旋風









「第二の小早川セナを探せ!」




 NFL、昨シーズンの終わりにどうやら開花し、今シーズンに入って本格的に手の付けられなくなった光速のランニングバックの大活躍を受けて、どのチームのフロントも躍起になってスカウトの視線を動かした。大型ランニングバック全盛のNFLに、突如として現われた極小のランナー。壁抜け忍者だとか、変てこな異名を冠されたりしているが、要はその小さな体格と身軽さを最大限に活かした反則的なスピードと加減速によって、捕まえにくさを追求し、花開いた。しばらくは周囲の無理解に苦しめられたりしたものの、今では、ある者はその力を褒め、ある者は恐怖し、認めぬ者はない。
 かつて、NFLにこのようなランナーがいなかったわけではなかったが、近年の選手の大型化によって、ディフェンダーは誰もが、このようなタイプを知らなさすぎて、彼がレギュラーポジションを奪取したばかりの今年は、どのチームもほとんど無抵抗で抜き去られる有様だった。いずれ奴のスタイルに慣れてくれば、多少は抵抗できるようになるだろうが、その頃には、セナも進化しているだろう、同じことだ。
 ともかく、球団としては発掘にするべき人材に大幅な変更を加えなければならなくなった。日本、韓国、中国南部、モンゴル、フィリピン・・・小柄な体型で有名な地域をリストアップし、スカウトを飛ばしている。


「・・・・・・無駄なことだ」
進清十郎は思う。第二の小早川セナなんて、見つけようというほうがおかしい。聞けば、あの男は使い走りをやらされ慣れて、その結果走りが速くなったという、笑えるのか笑えないのかわからない、奇妙な生い立ちだそうだが、そんな人間が世の中に二人といてたまるものか。進清十郎はもともと、使い走りという立場だったからといって、笑ったり軽蔑するような人間ではないが、そんな変わった人間がまたと無いということはわかる。

・・・それみたことか。結局、甲斐谷陸を見出した球団があるものの、彼とて、今の奴には歯が立っていないではないか。

奴の動向にはいつも目を光らせているが、最近聞くところによると、奴のプライベートに変化があったという。愛人だか恋人だか、とにかくある特定の女性を伴うことが多くなったというのだ。そういう些細なことは、自分は興味がないのだが、聞こえてきてしまうからには仕方がない。奴は蛭魔妖一と違い、フィールド上で愛妻のサポートを利用するようなタイプではない。だが・・・そういえば奴は、自分は関心が持てないような、些細なことですら自分の力に変えてしまうのだったな。


「だが・・・」
進清十郎はペンを取った。

『黙ってやられてやる義理は無い。おまえに代わる攻撃力の持ち主を探し出すことができないならば、勝てる道はひとつ、おまえの攻撃力を封じればよい。秘策などは無いが、訓練を積み、チーム一丸となっておまえの動きを研究し、工夫を重ねて、必ずおまえを止めてみせる。そのときまで、できるだけ高みに登っておくがいい。おまえの肩に手を掛けることができたその時には、おまえの見ているよりも、高い頂から世界が見られるはずだ。覚悟しておけ、今度はおまえが待つ番だ』



「これ、果たし状?」

「挑戦状じゃない?」

両人ともに、これが快諾の返信だとは思わなかった。



・・・・・・・・・・


「できれば進さんには来て欲しかったんだけど」

「そうね」

「蛭魔さん一家と、溝六先生と、モン太とかデビルバッツのみんなに、パンサー君とかアメリカの友達・・・」

「やっぱり、王城の人たちも参加して欲しいね」

「セナが呼ぶのが泥門だけってのは寂しいものね」

「桜庭さんはOKくれるかな」

「忙しい人だから難しいけど、早めに連絡しておけば空けといてくれるかも」


一体どんな招待状だったかというと・・・

『拝啓 進さん。お元気でしょうか・・・(中略)
・・・・・・ご来場をお待ちしています。
 小早川セナ
     鈴音』

『待っている』と言われたから『待っていろ』と返事したのだ、と本人は後に説明するが、十中八九来ないものだと思っていたので、祝いに現われた進に、セナ達はおおいに驚いたのである。


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待合室、俊足のランニングバックは、今日のパーティーの主役の片方である。

"Hey, Sena!"

"Oh, Panther! Hallo! Grad to meet you again! Very delighted for you to come!"

"Can I join here? What are you Devilbats talking about? Tlanslate a little please!"

"O.K."


「おおおおー!英語でしゃべってる!セナが英語でしゃべってますよムサシさんッ!」

「あたりめーだろ」

「いや、でも」

小早川瀬那が渡米してから数年になるというのに、パンサーとセナが通訳無しで歓談しているのを見ると驚き、間近で聞くとまた驚く。語学の才能云々以前に、耳慣れていた声で耳慣れない音声が紡がれるのは、単純に驚きであった。
パンサー相手だと話題が自然とアメフトに限られてしまうので、セナにとっての難易度はかなり低くなるから、会話は弾んでいた。

 ん?話題が変わったのかな?なんとなく、聞こえてくる単語が変わったような、セナの語調が変化したような。

"Hallo! Mrs. Jingle Bell!"

「・・・あ、今のは聞き取れたぞ。ジングルベル夫人・・・さては奥さんの名前を訳したな」


"Yeah, I see. She is named Sister-Tarisman and he is No.1-daemon!"

「シスタータリズマン?なんだか妙な響きだな。『お護り』にしたか」
『プロテクター』って言ったらどうしようかと思った。

「旧姓のまま『姉崎まもり』を訳したのか、『まもり姉ちゃん』を訳したのか・・・どっちでもいいか」



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花嫁はどこかに行ってしまった。ドレスの着付けでもしてるのだろうか。



「ねえ、セナはパパとチームメイトだったのね?」

「うん、そうだよ」

「ママとおなじ学校だったのね?」

「よく知ってるね、アヤちゃん」

「パパとママとセナとすずと・・・」

「いや、すずは違うよ、すずのお兄さんが、同じ高校だったんだ」

「違うの?どうして?」

「どうしてって言っても・・・ええとね、ぼくとすずが初めて会って、そのつながりですずのお兄さんがパパとママたちと同じ高校に入ったんだけど」

「おなじ学校に行ったことはないの?」

「残念、ないんだ」

「ふしぎ!ぜんぜん違う学校なのに、どうやって結婚できたの?」

「うん、それはね。ええと・・・どうしてだろうね」


少し離れて、そのやり取りを見ていたのは、デビルバッツOBのモン太たちである
「そういや、考えてみると不思議だな。いや、学生結婚の確率がどうこうっていうんじゃなくてだよ」

「学校が違うってだけで、ずいぶん壁が高えだろ、あの当時の俺らにゃ」

「その意味で、蛭魔先輩達よりも状況は厳しかったはずだよな」

「だなぁ、お互い毎日のように顔を合わせてたのは、あっちが泥門高校に足を運んでたからだもんな」

「けっこうな負担だぜ、あれは」

「透糸高校から泥門まで、遠くはねえけど、だいたい毎日か。それを承知で盛り上げ隊長にさせたあの人もあの人だが、確かにしんどいな」

「それによ、聞いたとこによると、セナのほうはNFLに行ってから2年間、ほとんど相手のことなんざ忘れてたっていうぜ」

「そいつを思い出させるのが大変だったって、うれしそうに話してたっけな」


「・・・・・・」

「で、今まで、同じ大学に通ったわけでもなければ、同じ仕事先に行ったこともないと」

「・・・・・・」


「奇跡だな、ほとんど」

「ああ、奇跡だな、こりゃ」

「ああ、それにしても・・・」

一同、セナと喋り終わり、花嫁を捜して走り回っている、愛くるしい少女に視線を転じる。
(あの娘、鋭い・・・)

「・・・だれもそこに思い至らなかった俺らが鈍い・・・ってんじゃあるまいな」

「いや、ちげーだろ。あの二人、間近で見てたら、誰でも俺たちと同じように思ったはずだぜ、実際」

今日ここに集まった理由である、二人の男女がたどりついたこの結論はあまりにも自然で、誰も疑問を持っていなかったはずなのに・・・もかかわらず、蛭魔妖一の長女の言葉は、誰もが納得するもので、悪魔の頭脳と天使の勘が結合すると無敵だと思い知らされたのだった。



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「Ya-Ha-!この糞チビ、女をここまで待たすたぁ、偉くなったもんだ」

「蛭魔が待たせなさ過ぎなんだ!」
ムサシである。こういう場合、たしなめる役目はムサシか十文字ぐらいしかつとまらない。雪光がたしなめれば効果はあるだろうが、彼が言うと雰囲気が真面目になりすぎるので、彼自身があまりその役目を買ってでない。
最も適任である夫人は残念ながら、新婦の方に行っている。

「こいつら付き合うまでに6年、実に6年だぞ!待たせてんだろうが!」

「22歳なのが遅いっていうのか!」

22歳でも平均結婚年齢のはるか下である。18歳で夫妻になってしまった蛭魔の方が異常なのだ。・・・少なくとも、彼らの周囲では。

「手が早すぎだ、ってことです。センパイの方が」
十文字がもちろん嫌味で「センパイ」などと呼んでも、蛭魔は動じない。

「そうでもねえ、手の早さなら糞チビだって負けちゃいねえ」

(ウソだ)(ウソだな)(信じられないね)

「絶対嘘だと思ってやがるなその表情。たとえばだ、婚前交・・・」

「ウワアアア!!蛭魔さん止めてやめてヤメテ!!」
瞬間4秒2、アイシールド21の本領が発揮される。誰にも見えないほど速く、悪魔の口は塞がれ呪いの詠唱が止められる。しかし・・・

(聞こえたな)(ああ、聞こえた)(バッチリ聞こえちまいMA〜X)(聞けちゃいましたね・・・)

先を越された、とは言っても、結婚適齢期にはまだまだの面々は、9分30秒後、かつての僚友の意外にじょうずな接吻に目を見張ることになる。・・・そして、蛭魔妖一の言葉を信じざるを得なくなったのだった。








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