草アメフト





華のあるスーパープレーで子供に大人気のセナや進にくらべると、蛭魔妖一の活躍は司令塔ということもあり玄人好み。チームメイトからは信頼されるものの、メディアの評価はやや控えめ。
逆にそのお陰で、報道を追い払う手間が少なくて済み、奥さんと子供を甘やかすことが可能だった・・・というのは、甘やかされた愛娘の証言なので、間違い無さそう。・・・などという蛭魔家の事情はともかくとして、小早川セナとアイシールド21については、アメフトファンならば既に広く知られるところとなっていた。

セナはその特徴的すぎる体格から、いやでも人目を惹き、色んな形容の餌食になるのが常だった。そうでなくとも、ホストチームの選手となると、スタジアムのDJが色々と装飾過剰な呼び名をくっつけたがるのがNFLの名物である。それにくらべれば、マシンガン真田などはまだ理知的といえるだろう。特に普及したのが、小柄な体格を活かして細い道をすり抜けるランのスタイルから、魔法の杖(マジカル・ステッキ)、奇跡の針(ミラクル・スティング)などの異称であるが、中でも子供の心をとらえたのは「壁抜け忍者・セナ」「セナ・ザ・ニンジャランナー」、というなんだか命名者がわかりそうな名前である。
(セナを学生時代から良く知る面々には、この「忍者〜」という命名はジェレミー・ワット氏によるものだと信じられていて、セナもそれを疑わなかったのだが、実はあるスタジアムの新米DJが、セナの通り名を知らなくて苦しんだ末に考え出したものだった。・・・・・・しかし、今ではワット氏自身が、自分が言い出したものだと思い込んでいる始末)



<あるNFLチームの本拠地がある都市の郊外にて>


「あっ、来た!アヤ!玄関あけてあげてちょうだい!」

「はぁい」

とんとんパタパタと軽快な足音が響く。

「いらっしゃい、すずー」
インラインスケートで鍛えた引き締まった脚にしがみつく。楽しいおねえさん、といった感じの鈴音が、蛭魔家の長女はお気に入りのようである。

「あれ?あれ?セナは?」
鈴音の脚を軸にくるくると2回転したところで、いつも一緒にやってくるおにいさんが居ないのに気付いて尋ねる。

「いらっしゃい、鈴音ちゃん。あらあら、セナはいないの?」

「うん、さっきね」

鈴音が少し表情を変える。なんだか偉そうな感じになる。
「『おう、そっちは駅に着いた頃だな。降りたらバス乗らねえで真っ直ぐに歩いて来い。グラウンドがある。テキトーに動ける準備して来い』『え、でも』『今すぐ来やがれ!!でねえと命の保証はねえぞ!!』・・・・・・だそうです」

「ゴメンね」

「それで、セナが走ってったすぐ後ね『どうだ、元気か糞チア。試合開始は一時間後だ。俺ん家着いたらすぐに来いッ』『え、試合って何の』『糞チビを生きたまま返して欲しかったら、さっさと来やがれ!!Ya―Ha―!!』・・・だって」

鈴音が視線で説明を求める。

「この町の草アメフトの試合がね、雨で延びたの」

「草アメフト!妖一兄が出るの?!」

「うん、ここの町、住民の仲がいいから。特に子供を持つ親同士はね。色々助かるけど、そのぶん、子供が地域の子たちと仲良くしてくためには、親もたまにはこういう行事に参加しないといけないわけね」

アメフト界には日本の野球界のようなややこしいプロアマ規定などは無いので、現役NFL選手である彼らが草アメフトをプレイする分には何も問題は無いのだが。


RRRRRR.....
「あれ?また?・・・ハイ、何かー?・・・はい、まだ家を出てませんよ・・・え?なんで?・・・はーい・・・ぁ、もう切れちゃった」

「何だって言ってた?」
鈴音が日本語で喋っている時点で、相手はほぼ間違いなくセナか蛭魔であることは明白。なので、まもりはわざと主語を省略して訊いた。

「『急ぐな、ゆっくり来い』『事故に遭うな』」だって!」

くすくす笑い出す母と鈴音を不思議そうに見上げていたのは、事故から守ろうとされている大きな瞳だった。
最初に「急げ!」と言っておきつつ、どんな顔して撤回したのだろう。


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・・・蛭魔妖一が今日率いる8番街チームは、この試合115点差つけて勝たないと来月から地域の2部リーグに転落することになっている。「俺の居ねえ日に全部ボロ負けしやがるからだこの糞父兄ども!」という妖一の怒号はまったくもってその通りなのだが。

蛭魔が大急ぎでユニフォームに着替えさせている、黒髪の、少年にも見える小柄な男。
この町でアメフト好きなら誰でも知ってる、チビ体型に魔術的な俊足の男。

(セナだ)
(セナだな)
(ああ、テレビで見たことある)
(どーみてもセナだ、ありゃ)
(マジカル・ステッキのセナだな)
(え、壁抜け忍者セナだろ?)

ウォーミングアップを終えた他のメンバーを集めて、蛭魔は高らかに宣言する。いつか言った台詞を。
「ピンチにはヒーローが来るもんだ。光速のランニングバック、アイシールド21!!」

「いやいやいやいや正体隠せてないし!!」


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「それにしてもさ、まも姐」

「んー?」

草アメフト試合会場。第3クウォーターの中ほどで、82:3。多分、もうセナ一人で合計800ヤードぐらい稼いでる。
うーん。やりたい放題というか・・・。周りが素人で弱小チーム、というのは泥門高校の時と同じなのだけれど、相手がちょっと・・・
このぶんだと、相手チームのメンバーは8番街の代わりに2部転落する地区から非難轟々で、上等のワインを1ダース買い込んで一本ずつ配って歩く羽目になりそうである。

「草アメフトに助っ人って使っていいの?」

「うん、OK」

 この町の草アメフトリーグでは、地区外からの助っ人を認めている。というより、そうでもしないとメンバーが揃わない地区が出てきて年寄りや子供を参加させねばならなかったり、棄権する地区が出たりする。こういった行事は町じゅうが参加するのが肝心なので、それはまずい。
 しかし、助っ人を使う時には奇妙な紳士協定があり、報酬は1セントも支払ってはならない。ビール1本、ガム一枚でもダメ。試合前後の1ヶ月間はクリスマスプレゼントを除くあらゆる贈答を禁止する。つまり、人望のみで勧誘しろ、ということである

「ホホーゥ、人望ねえ」
と言った悪魔の表情はお世辞にも人が好いとはいえなかったが、蛭魔にしては珍しくこの種の慣習をよく守った。



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・・・試合後。めでたく120点差で勝利した8番街チームはそのまま青空の下で昼食だったが、セナは非常な不便を強いられた。そう、その紳士協定のせいで、自分の手で昼食を一切摂れないのである。8番街の誰かから、その家族、つまり蛭魔であればまもりやアヤ嬢を経由して、鈴音に手渡してもらわなければピザ一枚ありつけないという状況だった。勝利の立役者が戦勝パーティーを抜け出すわけにもいかず、必然的に、セナは鈴音から離れられない。

「このルールってもしかして」

「うん」

「あたしたちをからかうためにあるんじゃない?」

「多分・・・」

既に、手渡しどころか鈴音の手から直接セナの口へ、という状況が演出されること4回目。赤面症になりそう。

「・・・ぅぅ〜・・・」

「草アメフトが無い日に来よう、次は」

「ウン・・・それにしても」

「ん?」

「本っっ当に人望が必要なルールだね」

「あはははは」

蛭魔の言うこととなれば一も二も無く快諾してしまうセナがいなければ、そもそもこの助っ人は成立しなかったので、鈴音の発言はただの皮肉なようで的を射ている。

キザなほど悠然と黒ビールを喉に流し込んでいる悪の元凶を、遠目ながらキッと睨むと、鈴音は宣言する。

「いつか絶っ対に仕返ししようね」

「ええええええええ、そんな・・・!!」
やめようよ、という反応のセナの口にビールの入った紙コップをあてがいつつ、鈴音の目が光った。

うちのヒトをパシらせた罪、あがなって貰います

さて、リベンジの策は?



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