名もなき風景の中で
第2号 犬を食べてもいいじゃないのよ


 昨年の11月、FIFA(国際サッカー連盟)は、韓国に対し、
犬肉料理店を排除するように働きかけた。韓国側はこれに猛反発。
韓国議会は、あえて犬肉業界を合法化しようという動きを見せた。
鄭夢準(チョン・モンジュン)韓国W杯組織委員長に関しては、
「FIFAがかかわる問題ではない。一度のW杯のために古くから
の韓国文化を変えるわけにはいかない」と自ら副会長を務めるFI
FAを非難したほどだ。
 
 ことの発端は、フランス人の元女優ブリジット・バルドーという
動物愛護運動家が、欧米で署名を集め、FIFAに働きかけたこと
だ。結果的に、FIFAはそれを受け入れ、韓国に犬肉料理店を一
掃するよう圧力をかけた。彼女は99年に韓国で、犬肉処理の衛生
基準の設定を求める畜産物加工処理法の改正案が提出された時も、
韓国議員らに強い抗議をしていた。今回は、ワールド・カップを利
用して、韓国の野蛮さを全国に訴えかけよう、ということだろう。
 
▼ポシンタンって何?
 
 ご存知の方も多いと思うが、韓国には古くから犬の肉を食べる風
習がある(韓国以外にも中国や東南アジアの一部では食べられてい
る)。代表的なものには、犬肉と野菜を煮込んだ補身湯(ポシンタ
ン)というスープがあり、夏を乗り切るスタミナ料理として、年配
の男性を中心に根強い人気がある。最近の若者はあまり口にしない
ということも聞くが、韓国の代表的新聞、中央日報によると「男女
の差はあるものの平均して韓国人のおよそ半分が犬肉を食べた経験
を持っており、補身湯は韓国の食べ物として定着している」という。
犬肉料理は、カルシウムや鉄分に富み、栄養素の面で優れている。
さばいた犬を丸ごと薬草と煮込んで作るケソジュという犬エキス
は、滋養強壮の特効薬とされているほどだ。
 
しかし、いくら栄養素が高くても、欧米人には通用しない。どうし
ても野蛮な行為として捉えられてしまう。海外のメディアも昨年末
あたりから、韓国の犬肉問題を取り上げ始めた。もちろん内容は否
定的なものが目立つ。「ニューヨークのワーナーブラザース放送は
ニューヨークの韓国人らが犬肉を食べていると暴露、フランスFT
2放送は時事コメディ番組で韓国の補身湯文化を風刺した。英フィ
ナンシャルタイムズ紙は韓国の犬肉処理現場を扱った記事を掲載し
批判した」。(中央日報)
 
▼犬肉料理に反対する理由
 
 犬の肉を食べることは、欧米人にとって野蛮に映る。欧米人が犬
肉料理に反対する理由はなんなのか?韓国のラジオインタビューに
対しブリジット・バルドーは、「犬は友達なのであって、けだもの
ではない。牛はそもそも食べられるために飼われているが、犬は違
う。多くの人が牛を食べているのは構わないが、いやしくも文明国
なら国民が犬を食べることは許されないはずだ」と応えている。し
かし、牛がよくて、犬がだめな理由などどこにあろうか。そもそも
韓国ではペットの犬を食べることはしない。「韓国人が食べるのは、
ペット用ではなく食用として育てられた犬だ」と、韓国人と犬肉
に関する著書のあるアン・ヨン・グエン教授はコリアタイムズ紙上
で強調した。欧米人が食用に牛を育てているのと同じように、韓国
では食用の犬が育てられているだの。
 
 また、犬を殺す人道的な方法がないから、という理由もある。な
ら、牛を殺す人道的な方法とは一体どのようなものなのか、聞いて
みたくなる。苦痛を与えることで味が良くなるとされることから、
食用の犬は狭い檻に閉じ込められ、焼き殺されるという話もあるが、
韓国は「犬肉処理過程では、電気衝撃が使われている」としている。

 バルドーは「犬肉を口にすることは国のイメージを著しく傷つけ
る」とも言っている。FIFAのブラッタ−会長も同じ内容の発言
をし、ワールド・カップはそのような悪いイメージを取り除く絶好
の機会だとしている。しかし、韓国にとって、ワールドカップは犬
肉文化を世界に理解してもらうための、絶好の機会だ。韓国犬肉業
界は、ワールド・カップ会場の近くに屋台を出し、調理法を英語で
掲載してインターネット上でも宣伝に乗り出すかまえだという。
 
 実は、韓国は以前、犬肉問題で苦汁を飲んだ経験がある。88年
のソウル・オリンピックの時だ。あの当時は、西欧諸国の「外圧」
に耐えかねた行政が取り締まり、表通りから犬肉料理の看板が消え
た(裏では堂々と食されていたのだが)。しかし、今回は違う。民
主化を勝ち取り、成長した韓国は「外圧」を堂々とはねのけた。
 
▼価値観は違って当然
 
 コリア・タイムズは、「自分たちが食べない肉をわれわれが食べ
るからといって責めるのは、欧米人の身勝手だ。ある肉が好きでな
ければ、食べずに黙っていればいい。他人の食文化に口をはさむべ
きではない」という投稿を掲載した。これは、まさに韓国内の代表
的な意見といっていだろう。
 
 国や地域によって、文化や価値観が異なるのは当然である。それ
を受け入れようとしないのは、西洋人が文化面で優越感をもってい
るからだと指摘する人が多い。確かに、その通りかもしれない。世
界中どこに行っても自分たちの言葉ややり方を押し通し、自分達か
ら合わせようとしないのは、欧米人によく見られる傾向だと私は思
う。
 
 先月21日に、NBCテレビの人気番組「トゥナイトショー」で、
司会者のジェイ・レノ氏が「その韓国人(金東聖)は非常に怒って
いるので、家に帰って犬を蹴り、その犬を食べているかもわからな
い」などと発言した。金東聖(キム・ドンソン)というのは、ソル
トレークシティ五輪のショートトラックで、トップでゴールしたに
もかかわらず、反則をとられ金メダルを逃した選手だ。韓国がこれ
に対して、人種差別発言だとして反発したのは記憶に新しい。ジェ
イ・レノらしいジョークだが、犬食文化を完全に馬鹿にしているこ
とは明らかだ。
 
 グローバリゼーションという言葉が最近よく使われる。異文化理
解がとても重要だということは言うまでもないだろう。欧米人は
「グローバリゼーション」=「世界の欧米化」だと思っているのか
もしれないが、そうではない。グローバリゼーションというのは、
欧米人が他の文化を理解し、受け入れない限りあり得ないものでは
ないだろうか。
 
 フランス人は98年のワールド・カップの時、馬肉やカタツムリ
を食べることをやめなかった。ノルウェー人は94年のリレハンメ
ル五輪の時、トナカイの肉を食べることをやめなかった。スペイン
人は82年のワールド・カップの時、猫のシチューをたべることを
やめなった。それでいいのだ。韓国もやめる必要はない。
 
 もちろん、日本に対して「寿司屋を排除しろ」などとぬかす者が
現れれば、その場で殴ってしまおう。

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著者:池田陽、「名もなき風景の中で」スタッフライター

著者プロフィール:
「名もなき風景の中で」スタッフライター。
1978年神奈川生まれ。神奈川で育つ。滋賀の大学で経済学を学
び、ワシントンDCでジャーナリズムを専攻。現在、手品の修行中
カードマジック入門レベル。

2002年3月17日