グレープフルーツムーン




井戸のポンプのがっしゃんがっしゃんという音がさっきからしている。
加山が水を汲んでいるのだ。
大きなたらいの中のたくさんのグレープフルーツが、水をばしゃばしゃと浴びている。
浮いたり沈んだり、とても忙しい。


「もういいんじゃないのか?」


水はとっくにたらいから溢れて、冷たそうな水が排水溝に流れ込んでいた。
加山が、一番水の当たる位置にあったグレープフルーツをひとつつかむ。


「………おい、そのままかじるなよ」
「なんで?」
「皮が硬いし、苦いだろう」


せっかくきれいな黄色だし、せっかくきれいに丸いんだから、このままかじりたかったのに
そう言って、加山は笑った。


俺は黙ってポケットからナイフを出すと、ひとつを手に取って切れ目を入れる。
ナイフはするりと皮を滑り、瑞々しい匂いが霧のように広がった。


やたらと天気がよくて、グレープフルーツの黄色が容赦なく陽射しを反射する。


「ほら、むけた」
「食べていい?」


白くてやわらかく丸いそれを受け取ると、加山がそれにかじりつく。
すっぱさと苦さに少し顔をしかめて、それでも黙って満足そうに、それを食べていた。
俺はたらいの中で浮き沈みするグレープフルーツを、指でつついて遊んでいた。
加山の腕を果汁がだらだらとつたい、滴り落ちて地面に吸い込まれるのを見ていた。


空には真昼の白くて薄い月がある。
ゆらゆらと揺れる、たくさんのグレープフルーツを順番につついた。
ぽこぽこと沈んでは浮かぶ、夏の真昼のこと。




モドル