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松島は、藤咲が抱きかかえて医務室へと連れて行った。駆けつけてきた教官は顔色をなくしており、このことは他言無用だ、とだけ告げて足早に戻って行ってしまった。上原は松島に付き添って行ってしまったし、内藤は「戻るぞ」と一言だけ告げて立ち去った。
「…………ありがとう、加山。助かったよ」
豪雨にも消えないはっきりとした声で、大神が言う。暗がりなのではっきりとは見えないが、少し微笑んでいるように見えた。
「ほら、また風邪ひくぞ。部屋に戻ろう」
戻ろうと足を踏み出した大神を、加山の鋭い声が制止する。
「どうして何も言わないんだ、大神ぃ!オレは……オレは、おまえの大切なものを壊した、それを」
一度口に出してしまうと、あとはもう流れるように勝手に口が動く。
「ずっと気になってたんだ……大神の思い出が、見たかった。だから、勝手に見た。そして、壊しちまった。……おまえに懐いてる松島が気に食わなかった。どうしてかはわからん。オレは」
堰を切ったように喋る加山を、大神の静かな声が遮る。はっとして顔を上げると、やはり大神は微笑んでいるように見えた。オレはどんな顔をしている?雨にみじめに濡れて、泣いてはいないだろうか。加山の見つめる大神は、雨に濡れてぼんやりと光っているようにさえ見えた。
「…………戻ろう」
叫んだ声は涙声だったかもしれない。大神がはっとした顔をして、加山を見つめた。
「嫌だ、行くな大神!オレは……オレは、おまえが……っ」
好きだ、という言葉は言えなかった。雨の音がうるさかった。不意に肩に置かれた手に顔を上げると、大神の顔がごく近くにあった。
「…………大神、」
強い力で引き寄せられ、抱きしめられる。その両腕の力が酷く強くて、加山はこのまま大神に溶けてしまうのではないかと思った。豪雨が二人を叩く。
「……大神ぃ……」
甘えたような困ったような声を出す加山を、大神が怒ったように制する。次の瞬間には、また唇がぶつかる。雨で冷えた身体で、触れ合う唇だけが熱かった。侵入してくる大神の舌を迎え入れ、加山の膝ががくがくと震えた。しっかりと抱きとめられていて、くずおれることもできない。思考が端から溶けて、雨に流されていった。 |