すくわれたのは 3

 轟く稲妻に、4人の身体が弾き飛ばされる。二剣二刀の儀は、失敗したのだ。最早伝説でしかない、何の確信もない力に頼らねばならないところまで追いつめられているのが、4人にはとても信じられなかった。

「くっ……」
「…そんなっ………!」
「……ちきしょうめ、もう一回だ……!」

霞む目を見開き、睨む先には巨大な降魔が立ち塞がっていた。辺りは砂煙がもうもうと上がり、小型や中型降魔の破壊活動の音、そして不意に訪れる静寂が混在している。
 痺れる腕を気力で持ち上げ、もう一度二剣二刀の儀に挑もうとする彼らを、山崎の静かな声が止める。

「もう、やめましょう……できるはずが、ないんです。この、光刀無形で……」
「少佐……?!」

山崎が示す光刀無形は、心なしかゆらゆらと刀身を揺らめかせているように見えた。妖しい霊気を纏う刀を見つめる山崎を、あやめはわけがわからないといったふうに見上げる。

「私はずっと、この刀は抜いてはいけないと、教えられてきました。この刀が抜かれるときは、すべてが滅びるときだと……ただの、迷信だと思っていました。だが」

山崎の言葉を遮るように、爆音が響く。巨大降魔の攻撃が再開されたのだ。合図を待つより早く、4人が散開する。素早く身を翻し、崩れた建物の陰で気配を消した。
 怖気づいてしまう。目を閉じたら終わりだ、と一馬がふと目をやった先の瓦礫の陰で、山崎が一馬を見つめていた。

「……私はもう、救われることはないでしょう。それが、わかってしまった……この刀と共に、貴方の前から、私は……」

風に乗って聞こえる、微かな声。砂煙に霞む、少し神経質そうな顔立ち。山崎の目から、涙が落ちたように見えたのは気のせいだったのか。
 2人の間を炎の柱が走り、一馬は熱風に飛ばされる。

「………山崎ぃっ!!」

振り仰いだ黒煙の向こうには、既に彼の姿はなかった。



 「一馬、やめろぉっ!!……そんな力を、おめぇが使うんじゃねぇ!」
「大佐!!ダメです、戻ってきてください………!!」

米田とあやめの制止を振り切り、一馬は魔神器を手に降魔へと向かって行った。片手の霊剣荒鷹で降魔をなぎ払いながら進む様は、さながら鬼神のようであった。
 一馬は、腕の中の魔神器が熱を帯びてきているように感じていた。米田もあやめもそれぞれに降魔の迎撃に精一杯で、それ以上一馬を止めることはできない。
 廃墟と成り果てた崩れかけの建物を駆け上がり、屋上へと出る。その高さから見てもなお、むしろ尚更、その大型降魔の強大さに呆然とするばかりだった。人一人救えずに、魔を封じる力が自分にあるなどと思えなかった。

(私はもう、救われることはないでしょう)

 山崎が最後に見せた顔が、頭をよぎる。

「………私、は………」

巨大な降魔が、一馬の方を振り向いた。逡巡する余地などない。一馬は、まるで何かに操られているかのように、自分の胸に魔神器の剣を突き立てた。痛みより、衝撃が勝っている。身体の中を流れる血が、外へと流れ出したい、溢れ出したいと懇願しているかのように感じていた。

(あなたの前から、私は)

 剣を抜くと、ぼたぼたと大量の血液が珠と鏡に注がれ、不思議な輝きを放ち始める。

「…………若菜、さくら…………」

 山崎を拒まなかったのは、自分のためだったのだ。拒む自分を、良しとしなかった。ただそれだけのために、多くの人を裏切ったような気がしている。
 山崎はあんな目をして、あんな刀を持って、どこに行こうというのか。自分が救えたかもしれないと思うのは、自惚れだろうか。

「…………すまない……」

彼が救われる世界を残そうと思った。愛する人たちを、守ろうと思った。既に、何物かに巣食われていた自分でも。

「………一馬ぁっ!!」
「大佐ぁっ……!!」

 一馬の視界は一瞬真っ赤に染まり、世界は裏返るように暗転した。




 1918年、凄惨を極めた降魔戦争の終結と共に、対降魔部隊は解散した。魔神器で破邪の力を使った真宮寺一馬大佐はそれから3ヵ月後に死亡、山崎真之介少佐は光刀無形と共に行方不明となった。事実上の部隊の生き残りは、隊長米田と藤枝あやめの2名。涙にくれるあやめの肩を叩き、米田は次なる部隊を作り上げる決意をする。
 ――二剣二刀に頼った、自分が愚かだったのだ。結局、隊員を信頼できていなかったのは自分だ。次は、犠牲を出さない部隊を。信頼という力を核に、動く部隊を作ろう。

 そしてここに、帝国華撃団が誕生する運びとなる。

おわり

モドル