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「オーダー・メイド」
もし、これをお読みのあなたがこれから会社に就職しようとする場合、背広は先ず用意しなければならないものの一つであろう。衣類の本来の目的は温度調節であるが、背広の色やデザイン、ブランドにこだわる人はずいぶん多いと思う。しかし、もう一つの大事なことにこだわる人は案外少ないのではなかろうか。それは、あまりにも当たり前のことであるが、「着心地」である。
一般に「つるし」といわれる既製服は、一応日本人の体型に合わせてA5、AB6等サイズは豊富にあるが、所詮はお仕着せのものである。あなたは、デザインが気に入って背広を買ったものの肩や腰回りやが窮屈に感じられ、徐々に着る機会が減ってしまった経験をお持ちではないだろうか。着心地とは、本質的なものであるが故に、本来許容範囲の極めて狭いものなのである。しかし、デザインには凝っても着心地をつきつめて考える人は案外少ない。では着心地をつきつめた背広とは何であろうか?それは、オーダー・メイドの背広である。  
私は、ある日偶然、会社の地下に店を出したテーラーがオーダー・メイドの広告を出しているのを見つけた。「オーダーは高い。」そう思っていた私は、最近のオーダーは既製服と値段がそれほど変わらないこと知り、初めてオーダーで背広を注文した。出来上がったものは、自分の予想をはるかに越えたものだった。当然のことながら、自分にぴったりだったのである。もちろんこれまで買った既製服にも、自分にぴったりと思えるものがあるにはあった。しかし、じつはそうではなかったのだ。着心地がいいということがこういうことであることを、私は初めて実感した。
さて、前置きが随分と長くなったが、もしあなたがJAZZ演奏をしようとする場合、先ず用意しなければならないものは楽器である。私も、最初は趣味として続くかどうか分からないし、つるしの背広ではないけれど名の通ったメーカーの楽器(アルトサックス)なら何でもいいやと思ったくちである。しかし、楽器で最も大切なものは何であろうか?それは「音」である。その「音」にこだわらずに買った楽器に、私は徐々に満足できなくなってしまった。そこで初めて、本当に自分の出したい音とは何かと考えたのである。それは、「木枯らしのようでいて、かつ、暖炉の炎のような温かみのある音」というものだった。私は、楽器(テナーサックス)に関する様々な情報を集めた。その結果についてはいずれ書きたいと思うが、ここで言えることは現代の大量生産の楽器であっても音についてメーカー、個体によって差があり、また、マウスピース、リガテャー、リード、ネックなどパーツを変えることにより、かなり音を好みに変えることができるということである。もちろん、楽器を選びパーツをいじっても、思ったとおりの音を出すのはなかなか至難な事である。ゆえに、「楽器がオーダー・メイドできたらなあ。自分の望む音が出せるような楽器をオーダー・メイドできたらどんなにいいだろう!」。それは、私のような演奏家のはしくれのそのまたはしくれの見果てぬ夢である。しかし、それが出来ないからと言って、既成の音に甘んじていてはいずれ飽きてしまうことにもなりかねない。
私は、自分の演奏テクニックがつたないがゆえに音にこだわる人間である。他方、一般の演奏家が、どれだけ自分の音にこだわるか、私は知らない。しかし、誰しも最初からテクニックが有るわけではない。演奏を始める初期の段階にこそ、自分の納得のいく音を求めることに妥協すべきではないと思う。自分の音を求めるということは「着心地」ならぬ「吹き心地」の良さを求めることである。自分の求める音が出せれば自然と練習にも力が入り、ますます演奏が上達する好循環も期待できる。少しでも自分の納得できる音に近い楽器で練習することが、その後の、大げさに言えば音楽人生を変えることにもつながると私は考える。自分の音に自信を持つ、それは名演への第一歩である。

(2005.05.19  By Mr.Blue Moon)