こんな寒い夜の日でさえ、愛しさでこころ温まる。









月夜。









窓辺から見下ろすつきあがりが、柄でもねぇがとてもきれいだと思った。
身を乗り出して、腰掛けた其処に、風が容赦なく吹き付けて。
顔にかかるかみはもうどうしようもないくらいはためいて。
だが、俺はそんなことなどかまわずに、ただ其処を見下ろした。
ただ、その月だけがきれいだったのは間違いねぇ。

凛、とした清冽な空気のなか浮かぶその月が。
雲ひとつない夜の空に、くっきりと見えて。

やけに、その月がきれいだったことを覚えてる。
あぁ、と俺はため息をこぼした。
手でいじっていた拳銃を、やんわりと手放す。
其れは、何の抵抗もなく、部屋に落ちて。
あぁ、とまた、ため息をこぼした。

夜が、好きだ。
その代わり、夕方は、嫌いだった。
あの何もない無常さが、とても気持ちわるくて。
だから、夜が俺は好きだった。
黒。
すべてを満たす、黒。
星。
幾千にも瞬く、星。
昔からかわらねぇ其れをみるのが、すきだった。

其れは、俺をよく慰めてくれたと、おもう。
いつも独り淋しかったときは星を見上げた。
その一つ一つに、想いを馳せて。
あぁ、あれはカシオペヤ座、そしてあれは北極星。
淋しかったときは、星をみていた。
みていた、其れがすきだったから。

だが、いつからだっただろう。
其れが、むなしいと思い始めたのは。

独りは、淋しい。
独りは、怖い。
独りは、むなしい。
いつからだったか。



あの、笑顔をみてからだと、記憶する。
あの、なんでも赦しちまいそうな笑顔をみてからだ。
其れが、とてもひとなつこかったから。
拒絶する前に、俺のそばへとするりとはいりこんで。
いつのまにか、そうだ、いつのまにか。



俺の名前を、よぶたびに、あいつは笑った。
俺があいつを呼ぶたびに、うれしそうな顔をした。
そうして俺の、名前を、また、呼んで。
たったそれだけのことが。
俺の、孤独をかきたてた。
これ以上、近づいたら、俺が傷つく。
あいつは、とても優しいから。
きっと、これ以上その優しさに触れていたら。

俺は、独りではいきていけなくなっちまうから。




こんなにも、独りが怖い自分がいる。
あの笑顔が俺に向けられるようになってから、俺は其れを当たり前のようにおもってしまっていて。
あの優しさが。
あの、笑いが。
とても温かくて。
とても、愛しくて。
いつか、其れを失ってしまうことは重々承知。
だが、それでも。
そのときがくるまで、ずっとこの腕に収めていたいと切望する、自分がいる。

(名前を。)
名前をよんでくれ。

月夜をみた。
風が吹いて、それが少し寒い、と思った。
そうしてそのまま、その風にのって今の俺の想いが届けば良いと、思った。

(どうか、名前を)

そうすれば、こんな底知れない暗闇は消えちまうだろうから。
お前が笑うだけで
お前が、俺の名前を呼ぶだけで。

『ヒル魔』




ありありと浮かぶ、お前の、すべて。




伝うのは涙。
まったくの、無意識のうちに流れたそれはやけに温かく感じて。
「あ、ぁ」
ため息のように、声がもれ出た。
だが、それ以上声に、ならなかった。
叫んでしまえたら、どんなに楽だったか。
しらねぇ。
ただ、感情がのどでつかえて、それ以上前にでなかった。





好きだ、とおもう。
苦しい、とおもう。





すきなんだ。
こんなにもないちまうぐらいにてめぇのことが。
ふがいねぇ、こんな俺は見せられねぇ。
だが、それ以上に。
お前を望む俺が、いる。



「あぁ、ああ、ぁ・・・・ぁ」



心の器に収まりきらない感情が
逝き場を失ってただ、零れる

其れは、たとえるならとまらない涙。

「あ、ぁ、あああ、ぁ」

押し殺した声は、せめてもの抵抗だった。
普段ではありえねぇ俺に、お前がそうさせてるから。
それでもあふれて、あふれて、とまりやしねぇ。
感情が、感情が。




好きだ。
想うたび、指先にちりりと痛みが走る。
好きだ。
想うたび、風が胸に吹き付ける。
好き、だ。
想うたび、流れるのは涙と、其れと。






「くり、た」



好きだ、好きだ好きだ好きだ好きだ、好きだ。お前が。



ただ風だけが俺の髪を撫ぜて。
そして唯月夜だけが、俺の想いを夜空に浮かべた。








20050621/はらっぱー
いやーなんかもう猛烈にヒル魔がキャラちがってますがもうこれでいくことにしましたよ。
鬼束ちひろの「私にワルツを」をききながら書いたので!
曲をもっていらっしゃる方は、聞きながら書くといいかもしれないです。