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扉を開けると、アイリスが立っていた。手に、かわいらしい花の冠を持っている。
「ねえ、お兄ちゃん。レニ……元気なかったでしょ。アイリス、これ、レニにあげようと思って……。一生懸命作ったんだよ!」
少し背をかがめた大神に、アイリスが花の冠を示した。アイリスの目は真剣に、その思いを物語っている。アイリスが伝えたい思いがその冠の中にいっぱいに込められているのが、大神にもわかった。
「……よし、じゃあそれをレニに渡しに行こう」
レニの部屋の扉をノックすると、数秒の間の後レニが顔を出した。その様子は、先ほど大神が部屋を追い出されたときと変わらず、大神の顔も、アイリスの顔もほとんど見ようとせずにうつむいている。
「…………なに?」
胸元に差し出された花の冠を見て、レニが驚いたように顔を上げた。そんなレニを見つめ、アイリスがにこにこと笑っている。
「大事なお友達のレニが、早く元気になりますように、ってお願いしながら作ったんだよ」
レニは、ぽかんとした様子で花の冠を見つめている。閉ざされていたレニの心に、アイリスのあたたかい心が歩み寄っていくのが見えるようだった。
「……今の俺は、レニの問いに心から答えることができない。でも、俺はレニを大切な仲間だと思っている。……それだけは、信じて欲しい」
大神の言葉を聞いて、レニが大神の顔を見る。そして、わずかに微笑み、アイリスの花の冠を受け取った。
「………ありがとう」
「白?黒?」
独り言のように呟かれたかえでの言葉を受け、闇から声が上がる。闇に目が慣れても、その位置では窓から漏れる廊下の灯りで逆光になり、声の主の姿をとらえることは難しいだろう。
「根拠は?」
かえでは背後からの声に振り返ることなく、そのまま暗い空を見上げている。声の主は風上にいるので、ささやくような小さな声でもその内容をかえでが聞き漏らすことはなかった。
「やはり、彼女ね……それから?」
その言葉に、かえでが突然振り向いた。闇に慣れた目を窓からの光に射抜かれ、顔をしかめる。
「……これは、推理の域を出ません。それに」
廊下への出入り口へ走り出すかえでを、少し大きめに声が呼び止めた。
「地雷を仕掛けました。しかし、これを踏まれる前に何とか」
声の主は、ざっと鋭く植え込みを鳴らし、姿を消したようだった。
かえでが廊下へと走り込むと、危うく誰かとぶつかりそうになる。それは、作業着姿のままの紅蘭であった。
「ええところに会うた!かえではん!レニが……レニが出て行ってもうた!!」
「……レニ、これ、捨てちゃったのかなぁ?」
アイリスが室内にとぼとぼと入り、床にしゃがみ込んでその冠を拾い上げる。その小さな背中が、まるで泣いているように見えた。
「大神はん、大変や!レニが……、レニがアイゼンクライトで出て行ってしもたんや!!」
「よう、大神ぃ」
大神が加山の前を通り過ぎようとしたとき、がしりと肩をつかまれる。それは振りほどけない強さではないが、抗い難い力だ。
「いいか、絶対にやられるんじゃないぞ。おまえが負けさえしなければ、オレの仕掛けた地雷は多分、踏まれる」
大神がほとんど睨むように加山を見ると、それを見返す彼の目つきはいつにもなく鋭い。
「しかし、相手が奥の手を出してこないとも限らない。そのときは、おまえ次第だ」
大神のまっすぐな視線を受け止め、加山は安心したように肩にかけた手を離した。大神は、加山に片方の口の端を上げて見せ、司令室に向かって走り出す。
「……やっぱ片棒担いじゃったよなぁ、オレ。これ、報告したくないなぁ……」
大神を取り込んで閉まる司令室の扉を見つめ、加山はひとつため息をつくと、隠し通路に潜り込んだ。 |