New Year's Flower
「お・お・が・み〜ぃ!」
見慣れた、懐かしい帝劇のロビー。そして大神。
「か、加山?!おま…っどうして?!紐育は…っ?!」
「正月休み。サニー司令がな、頑張った褒美にって自家用機出してくれたんだよ」
大神の手から書類の束が落ちそうになって、慌てて支えた。
手が触れる。
「あ…」
「わぁ、本当に大神だ。正月早々、しーあわせだァ」
もう2日になっちゃったけどな、と付け加えると、漸く大神も少し笑った。
大好きな大神の、大好きな笑顔。こんな傍で見たいと、どんなにか思ったろう。
「お帰り、は言ってくれないのか?」
「あ、あぁ。お帰り、加山」
「たっだいまぁ〜大神ぃ。明けましておめでとう。お前も正月くらい休めるんだろ?いや、休まなきゃ駄目だ。てな訳で〜。こんな書類はサッサと置いて、俺とのんびりしよう!」
「あ、おいっ!」
現状にまだちょっと付いて来られない大神に捲くし立てて、俺は大神の手を引いた。
事務局に書類を片付けると、今度は逆に大神が俺の手を引く。
くふふ。大神が手を繋いでくれるなんて、嬉しい。
帝劇の中はとても静かで、二人の足音しかしない。それも絨毯に吸い込まれて、ごく小さな音。
「…ゆっくり、出来るのか?」
「ん〜、流石にそれはちょっと。四日しか、休み貰えなかった」
大神が驚いて振り向く。
「四日っ?そんなので紐育から帰ってきたのか?とんぼ返りじゃないか!」
「う〜ん。ま、詳しくは座って話さないか?お前の部屋で」
と目の前のドアを指した。
誰も居ないみたいだけど、何も廊下で話すことはないだろ。
掴まれてない方の手でドアを開けてやったら、大神は照れた様に苦笑した。
「そうだな。…何かビックリして動揺しているらしい」
「驚かそうとは思ってたけど、こんなに驚いてくれると嬉しいぞ」
これまた懐かしい大神の部屋の、懐かしいベッドに腰掛ける。
あんまりに何も変ってないから、紐育に居たことが嘘みたいだ。
大神も隣に腰を降ろすと、俺の顔を覗き込んできた。
「で?どうしてそんな強行軍で帰ってきたんだ?お前こそゆっくり休んだ方がいいだろうに」
「あはは〜。日本に帰る為に休みくれたんだよ、サニー司令。俺へのご褒美ってのは理由の半分。後の半分はな、プレゼント、だってさ」
「プレゼント?褒美とどう違うんだ?」
「褒美は俺用。プレゼントはお前用」
腑に落ちない顔をしている大神の鼻を突ついてやる。
まさか、忘れてるんじゃあるまいな、コイツ。…いや、有り得る。
「一月三日って何の日だ?」
「え?…あ、俺の?!まさかプレゼントって!」
「そのまさか。紐育華撃団司令官殿から、大神一郎総司令官へプレゼントだってさ。だから帰ってきたんだよ」
漸く判ってくれたか。
それでも、喜んでいいのか困っていいのか、複雑な表情をしている大神。それが可笑しくて、頬に口接けた。
「理由なんてどうでもいいのさ。お前にこうやって会えたし。…会いたかったよ、大神」
「…あぁ、俺も会いたかった、…加山」
間近で瞳を覗かれて、少し気恥ずかしくて目を閉じた。
唇に優しく温かいものが触れる。
「ゴメン、加山」
「何?」
「…話は、後で…」
「うん…」
そのまま、ゆっくりシーツに沈められた。
目を開くと、大神が居た。
あ、良かった。夢じゃなかったんだ。
こんな夢、何度も見てたから…一瞬不安になるな。
「大丈夫か?久し振りなのに、無理させたな」
「平気平気。俺の方こそ…最後まで付き合えたか?」
「可笑しな心配するな。加山はもっと自分を大切にしろよ。…今の俺が言うのも、変だけど」
大切、ねぇ。大神に付き合うのも、割と重要事項なんだけど。
ふと思い付いて大神に訊いてみる。
「大切って言えばさぁ、大神の大切なものって何?」
「何だよ、急に」
「大神の事なら、何でも知りたいんだよ。なぁなぁ、何が大切?」
「大切なもの…」
大神が腕組をして、真剣な表情で考え込む。こんな質問にまで、真面目だなぁ。
「う〜ん…仲間と、帝劇と、帝都の平和と…後はお前、かな」
「大神の大切なものの中に、俺入ってるのか?し〜あわせだなぁ。すっごく嬉しい」
大神、最近ちゃんと言葉にしてくれるから、本当に嬉しい。却ってドギマギするくらいだ。離れてる所為かな。
「加山の大切なものって何だ?」
「俺ぇ?そうだなぁ。…やっぱり帝都と紐育の仲間と、両方の平和と、大神」
そう言ったら大神が笑った。予想通りって顔してる。
「他にはないのか?」
「う〜ん…。あ、でも、一番大切なものは違うぞ」
「何だ?教えてくれよ」
何か、悪戯を仕掛ける気分だな。クスクスと笑いが込み上げる。だってこれは、きっと大神にも予想出来ないだろうから。
「一番大切なものは、な」
「うん?」
「お・れ」
大神の目がキョトン、と見開かれた。まさか俺がそんな事言うなんて、想像もしなかったんだろうな。
「…先刻俺が言ったばかりじゃないか、大切にしろって。本当に大切にしているのか?」
「してるさぁ。それとも“大神が一番”って言うと思ったか?」
「言いそうだな、とは思ったけど。どうして自分自身なんだ?当然と言えば当然なんだけど…何かお前が言うと、不思議だ」
言葉通り不思議そうな大神の頬に、指を滑らせる。
サラサラの白い肌。俺、大神触るの大好き。それを知ってるから、大神は何も言わずに好きにさせてくれる。
「だぁってさぁ。大神、俺の事好きだろ?」
「…まぁ、な」
「だから、だよ」
「意味が判らん。加山は端折り過ぎだ。きちんと説明しろ」
片眉を吊り上げてちょっと睨まれる。
そんな顔も綺麗で格好良いよなぁ。やっぱ俺、大神に惚れてるんだなぁ。再確認。
「大神は俺の事、好きでいてくれるだろ?だから抱き締めてくれるし、キスもしてくれる。大神が好きでいてくれて、そう言ってくれる体だぞ?大切って言ってくれる俺だぞ?一番大切に決まってるじゃあないか」
「…変な理屈」
「そぉかぁ?理に適ってるだろ?」
擦り寄って耳元に囁く。
「俺は大神のものだから。大神のものは全部大切。大神が愛してくれる、俺が大切。大切な大神を護れる、俺が大切。…大神の大切なものを護れる、俺が、大切」
大神の腕が俺の背に回る。
そぉっと、けれど強く抱き締めてくれる。まるで宝物の様に、大切そうに、抱いてくれる。
「加山…」
「くふふ。一番愛してるのは大神だよ。けど、一番大切なのは、俺」
「うん、そうだな。じゃあ俺も、自分を一番大切にしないと駄目かな」
「別にいいよ、大神の好きで。大丈夫。大神が大神を大切にしなくても、俺がこれでもかってくらい大切にしてやるから。大神を護るのは俺だからさ」
唇が触れる。羽根の様に、唇が唇を辿る。
クシャリと髪を撫でられて、首筋にキスを落とされて。
「パラドックスだな。俺を護る加山を、加山が護らなきゃいけないのか」
「そう…だなぁ…ちょっと、ややこしぃ、かぁ…」
シーツをはだけられた肩に震えが走った。
大神の頭を抱き寄せ、髪に口接ける。
「一人で全部やろうとするな。…何の為に、一緒に居るんだよ。俺にも…お前を守らせろ」
「う…ん、嬉し…なぁ」
もう一度ベッドに押し倒されて、夢見心地で囁かれて、…涙が出る程、嬉しい。
視界の端で時計を確認する。
「お…がみ、ぃ…っぁ、待…て」
「何?」
「誕生日、おめでとう。今年も、この先も、ずーっとお前が幸せであるように…。俺、頑張るから」
俺を見下ろしながら、大神が華やかに笑う。何て綺麗な笑顔だろう。
「ありがとう、加山。最高のプレゼントだ。Mr.サニーに礼をしなくちゃな」
「俺には?」
「お前には…今、な。今度はゆっくり、大切にする」
「あっ…」
やっぱり大神は、たらしだと思う。花みたいに、美人のクセに。
頭の片隅でそう思ったけど、それもすぐに融けてしまった――――――
「ほれ、新次郎からもプレゼント預かってきたぞ」
「…何だ?これ」
「リトルリップスの商品一揃え、に見える」
「これをどーしろと…」
「さぁ…」
END.
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