「未来都市学園想像計画 〜First Story〜」














ここは蒼城学園。緑に囲まれた学園。

創立100周年を迎える伝統校、蒼城学園は今,学園祭を目前に慌しい活気に満ちていた。



ここは蒼城学園。巨大敷地のマンモス校。

歴史深いこの学園には大変ユニークな生徒が多々集まり。

まさに波乱万丈――何が起こるか予想出来ぬ無法地帯(笑)





ここ音楽室もまた、何やら起こりそうな・・・怪しい予感・・・。















「・・・なんであたしが代理なワケ?」

ピアノの鍵盤を前に、ポツリと呟く珊瑚は元凶たる男に恨めしい視線を送る。

「一年のあたしより、他に適任者がいると思うんだけど?」

不満たらたら、不平ありありーと睨みつけるのだが。

珊瑚の隣で涼しい顔をしながら譜面を捲っている男は、軽く肩を竦めながら小さく笑う。

「今更何をボヤしている?それに私の代わりは珊瑚しかいないよ?」

「何言ってるのよぉっ!あたしに弥勒先輩の代理なんて務まる筈ないでしょおぉっ!」

殆ど半泣状態だった。

「しっかっもっっ!!何でこんな難しい曲選ぶわけっ?!リストなんて無理だってばっっ!!」

譜面を握り締めながらきーっと唸る珊瑚は、本当に泣きたかった。

そんな彼女に弥勒は、ポリポリと鼻を掻き、苦笑する。

「お前は本当に自分が解ってないね。部長の私が推薦するのだから信用なさい」

「・・・それが分からないし、信用出来ない」

きっぱり言われてしまっては笑うしかない。

「大体、学祭前に何で大事な右手、怪我しちゃうのさっ!失態通り越して間抜けだよ」

「うーん、耳が痛いですな」

大役買わされた事に不満ブチまける珊瑚は、実に毒舌巻くのだが、この呑気部長様には、ちっとも利いていないようだ。

はははーと軽く笑うが反省の色が微塵も見えない。



そう、珊瑚は右手を負傷した弥勒に代わり、学園祭でピアノソロを披露するという、とんでもない大役を任されていたのだ。

部活動から半年も満たない一年の珊瑚に、だ。

何でも弥勒直々の推薦と言うが・・・珊瑚にとってはプレッシャー以外の何ものでもない。

代理とはいえ学祭の中盤―――しかもソロ―――となれば曲目もそれ相当を用意しなければならない。珊瑚には荷が重過ぎる。

「人前で弾く経験だって乏しいのに・・・」

ボヤきたくなるのも当然だろう。

はあーっと深い溜息をついては、暗い眼で俯いてしまう。



そんな珊瑚に弥勒は優しく肩を叩き、言う。

「珊瑚、お前なら出来ますよ。その為に私もこうして練習に付き合っているのだから」

優しい声に力無く頷く珊瑚だが、やはりプレッシャーは消えない。

「自信持ちなさい。音は弾き手の心を映します。お前がそんなに塞いでいれば音も沈む。分かるね?」

優しい声音に悟すような真剣さが響き、こくりと素直に頷く。

「珊瑚の音はあたたかいですよ。技術云々よりも聞き手を優しくつつみ込むあたたかさ、それがお前のピアノです」

「・・・そうなの、かな」

「ああ、伊達に部長やってません。さ、練習開始としましょうか」

「・・・ん」

本心からだろう弥勒の励ましに多少自信回復したのか、幾分穏やかな表情で珊瑚は再び白い鍵盤に指を落とす。

隣には弥勒が、椅子に手を添えながら指示を出し。

美しい音色が、空間をつつみ込んでいった。





透き通るような、清い空間。





ところが。

その清き空間を打ち破る不届き者がひとり。





「うっっっっわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!弥勒先パイッッッッ!!」

突然嵐の如く現れた。



バッターンと勢いよく開いた扉に驚いたふたりは、突如出現した男に眼を見張った。

「なっ、将斗・・・?」

現れたのは茶色い短髪と少しきつめの大きな瞳が、如何にも悪戯好きわんぱく少年的な印象をかもし出す彼―――将斗だった。

けたたましい騒音と共に出現した将斗に、珊瑚はびっくりと目を開き、弥勒は・・・瞬時に状況を読み取ったのだろう、呆れ顔で彼を見つめた。

「先パイ先パイっっ!ちーっとかくまってっ」

「お前・・・また逃げ出してきたね?」

「るっせー。あんなんやってらんねーよ」

「それが人に物を頼む態度か?」

「弥勒先パイ、愛してンぜ♪」

「気色の悪いことをぬかすな」

ぽかーんと放心状態の珊瑚そっちのけで、ふたりはポンポンと話を進めていた。



即座に対応している弥勒を、流石と呼ぶべきか、それとも日常茶飯事なのか。

ひとりぽつんと取り残され状態の珊瑚は、取り合えず現状について行かねばと、おずおず尋ねるが。

「あの・・・弥勒先輩?将斗さん?」

椅子に座ったままで困惑気味に声を掛ける珊瑚に、まず反応したのは将斗だった。

「あ、珊瑚ちゃん。相変わらず可愛いね♪」

第一声がそれって・・・。

将斗の軽いセリフにくらりと眩暈を覚える珊瑚だった。

「将斗さんっ!ふざけてないで理由教えて下さいッッ!」

純粋な珊瑚は、どうもこの手のセリフが苦手で。

つい怒鳴り返してしまった。

「どうせ学祭の準備から抜け出して来たんだろう?」

「あったりぃ〜♪」

予想づけた弥勒の答えに、将斗は底抜けに明るい口調で指を立てたのだった。

「だぁ〜ってよぉ〜、あのクラスお化け屋敷なんてやんだぜ?んでリアリティ出すためにアクションつけんだと。俺にお化けの格好してくれってヘルプきたけどよぉ〜」

冗談じゃねーっつーの!

心底嫌なのだろう、鼻の頭に皺を寄せて握り拳で叫んでいた。

「別に・・・やればいいんじゃない?」

「ああ、珊瑚ちゃん・・・そんな冷たい事言わないで」

「冷たいって、嫌がる理由なんか・・・」

ないじゃないか。

そう言おうとしたのだが。



「将斗さんッッッッ!!何っっっっ!!!逃げてるんですか!!!!」

新たな来訪者によって阻まれてしまった。



「うげッ!菜緒架ッッ!!もうバレたんかよ!!」

かん高い声と共に現れたのは珊瑚と同級の菜緒架―――生徒会役員のひとりである。

「もうっ!いい加減にしないと!会長に言いつけますよッッ!!」

「――――――」

今までさんざんギャンギャン喚いていた将斗だったが、生徒会長の名が出た途端、ピタリと大人しく―――否、固まって―――しまった。

「さあ!ちゃんとヘルプに行って下さいね!あ、弥勒先輩、珊瑚ちゃん。どうもお騒がせしましたぁ〜♪」

「いえいえ。菜緒架さんも大変ですな」

将斗の襟首を掴みながら肩までの黒髪をさらりと靡かせ、爽やかに出て行く菜緒架に、弥勒は何とも余裕の笑みを浮かべひらひらと手を振る。

この急展開に見事従順している弥勒って、やっぱりすごいかも。

再び、ひとり取り残され状態の珊瑚が感心したのは言うまでもない。





怒涛のように過ぎ去った嵐に、放心したままの珊瑚は問う。

密かな疑問。





「弥勒先輩・・・、将斗さん、何であんなに嫌がって逃げまくってるの?」

「ああ、あいつお化けが大の苦手でね」

「・・・・・・・へ?」

「作り物でも心底怖いらしい。だから着ぐるみ嫌で、ああして逃げ回ってる」

って・・・それだけの理由で・・・?

さらりと言う弥勒に、珊瑚はがっくりと肩を落としてしまった。

「・・・・・・それなのに、副会長なの?」

「意外な事に。我が校の名物です」

あれでも生徒会副会長・・・・・・なのだった。










「将斗のお陰ですっかり意気消沈させられましたな。少し休憩するか」

ぱたんと譜面を閉じ、軽く息をつくと珊瑚に向かって穏やかに提案する。

「じゃああたし飲物買ってくるよ。弥勒先輩何がいい?」

「珊瑚と同じものでいいですよ」

「わかった」

そう短く返事をすると珊瑚は軽やかに教室を出て行く。

艶やかな黒髪が揺らめき流れるさまを、弥勒は優しく見つめていた



窓の外は茜色に染り、白い三日月が姿を現す、黄昏時。

缶コーヒーふたつを手に、珊瑚は急いで階段を駆け上る。

弥勒と練習出来る時間も、あとわずか。

刻一刻を大切にしなければ―――そんな想いを秘めて。



音楽室まで近付くと、微かにピアノの音が聴こえ、珊瑚は一旦足を止めた。

この音は・・・弥勒先輩?

でも右手、怪我してる筈じゃあ・・・。

怪訝に思いながら、そろりと扉を開けると。

(あ・・・・・)

明澄な音色を奏でているのは、弥勒本人だった。

彼の端麗な指が鍵盤を踊るように跳ね、音を紡ぎ出す度に、紫黒のような髪が揺れる。

長い睫毛を伏せ、憂いを帯びた瞳で音を見つめている。

(左手だけで・・・あんな音を・・・)

弥勒は片手のみでメロディを奏でていた。

片手だけで、この音を創り出せる・・・。

(あの時と・・・同じ音だ)

珊瑚はふと、半年前の事を思い出した。

それは初めて弥勒を見た時の事。

新入生歓迎レセプションで、弥勒がソロを披露した時の事。彼が披露した曲はショパンの“バラード”だった。



彼の奏でる音を最初に聴いた時、背中にぞくりとした電撃が迸った。

音のあたたかさに、そして優雅さに、珊瑚は知らず涙を流していた。

それ程までに彼の音には不思議な魅力があったのだ。



それから珊瑚は、迷う事無く彼と同じ部に入り・・・弥勒に魅かれていった―――その後ほどなくして彼が塵界魔境の女たらし!という事実を知る訳だが。





それでも―――

どうしようもなく魅かれるのは紛れもない事実だから。





(もうすぐ・・・あと数ヶ月で会えなくなる・・・)

“卒業”・・・その二文字が脳裏によぎり、珊瑚の胸がきゅうっと締め付けられる。

出会って一年も満たないのに。

月日の流れとは何て早いのだろう。

切なさに身をつぼまれた珊瑚は、弥勒の待つその場に踏み込む勇気を欠いてしまった。





「中、入んないの?」

だから。

いきなり突然。

背後から声を掛けられて、驚いた。

「ひゃあっ、って将斗さんっ?!」

「どったの?んな哀愁漂わせちゃって」

声の主に向き直ると、将斗がそこに立っていた。

懲りもせずまた逃げ出して来たのだろうか。

「将斗さんこそ・・・また逃亡ですか?」

半ば呆れ顔で口を尖らす珊瑚だが、その胸中は不意の事に心臓が、ばっくんばっくんと暴れていた。



真っ赤な顔で狼狽する珊瑚に構いもせず、将斗は実に天真爛漫な笑顔を向ける。

「そいやさ、珊瑚ちゃん学祭でソロ弾くんだろ?すっげぇじゃん♪」

「そ、そんな事言いに来たんですか?」

「上手くいったらさ、デートしよ♪」

はあ?!

どうしてそうポンポンと手前勝手に進められるのか。

「将斗さん・・・」

呆れ果てて脱力気味の珊瑚に、それでも将斗は悪びれもせずに言い放つ。

「だぁってさぁ、珊瑚ちゃんとはぁ、まだ一度もデートしてないじゃん?」

「だからっ!どうしてあたしが将斗さんとデートしなきゃなんないのさッッ!」

真っ赤になって怒鳴り散らすが。

「俺フリーの子とは必ず一回はデートするって決めてんだもん」

いけしゃあしゃあである。

これには本っ当−に、がーっくりと肩を落としてしまった。

この人ってば・・・本当に弥勒先輩といい勝負だわ・・・。

不毛だが、本気で思ってしまった。



音楽室のまん前で―――しかも珊瑚が覗き見してた為に扉は開いてるし―――騒ぎ立てて、当然弥勒が気付かぬ筈は無く。

抑制したような声がふたりにかかったのは刹那のこと。

「将斗クン。そんな下らない事を言う為に、また抜け出して来たのか?」

「み、弥勒先輩っっ!いつから・・・」

「ドアの前で、そんな大声で話していたら嫌でも聞こえますよ」

憮然とした面持ちで告げる弥勒は、どこか不機嫌そうだ。

「へっへ〜。今珊瑚ちゃんにデートのお誘いしてたんだ♪いーっしょ?」

対して将斗は愉快そうだった。

「いい加減、その女グセの悪さ直さないと今に刺されるぞ」

「弥勒先パイ、人の事言えないっしょ?第一、俺フリーの子しか声掛けないもん」

またしても珊瑚を蚊帳の外に、ふたりは不毛な会話を続けている。

「珊瑚ちゃん、フリーっしょ?いいよね、俺誘っても?」

表情は穏やかなまま。にこにこと人好きする笑顔のまま。

だけど何かを含んだ瞳がきらりと光り。

意味深に口元をくっと吊り上げる。



真っ直ぐ射抜くように見つめる将斗に弥勒は。

一瞬、挑発的に瞳を煌めかせて。

不敵に・・・余裕たっぷりににやりと、笑う。



「生憎と、珊瑚は既に売約済みですよ」

告げたと同時に、珊瑚の肩を引き寄せる。

「え・・・、えッ??」



突如の行為に、その言葉に、狼狽える珊瑚。

ある種勝ち誇った眼差しを見せるのは弥勒。

そして将斗はというと。



にっかりと、実に満足そうに微笑み、頭の後ろで腕を組んだ。

「にゃーんだ、残念。でも珊瑚ちゃん、先パイに飽きたら何時でも俺ンとこにおいで♪」

「え・・・、え・・・ッ、え・・・ッッ???」

「残念ながらそんな日は永久に来ませんよ」

「言うねー。俺、先パイのそーゆートコ、好きだよん♪」

けらけらと、非常に愉快そうに笑う将斗は、じゃあ、と手をひらひら振り、軽やかに去って行った。





天衣無縫とも言える名物副会長、将斗が去った後も、弥勒は珊瑚の肩を抱き寄せたまま。

離す気配もない。

そうして珊瑚は、困惑する思考を必死に整理しようと、ふたりの会話の意図を探り返していた。

「あの・・・先輩、先刻のセリフって、どういう意味・・・?」

知らず高鳴る鼓動を抑え、掠れる声で尋ねる。

首を傾げ見上げると、弥勒の端麗な顔が真近にある。

うっとりするようなやわらかい笑顔で、自分を見つめている。

その事実に、火照りだす熱を隠す事が出来ず眼が合った瞬間、俯いてしまう珊瑚だった。

純粋無垢の、いかにも珊瑚らしいその反応に弥勒はやんわりと目元を綻ばせ、彼女の背にそっと腕を回す。

「そのまんまの意味だよ。お前の好きに取って構わない」

触れるか触れないか、というやわらかい抱擁に珊瑚は赤面し、俯いたままで尚、問う。

「・・・じゃあ、これはどういう意味?」

「だから。そのままの意味ですって。解らないか?」

くすくすと笑う弥勒の声が、普段以上に優しい。

言葉の駆け引きなど、到底珊瑚に分かる筈もないが。

だが、弥勒の優しさは今、珊瑚ただひとりに注がれている。

それだけは解る――充分に。



優しい抱擁の中、緊張が安堵に緩んでいくのを感じながら、珊瑚は凭れるように、弥勒の胸に顔をうずめる。

躊躇いがちに、ぎこちなく、彼の背にその細い腕を回して。

彼のあたたかい鼓動を・・・全身で感じて。



―――それが珊瑚の、精一杯の意思表示。



不器用な彼女の健気な仕草に、至極幸せそうに弥勒は微笑み。

静かに・・・腕に力を込めていく・・・。










黄昏沈むビロードに。

浮かぶシルエットは、三日月の下。










「・・・卒業しても・・・、逢えるんだね・・・」

ポツリと呟く珊瑚に、弥勒は限りなく優しく愛しく、抱きしめる・・・。




















濃ゆい緑に囲まれたここは、蒼城学園。










色彩多様の生徒が集う、蒼城学園。















そんな学園の、これは ―――キャンパス・ダイアリー




















FIN















キリリクで“現代版の弥珊を!”というリクを頂き、最初に書き上げたのがこのお話でした。
この蒼城学園は陽香が(かなり)昔からあたためていた設定でしたので、今回これ幸いとばかりに書かせて頂きました。

何故か(本当に何故か/謎ι)妙に好評で、続編のお声も頂戴するという、陽香的には嬉しいけど何とも複雑な状況になった次第です(苦笑)
いや、だってさ。完璧オリジナルだからさ。
弥勒&珊瑚ちゃんの性格も設定もオリジ化してるしさ。

でもどうせだからとご好意に甘えまして、シリーズ化となりました(笑)

この後にPrologueを書いた訳なのですが、微妙に環境とか立場とか変わってるかもしれません。
ま、そこらへんは笑って許してやって下さいまし(待てこら)

ありがとうございました♪