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「……引き続き、部下を調査に当たらせますっ………」
支配人室で現在調査中の件についての報告をしていた加山は、もう本当に勘弁してくれ、という状況だった。
「………あと1週間か。まぁ、たいした期間じゃないよな?」
事務室のかすみと加山が、一目を忍ぶようにこそこそと密談をしているのは相変わらず。
(オレがかすみさんと会う理由が知りたいわけじゃなくて、絶対楽しんでるに違いないんだ大神は!)
加山が大神も気持ちいいことも大好きで、だからこそこれがつらい仕打ちだということを、大神は知っていてやっているのだ。
「………ん、も……やだよぅ大神ぃ〜」
義理堅い加山としては、その理由を喋るわけにはいかない。おそらく大神もそれを知っていて、「おあずけ」中の加山にキス攻撃をして楽しんでいるのだ。もの欲しそうに頬を赤らめ、瞳をうるませる加山を。
「……さて、今日は2週間目だが?」
いつものごとく支配人室で報告を終えた加山に、大神はにっこりと微笑む。加山の身体は既に限界に近いというのに、大神はいつもと変わらず涼しげな顔だ。性欲には個人差があるというのがよくわかる事例である。
「うう……今夜。今夜なら多分、喋っても平気なはずだから〜……」
なんとなく落ち着かない素振りで加山がもじもじとしていると、支配人室のドアがノックされた。
大神も加山も、かえでが入ってきた途端に司令と月組隊長の顔になるのはさすがと言うべきか。
「なるほど。どさくさにまぎれる形で行動できるし、人のエネルギーも集まりやすい……」
月組が調査していた件というのは、いわゆる新興宗教団体が銀座周辺で行っている集会についてだった。霊力が多少絡んでいるようで、帝撃が調査に当たっているのである。
「……では、夢組の方に待機命令を出します。月組も、隊員を配備して」
大神の、隊員を配備、という言葉を遮り加山が一歩進み出た。
「オレが行きます、司令」
加山が頑なな態度を取ることはそれほど珍しいことではないし、言い出したらきかないことも知っている。理由はきっと、後で言うつもりなのだろう。大神とかえでは顔を見合わせ、ふうとため息をつくと加山に許可を出した。
「じゃあ、これを持っていって。紅蘭が作ってくれた発信機なんだけど、このボタンを押せばこちらに知らせる仕組みになっているから。勿論、キネマトロンも持っていくのよ」
夜もだいぶ更け、祭りの人出も最も多くなったであろう頃、耳慣れない鋭い音が司令室に響いた。
「これは……!」
かえでが加山に持たせた、発信機の緊急信号である。キネマトロンが鳴らないことを見ると、鳴らせない状況であるということか。
「俺が行きます。まだ何があったかわかりませんし……かえでさんは、こちらで待機を」
大神は胸元の銃を確認し、司令室を走り出た。心臓が控え目に、しかし確実に大きく鳴っている。祭りが行われているのが比較的近所だということが、何よりの救いだった。
人の波に、見慣れた赤いシャツを見つけ、大神は叫んだ。
「…………大神?」
人違いではない。何の緊迫感もない顔で振り向いたのは、紛れもなく加山だった。
途端に、大神の耳には音が、目には色が飛び込んでくる。
驚いた顔をしていた加山が、大神を見つけてにっこりと笑う。
人気の随分少ない神社の裏手で、加山はキネマトロンにぺこぺこと頭を下げていた。加山を見つけるなりここに引っ張ってきて、かえでに通信を入れさせたのは大神である。
「………それで?本当に何もなかったのか?」
へらへらと笑っている加山を見て、大神は脱力しっぱなしだった。加山の命すら心配して駆けつけてみれば、ただの発信機の誤作動だというし、加山はのんきにせっかくだから祭りを楽しもうなどと言う。
「………何事もなかったのならいいんだけど、つ、疲れた………」
ぐったりとしている大神の肩をぽんぽんと叩き、加山がにこにこと笑っている。
「………お、大神さん?」
背後からの気配には敏感な2人である、さぞかしすごい顔で振り返ったのだろう。振り返った先には、浴衣を着たかすみと月組隊員の竹本が目を丸くしていた。
「お、大神さん!こ、これは……」
顔を真っ赤にしてしどろもどろになりながら弁解しようとするかすみを、大神は笑って制した。かすみの隣では竹本が気まずそうに苦笑いをしている。
「2人とも照れ屋だからなぁ。こそこそキューピットするのはなかなかに大変だったぞう〜。さあ!夜は長い!記念すべき初デート、ゆっくり楽しんでくれたまえ!行くぞっ大神ぃ!!」
「いやあ、オレが言う必要なくなったなぁ」
義理堅い加山らしいな、と大神は隣の加山を見て微笑む。祭りの人出では、男2人が連れ立って歩いていてもそれほど目立たないのがありがたかった。
「甘くないか、それ」
大神は、嬉しそうに飴を舐めている加山の腕を引っ張ると、境内の林の中へと引っ張り込んだ。そこは賑やかな夜店の通りとの対比で、普段よりもずっと闇が濃い。
「と、突然何するんだ………んむ」
飴を持っている加山の手首をつかみ、キスをする。舌が口内に潜り込んでくる感触に、加山はぎゅうと目を閉じた。
「………やっぱり甘いな」
大神の唇がするすると首すじを滑り降り、腰にまわされていた手は尻を撫でている。ぞわぞわと鳥肌が立って、すぐにでも全身から力が抜けてしまいそうだった。
「や、やめろって!………こんなところでぇ〜……」
耳を唇で愛撫され、背筋に甘い痺れが走る。ベルトを外されそうになって気づけば、大きな木に背後を遮られていて逃げることもできない。
「だ、だってぇ………大神らしく、ないぞっ………っう」
暗闇の中で大神の瞳が、ぎらりと光る。
「……蚊に、刺される………だろっ!…………っ」
食べかけのりんご飴がゆっくりと落ちて、木の根に当たった。
おわり |