「Noble Surfer」








天気晴朗、気分は良好。そんなある日。

テーブルの上の携帯が突然、鳴り出した。















「はい。もしもし」

『にゃあぁぁぁん♪んにゃあぁぁぁ♪』

「狽ヲッ?!なっなに?!なにナニッ?!」

『みゃあ♪さーんごちゃん♪なっにしてんのー♪』

この能天気な声。ぱっと脳裏に浮かんだ人物に、珊瑚はがっくりと項垂れてしまった。

「・・・将斗さんιイタ電する程暇なのか?」

『イタ電じゃねぇもーん♪愛嬌、愛嬌♪』

ケラケラと笑う声が受話器越しに聞こえて、またまた脱力してしまった。

愛嬌って・・・どう考えてもイタズラだよ。

はぁーっと深く溜息をつく珊瑚だが、声の主は至ってマイペースだ。

『なぁなぁ。今から海行くべ』

「・・・・・・・ドコ?」

『うっみぃ〜〜〜♪』

このテンションの高さは何なのだろう。

突飛な事を言い出す名物副会長に、珊瑚が本気で呆れてしまった事は、言うまでもない。

「将斗さん・・・今から海って・・・」

何でまた、突然?

イキナリそんなお誘いを受けても困ってしまうというものだ。

遠いし。季節外れだし。

「ちょっと・・・遠すぎるんじゃあ・・・」

当たり障り無くお断りしようとしたら。

『一時間後!迎えに行くから待っててねー♪』

まったく聞いちゃーいなかった。

「ちょっ・・・ま、将斗さん?!」

人の話も聞いてよ―――!!

心の叫びも虚しく、一方的に切られてしまった。無機質な電子音がこれまた非常に憎たらしい。

無反応の携帯をじとっと見つめ――――いや、睨みつけ――――、珊瑚は途方に暮れた。

「・・・何なのさ、一体・・・」

今から海?本気で?あれ?将斗さんと二人で?

二人?・・・ふたり・・・。

・・・・・・・・・・まさかね。

「きっと琉一さんや愛理ちゃんも一緒だよね。うん、そうだよ、きっと」

ハテナマークが飛びまくりの思考回路を無理矢理結論づけて、テーブルの上に携帯を置いた。



取りあえず、準備をしよう。

帰りが遅くなってもいいように夕飯の支度をしておいて、洗濯物も取り込んで。

ああ、掃除も途中だった。

・・・・・何着て行こう・・・・・。

一気に慌しくなった休日。

黒髪をひとつに纏めた珊瑚――――戦闘準備ばっちりだ――――は、それから時計の針と奮闘するのだった・・・。

























―――――――……‥

























一時間後。

忙しなく鳴るチャイムの音に、再び脱力しそうになった。

高二の男がそんな遊ぶようにチャイムを鳴らすか?

てゆーか。絶対ワザとやってるね!

「もうッ将斗さん!うるさ・・・」

「ほーい♪行こッ」

キッと怒鳴りながらドアを開けるが、開口一番、有無を言わせず腕を掴まれて、毒気を抜かれてしまった。

「行こうって、ちょっと待ってよ!まだ靴が・・・」

「早く早く♪こーんなにいーい天気なんだゼ?外出なきゃ損ソン!」

鳶色の大きな瞳を輝かせては、はちきれんばかりの笑顔を振り撒く。

ぽてぽてのわんころが飛び回っているような、そんな無邪気な将斗を見たら、文句のひとつやふたつやみっつやよっつ、言えるワケが・・・・・ない。



「へへっ♪あっちでねー弥勒先パイと会長も待ってるんだぜぃ♪」

「ふぅん・・・って!か、会長も?!」

「びっくりした?びっくりした?俺もびっくり〜♪」

ドッキリ作戦大〜成〜功〜♪的ノリでぶいっと指を立てる将斗は愉快に笑っているが、これはびっくりどころではない。

「え?どうして?だって玲南会長って休日も忙しいんだろ?」

弥勒と将斗がつるむのは、まぁ、解る。

何故か異様に仲が良いのだ――――ある種、似た者同士だからか?――――この二人は。

だがまさか、生徒会長である玲南まで一緒だとは思いもしなかった。

「うん。それがさー珍しく予定ないっつーからさーダメもとで誘ってみたんよー。したらオッケ♪っつーからさー。珊瑚ちゃんも誘ってみたVv」

「なんか・・・あたしって思いっきりオマケっぽいね」

“ついで”に誘ったって訳ね。

なんて。ちょっとスネてみた。

「やっだな〜。んなワケないじゃーん?どっちかっつーたらオマケはアレっしょ」

にこにこしながらくいっと指差す。

そこにいるのは勿論弥勒で。

そして。彼の横には本当に玲南が立っていたのだ。



一瞬、誰だか解らなかったのは、私服の所為だろう。



常に制服姿の玲南――――お忘れではないだろうが、私服登校自由の蒼城学園だが、生徒会役員は制服着用なのだ――――だが、今日は違う。

オフホワイトのノースリーブシャツにカジュアルパンツという格好だ。

滅多に――――と言うより奇蹟に近い確率だ――――光景に眼を瞬せても、それはそれ、仕方のないというものだ。

ちなみに。

同じ生徒会役員の将斗はと言うと、黒のタンクトップの上に薄手のパーカー、そしてデニムパンツと、こちらもラフな格好だ。

ついでに。

弥勒はネイビーのカジュアルシャツにジーンズ、そして珊瑚はカシュクールTシャツにラップスカート、ギャザー使いのカラースパッツだった。



閑話休題。話を戻そう。

そんな訳で眼をしばしばさせる珊瑚に害する事なく、弥勒と玲南は笑顔を向けて二人を待ち迎えていた。

「来ましたね。待ってましたよ」

「突然呼び出しちゃってごめんなさいね」

「ところで将斗クン。誰がオマケですって?」

「にゃは♪聞こえちっち?」

愛車ZRXUに跨ったまま、ちろりと――――勿論笑顔全開ばりばりー!で、だ――――見やる弥勒に、両腕を頭の後ろで組んで笑う将斗は、まったく悪びれていない。

「お前、本当に私を先輩と見てないね?」

はぁーっと軽い溜息をついて、弥勒はグリップを握る。



ヴォン・・・という重い音が空気を振動させ、むっとした熱が蜃気楼のように弥勒を包み上昇していく。

「んー。やっぱいーい音♪マフラー変えて正解じゃん?」

「昨日遅くまでイジりましたからね。珊瑚を乗せるのですから、ちゃんとキメませんと、ね?」

「ね?って、あたしに振られても」

パーツの事なんて解んないし。

「あれ?珊瑚ちゃん、先パイの後ろイヤ?つー事は俺の方がいーのね♪」

「“俺の”って、紛らわしい言い回しをするんじゃありませんよ」

「にしし〜♪」

軽口を立ててエンジンを吹かせば、ヴォン、ヴォン、と低音のリズムが足元に響いてきて。

だんだん楽しくなってきた。

「あら。将斗さんは私を乗せるのがお嫌なのかしら?」

愛車ZEPHYR−xに跨る将斗を、玲南はくすくすと笑いながら見やる。

可憐な笑顔の中にちょっとした揶揄を含めて。

「ひょーっっ!!ちゃうちゃう!!んな事絶ッッ対!!ありえませんって!!!」

「ほぉお♪女史もなかなか言いますね」

わたわたと慌てふためく将斗を横目に、ひゅうっと口笛を吹く弥勒はとっても愉快そうだ。



「ちぇー。んな意地ワリー顔すんなよなぁ」

「いえいえ。流石は女史と思ってな。伊達にお前の上司やっていないですな」

「本当だね。あたし将斗さんが思いっ切りアセってるとこ見たの、初めてだよ」

「それは誉め言葉とお取りして宜しいのかしら?」

他愛も無い会話が、真っ青な空の下で飛び交う。



屈託無く笑いあう最中、弥勒と将斗はそろって足に重心をかけ、愛車を起こした。

それが、合図。





「ではお嬢様。どうぞ」

にっこりと笑みを浮かべる弥勒はポンッと珊瑚に向かってメットを投げ寄越すと、エスコートするようにすいっと後部シートに腕を流す。

気障な仕草もこの人がやるとハマるのは、どうしてだろう。

メットで顔半分隠して上目遣いで弥勒を見やると、綺麗な笑顔とぶつかった。

とくんと、鼓動が跳ねた。



「あんまりスピード出さないでよね」

「うーん。それはスピード狂の将斗に言っておあげなさい」

逸る動悸の理由などさっぱり解らないが、きっと天気が好いから浮かれているんだと、ひとり納得して珊瑚はバイクに跨る。

熱い振動を感じながら、弥勒の腰に腕を回せば、排気音が一層強くなり。

――――しっかり掴まってなさい。そう言う様に、ぽんぽんと腕を叩かれた。





「よぉよぉ。途中コンビニ寄ろぉゼ」

「その前に、ねぇ?本当に何処に行くのさ?」

「勿論、海に決まってますわ」

「(勿論って・・・)本気だったんだ・・・ι」

「Ye−s! I mean it!」

























真っ青な空のした。




















天気はすこぶる良好で。




















海に行こう




















バイクだからアスファルト、きっとめちゃくちゃ熱いだろうね。




















でもさ、それならスピード出して。




















軽快に風を切って行こうか。




















だって、こんなドライブ日和。




















外に出なきゃ、勿体無いだろう?




















だからさ、ほら、おいで。




















「さてと。行きますか」




















海に行こう!

























BGMはやっぱりBeach Boysだよね!




















FIN

















おまけメイキング →