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     白昼夢物語     9

制作時期:高校〜短大時代(DDPC課題作品)1998/10/14発表

 白昼夢の中に在る世界ソルファール。この物語はその世界で起きた幻である。
 マイナナリーフ大陸の北東、農業国ラープ。豊かさと静けさの国との二つ名で呼ばれる程、肥沃な大地が物質的にも人の心にも豊かさをもたらし、平和そのものだった。
 一方、その西に位置する冒険王国ラクナックは、繁栄と冒険の国と呼ばれ、数々のダンジョンが点在し冒険者達で賑わっていた。また、マイナナリーフ大陸で唯一、ゾルド大陸との貿易を行うのもこの国で、多大な利益と軍事力を得ていた。しかし、その実、儲けていたのは国家と一部の商人達だけであった。一般国民は隣国のラープとは比べようもない程に痩せた土地で貧困にあえいでいた。
 2つの国の間には、いつ築かれたとも知れぬ長い長い壁が存在した。その理不尽にも絶対な国境を、ラクナックの人々は恨めし気にこう呼んだ。「冒険障壁」と…。
 不思議なことに、その壁を隔て土地の質が全く違うのだった。

 その国境を越えて、ラープへとやってきた一組の父子がいた。もちろん、冒険障壁は登って越えられるようなシロモノではない。しかも、ラクナック−ラープ間の海域には、海流が渦巻いている。では、どうやってやってきたのか。
 彼らは、大陸の南を、壁を迂回しやってきたのだ。大陸の南には蛮族の国ガーラインがある。そこを無事通って来たということは、かなりの腕前とみて間違いないだろう。
 長剣を携えた父は確かに強そうだ。しかし息子は、細く、小さく、弱々しかった。
「ねえ、お父さん。これで、平和に暮らせるんだよね?」
 少年は父に尋ねた。その瞳には、平和な国に辿りついた安堵がありありと浮かんでいる。
「そうだな、ルーク」
 ルークと呼ばれた少年は嬉しそうに微笑んだ。そんな息子を、父親は目を細めて見る。
 この世に生まれると同時に母を亡くしたルークにとって、父のような戦士は憧れだった。しかし、戦うことは好きでなかった。
 彼は勢い込んで父に尋ねた。
「剣なんて、人を傷付けたり殺したりするもの、僕はもう持たなくていいんだよね?」
 父親は寂しそうに笑った。
「ああ。だが…」
 父親はそこで一度言葉を切り、そして遠い目をして呟いた。
「剣は確かに殺しの道具だ。だが…大切なもの守る為の物でもある。全ては使い手の心次第なんだ」
 幼い頃から無条件に父に守られてきたルークには、まだその意味はわからなかった。そして、その意志を掴むまで長い時を要することになる。

 だが…
 彼は、それでもラクナックの人間の気質を継いでいるのだ。
 彼もやがて、かつての父のように一振りの剣を手にする時が来るだろう。
 大切なものを守る為に。

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