行事







アメリカンフットボーラー、というのは恋人としては減点要素が多い。
だいたい、日本人の、あるいはキリスト教文化の年中行事への参加が壊滅的になる。

たとえば・・・いつから始めても良いが、日本の学齢に従って4月からとする。
お花見、ゴールデンウィーク、このへんはなんとかなる。
夏祭り、花火大会でもうアウト。7月中旬からはNFLのトレーニングキャンプが始まってしまう。ルーキーキャンプや、そのほかミニキャンプに参加するなら6月あたりから既に日程がびっしり。8月、お盆の頃・・・プレシーズン、プロ野球で言うところのオープン戦、に突入。9月、秋祭りも欠席・・・シーズン開幕だ。
11月24日、姉崎まもりの誕生日・・・まさにシーズン真っ盛り、上位進出か否かを決める天王山もこの時期にしばしば。
12月21日小早川セナの誕生日、12月24日クリスマスイブ・・・ポストシーズンに進めるかどうかを決める重要な時期である。1月初旬、初詣など・・・レギュラーシーズン最終戦。1月中旬・・・ポストシーズン。2月14日、バレンタインディ・・・スーパーボウルだったり契約更改時期だったり。3月31日瀧鈴音の誕生日・・・オフシーズンだがセナは練習の手を抜かず、移籍などが絡むとややこしい時期。




こんな感じで、後輩達の秋大会など一度として観戦に来られなかったのだから、人並みに誕生日を祝われたいなどといっても無理な注文である。蛭魔妖一の場合、自分の卒業式にはかろうじて出席し、春大会はたまにちょっかいを出しにいく。それがやっと。



恋愛を楽しむためだったら、アメフト選手に恋するのは選択ミスもいいところ。目的が恋愛そのものではない彼らには関係ないことであったが。

たとえば、クリスマスを一緒に過ごしたい、と思ったら、ひとっ飛びして彼のチームの次の試合会場に近い宿舎に押し掛ければ良いのであって、なにも難しいことじゃない。祝いに来てくれなきゃ嫌だ、などとケチな見栄を張らなければ、いくらでもやりようはあるもので、姉崎まもり、瀧鈴音ともに行動力は十分だった。その点、蛭魔とセナは恵まれた。



もっとも、そういった悩みはずいぶん先の話ではあるけれど。

この頃のセナたちはと言えば・・・

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少女に呼び止められる光速のランニングバック・・・といっても、それは彼が名前も知らない少女だったが。



「あの、2組の小早川君ですよね?」
上目遣い・・・をしようとして失敗。セナの背が少女とあまり変わらなかったので、不自然にうつむいてしまった。

「え、はい、そうだけど」

「これ、受け取ってください!!」

緑を基調とした光沢のある包装紙に包まれた直方体がセナの眼前に差し出される。

「え?なんで?」

「え・・・・・・」

「・・・?」

「・・・・・・」

「あの、これ、なんなの?」

「!!」

「・・・えと」

「ごめんなさい!迷惑だったですよね!」
一散に走り去る少女。

「なんだったんだろ??」


途端、丸めたノートで勢いよくはたかれるセナの頭。


「あたっ」

「こ、の、バカ!!」

「十文字君・・・」

「セナ、今日は何の日だ」

「へ?木曜日」


再びはたかれるセナ。


「痛いよ、手加減してないでしょ」

「してねえ!だ、か、ら、今日は何月何日だ!」

「2月の・・・13日だっけ」

「14だ!」


時計を見直すセナ
「あ、ほんとだ」

「だから、あの娘はおまえに渡したかったんだよ!」

「・・・・・・?」

「おーい、どしたい?十文字。えらい剣幕で」

「黒木、俺はもう駄目だ。コイツに一般常識を教えてやってくれ」

「一般常識??なんだそりゃ」


手短に説明する十文字。黒木が「はあぁあぁ」と盛大な溜め息。


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(どうだった?)
(ダメだった・・・)
(だから言ったじゃない、彼には“すずな”さんってのがいるのよ)
(だって・・・)
(なになに、どしたの?)
(受け取ってもくれなかったんだって)
(受け取らなかったって、誰が?)
(彼よ)
(ええ?意外。けっこう堅い人なのかな〜)



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「よう、セナ、今日は何の日だ?」

「だから、何の日なの?」

「あちゃー・・・」


(重症だろ)(ひでえな)


「泥門の合格発表はあさっての土曜だし・・・、あ、そう、その日の新入生勧誘の打ち合わせがあるから、練習後に部室に残って・・・・・・ねえ、二人とも、聞いてる??」


(キャプテンなんてのをやると、ここまで部活以外が見えなくなるモンなのか・・・)


「・・・おい」

「長い時間は取らせないから、って戸叶君にも言っといて・・・」

「セナ!てめえにはそれ以上に重要なことがある!聞け!」

「はい!」
こうやって鋭く言われると反射的に返事をしてしまうセナ。

「いいか、さっきテメーにプレゼントを渡そうとして失敗した女の子の話だが」

「?・・・僕へのプレゼントだったの?あれ」

「じゃなきゃ何なんだよ!」

「部への差し入れかと・・・」


丸めたノート二連撃。さらに辞書がスタンバイ。


「痛いよ〜」

「オメーの返事の方がはるかに痛い」

「辞書はしまって辞書は!!」

「結・論。テメーはアホだ」

「なんで!」

「はあぁあぁ・・・・・・。答を言うぞ。世の中にはバレンタインデーとかいう行事があるのは知ってるか?」

「バレンタイン・・・ディ?」

「わかったか」

「・・・ぁ・・・」

「遅すぎだな」

「あー、遅い。しかも鈍い。さらに悪気が無い、の三拍子」

「ウワアア、どうしよう、ひどいことしちゃったのかな」

「いやまあ、お前らしいっていうか、受け取る気がないんならあれでいいんだけどよ」

「いや、でも・・・」

「フォローしときたいか?」

「受け取るぐらいは・・・」

「何組の誰だ?」

「いや、それが、よく知らない・・・」

「確か二つ隣の、4組だったな、あれは」

「おお?チェック細けえな」

「選択授業が一緒で、席が隣だったことあんだよ」

「助かった!ありがとう十文字君!」

「謝りにくかったら、取り次いでやろうか?」

「いらない!ありがとう!じゃ!」

セナ、疾走。


「おー、速ぇ、速ぇ」

「失礼の詫びが爆走・・・便利な奴」

「確かに、あいつに土煙を巻き上げながら駆けつけられたら、そんだけで効果あるって」


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(や、かなりマシだと思うよ、それでも)

(石丸さん、そりゃ、どのへんが?)

(去年、蛭魔がキャプテンのときはフォローすら無かったはずだよ)

(そうなんすか?)

(ってか、渡そうとした命知らずな女がいるんだな・・・)



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「グラウンド行こう!」

「おー」

生徒昇降口

「ウワアアアアア!!」
何かが落ちてきたらしい。セナの悲鳴とは裏腹に、どこか軽快な落下音。

「どうした!?」

「何これー!」
色とりどり。よくもまあ、小さな靴入れにこんなに詰め込んだものだ。

「・・・・・・もてるんだな。セナ」

「下駄箱とは、また古典的な・・・」

「ま、セナの場合、脚こそ命だからな」

「おい、まだあるぞ?」

「まもり姉ちゃんのだ・・・これは、紙袋?」

『チョコレートはこれに入れて』『渡した子の気持ちが込められてるんだから、分けたり交換したりしちゃだめだよ』

「・・・・・・」

「なんだか、糞過保護ってのも言い過ぎじゃ無え気がしてきたぞ」

「ってか、気が回りすぎ」

「今年はもてまくるって読み切ってるあたりが凄え」

「いくらなんでもこれは・・・」
大きすぎるよ、紙袋。



ところが、その直後・・・
部室到着・・・
「・・・って紙袋に入り切ってねえーッ!!」

「なに?ロッカーにまであったのか?」

「うん、その、特大のが」

「楕球体・・・でかッ!どうやって作ったんだ?」



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デビルバット021 調査ファイル♯214 デビルバッツのバレンタイン事情を調査せよ!
雨太市本町北F・U



『ハーン、ゆかしい乙女心を踏みにじれと・・・。いや、もちろんやるぜ。依頼人のために汚れ役を引き受けるのも、このデビルバット様の凄さだからな』
『てなわけで部門別に調べてやったぜ、感謝しやがれYa-Ha-!』
『ちなみに2年生はこの時期にはもう引退してっから番外だ!』



くれた人数

1位 小早川セナ・・・ファンが多いらしい。
2位 十文字一輝・・・本命ではトップ?
<2位’ 武蔵厳・・・苦手なはずの年下から意外と沢山>
3位 黒木浩二・・・3兄弟つながりでも得票
<3位’ 栗田良寛・・・食欲旺盛で、美味しそうに食べるので人気>
4位 雷門太郎・・・セナのファンからおこぼれが多かったとか
<4位’ 雪光学・・・熱烈なファンもいたらしい>
5位 戸叶庄三・・・3兄弟つながりが大部分。
<5位’ 酒奇溝六・・・チョコレートボンボン以外は受けとらずに低迷>
6位 瀧夏彦・・・アリエナイほどの数は集まりませんでした
7位 小結大吉・・・色気が無いのが災い?
不明 蛭魔妖一



もらったチョコの重さ合計

1位 小早川セナ・・・前年比210倍・・・アメフトボール型(縫い目まで再現)のが2つもあったんだってば!
<1位’ 栗田良寛・・・前年比2倍・・・余ったのをみーんなくれたらしいんだ>
2位 十文字一輝・・・前年比4倍・・・チッ、肥ったら困るだろうが
<2位’ 武蔵厳・・・前年比5倍・・・工務店の連中の家族に振舞っちまって良かったか?>
3位 黒木浩二・・・前年比7倍・・・おー、なかなか多いじゃん。嬉しいねー
<3位’ 雪光学・・・前年比15倍・・・あ、もちろん今までで最多です。ありがとう>
4位 雷門太郎・・・前年比8倍・・・バナナチョコがやたらと多かったのはなんでだ?うめえけど
5位 戸叶庄三・・・前年比6倍・・・黒木に負けたのは納得いかねえ
6位 小結大吉・・・前年比2倍・・・フゴッ!か、感謝!
<6位’ 酒奇溝六・・・前年は参加せず・・・チョコレートボンボンはどれも小さいからよ>
7位 瀧夏彦・・・前年比2倍・・・アリエナイッ!!
不明 蛭魔妖一・・・前年比?倍


『フンフン、やっぱり、あれだけ活躍したチームだから、減ってるのはいませんね、ボス!』


本命チョコ人数(推定)

1位 十文字一輝・・・このメンバーの中では二枚目らしい
2位 小早川セナ・・・本人は気付いてない。上級生からが多かったとか
<2位’ 武蔵厳・・・年下の女は(以下略)>
3位 黒木浩二
<3位’ 雪光学・・・やっぱり本人は気付いてない>
4位 戸叶庄三
5位 雷門太郎・・・残念ながら、以下推定ゼロ
5位 瀧夏彦
5位 小結大吉
<5位’ 栗田良寛>
<5位’ 酒奇溝六・・・俺らの頃は、こんな行事はもちろん無かったからな。なぁ庄司よ>
不明 蛭魔妖一



『・・・文句があるって?あー、わかる。わかってるからみなまで言うな。だが、このデビルバット様をしても、踏みにじれる乙女心はここまででな・・・』

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翌年同日
(・・・ってなことがあったんで、今年は平気だろうな)


「小早川センパ〜イ!」

(・・・おい、呼んでるぞ)
(ふえ?)

「セナ先輩!セナさん!」

「は、はいはい!ごめん、呼ばれ慣れてなかったから!」

「え?」

「あ、だから、小早川って呼ぶ人少ないから。誰のことかと思っちゃった」

(自分の名前ぐらい覚えとけよ)
(アホきわまりねえ・・・)

「やっぱり、アメフト部の子と同じで、セナさん、の方がいいですか?」

「うん」

(おおお、しかもなんだか普通にあしらったぞ?やるなあ、あの娘)

「じゃあ、セナさん、これ貰ってくださいッ!」

「あ、ありがとう。お返しできないかもしれないけど、それでもいい?」

「大丈夫ですよう!」

(ふぅ〜、今年は平気だったな)
(ああ、なんとか)



アメフトに多忙をきわめるセナは、女の子のあしらい方を上達させることはなかったようで・・・

後に、鈴音嬢を苦労させることになる。
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