の山奥」
露國二等大尉アルセニエフ著、松本高太郎譯、今井昌雄編

まえがき

   一九二四(大正十三)年一月から八月まで高岡新報に連載された『露領沿海洲「秘密の山奥」』の復刻改訂版です。
 これは黒澤明監督作品『デルス・ウザーラ』(一九七五年公開)の原作翻訳本、『ウスリー探検記』の初版です。『ウスリー探検記』は、一九〇〇年初めに軍から空白の地である沿海州地域を調査することを命ぜられ、二回にわたって調査した記録と日記をまとめたものです。調査探検旅行は、山中で幾度となく道に迷い、飢餓に苦しみ、遭難に遭うなど苦難の連続でしたが、道案内のゴリド人猟師と接し自然を人格化した生き方に感銘を受けながら、彼の経験と知識に信頼を寄せて無事に調査探検旅行を終えることになります。
 原作者アルセニエフ氏は、一九〇二年と一九〇六年の調査探検旅行を終えて、一九一七年に草稿ができあがりましたが、同年のロシア革命の余波で一九二一年になってから出版することができました。二年後に一九一〇年の調査探検記を第二書として『デルスウ・ウザーラ』が出版されました。
 本書の訳文は元ハリストス正教会司祭・露語翻訳者であった松本高太郎(まつもと たかたろう)氏が高岡新報の友人に寄稿したもので、一九二四(大正十三)年に『露領沿海洲「秘密の山奥」』のタイトルで翻訳し、高岡新報に連載されました。
 一九三〇(昭和五)年には、分冊されたものが合冊され、モスクワで出版され評判となりました。日本では『ウスリー探検記』(一九〇二年と一九〇六年の探検旅行)が一九四一(昭和十六)年に満鉄調査部第三調査室訳(朝日新聞社)から全訳版として刊行されました。
 ロシア革命後は検閲制度の規制もあって、軍隊に関する記述の削除を含め、当時の社会思想に合うように改訂版が出版されました。 連載された翻訳はロシア革命の影響が及ぶ前の初版の作品です。
(今井昌雄記述)