長身な彼に腰を抱かれ、飲んでいた店からそれほど離れていないホテルに連れ込まれる。
逆らう気はまったく起きなかった。
自暴自棄と言った方が適切かもしれない。
親友に振られて、自分の願望に気づいて、甘い誘惑があれば断れるほど出来た人間で
はない。
ベッドの上で、カミュは俺を抱きしめる。
抱きしめて、髪を撫でて、耳元でやさしく囁く。
その囁きは日本語だったり、フランス語だったり、とにかく気持ちよく耳元をくすぐる。
うっとりと彼に身体をあずけると、まるでそうすることがごく自然であるかのように、衣服を脱がされた。
抵抗することもなく、そのしっかりとしたきれいな手が、見慣れた俺の服を手馴れた様子で脱がせていく様子を、ぼんやりと見ていた。
裸の胸を合わせると、知らずため息がもれる。
その、全身を包み込む陶酔にすべて身を任せる。
「今夜の大神くんは、素直だね……とても、かわいいな」
行為はゆっくりと進められ、しかし確実に神経を蝕み、思考力を奪う。
快楽に震える身体の表面に、やわらかい刷毛で媚薬を塗りこまれていくようだった。
目元を拭われ、初めて自分が涙を流していたことに気づく。
見つめたら、その緑色の瞳にすべてを持っていかれそうで、ぎゅうと目を閉じた。
目を閉じて、そして、更なる愛撫を求める。
こんなに淫らな自分は知らない、と自分の震える膝を見つめて思っていた。
自分の知らない自分、それは当然あいつも、加山も知らない自分。
それを今さらけ出していることに思い至り、俺は頂点に押し上げられた。
帝劇まで送るという申し出を断り、朝もやの中を帰途についた。
水色に煙る朝の道に、ガス燈がまだ灯っている。
吐き出す息が白いことに気づき、身体をひとつ震わせた。
朝の清冽な空気に、先程までの甘い時間が洗われるのをイメージする。
身体が軽くなったような気がした。
裏口から部屋に帰ろうと帝劇をぐるりと回りこんだ途端、人影が目に入った。
冷たい裏口の前に、黒いコートを着た人物が座り込んでいる。
観察するまでもなく、それは加山だった。
「……こんな時間まで、どこで、何してたんだ」
寝不足なのか、赤い目をしてにらんでくる加山に戸惑う。
どうして?
なぜ加山がこんなところにいて、こんな質問をしてくる。
拒絶したくせに。
「おい!答えろ、大神ぃ!」
ぐいと二の腕をつかまれて、その力の強さにますます戸惑う。
「……おまえ、帝劇総司令としての自覚はあるのか?おまえにもしものことがあったら、帝都はどうなると思っている!花組だって!」
「加山、どうして怒ってるんだ?」
目の前の彼が、どうしてこんなに激昂してるのか理解できない。
「大の男が朝帰りするくらい、普通じゃないか」
「……っ!!」
加山の頬にさあっと赤みが差して、そして、殴られるかと思ったけれど、殴られなかった。
逆に、つかんでいた腕を離される。
「……もういい、早く部屋で休め。今日も仕事がある」
「…………」
俺の顔を見ることもせず、加山は黒いコートをひるがえして行ってしまった。
すずめがちゅんちゅんと鳴いているのが聞こえる。
うつむいた自分が、泣いてしまうのではないかと思った。
先程までの清々しい気分は、跡形もなく消えている。
ただ、加山につかまれた腕が、焼け付くように熱かった。
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