エンジェルケーキ 4

「昼間はどうしたの?なんか、様子がおかしかったけど」
「え?……ああ」

事後の強制的な甘い余韻から抜け出すことができず、枕に顔をうずめているとカミュが問いかけてくる。

「いや、君が来ることを予想してなかったから、驚いただけだ」
「ふうん?そう」

髪をやさしく撫でられて、そのまま眠ってしまいたくなる。
しかし、眠ってしまったら朝まで起きられないくらいに疲労していることがわかっていたので、カミュの手の感触を意識して追いかけ、眠らないよう努めた。

「……ああ、そうだ」

ベッドから降りたカミュが、洋服掛けに掛かっているジャケットのポケットから何かを取り出し、俺に手渡してくる。

「これ、あげるよ。きれいだし、いい香りでしょう?」
「ん?……ろうそくか?」
「そう、バラのキャンドルだよ。灯せばなくなってしまうけどね」

薄い包装紙にくるまれたピンク色のそれからは、確かにほのかないい香りがする。
灯せばなくなってしまうキャンドル、だが、その存在意義は灯すことにある。
なくなることが意義だなんて、なんて儚いものなんだろう。

「……ありがとう」

笑えたかどうかはわからない。
だが、まぶたに降ってきた甘いキスで、忘れてしまう。



朝の光が異様に眩しく感じる。
カミュに抱かれた朝はいつもそうだ。
その鋭い朝日を見ると、すべてがリセットされたような気持ちになるから不思議だ。
だからこそ、こんな後ろめたいことをしながらも毎日を送れているのかもしれないのだが。

クローゼットの鏡で身だしなみを整えているときに、窓が音を立てたのでそちらを振り向くと、加山がいた。

「……よう、おはよう、大神」
「……ああ、おはよう」

少しためらうような素振りを見せたが、加山は窓から室内に入るなり話し始めた。
まるで、沈黙を怖がっているようだ。

「本来なら、きちんと報告しなければならんのだが……どうやら、どこかから帝撃の情報が外部に漏れているようだ」
「……え?」
「まだ、特定できたわけじゃない。ずっと動きがなかった独逸の、例の機関の一部が動き出したようなんだ。……新しい情報源を得たと考える必要もあるだろう」
「…………」
「……引き続き、調査は行う。……それじゃあ」

必要最低限のことだけを言うと、加山はひらりと窓から出て行ってしまった。
帝撃の情報が漏れている?独逸に?一体どこから、どんな情報が?頭の中がぐるぐると回る。
いても立ってもいられず、足早に支配人室へと向かった。



夕暮れの帝鉄に乗り、彼を待ち構える。
いつもどおり、自然な動作で隣に座る男。

「……どうして、俺に近づいた?」
「え?……どうしてって」
「何が目的なんだ」

少し驚いたような顔をしていたが、その緑色の瞳を睨みつけると、カミュはにっこりと笑う。

「何て言って欲しいの?」
「……え?」
「僕は今まで、君が望むようにしてきた。なら今回も、君が望む答えをあげる。……君が好きだから、って言えば満足かい?」
「……っ!!」

かあっと頭に血が昇った。耳が一瞬遠くなって、帝鉄の立てる低い音や周囲の喧騒が遠ざかる。
すると、突然カミュに手首を強い力でつかまれて、停車した帝鉄から転げるように降ろされた。
そのまま、早く強い歩調で、ほとんどひきずられるように歩き出す。

「なっ……どこへ行くつもりだ!」

カミュは答えない。まったく抵抗ができないまま、細い路地へと入り、どんどん人気のない方向へと進んでいく。
ぴたりと足を止めたと思ったら、煤けた煉瓦の壁に叩きつけるように押し付けられた。

「もう潮時だね」
「何を……、……やめろ……っ!!」

頭の上で両手をまとめてつかまれて、身動きが取れなくなってしまった。
素早く腰のベルトを外され、下半身をあらわにされる。

「やめろぉっ!!こんな……っ!!」
「……ちょっと静かにしてなよ」

口の中にハンカチを詰め込まれ、声が出せなくなる。
ほどいたネクタイで両手を縛り上げられ、地面に引き倒された。
抵抗も虚しく、下半身から衣服が剥ぎ取られていく。
乱暴に引っ張り上げられて立たされ、また壁に押し付けられた。ざらざらとした壁の感触が、やけに生々しく感じられる。
唯一自由になる脚を振り上げたが、その脚をつかまれ、ますますあられもない姿をさらすことになってしまった。

「……何も、知らなければよかったのにね」
「っ、うぅ……っ!!」

強引に後孔を慣らされ、ねじこむようにしてカミュのものを挿入される。
その部分の皮膚が焼け付くように痛み、急激な行為に内臓が押し上げられ、たまらない不快感がこみ上げた。

「……あんな泣きそうな顔をして……僕が、そこにつけいらないでいられるわけ、ないじゃない……」
「うっ、うぅ……、っ!」
「……かわいそうに……もう、知っちゃったもんね。抱かれること」

乱暴に揺さぶられるたびに腕や肩が煉瓦に擦れる。
痛い。痛い。痛い。痛い。
抱かれて、抱かれて、身体に刻み付けられたこの思いを、知らなければよかったと後悔したところで仕方がない。

「…………本当に、かわいくてさ…………、好きだったよ」
「…………っ!!」

このまま路地の闇に溶けてしまえたら、と何度も思った。

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モドル