すくわれたのは 1

 1912年、帝国陸軍対降魔部隊結成。星龍計画、後のミカサ建造計画によって帝都の地脈が乱され、地上に降魔が出現するようになったことがきっかけであった。米田が自らを隊長とし、集めた人員は米田を入れて4人。それぞれ、二剣二刀を受け継ぐ者たちである。
 いわゆる霊能者であった彼らは、周りの者から常に異端視されていた。普段はその力を隠して生活してきたわけだが、その忌まわしき力を持って降魔と戦うことを決めたのは、帝都と人々を守りたいという思いからである。魔の力を持って襲いくる降魔に、軍の武器や兵力では到底歯が立たず、陸軍は渋々ながら米田の提案を受け入れざるを得なかった。かくして、陸軍に異能の者たちが集ったのである。



 対降魔部隊には、陸軍本部に程近い支部の一角が与えられていた。簡素ながらそれぞれが居住できる作りにもなっており、女性である藤枝あやめ以外はほとんどその支部で生活を営んでいる。

「……山崎。どうかしたのか?」
「夜遅くに、申し訳ありません。大佐」

ノックに答えると扉が開き、少佐である山崎が顔を見せた。一馬が目配せをすると、小さく失礼します、と言って山崎が室内に入ってくる。絨毯が敷かれ、窓際に机の置かれたそこは、山崎の部屋と大差ない作りだ。
 つかつかと歩み寄ってくる山崎がその足を止めることなく自分に向かってくるのを、一馬は訝しみながら、しかし半ば諦めるような気持ちで見つめていた。椅子から立ち上がったところで、両肩を強く掴まれ、噛み付かれるように唇を塞がれる。一馬は特に抵抗もせず、黙って目を閉じた。
 執拗に口内を蹂躙していた舌が離れ、唇が離されたかと思うと、突然机の上に乱暴に押し倒される。その衝撃よりもむしろ、一馬は書類が床に撒かれる音に驚いたかもしれなかった。

「…………どうして、拒まないのですか」

一馬は、山崎がわざと書類を撒き散らしたのだということに気づく。机の上には、彼の愛する妻と娘の写真が置かれていたからだ。

「……哀れんでいるのでしょう、私を」

その静かな口調とは裏腹に、山崎の表情は歪んでいる。酷く怒っているような、ともすれば泣き出しそうな、そんな顔だった。見上げる一馬は、何も言わない。
 乱暴に軍服がはだけられ、冷たい手に身体をまさぐられる。すべてを押し流そうとするような、荒々しく性急な愛撫だが、そこに注がれる激情が火をつける。一馬の視界で、少し古びた装飾の照明が、ぼんやりとぼやけていった。

「……そうやって受け入れることこそが拒絶だと、思い知らされる……」
「…………や、ま……ざき……」
「……こうして、抱いていても……貴方は………」

ならば、自分はどうしたらいいのだ、と一馬は思う。思い悩む姿を知るからこそ、自分は受け入れこそすれ、拒絶などできるはずもないのだ。望むならば与えよう、自分が彼にしてやれることをしてやろうと、思うことは間違いなのかもしれない。だが。

「………わたし、は……お前を……大切に、思っている………」
「……だったらいっそ、殴って………罵ってもらえたら、どんなにか……!」

抱きしめれば、呼吸が止まるほどの力で抱き返されて、殴ることなどできるわけがない。それは、一馬の甘さだ。周囲から冷たい視線を浴び、それでも人々のために人外のものと戦い続ける日々、そのつらさを共有する仲間なのだ。自分に思いを寄せる、親子ほどに年の離れた若い仲間を、冷たく突き放すことなど一馬にはできなかった。

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