その夜、加山は夢を見た。下段で眠る大神が気になって、自分のしてしまった愚かな行動に対して、なかなか寝付けなかった明け方に見た夢だった。
ゆらゆらと形を変える光と色。視界を覆いつくしては小さく窄まり、加山の神経を蝕んでいく。むやみに鮮やかなそれに、無言で責められているような気がした。大神の思い出に手を出した挙句、取り返しのつかないことをしてしまった。大事にしまってあったきれいな思い出を、壊してしまったんだ。
夢の中の大神が、何か大きな光に包まれ、見えなくなっていく。それを止めたいのに、自分は何もできない。身体が動かない、声も出ない。ようよう伸ばした腕は酷く重たく、まるで鉛の塊のようだった。加山は何かを握り締めていて、そのごつごつとした手触りはまったく手のひらになじむことなく、いたずらに尖って加山のやわらかい手のひらを傷つけた。
目覚めたときには室内は薄明るく、時計を見ると先程時計を見たときから十五分も経っていないのであった。
(…………大神、)
音を立てないようそっとベッドの下段を覗き込むと、大神が壁に向かって横向きに寝ているのが見えた。顔は見えなかったが、そのさらけ出された白い首すじに加山の胸が痛んだ。
『夜更けの二時に窓から脱出、生徒館北東の角に集結せよ』
一号の藤咲が立てた計画だった。藤咲は数々の小さな成功譚を持つ人物であり、それは食堂からの夜食の調達であったり、試験の出題範囲であったり様々だが、今回の綿密な計画にも十分にその才能は発揮されていた。
大神はベッド上段の加山をちらりと振り返ると、音を立てないようそっと窓を押し上げた。加山は規則正しい寝息を立てており、身じろぐ様子もない。もっともそれが見てみぬふりのサインであることを、大神は了解していた。
大神が集合場所に行くと、既に全員が集まっていた。無言で目と目を交わし、足音を立てないよう目的地へと踏み出す。夜は蒸し暑く、夜風もない大気はどろりと濃厚な煮こごりのようだった。粘度の高い闇の中を、どきどきと音を立てる胸で手探りで進む。
(…………あれですよ)
どれほど歩いただろうか、内藤が声をひそめて囁いた。木製のバラックが、鬱蒼と茂った樹木の闇の中にぼうと浮かび上がっている。近づくほどに、それが急ごしらえであることが見て取れた。
辺りを確認してからぐるりとバラックの周りを回ってみる。入り口のようなものは一箇所だけで、他に開口部はない。その入り口の木の扉には、見せ付けるように大きな南京錠がかかっていた。だがこんなものをかけずとも、本気で進入しようと思えば斧などで叩き壊せそうな普請だった。
方々に小さな隙間があって、そこから銘々が中を覗き込んだ。藤咲がポケットからペンライトを取り出し、中を照らす。弱々しい光だが、闇に慣れた目には随分と眩しく感じられた。
(…………!!)
照らし出された物を見て、皆が息をのむ。そこにはバラックの内部いっぱいに、大きなひとつの重機のようなものがあった。丸い頭部に、目のように見えるものが不気味に穴を空けている。脇には大きな砲が携えられており、誰の目にも兵器であることが明らかだった。
(うわっ?!)
がたり、という音に皆がびくりとそちらを振り向く。三号の上原が覗いていた壁の板が、体重をかけていたためか突然に外れたのだ。そこから内部に入れる、という好奇心の方がずっとずっと勝っている。まずは藤咲が中にもぐり込み、手招きを受けて順番に皆が内部に入った。
バラック内部は狭く、天井いっぱいまでその兵器が占めている。足元は土で、兵器をここに置いてから周りを壁で囲い、屋根を乗せたのだろうという想像がつく。人が乗って使う物らしく、操縦席のような部分がむき出しになっており、いくつかのレバーが横から突拍子もなく突き出していた。ひさしのようなものが上部に突き出しており、その部分が操縦席に被さって操縦者を守る装甲になるようにも見えた。大きな砲の他は目立った武装はなく、足元にもタイヤやキャタピラのようなものは見当たらない。背面に大きな箱のようなものが据え付けられており、上部に太いパイプが数本伸びていることから、蒸気の力で動くのではないだろうかということが想像できた。
(…………おい、松島、乗ってみろよ)
藤咲の声は、興奮のためか少し震えている。皆見たことのない兵器にすっかり魅せられていた。これさえあれば、どんな敵にも負けはしないという気持ちが沸々とわき上がってくるのだ。
松島は目だけでうなずくと、その兵器に手をかけ、軽々と操縦席に乗り込んで見せた。地面よりも一メートルほど高い位置にある操縦席から、松島は大神を見下ろした。その表情は特に笑っているでも怒っているでもなく、特別な場所に乗り込んでいるというはしゃいだ様子もない。その視線の意味を図りかね、大神は曖昧に微笑んで見せた。
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