雨が降る、雨が降る、深い海の底へと、雨が降る。







 RAINY









ただ、何時間ずっと俺は其処にたっていたんだろうと、おもう。
たまたま其処を通りがかっただけだ、それなのに俺は。
どうしようもなく、それにひきつけられてしまっていて。

「にゃぁ」

雨が降っていた。
最近は空梅雨だ、とか騒がれていたから、
俺はかさを持ち歩くことすら忘れて。
おかげで、歩いていたら雨が降ってきても、どうしようもなかった。
風邪をひくとか、そんなことはかんがえちゃいない。
ただ、頭にまいてるタオルから上着からズボンから、何もかもがずぶぬれに
なっちまったてことだけで。

「くそ、此れじゃズボンの中のタバコもしけてやがるな」

ゆって、ズボンの中のそれをゴミ箱にぽいと、すてた。
どうにも今日は、ついてない日だとおもった。
現場ではぼうっとする、おかげで鉄材を避けられずに足にぶつける、
おまけに親父の見舞いの帰りになったら此れだ、雨。

「ついてねぇなぁ・・・」

そして究極のとどめは此れだった。



「にゃぁ」



小さな生き物が、俺の方をみあげて、小さくないた。
どうやら、それは猫で。
立った一匹で、捨てられたようだった。
・・・・ずぶぬれになって。
体が、なんて細いんだろうとおもった。
雨でびしょびしょになった毛は、通常よりも体の線をあらわにする。

それが、とても、痛々しくて。

きっと、この子猫は、ろくにえさももらえないままに捨てられたんだろう。
そうは、おもった。
そう、いつもの俺ならばそこで終わるはずだった。
別段、俺は猫がすきだ、というわけではない。
むしろ動物は嫌いだ、情がうつると、別れがつらいから。
だから、そう、いつもの俺ならとっくの昔に、この場から立ち去っているはずで。

なのに。

「・・・・・・ゃぁ、みゃ、ぁ」



その、金色の毛色だとかやけに長い耳だとか細い眼だとか
独りで、淋しそうに、ずぶぬれになってないてやがるとこだ、とか

それは、あいつを連想させる。
今眼の前のこの生き物を見捨てるということは、
そいつも、見捨ててしまうことになりそうで。
どうしても、立ち去れなかった。



雨がふっていた。
それは容赦なく、地面にたたきつけて。



俺は、自分の頭にまいてあったタオルをはずすして。
きつく絞ってから、かるく猫の体を拭いてやった。
俺の体で、せめて猫に雨がかからないように。
そうしてかるくふいてやると、眼の前の猫は甘えたように。
俺の手に頭をすりつけた。
かるくなでてやると、とても気持ちよさそうに眼を、とじて。


どうしてこんなにも、ヒル魔ににているんだろう。


ぼんやりと、そうおもった。
ただ、違うのは。
俺がなでてもあいつは不機嫌な顔をするだけだ、ということで。
俺は、とてもそれが淋しいと、思った。

あいつは、いつも独りでたとうとするんだ。
誰もいないところで、独りで走ろうとしやがる。
そうして叫ぶ、淋しいから、と。
俺には其の声が聞こえてるのに。
其処には何もねぇから、俺には痛いほどに聞こえるのに。

近寄れない、拒まれて。

どんなに手を伸ばしても、ヒル魔自身が拒むから。
入れない、近寄れない、俺にはなにも、できない。
それでも聞こえてくるのは、助けてほしいという声と、淋しいという声と。

そのためなら、この手がちぎれてもかまわない。
それほどに、俺はあいつに手をのばしているのに。

あいつと、この猫と、どこに大差があるというんだろう?

叫ぶ、淋しいから、助けて、と。
ただあいつはそれをいっておきながら、それを、拒むだけ。




それがどんなに悔しいか。
あいつはきっとしらねぇに決まってる。




悔しいんだ。
だってこんなにちかくにいるのに。
悔しいんだ、
だってそれはきっとヒル魔はどこかで俺を、拒絶していて。
哀しい、んだ。
それは俺を必要としてもいないと、いうことで。


他人に勝手に幻想もとめて自分で勝手に滅亡してる。
そんな俺自身がとても気持ちが悪いと、おもった。
手を伸ばしてくれれば、せめて助けてやれるのに。
それすらもしようとしないあいつはたださけぶ。


『淋しい』


それは俺のこころに傷をつけて。
小さい、小さい、けれど。
疼くように、痛い。
赤、赫、けれどそれは微量に。
俺の其処を、蝕んでいく。

そんな顔をして、笑うな。
そんな顔をして、怒るな。


俺は何もできない。
何もできないんだ、こんなにお前を助けてやりたいのに
否、その他人を助けてやるという発想すらすでに自意識過剰かもしれねぇ。
だが。

何も、できないんだ。
お前の声が聞こえるのに。
痛いぐらいはっきりと聞こえるのに。
何もできねぇ、俺は



俺は、無力なんだ。



ヒル魔が拒絶しているところに、無理やりにでも踏み込んでいくことすら、できない俺は、臆病で。
とんでもなく、俺は、どうしようもなくて。


きっとヒル魔はしらねぇだろう。
自分が幸せじゃないことで俺も幸せでないことなど
きっと、あいつはしらねぇだろう。
自分を助けてやれないで拗ねている男がいることを。



ふと気がつくと、あんなにどしゃぶりだった雨が上がって。
空には、虹がかかっていた。
あっというまの晴れ間に、俺は少々驚きもしたが。
やんわりと頭をなでていた手を、体にもっていった。
そのまま持ち上げて、其の猫を抱きしめた。

「なぁ、どんな雨がふってたって、空は晴れるんだってしってるか?」

猫はまるで俺の質問にしっているとでも答えるように
ちいさく、けれどはっきりとみゃぁ、とないた。

「でもな、晴れるまでの雨をしのぐために、傘があるってことを、知らない馬鹿がいるんだ。」
それは、お前にそっくりで、けれども似ていなくて。

きっと猫のようにこの腕からするりと抜けていくことも違いなくて。
それが淋しくて、少し微笑った。

「おれんちにくるか?大したもんは用意できねぇがな。」

それでもきっとあいつは傘なんていらねぇといって突っ走るんだ。
当の傘が、それで拗ねてるとも知らずに。
それがなんだか滑稽におもえて。
すると、俺のかわりだ、とでもいわんばかりに、其の猫がしきりにないた。



「よし、お前の名前はヨーイチだ、あいつがきいたら怒るだろうがな」








もちろん、後日ヒル魔が俺の家にきたときに、てめぇが猫を飼うなんざ想像もしてなかったぜ、といって俺をこき下ろしたのはいうまでもない。








 20050702/はらっぱー
なんていうか雨がふっていたのでかきたくなった話。
なんかこう、ムサシと小動物って似合うようなきがするんですよ・・・!