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海からの風があまりにも気持ちよくて、窓を開けたままうとうとと昼寝をしてしまった。午後の演習の集合時間に遅れてしまい、教官に怒られたのは言うまでもない。付け加えるなら、ペナルティの草むしりが課せられたことも事実だ。
「……どれむしればいいのかなぁ〜」
裏庭は草ぼうぼう、とまではいかないが、もともと植えられているものと勝手に生えたものとの区別がつかないくらいにはなっていた。加山はごみ袋と軍手を片手に裏庭に踏み込み、いざ草むしりをする立場になるとこんなに雑草があるのか、と半ば投げやりな気持ちになった。
「……適当にむしってまた怒られたらやだなぁ〜」
ばりばりと頭をかきむしりながら、ため息をつく。突っ立っていても始まらない、とりあえず手近なところから始めよう、と加山がしゃがみこんだときだった。
「おい、そこ、花壇の中だぞ」
後ろから突然に声をかけられて、加山はびくりと振り返る。そこには、ランニング姿の大神が立っていた。
「……なぁんだ、大神かぁ。また怒られるのかと思ってひやっとしたぞ〜」
大神は加山を一瞥すると背を向けてしゃがみこみ、黙って草むしりを始める。
「……手伝ってくれるのか?」
大神は加山をじろりとにらむ。こういうちゃらんぽらんな奴と同室だと、こういうときに貧乏くじを引かされるはめになるのだ。しかし、当の加山は嬉しそうににこにこと笑っている。
「いやぁすまんすまん。今度の休みにでも埋め合わせさせてもらうぞ〜」
そっけなく言い放つと、大神は草むしりを続行した。声は冷たいが大神の顔は自然に笑っていて、それを加山もわかっているので、へらへらと「飯でもおごるか?何が食べたい?」などと言っている。マイペースな加山に振り回されることが、最近の大神にはそれほど嫌ではなくなってきていた。にこにこと笑いながら謝る加山を見ていると、なんだかいろいろなことがばかばかしく、面白くなってきてしまうのだ。つくづく、自分たちはふざけていると大神は思う。
「おっ、主席と次席が揃って懲罰か?」
廊下の窓から飛んでくる野次に、加山は笑いながら応える。なんとものんきな士官学校の休日である。
草むしりを始めてから三十分ほど過ぎた頃、加山が突然声を上げた。額の汗を拭いながら、大神が加山に近づく。加山が指し示す地面の上に、何やら見たことのない金属の塊が落ちていた。草に埋もれて、今までまったく気づかなかったのだ。
「何かの部品か?それにしてはちょっと妙だな……っ?!」
それを持ち上げようと手を伸ばした大神が、びくりと身を震わせて手を引っ込める。
「どうした?」
心配そうな加山が見守る中、おそるおそるその塊を持ち上げてみる。それは鈍く光る重たい金属で、その冷たさが火照った手のひらに気持ちよかった。
「なんだろうなぁ、これ」
ほいと大神がそれを加山に手渡す。ずっしりと重たいばかりで、本当にこれと言った特徴もない。レバーやばねがついているわけでもなく、何かをかたどっているわけでもなく、ごちゃごちゃとしたただの塊なのだ。
「これもらっていいかなぁ?」
大事そうにそれを足元に置き、にこにことまた草むしりを再開する。加山は少し変わっている、と大神は思う。 |