|
「お……大神ぃっ!!!」
倒れている大神に駆け寄ろうとした加山の目の前に、1台の車が滑り込んできた。大神しか見えていなかった加山は酷く驚いたが、声を出す暇を与えられずに後部座席の扉が開き、同時に、凛としたアルトの声が響く。
「ボクが運びます。救急車を呼ぶより早い。手伝っていただけますか」
降りてきたのは、小柄な少女だった。暗い夜にも映える美貌と、何よりその服装が人々の注目を殊更集める役割を果たしている。
「……ちょっと、ねえ、加山さん、知り合いなの?」
心配そうな由里に謝ると、少女と2人で大神を車の後部座席へと運び入れた。乗用車よりも大きなその黒塗りの車の内部は広く、大神がいつも入っているのとよく似たトランクがあった。その中へと大神を寝かせると、少女は黙ってふたを閉めてしまう。
「あの……」
内側から加山が車のドアを閉めると、無口な運転手は無言のまま車を発車させた。
「これを、お母様から預かってきました」
少女が加山に差し出した手紙は、数日前に加山が受け取った黒い封筒と同じように見えた。巻きますか、と書かれていたあれだ。例によって、読める文字では宛名や差出人は書かれていない。
「ボクの名前はレニ。キルシュバウムメイデンの第4ドールです。大神は、ボクの弟に当たります」
レニと名乗ったその少女がドールだと言われて、加山はすんなりと納得した。どう見てもその辺りにいる普通の少女ではないことが、雰囲気でわかる。
「……そうか、君もドールなのか。なあ、この車、どこに向かってるんだ?病院なら、さっきの道を曲がって」
座っている後部座席の背もたれごしに、大神の入ったトランクを指差す。まさかふたの隙間から血液が溢れてくることはあるまいが、その想像はぞっとしない。
「ボクたちは人間とは違う。普通の医師には、ドールは直せない。だから、あなたを送り届けた後、大神は連れて帰ります」
少女の有無を言わせぬ強い口調とその眼差しに、加山は反論する言葉を失った。
なお、お客様の幸福超過分につきましては、
キルシュバウムメイデンシリーズは試作品であり、現在販売の予定は未定です
手紙を読み終えたとき、車は静かに加山のアパートメントの前に停車した。
「……お母様って言ったな」
開けられたドアから雪交じりの冷たい風が吹き込み、加山は身を震わせる。
「要は、そいつが親玉ってことだな」
加山は一人合点すると、睨むようにレニを見つめた。
「今からお母様のところに帰るんだろう?……オレも連れて行ってくれないか」
レニは少し驚いたように青い目を見開いたが、またすぐに無表情に戻る。開けたドアの外に控えている運転手に無言の視線を送ると、ドアが閉められた。
「モニタを連れて来てはいけないとは、言い付かっていない」
ほとんど独り言のようなレニの小さな声に礼を言うと、加山は大神の入っているトランクをちらりと振り返った。 |