名もなき風景の中で
臨時増刊号 MP5導入とテロ対策
「対テロ」の名のもとに、重要な施設を警備する機動隊の銃器対
策部隊にサブマシンガン(SMG)の導入が開始されました。今回
の導入は1400丁という限られた数量で、首相官邸や原子力発電
所など特殊な施設のみを対象にしてその警備を強化する方針です。
僕は、時事通信やニュースステーションの報道で、このことを知っ
たのですが、何かおかしいと感じざるを得ない。SMGの導入が今
の日本に必要なのか。この疑問に答えるべく、まず導入されるSM
Gの特徴を見てみましょう。
導入されるのはH&K・MP5というドイツ製のSMG。このS
MGは各国の特殊部隊でも導入され、米国の対テロ特殊部隊なども
装備している高級品です。「H&K」とはHeckler&Kochという1949
年に創業されたドイツの大手銃器メーカーの名前で、「MP」はMa
chine Pistolの略。日本語に訳すと「MP」は小機関銃となります。
「5」はモデルbナ、特に深い意味はないでしょう。
ニュースステーションの報道では、はっきりと見えませんでした
が、導入されたモデルはMP5A3という可動ストック式のモデル
のようです。同じMP5でも固定式ストックのモデルA2やA4が
あることを考えると、警察庁は、銃の取りまわしを重視し、その使
途を市街戦やインドア戦などに想定していることが見受けられます。
射撃方法はセミオート(単弾射撃)か、フルオート(連射)の2段
切り替え。セミオートで射撃した場合は100mの射程距離が、フルで
も25m出せるといいます。使用される銃弾は9mmパラベラムと呼ばれ
る拳銃弾か、最近流行している10mm弾でしょう。弾丸を、最も可能
性の高い9mmと想定した場合、ロングの弾倉を使うと30連発、シ
ョートで15連発が可能になります。
このSMGと比べ、日本の警察官の標準装備はニューナンブM6
0と言われる小さな38口径5連発のリボルバー(回転式拳銃)でし
た。町のお巡りさんが腰にぶら下げているあの拳銃です。ところが、
昨年9月の米同時多発テロを受けて、警察庁は、これじゃテロリス
トに打ち勝つことは出来ないと判断した。もっと強力な武器で国内
を警備するひつようがある。荒いですが、これが2001年度の補
正予算で強力なSMGを要求するに至った大まかな経緯です。
前述の通り、MP5は市街戦などに優れていますし、取りまわし
の良さや狭い日本の住環境などを考えると、最適なSMGとも言え
ます。5発しか弾の出ないリボルバーから大きく飛躍したようにも
見える。しかし、「対テロ」の名のもと、強力なSMGが導入され
ることに僕は強い抵抗を感じます。
まず、「対テロ」を主張しながら、米国同時多発テロの教訓がま
ったく生きていない。世界貿易センターに突撃した2つの飛行機が
SMGなどで防げたでしょうか。僕は、武器による防御というもの
の無意味性を911は如実に示していたと思います。米国の特殊部
隊や警察だってMP5くらい持っています。もっと大きい銃だって
ある。それでもテロは防げなかったし、起こった直後だって、武器
で何かが解決されたことはありません。
イスラエルやコロンビアといったテロに悩まされている国の警察
の多くは軍隊並の装備を持っていますが、その武器が対テロに役立
つことはありません。武器によってテロは防げない。いやそれどこ
ろか、「やって、やられて」という状況を悪化させているに過ぎま
せん。日本政府はこのことに気がついているのでしょうか?これは
世界各国のテロ多発地域が、我々に教えてくれることです。今のイ
スラエルとパレスチナの交戦を見て、そう思うことはないでしょう
か?
しかし、そうは言っても、日本でのテロリズムの可能性は否定で
きません。日本政府は、対テロ戦争にまがりなりにも賛同している
わけだし、米軍基地をはじめとしてテロリズムの標的になるものは
沢山ある。でも、テロリズムの可能性を想定して、SMGを導入す
るというのは、カゼひく可能性があるときに、抗生物質を投与する
ようなものです。普通カゼをひくかもしれないという時には、厚着
をするとか、美味しいものを食べるとかの「予防」をします。つま
り、テロリズム対策を考えるなら、まず予防を先に開始するべきじ
ゃないか、というのが僕の考えです。
現在僕たちにできる予防。それは911を企てた犯人達の証言や
米国の対外政策の在り方を基に、テロの起こった原因を追究し、そ
こから根絶やしにしていくことではないでしょうか。根絶やしとは
アフガニスタンの爆撃のような人殺しのことを言っているのではあ
りません。テロリズムを起こすような憎しみの原因を断つ、という
ことです。もちろん、それは簡単なことではありません。「憎しみ
をなくす」ことなんかより、1400丁のSMGを導入するほうが
よほどたやすい。それでも僕は、SMGの導入がテロ撲滅に役立つ
と思わないし、時間がどれだけ掛かっても、テロリズムを導くよう
な憎悪を無くすことが何よりも優先されるべきであると信じていま
す。そうしなければ、今の中東問題に見るような泥沼になってしま
う可能性もあるからです。テロという結果だけを見て、「テロに勝
つには」とやっていたのでは、憎しみのどうどう巡りになってしま
う。
「対テロ」の名のもとに日本政府で、不穏な動きが絶えません。
テロの時代だから、平和のためだから、という言葉が魔法の鍵のよ
うに次々とパンドラの箱を開けていっている気がします。一応の論
理は成り立っていますが、有事法制関連3法案やマシンガンの導入、
個人情報保護法などメディア規制の3点セットなどの動きに、なに
か薄ら寒いものを感じるのは僕だけでしょうか。日本はどこか間違
った方向へ向かっているのではないでしょうか?
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著者:橋間素基
著者プロフィール
「名もなき風景の中で」ウェブマスター。失業中。