一日遅れの Happy Birth Day


再会したのは離れてから2年半経った頃。
初めは驚いて、次に嬉しくて。
士官生の頃から何かと助けてくれる奴だったが、その世話焼きに助けられていたのも、それが嬉しくて心地よかったのも事実。
この数年できっと色んな事があったろうに―――変ろうと思えば、人は一日でも変れるのに―――あの頃と変らない柔らかい笑顔と言葉。自分を気に掛けてくれる助言と優しい手。
何だか内情に通じているらしいのはこの際置いといて。言いたくないのなら無理に聞き出すなんて野暮だ。訊こうとしてもはぐらかされるし、自分だって言えない事など山程あるのだから。
甘えるのは良くないと思いつつ、余りにも巧くあしらわれ誤魔化され、気が付けば寄り掛らされている。それがまた居心地良いのが、居心地悪い。自分はこんなにも甘ったれた弱い人間だったろうかと、首を傾げる事頻り。
再会した途端。今まで会えなかった時間を埋めるように、頻繁に顔を見せる。それが単純に嬉しい。
今以てして
「親友」
と呼んでくれるのが、そう思ってくれているのが、心底嬉しい。
学生の時以上に変わり者になってる気がしたけれど、それも奴らしくて。
嬉しい。嬉しい。嬉しい。
どうしてこんなに気持ちが高揚するんだろう。
他の皆と居る時とは違う。俺って案外薄情者だったのかな。
「加山」
そう呼ぶ度に、胸の中がほっこり暖かくなる。
嬉しい。会えて、嬉しい。お前に会えて、本当に、嬉しい。


夏休みに皆で海に行った。
こんな所にまで、あいつは現れた。
驚いたけれど、何だか何時でも傍に居てくれるようで、嬉しかった。
それに神出鬼没なのには最近慣れっこになってきている。すみれ君のお見合い騒ぎの時もそうだったし。思わぬ所からひょっこり顔を出すのは、もしかしたら趣味なのかもしれない。
多分。いや、きっと。加山は帝撃関係者なんだろうな。隊員になったからと言って全貌を知らされないのは初めから判っていたし、実際所属が違うと隊長の俺ですら他の小隊のことはまるで判らない。花組の他に風・夢・雪、それに月。知っているのは各小隊の名前だけ。
加山は何処の所属なんだろう。それともまだ他の部署があって、まるで違う仕事をしているのかな。
加山の事が、気になる。加山の事が、知りたい。
「加山?」
困らせるつもりはないのに、つい口から出てしまう疑問に、あいつは困ったように笑うだけ。
ごめん、ごめんな。でも。知りたい。
俺と一緒じゃなかった時間の加山が知りたい。 子供みたいだ、俺。大切な玩具を誰にも渡したくなくて、ゴネているガキ。
一番の親友だと思っていたから、今でも親友だと言ってくれるから、見えない、見たことのない誰かに嫉妬する。俺の知らない加山を見ていた誰かに、嫉妬する。
情けない。好い大人だって言うのに、何だこの女々しさは。
誰と居たっていいじゃないか。それで俺と加山の関係が変る訳じゃなし。
そう思うのに。止まらない。
知りたい。知りたい。知りたい。
「加山…」
海に呼んだら、どうしてか胸が痛い。
知りたい。お前を、知りたい。お前の全部を、知りたい。


太正維新クーデター。
その時知った、加山の正体。
驚いたけれど、頭の片隅で、やっぱり、とも思っていた。
まさか俺と同時に配属されて、その頃からずっと傍に居たなんて思わなかったけれど。
教えられなかった事情は判っているつもりだし、傍に居てくれた事はとても嬉しかったのだけど。少し、ほんの少しだけ、寂しい。
傍に居て聞いて欲しいことが沢山あった。情けないけど、支えて欲しいことが沢山あった。
「すまなかったな」
謝って欲しいんじゃない。唯傍に居て欲しかった。
判ってる。
俺達は命令されれば、意に添わないことでも実行しなければいけない。軍人だから、自分で望んでそういう立場に就いたのだから。
「行け、大神。勝利に向かって走れ!」
謝るのは俺の方。
あの時頭にあったのは勝利でも、帝劇に残っている仲間の事でも、ましてや軍人としての心得でもなく。唯ひたすらに、加山の事。
無事で居て。どうか無事で居てくれ。直ぐに助けるから。
助けられておいて可笑しな話だけれど、でも助けるから。待っていて。どうか無事で、待っていてくれ。
それしか考えられなかった。
そんな自分勝手を知られたら、お前は怒るかな。呆れられるかもしれない。
敵を倒しても姿を見せない加山。
怖くなる。同時に寂しくなる。
寂しい。寂しい。寂しい。
「加山、…逢いたいよ…」
口にすれば余計に辛くなる。
寂しい。すごく、寂しい。お前に逢えなくて、寂しい。


3日経った。
長い3日間だった。
その間ひたすら考えた。
初めは心配ばかり。次にどうしてこんなに心配なのか。
「親友」だから?そうじゃない。だってそれなら、家族のような花組の皆の方が優先順位は上だろう。それならどうして、こんな風に胸が苦しいんだろう。
お前なら、お前に聞いてみたら、判るかな。
漸く訪ねて来てくれたお前は、何だか居心地が悪そうで。そんな態度に不安が募る。
まだ何か隠してる?それとももう俺の“お守り”は嫌?
泣きそうになったら、慌てて言い訳を始めた。
「黙っていたから、大神が怒っているんじゃないかと心配で。忙しかったのもあるけど、ちょっと来辛かったんだ」
そんな的外れな心配に、俺は却って胸を撫で下ろす。
黙っていた事よりも、すぐに無事な姿を見せてくれなかった事の方が嫌だった。そう言うと謝りながら、やけに嬉しそうに笑った。
今なら答えてくれるかな。俺の苦しさの原因を、お前なら、答えられるかな。だって苦しいんだ。お前の事を考えると、凄く苦しいんだよ。
だけど。それだけじゃない。
嬉しいんだ。お前の事を考えると、凄く嬉しい。
知りたいんだ。お前の事、全部知りたい。
寂しいんだ。お前が居ないだけで、凄く寂しい。
こんなの変か?俺、何処かおかしい?
「大神、それ…本当、か?」
本当に決まってる。他の誰にもこんな気持ち、持ったことなんかない。泣きそうな程、お前の事だけ考えてる。教えてくれよ。これは、何だ?こんな気持ちは、一体どういう訳だ?
「加山…」
「期待するぞ?」
「何を?」
「それは……恋、だ」
「恋?」
「お前は、俺の事が、好きなんだ、きっと」
好き?
一瞬、そんなバカな、と思うけど。
好き。
その言葉はストンと胸に落ちた。
ああ、そうか。俺は加山が好きなのか。
加山が好きだから、こんなに嬉しくて知りたくて寂しくて、そして苦しいのか。人を好きになると、こんな気持ちになるのか。
「良く判るよ」
「どうして?」
「俺も、同じだから」
「同じ?」
「俺も大神が好きなんだ。大神の事考えると、嬉しくて知りたくて寂しくて、少し苦しい」
暫く俺はバカみたいに呆けていた。
だってそうだろう?自分の気持ちを知った途端、その想いが叶うなんて事ある筈ないじゃないか。
「大神、好きだよ。お前が俺の事、そんなに考えてくれてたなんて、どうにかなりそうな程、嬉しい。俺もお前が好きだ」
抱き締められて、囁かれて。それが酷く気持ち良くて。
そうか。俺は加山が好きだったんだ。
「大神…」
「加山…、ん…」
口接けられる。それに答える。
好き。好き。好き。
加山の優しさが、好き。加山の強さが、好き。加山の声が、好き。加山の手が、好き。加山の温かさが、好き。加山の……全部が、好き。


その日が加山の誕生日の翌日だったのを知ったのは、更に数日経ってから。
そう言ったら
「一生分のプレゼントを貰っちゃったなぁ」
と笑った。
俺も笑って
「この先一生分だからな。覚悟しておけよ」
加山に口接けた。


一日遅れの Happy Birth Day
生まれてくれて、ありがとう。





若津樹硅さまからいただきました!
加山、アップするの誕生日から遅くなっちゃったけどごめんね!
こんなに素敵な誕生日プレゼント他にないですよ…!よかったね加山あんた幸せ者だね…!(涙)
加山にメロメロなくせに気づいてない大神さんがかわいすぎます(悶)
甘々ラブラブで幸せすぎます〜!
若津樹硅さま、ありがとうございました!

モドル