何も知らなければよかった。
そうすれば、自分がこんなにも愚かな生き物なのだと、自覚しなかったかもしれないのに。








汚泥










ただ、その一言をくりかえすのみだった。
「・・・・・、・・・・・、・・・・・、・・・・・・・・・・・・・。」
ひゅう、と頬を嬲ってゆく風も、ただこの頭を冷やす事はなく。
手元においたペットボトルが、ぐしゃりと音を立ててつぶれた。
そのまま其れを、ペットボトルごとコンクリにたたきつけた。
遠くで聞こえるチャイム。
ざわめく校内。
其れさえも、今は全て遠い世界のように。
幸い、誰も屋上にはこない、だから。
何も、見ないフリをした。
何も、聞こえないフリをした。
そうでもしないと、如何あがいていいかわからないこの感情が。
このまま内で渦巻いたまま、俺は歩き出してしまいそうだったから。

「しらなければ」
よかった。

ただ、その一言を呟いて。
何度も、なんども、終わりなどくることがないように。
そうだ、俺は知らなければよかった。
こんな感情などすぐに吐きいてすててしまえばよかった。
足でけって、つぶして、そしてきりきざんで。
だって、知らなかった。
知るはずもなかった。

どうして、人を愛してしまったんだ。
こんなにも、心は悲鳴をあげているのに。
「あー、もう、胸糞わりぃ、んでだよ、んで、俺は、こんなところで。」
もっと、暖かな物だと思っていた。
其れは、俺を満たしてくれると。
ありもしねぇ幻想抱いて。
其れが、どれだけ愚かなことだったのか、俺は知らずに。



気がつけば、望んでいる。
ひたすらに、俺に伸ばしてくれる手を、待っちまってる。
そして絡む指が温かいことに安堵して
そして絡む腕の柔らかさに、安堵して
いつしか其れを、ひたすら望んで望んで望んで、望んで。
もう、其れなしでは立ち上がっていけないという自分がいる。
あんなにも1人で立っていたのに、もうこの足では立てないという自分が、いる。

弱く
あのころよりも弱くなった自分が、いる。

(だっておれはひとりでもたっていけるとしんじてた)
其れは、まるで黒で塗りつぶされた部屋に一人うずくまっているよう
(ねぇ、だっておれはだれもあいしていなかったから)
しらない、しらない、こんな感情はしらない
(だから、ひとをあいしたらどうしていいのかわからないんだ)





――――――――――――わからねぇんだ。




どうしていいのか、其れすらわからねぇんだ。
どうやって動けばいいのか、どうやって呼吸をすればいいのか、どうやってどうやってどうやって、
どうやって、触れればいいのか。
そんな感情知らなければよかった。
こんなにも、醜い自分がいると気がつかずにすんだ。

この感情は果てしなく、欲望に近い。
ずっと、傍に。
ずっと、俺を。
ずっと、ずっと、ずっと、どうか愛して。

其れが束縛以外のなんだというんだ?
俺は、自分の欲望のままに、あいつを、俺の元に縛りつけようとしている。
何にも阻まれることなく、其れは硬い手錠のように。
離したくはない、と切望している。
あぁ、どうか片時も俺の傍らに。
傍にいない、そのことが異常だと心が告げる。
其れこそが異常だと、俺は気がついているくせに。



あいして。
(ぼくはだれもあいしたことがなかったから)
ねぇ、どうかぼくをあいして。
(だからだれもぼくをあいしてくれなかった。)



あいつが、いつか俺を愛さなくなるだろうときが、きっと。
ある、其れは確証のない、揺るがなき真実。
だからこそ。
怖いんだ。
俺のドロドロとした感情の所為で、捨てられてしまうのは。
こんなにも、1人では立てない自分になってしまったから。

もう、立ち上がれないと絶望する。
かってに絶望して、かってにつぶれて、それでも俺は立てなくて。
差し伸べてくれる手があることを、痛いほどにわかってしまったから。


「―――――――――なんでこんなとこで授業フケってんだよ、あんた」
「てめぇこそこんなとこでサボリか?」


かけられた声に、条件反射のように声がでる。
否、実は内心ドキドキだ、くそ、俺の心臓破壊する気か。
「十文字」
あいも変わらず、だらだらとシャツをだしてそのうえにブレザー着て。
手にもっていんのはここの購買で売ってる人気パンのやきそばパンだ。
正確にいうと、其れの包み紙だ。
こいつ、最初からいやがったのか。
俺の呟きが聞かれてなかったか、其れだけを危惧して十文字に眼を向けた。

さっきよりもひときわ、胸が鳴った。
くそ、女じゃあるめぇし。
どうしてこんなにも、こいつの顔をみると。
安堵が広がるんだ。
それが少し悔しくて。
歯噛みしながら、見上げる。

「―――――――あんた、おもしろい顔してるな」

反則技だ、と思った。
どうして、そんな所でそう、やわらかく笑うんだ。

「は、てめぇがここにいてびっくりしただけだ。」

おどけて、笑ってやった。
其れが、何の効果もなさない事はわかっていて。
それでもいまはただ、笑った。
コレが、ほれた弱みってやつだ、きっと。
どこまでも、こいつは、やわらかくて。
だから、俺のこの感情はきっと不釣合いで。
知らなければよかった。
そうすれば、この汚い感情など自覚しなくても、よかった。
知ってなければ、だめだった。
そうしないと――――

「びっくりか。じゃぁそれついでにおしえといてやる。」

そういうと、十文字は俺の前に座り込んだ。
かち合う目線、だが、俺は眼をそらさずに。
その、まっすぐな眼を見据えた。
触れ合う指先。
いつの間にか、俺の指先はこいつの指先に絡めとられていて。

「一番最初にゆった、俺は。あんたを俺のものにするって。
だから、あんたは俺のもんだし、俺のそばにずっといてくれ。
俺の隣にずっといて、俺を、愛してくれ。」

他人がきいたら、其れはなんと理不尽な言い分だと、思うだろう。
だが。

「其れと同じように、あんたは、俺を好きにしていいんだ。
俺はずっととなりにいるし、俺は、あんたのものだから。」

さいごにぼそりと、そんな捨てられる前の犬みたいなかおしないでくれよ、と呟いた。




どんなに、其れが愚かでもかまわない。
どんなに、其れが汚い感情であってもかまわない。
相手もそう望んでいてくれると、わかったから。
人を愛したら、ただ、その気持ちを抱くだけでいいんだ。
人を愛したら、ただ、その気持ちを伝えるだけでいいんだ。
弱くても、かまわない。
こんなにも、その弱さごと俺を縛り付けるあいてが、いるから。
たてなくなっても。
ひとりでもう、たたなくてもいいのだとその眼がいう。
あぁ。
俺は、強く、強くその指をにぎりかえした。









好きだ、十文字、お前が。
この体が全てを欲するぐらい、お前が、好きだ。










なにも言わず、ただ俺は眼の前でしゃがみこむ相手を強く強く抱き占めた。
これからも、片時もその手を離す事がないように、きつく、きつく。









20050519/はらっぱー
ヒル魔乙女警報発令!もまいら逃げろ!!!
もまいらって2ch用語ですよね、いやなんか響きがすきって言うか。
乙女だ。こんなはずじゃなかったのに(笑)