冬の兎

 窓わくに切り取られた夜空には、絵のように絶妙な配置で月が光る。
 冬の夜の窓辺は、硝子ごしでも空気が冷たい。


 月には兎がいるという。
 もちつき、ぺたんぺたん。


 だらしなくはだけたシャツを辛うじてまとっているだけで、他の衣服は加山に剥ぎ取られてしまった。
 いつからだろう、こんなふうに交わるようになったのは。

 「……大神?風邪ひくぞ、そんな格好のままじゃ」
 「……なあ加山。人間は、いつか月に行くだろうな」
 「え?……ああ、そういう計画があるという話は聞くなぁ」

 月に何をしに行くのだろう。
 兎がいるのかどうかを、確かめに?

 加山が上掛けを肩からかぶったまま近づいてきて、後ろからふわりと上掛けの中に抱き込まれる。
 そのあたたかい身体は、いつも泣きそうなくらいにやさしい。

 「……月に兎がいるって、信じる?」
 「そうだなぁ〜。信じてた頃もあったなぁ」

 やさしく笑いながら、加山は俺を抱きしめる。
 首すじに顔をうずめてくる仕草は、まるで子供みたいなのに。

 子供だったら。
 出会ったのがもっと、子供の頃だったら。
 こんなふうに身体じゃなくて、もっと別のつながり方ができただろうか。

 「……ごめん、大神ぃ……オレ」

 後ろから押し付けられた加山のものが、何に欲情したものか、熱を持って膨張しているのがわかる。
 さっき、あんなに熱い体液を、俺に撒き散らしたくせに。



 上掛けを敷いていても、床の上では身体が痛い。
 慣らされたそこに、加山が押し入ってくる。
 のどを反らすと、窓から鏡のような月が見えた。

 「……っ、加山………月が、見える」
 「……月に兎はいないから、別にいいだろう……?」


 月に、兎は、いないんだ。


 加山が動き始めると、ぎちぎちと肉が軋むのがわかる。
 それなのに、頭はぼうっとして、身体は反応していく。


 兎のいない月。
 子供だったらもっと、別な。


 「……やぁっ……や、嫌だ、加山ぁ…っ」
 「お…おがみぃ、すまん………逆効果だ、それは」

 心とは裏腹に、快楽に震えるそれを握られて、身体がはねる。
 身体だけ、こんなに大人になってしまった。

 「……泣かないで、大神…」

 子供みたいに泣いても、身体は溺れていく。
 まぶたに落とされるキス、乾いた唇を濡らすキス。
 暗い部屋の月明かりで見上げた、加山の飛び出たのどぼとけや、しっかりとした鎖骨が、やけにせつなく見えた。


 兎のいない月を知る、人間は本当に進化している?
 知らなくてもよかったと気づくのは、知ってからだっていうのに。

モドル