子供みたいだ、俺。大切な玩具を誰にも渡したくなくて、ゴネているガキ。
一番の親友だと思っていたから、今でも親友だと言ってくれるから、見えない、見たことのない誰かに嫉妬する。俺の知らない加山を見ていた誰かに、嫉妬する。
情けない。好い大人だって言うのに、何だこの女々しさは。
誰と居たっていいじゃないか。それで俺と加山の関係が変る訳じゃなし。
そう思うのに。止まらない。
知りたい。知りたい。知りたい。
「加山…」
海に呼んだら、どうしてか胸が痛い。
知りたい。お前を、知りたい。お前の全部を、知りたい。
太正維新クーデター。
その時知った、加山の正体。
驚いたけれど、頭の片隅で、やっぱり、とも思っていた。
まさか俺と同時に配属されて、その頃からずっと傍に居たなんて思わなかったけれど。
教えられなかった事情は判っているつもりだし、傍に居てくれた事はとても嬉しかったのだけど。少し、ほんの少しだけ、寂しい。
傍に居て聞いて欲しいことが沢山あった。情けないけど、支えて欲しいことが沢山あった。
「すまなかったな」
謝って欲しいんじゃない。唯傍に居て欲しかった。
判ってる。
俺達は命令されれば、意に添わないことでも実行しなければいけない。軍人だから、自分で望んでそういう立場に就いたのだから。
「行け、大神。勝利に向かって走れ!」
謝るのは俺の方。
あの時頭にあったのは勝利でも、帝劇に残っている仲間の事でも、ましてや軍人としての心得でもなく。唯ひたすらに、加山の事。
無事で居て。どうか無事で居てくれ。直ぐに助けるから。
助けられておいて可笑しな話だけれど、でも助けるから。待っていて。どうか無事で、待っていてくれ。
それしか考えられなかった。
そんな自分勝手を知られたら、お前は怒るかな。呆れられるかもしれない。
敵を倒しても姿を見せない加山。
怖くなる。同時に寂しくなる。
寂しい。寂しい。寂しい。
「加山、…逢いたいよ…」
口にすれば余計に辛くなる。
寂しい。すごく、寂しい。お前に逢えなくて、寂しい。
3日経った。
長い3日間だった。
その間ひたすら考えた。
初めは心配ばかり。次にどうしてこんなに心配なのか。
「親友」だから?そうじゃない。だってそれなら、家族のような花組の皆の方が優先順位は上だろう。それならどうして、こんな風に胸が苦しいんだろう。
お前なら、お前に聞いてみたら、判るかな。
漸く訪ねて来てくれたお前は、何だか居心地が悪そうで。そんな態度に不安が募る。
まだ何か隠してる?それとももう俺の“お守り”は嫌?
泣きそうになったら、慌てて言い訳を始めた。
「黙っていたから、大神が怒っているんじゃないかと心配で。忙しかったのもあるけど、ちょっと来辛かったんだ」
そんな的外れな心配に、俺は却って胸を撫で下ろす。
黙っていた事よりも、すぐに無事な姿を見せてくれなかった事の方が嫌だった。そう言うと謝りながら、やけに嬉しそうに笑った。
今なら答えてくれるかな。俺の苦しさの原因を、お前なら、答えられるかな。だって苦しいんだ。お前の事を考えると、凄く苦しいんだよ。
だけど。それだけじゃない。
嬉しいんだ。お前の事を考えると、凄く嬉しい。
知りたいんだ。お前の事、全部知りたい。
寂しいんだ。お前が居ないだけで、凄く寂しい。
こんなの変か?俺、何処かおかしい?
「大神、それ…本当、か?」
本当に決まってる。他の誰にもこんな気持ち、持ったことなんかない。泣きそうな程、お前の事だけ考えてる。教えてくれよ。これは、何だ?こんな気持ちは、一体どういう訳だ?
「加山…」
「期待するぞ?」
「何を?」
「それは……恋、だ」
「恋?」
「お前は、俺の事が、好きなんだ、きっと」
好き?
一瞬、そんなバカな、と思うけど。
好き。
その言葉はストンと胸に落ちた。
ああ、そうか。俺は加山が好きなのか。
加山が好きだから、こんなに嬉しくて知りたくて寂しくて、そして苦しいのか。人を好きになると、こんな気持ちになるのか。
「良く判るよ」
「どうして?」
「俺も、同じだから」
「同じ?」
「俺も大神が好きなんだ。大神の事考えると、嬉しくて知りたくて寂しくて、少し苦しい」
暫く俺はバカみたいに呆けていた。
だってそうだろう?自分の気持ちを知った途端、その想いが叶うなんて事ある筈ないじゃないか。
「大神、好きだよ。お前が俺の事、そんなに考えてくれてたなんて、どうにかなりそうな程、嬉しい。俺もお前が好きだ」
抱き締められて、囁かれて。それが酷く気持ち良くて。
そうか。俺は加山が好きだったんだ。
「大神…」
「加山…、ん…」
口接けられる。それに答える。
好き。好き。好き。
加山の優しさが、好き。加山の強さが、好き。加山の声が、好き。加山の手が、好き。加山の温かさが、好き。加山の……全部が、好き。
その日が加山の誕生日の翌日だったのを知ったのは、更に数日経ってから。
そう言ったら
「一生分のプレゼントを貰っちゃったなぁ」
と笑った。
俺も笑って
「この先一生分だからな。覚悟しておけよ」
加山に口接けた。
一日遅れの Happy Birth Day
生まれてくれて、ありがとう。