|
宿舎の裏手には、焼却炉がある。ごみを焼くためのところだ。各部屋で出るごみは、当番が集めてそこで焼くことになっている。今日の当番は優等生、大神であった。
大方上級生であろうと思っていた大神は、加山がいたことに多少なりとも驚いた。しかし、それよりも驚いたのは、加山が悠然と煙草をふかしていたことだった。
「…見りゃわかるだろ〜?喫煙中だ」
未成年者の喫煙は、明冶時代から法律で禁止されている。目を三角にしている大神を物ともせず、加山はがさごそと衣服のどこからか煙草の箱を取り出した。
「この間、街に行ったときに手に入れてなぁ。ほら、ゴールデンバットだ。別にオレは両切りにこだわりがあるわけではないんだがな〜」
唖然としている大神の前で、加山はぷかぷかと煙草をくゆらせる。優等生の大神には、とても信じられない行為であるのに違いない。そんな大神を、加山は愉快そうにちらりと見る。
「……おまえ、ひょっとして、吸ったことないのか?」
人を小馬鹿にしたようなものの言い方に、かちんときた大神は声を荒げた。少年にとって、同年代の少年が経験済みであることを未経験だというのは、妙に恥ずかしく、悔しいことだ。しかし、その正当性を主張することで、大神はなんとか幼い矜持を保とうとする。
「……吸ってみるか?」
少々顔を赤くして、大神はぷいと横を向く。手にしていたごみ入れを持ち直すと、焼却炉に向かって歩いていった。ごみを焼く仕草が、少々荒っぽく見える。
(……か〜わいいよなぁ、大神って。からかいがいがあって。頭は良いのになぁ〜)
加山は大またで大神の背後に近づきながら思う。
「…そ〜んなこと言わずに、ちょっと味わってみろよ」
振り向いた大神の唇を、加山が強引に唇で塞ぐ。咄嗟のことに判断能力を失っている大神に、深く唇を押し付けた。ふわりと漂い、口内に流れ込む煙草の苦い味。
「……んなっ!何をするっ……!」
大神は自分とほぼ同じ高さにある加山の肩を、無理やり押し退ける。大神は顔を耳まで真っ赤にしており、そんな大神の様子に加山はにやり、と笑う。
「……大神ぃ、どうだ?初めての煙草の味は?」
大神は、怒ったように乱暴にごみ入れを引っ掴むと、肩をいからせてずんずんと宿舎に向かって歩いて行ってしまった。そんな大神の後ろ姿を、加山は少年らしい無邪気な、しかし同時にかなり邪な笑顔で見送った。
「……初めてだったのは、煙草だけだったのかなぁ〜?」
「……お?珍しいなぁ、大神が煙草を吸うなんて」
頭上から突如降ってきた声に大神が顔を上げると、どう身体を支えているのか、加山の顔がにゅっと屋根のひさしから突き出していた。
「加山。やっぱりおまえ、いつも屋根から来てたんだな」
「ん」
加山が煙草の箱を差し出す。ゴールデンバットだった。大神が1本抜き取ると、加山が自分の吸っている煙草を咥えたまま突き出す。
「火はここから」
大神はくすり、と笑うと、加山に顔を寄せてゆっくりとそこから火を貰った。
大神は煙草を口から離し煙を長く吐き出すと、もう片方の手で加山の煙草を口から奪い取る。そして、そこにゆっくりと口づけた。ふわふわと漂う、煙草の煙。
「……こういうことだ」
大神が、少し意地悪そうに笑う。今度は、加山が赤面する番だった。
|