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屋敷を出て行く大神と加山を見送り、あやめはふと夜空を見上げた。
「……あの二人が、羨ましい?」
いつの間にか背後に立っていたレニを振り返ることもせず、あやめは尋ねる。レニはその無表情を崩すことなく即答した。
「大神がドールでなくなってここを去ること、これって私にとって不幸ってことになるのかしら?」
レニは静かに息を吸い込むと、小さな声で歌を歌い始めた。その旋律は高く低く、その歌声はまるで小鳥がさえずっているようでもあり、風の鳴る音のようでもあり、木々のざわめきのようにも聞こえた。
「何かあったのか」
重たい玄関の扉を開けて、第3ドールの昴が顔を出す。もう眠るところだったのを、レニの歌声が聞こえたのでやってきたらしい。上着を羽織ってはいるが、寝巻きであるため滅多に見せることのない薄紫色のベビードールを着ていた。うっすらと透けているまっすぐに伸びた腕や脚が、人間離れしていて美しい。
「……いいえ。この歌は、代償の歌ではないわ。レニが私のために歌ってくれてるの」
大きな屋敷を包むように吹く風が周囲の木々を揺らし、レニの歌声がするすると吸い込まれていく。
「……昴は思う。そろそろ、レニを外に出した方がいいんじゃないか、と」
以前レニをつかせたマスタは、ものすごい量の不幸を背負った人物だった。レニはその不幸をすべて歌い、歌い、歌った。声が枯れ、喉が腫れ、眠ることもせず、血を吐くようにして歌っていた。
「……幸せは、主観的なものです」
いつの間にか、第2ドールの花火も出てきていた。下半身の部分がふわりとふくらんでワンピースのようになっている着物を着ている。黒い髪と深い紺色の着物は闇に溶けているが、襟元や袖口にあしらわれた白いレースと赤い帯締め、そして何より雪のような真っ白な肌がぼんやりと光っているように見える。
「お母様、もっと私たちを信じてください」
レニの歌声が不意に止んで、じっとあやめを見据えた。
「……ボクは、お母様のために歌えるのが幸せ。それでいい」
そうだ。
「……私はもう、十分幸せだったんだわ……」
風が雪雲を払い、鏡のような月が屋敷の上に光った。 |