ダブルデート!

「ねぇねぇ、ダブルデートしませんかぁ?」

それは仕事のついでに立ち寄ったシャノワールの売店でのことだ。突然のシーの申し出に加山は面食らい、にこにこと微笑んでいる目の前のかわいらしい女性を凝視する。誰と誰と誰と誰が?と聞き返す前に、思いついた名案に顔を輝かせているシーが喋り始める。

「あっ、勿論誘うのはメルと大神さんですよぅ。4人で出かけたらすごく楽しいと思うんですけどぉ……今度のお休み、空いてますかぁ?」
ということで、半ば押し切られるような形ではあったが、加山とシー、大神とメルでダブルデートをすることになった。
それぞれ、加山は大神を、シーはメルを誘っておく、という約束をする。強引かつ唐突な誘いではあったが、別段次の休みに予定があったわけでもなし、そういえば巴里に来てからあまりゆっくりとする暇もないままだった。
早速、大神を誘いに向かう加山の足取りはどこかうきうきとしている。



「メルぅ、大神さぁん、ボンジュール!」

カフェの緑色のパラソルの下で少し居心地悪そうにしている二人のもとへ、シーが元気に走ってくる。

「やあシーくん、こんにちは」
「シーったら、遅いわよ!もう、だから夕べは早く寝なさいって言ったのに…」
「ごめんなさぁい。どうしても髪がうまくまとまらなくてぇ」

大神と二人だけでいたのがなんとなく気詰まりだったのか、遅刻してきたシーを諌めながらもメルはほっとした顔をしていた。大神は特に気にするふうもなく、にこにことメルとシーの二人を眺めている。テーブルの上のコーヒーやサラダに気づいたシーがウエイターを呼びとめ、カフェオレとフルーツタルトを注文した。とりあえず、二人が昼食を注文して、それが来て、手を付け始める程度には遅刻したということだった。

「あれぇ?加山さんは?」
「まだなんだよ。てっきりシーくんと一緒に来ると思っていたんだけど…」

しょうがない奴だな、と言って大神はエスプレッソに口をつける。それほど頻繁というわけでもないが、シーの遅刻の理由は必ずと言っていいほど髪のセットだった。シーは、くせっ毛で思うようにブローするのにはものすごく時間がかかる、と仲良くなった相手には必ずぼやく癖がある。目下の悩みはそれらしい。

「やあ、すまんすまん!」
「加山!遅いぞ!」

通りを横切って走ってきた加山は息を切らし、ごめんなさい、としきりに3人に頭を下げた。

「大丈夫ですよぅ、あたしも今来たばっかりですからぁ」
「シー、それは二人だけの待ち合わせのときに言ってよね」
「そっかぁ、ごめんなさぁい」

シーがかわいらしく肩をすくめて、みんなが笑う。全員が揃い、和やかな雰囲気で昼食が続けられた。



カフェでの昼食を終え、特に目的もなくセーヌ川のほとりをぶらぶらと歩く。話題と言えば大神と加山の士官学校での話、帝劇及び帝都の話など尽きることがない。一方、メルとシーの巴里の話もとても面白く、お互いが喋ったり聞いたりを交互に繰り返す。それはとても楽しいループだった。

「……それでさ、その戦闘演習で俺たちの班がその教官をな」
「そうそう、あれは気持ちよかったよなぁ!まさか大神が顔面を狙うとは思わなかったぞ」

大神と加山の武勇伝に、メルもシーも笑う。
午後の陽射しを受けてセーヌの川面がきらきらと光り、川を渡る風がするすると談笑する4人を撫でていく。
何をするでもなく、ただぶらぶらと歩きながら話をしているだけで、こんなに楽しいものだとは加山は思っていなかった。他にもちらほらと談笑しているカップルが歩いているところを見ると、巴里の恋人たちはこうして散歩をしながら語り合うのがデートのスタンダードらしい。なんとも幸せな光景だ。

「……ねぇねぇ、この辺で別行動しませんかぁ?」

ふと会話が途切れたときに、シーが切り出す。ダブルデートとは言えデートはデートだ。多少はどきどきするような展開があってもおかしくない。

「異存ありませんねぇ!じゃ、いきましょ、加山さん!」
「えっ、ああ……」
「ちょっと、シー!」

シーの行動力にはまったく脱帽する、と3人は思う。メルが呼び止めようとしたが、シーは加山の腕を取ってすたすたと歩き始めてしまった。程よく遠ざかったところで、取り残された格好になっている大神とメルに大袈裟に手を振る。加山も苦笑いで、二人に手を振った。



「……それにしても、シーさんはすごいねぇ。その行動力、見習わないとな」
「ん?……そうですかぁ?」

歩き疲れて入ったカフェで、シーはケーキをほおばっている。無邪気なシーの笑顔を見て、加山は笑った。

「……ねぇ、加山さん。もし、自分が好きな人に他に好きな人がいたら、どうします?」

少し遠慮がちに、しかしつとめて明るく切り出したシーの問いかけにはっとする。笑ってはいるが少しうるんでいるようなシーの瞳に、数秒考えてから加山は答える。

「……応援するかなぁ。やっぱり、好きな人には幸せになって欲しい、って思うからさ」
「……ですよねぇ」

シーが下ろしたフォークがケーキ皿に当たり、かちゃりと小さな音を立てた。オープンテラスのテーブルを、やさしい風が通り過ぎる。

「……自分に自信がないみたいで、自分の気持ちに気づかないふりしてるんですよぅ。バレバレなのに。見てていらいらしちゃう」
「……うん」
「意地っ張りで、頭いいくせに不器用で」
「うん」
「恋愛なんて当たって砕けろ!なのに、誠実なふりして臆病なだけ」
「うん」

ぺらぺらと喋るシーに相槌を打ちながら、加山はだんだん笑いをこらえられなくなる。そして、二人で目を合わせてにっこりと、意地悪そうに。

「……だから、応援したい気持ちはあるけどぉ……」
「……自分の気持ちに、正直になりたくなる……」
「ですよねぇ!!」

少し大きめの最後のひとかけらを口に放り込むと、シーは勢いよく立ち上がった。続いて、加山も立ち上がる。

「……どこにいるかなぁ」
「……うーん……、エッフェル塔!エッフェル塔ですよぅ、きっと!」
「よおし!」



夕日に染まる巴里の街、やさしいピンク色の街を走る。
恋人たちを見守る尖塔を駆け上り、大好きな人のもとへ。
それぞれが呼ぶ名前に、二人が振り返る。



「やっぱり、自分の気持ちには正直にならなくちゃ!」

モドル