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このところ、加山の様子が少しおかしいことには気づいていた。体調を崩した日からこれまで本調子ではないようだし、ずっと何かを言いたそうにしていると思う。
「…………えーと、大神?オレ、寝られないんだけど」
加山の寝床である二段ベッドの上段に登り上げ、大神は布団の上に座って加山を見ていた。寝るに寝られない加山が枕を抱えている。
「おまえ最近何だか変じゃないか?悩みでもあるのか」
生真面目な顔でじっと正面から見据えられ、加山はたじたじと背中を壁に貼り付けた。
加山は心底困っていた。口に出して言えるほど、明確な悩みというものでもないからだ。むしろ、このもやもやした気持ちに名前をつけてもらいたいのは加山の方だった。
疑わしげに眉をひそめて加山を見つめている大神を冷や汗を流して見返す一方、妙に冷静な自分が加山の頭の片隅はいるのだった。こうして二人きりでいれば、どうということはない。いたって普通だ。だがしかし、あの松島の態度に対する自分の気持ちはどうだ。まるで、人気者の大神をひとりじめしたくてやきもきしている子供じゃないか。
「…………アレを、見に行くのか?」
鈍い大神に加山は少し苛立つ。オレは何だ、何のつもりだ?大神にとって自分は何だ、自分にとって大神は何だ。
「松島が言っていた、バラックだ」
苦笑しながら嬉しそうに話す大神が、気に食わないと思った。
「…………もう寝る」
大神が布団の上からどくやいなや、無言で布団をかぶる。大神が梯子を降りるぎしぎしという軋み、ベッドに横たわる振動、先程まで大神のいた布団のぬくもり。部屋の中で起こる現象すべてに大神を感じてしまい、混乱する。消灯の闇に、大神の静かな呼吸と、自分の心臓の音が響いているように感じられる。
(一体なんだというんだ、オレは!)
加山はもう既に気づいているはずだった。
(…………)
あの中を覗いてはいけない。あれを見てはいけない、手を触れてはいけない。大神の大切な、加山の侵入してはいけない思い出だからだ。それがどんな思い出なのかは知らない、教えてくれとは言えない。しかし少しだけ、もう少しだけ大神に近づきたいと思った。
(…………………)
真っ赤な千代紙が巻かれた華奢な万華鏡は、意外なほど軽くてしゃらり、と音を立てた。少しでも大神に近づきたい、大神と同じ景色を見てみたい。しかし自分は近づき過ぎてはいないか。大神に、何もを求めているというのか。あまりにも近づいてしまえば、もう戻れないのではないだろうか。
「…………拾えよ」
永遠にも思える数秒の沈黙の後、大神がぼそり、と呟くように言う。身体が、動かない。
「……早く、拾え」
加山は脱力したように、床に膝をついた。大神の顔を見ることはできなかった。震えそうになる指で、小さな宝石を拾い集める。それは慎ましやかな輝きで、床の上を無邪気に転がっていた。 |