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「ねぇねぇ、ダブルデートしませんかぁ?」
それは仕事のついでに立ち寄ったシャノワールの売店でのことだ。突然のシーの申し出に加山は面食らい、にこにこと微笑んでいる目の前のかわいらしい女性を凝視する。誰と誰と誰と誰が?と聞き返す前に、思いついた名案に顔を輝かせているシーが喋り始める。
「あっ、勿論誘うのはメルと大神さんですよぅ。4人で出かけたらすごく楽しいと思うんですけどぉ……今度のお休み、空いてますかぁ?」
カフェの緑色のパラソルの下で少し居心地悪そうにしている二人のもとへ、シーが元気に走ってくる。
「やあシーくん、こんにちは」
大神と二人だけでいたのがなんとなく気詰まりだったのか、遅刻してきたシーを諌めながらもメルはほっとした顔をしていた。大神は特に気にするふうもなく、にこにことメルとシーの二人を眺めている。テーブルの上のコーヒーやサラダに気づいたシーがウエイターを呼びとめ、カフェオレとフルーツタルトを注文した。とりあえず、二人が昼食を注文して、それが来て、手を付け始める程度には遅刻したということだった。
「あれぇ?加山さんは?」
しょうがない奴だな、と言って大神はエスプレッソに口をつける。それほど頻繁というわけでもないが、シーの遅刻の理由は必ずと言っていいほど髪のセットだった。シーは、くせっ毛で思うようにブローするのにはものすごく時間がかかる、と仲良くなった相手には必ずぼやく癖がある。目下の悩みはそれらしい。
「やあ、すまんすまん!」
通りを横切って走ってきた加山は息を切らし、ごめんなさい、としきりに3人に頭を下げた。
「大丈夫ですよぅ、あたしも今来たばっかりですからぁ」
シーがかわいらしく肩をすくめて、みんなが笑う。全員が揃い、和やかな雰囲気で昼食が続けられた。
「……それでさ、その戦闘演習で俺たちの班がその教官をな」
大神と加山の武勇伝に、メルもシーも笑う。
「……ねぇねぇ、この辺で別行動しませんかぁ?」
ふと会話が途切れたときに、シーが切り出す。ダブルデートとは言えデートはデートだ。多少はどきどきするような展開があってもおかしくない。
「異存ありませんねぇ!じゃ、いきましょ、加山さん!」
シーの行動力にはまったく脱帽する、と3人は思う。メルが呼び止めようとしたが、シーは加山の腕を取ってすたすたと歩き始めてしまった。程よく遠ざかったところで、取り残された格好になっている大神とメルに大袈裟に手を振る。加山も苦笑いで、二人に手を振った。
歩き疲れて入ったカフェで、シーはケーキをほおばっている。無邪気なシーの笑顔を見て、加山は笑った。
「……ねぇ、加山さん。もし、自分が好きな人に他に好きな人がいたら、どうします?」
少し遠慮がちに、しかしつとめて明るく切り出したシーの問いかけにはっとする。笑ってはいるが少しうるんでいるようなシーの瞳に、数秒考えてから加山は答える。
「……応援するかなぁ。やっぱり、好きな人には幸せになって欲しい、って思うからさ」
シーが下ろしたフォークがケーキ皿に当たり、かちゃりと小さな音を立てた。オープンテラスのテーブルを、やさしい風が通り過ぎる。
「……自分に自信がないみたいで、自分の気持ちに気づかないふりしてるんですよぅ。バレバレなのに。見てていらいらしちゃう」
ぺらぺらと喋るシーに相槌を打ちながら、加山はだんだん笑いをこらえられなくなる。そして、二人で目を合わせてにっこりと、意地悪そうに。
「……だから、応援したい気持ちはあるけどぉ……」
少し大きめの最後のひとかけらを口に放り込むと、シーは勢いよく立ち上がった。続いて、加山も立ち上がる。
「……どこにいるかなぁ」
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