〔Prologue〕
非運とは突然。前ぶれもなくやってくる。
それは学園祭より一ヶ月前。
夏の余韻を微かに残し、くすぐるような風が秋を告げる九月の半ば。
事件は起こった・・・。
〔ACT-1 ACCIDENT!〕
「いい加減にしてよ!しつっこいっっ」
薄薔薇色のきめ細やかな肌に、きりりとした目元が印象的且つ魅了的な少女は、いらいらムカムカと声を張り上げていた。
「あんた達に構ってる程暇じゃないんだ!」
苛立ち露わに怒鳴りつける少女――――珊瑚は、目の前の男たちをキッとねめつける。
突き刺すような視線を投げつけ、罵声を浴びせる珊瑚に、眼前の男たち――――恐らく珊瑚よりは年上だろう――――二人は、
臆する事無く、寧ろ愉快そうに口元を歪ませている。
にやにやと厭らしく唇を吊り上げては、弄ぶように舐め回す。
(このーッ!こいつらどこの生徒よッッ!!)
本っ当に、サイテー!!
ぶん殴ってやりたい!心底思いはしたが、流石に男二人はきつい。
護身術程度の武道の経験はあるが、どうもこの二人・・・手馴れている印象を受けるのだ。
そこそこの場数は踏んでいる、と瞬時に察した珊瑚だが。
察しはしても、打破策が浮かばない。
おまけに裏通りに引っ張り込まれてしまったのだ。人の出入りなど殆ど無いのだ!
何でこんな奴らに絡まれなきゃなんないのよっ!もーサイアクッ!!
一般のか弱き女性なら不安と恐怖でガチガチと震え、怯える状況だと思うが。
そこはそれ、珊瑚がいかに気の強い女性だという事がこれでお分かり頂けるだろう。
「そんなにつんつんすんなよ。ちっと相手してくれりゃーいいからよー」
「冗談言わないで!いーからそこどいて!!」
薄気味悪い笑みを浮かべ、じりじりと彼女に迫るゴロつき二人に、刺々しく一瞥し押しのけようとする珊瑚の腕を、一人ががっしりと掴んだ。
「何すんッッ!!」
「うるせえからこのまま連れてくか」
「なッッ?!」
ギリッと強く捕まれ、有無を言わせず自分を引きずる男に、血の気が引く。
捕まれた腕の強さと男の残忍な光に、珊瑚の身体は恐怖に戦慄き始める。
「はっ、離してよッ」
微妙に震え走る声で怒鳴るが、もはや虚勢も通じない。
じわりじわりと恐怖が押し寄せる。
「俺たちンとこの生徒に何か用?」
茶化すような声がかかったのは、その時。
「んだぁ、てめえら」
「そのコさー、俺らの後輩なんだよねー。何か用?」
ギラリと睨む視線も何のその。余裕しゃくしゃくの笑みを浮かべ現れたのは。
「将斗さん・・・琉一さん・・・」
蒼城学園生徒会役員所属、副会長の将斗と、書記の琉一だった。
「ただのナンパならぁ見逃してやっからよー。さっさとその手、放してくんねぇ?」
人を食ったような物言いに、傲然と見下す将斗は、非常に余裕たっぷりだ。
「てめえらこそ退けよ。邪魔なんだよっ」
「その制服は二高か。成る程、チンピラ気取りというわけか」
低く冷淡な声で、琉一は冷ややかに睨みつける。
明朗活発、軽佻浮薄の将斗とは対照的に琉一は何ともクールで冷静沈着。
すっと流れる切れ長の眼で鋭く射抜かれれば、背中にぞくりと寒気が走り。
たじろぎ怯む男の力が、一瞬緩んだ。
「ほいほい、放してねん」
「あ・・・」
その隙をついてさっさと珊瑚を自分の元に引き寄せる将斗の行動は、実に素早かった。
翻弄されるがまま珊瑚の身体は、汚らわしい輩の元から離れ、将斗たちの後ろへと引き寄せられたのだった。
「てめッ!」
「ほい珊瑚ちゃん、また明日ねー♪」
「あの・・・」
殺気立つチンピラ二人を殊更知らぬ顔で、珊瑚にひらひらと手を振る将斗。
この人には緊張緊迫感というものは無いのだろうか。
ふと疑問に思ってしまう程の軽いノリに、珊瑚が現状忘れて唖然としてしまったのは言うまでもない。
「あの・・・将斗さん・・・?」
「ん?用事なら明日聞くよ?」
「そうじゃなくて、あの・・・」
これから何を始めようというのか、一目瞭然なだけに、珊瑚はこのまま立ち去ることに抵抗を感じていた。
生徒会役員のこの二人が問題を起こして、ただで済む筈がない。
下手をすれば退学だ。
しかも自分の所為で。
「あ、あたし警察呼んで・・・」
乱闘騒ぎになるよりはマシだろう、そう思い踵を返す珊瑚だったが。
「ちょーい待ち。警察沙汰になったら珊瑚ちゃん嫌な思いするっしょ?だーいじょーぶだから。珊瑚ちゃんは帰りナ」
にっこりと、事も無く告げる将斗に琉一も言を続ける。
「一般生徒を守るのが生徒会の任務だ」
クールにきっぱりと言い切られて、益々途方に暮れてしまった。
だが。
確かにこのまま立ち往生していても、二人の邪魔になるだけだろう。
気が引けるものの、珊瑚は足手まといにならない為にもその場を離れることにした。
「心配性なお嬢様だこと。ま、珊瑚ちゃんらしいけどね」
さて、と。
珊瑚の後姿を見送り、くるりと向き直す将斗は。
先程とは一変した挑発的な笑みを湛え、他校の札付きに近寄る。
「とっとと逃げりゃー良かったのによ。悪ぃけど・・・もうチャンスはやんねぇぜ?」
にやりと。
酷薄に口元を吊り上げ、笑う。
その瞳の奥に宿る自信――――狡猾さに、男たちは後ずさるのだが、時既に遅し。
相手の力量も測れない愚かな二人は、真っ赤に沈む夕日の如く。
地に沈んでいった・・・。
<NEXT>
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