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「………あ、あれは………!」
モニタの中でずるずるとその姿を現すもの。あまりのことに、かえでと加山は息をのんだ。
「………あやめ、姉さん………?!」
どろどろとした黒い水たまりの中から出現したのは、紛れもない彼女の姿。長い髪が濡れてべったりと顔にはりつき、悪魔的に美しい裸の身体の上を、黒い泥のようなものがずるずると滑り落ちていく。
神剣白羽鳥を代々受け継ぎ守る藤枝家は、女系の傾向にあった。その長子として生まれ育ち、まったく申し分のない教養と武芸を身に付けた姉。性格も温厚で誰にでもやさしく、妹のかえででさえ欠点を見出すことは難しかった。誰よりも尊敬し、愛していた姉は、先の大戦で帝都のために命を落とした。
「副司令!」
両肩をつかまれ、かえでははっと我に返る。気づくと、頬には涙が流れ、両腕ががくがくと震えていた。
「副司令……、大丈夫です。水狐程度の妖力で、完全な反魂はできないと推察します。……冷たい男だと言ってくださって構いません。あなたが惑わされてはいけない!」
強く自分を見据える加山の瞳の中に、かえでは一瞬のうちに様々なものを見た。
「大神くん!惑わされてはダメ!!それは……それは姉さんじゃないわ!!」
操縦席の前部モニタに、信じられない光景が映し出されている。
大神は気づくと光武のハッチを開け、外に歩み出ていた。どろどろと渦巻く水たまりの上に、穢れた美しい女性が立っている。その左胸を、真っ赤な泥が流れていた。
「………お……大神さん!!行ってはダメです………!」
息をのみ、動けずにいる花組から、さくらの弱々しい泣き声が上がった。皆、衝撃のあまり目の前の光景を見つめることしかできない。あやめを直接的には知らない織姫とレニも、その場の禍々しく悲しい妖力にあてられ、顔色をなくしていた。
自分が撃たなければ、もっと安らかにこの人は眠れたのではないか。
「フフ………ウフフフフフ………狂え、大神一郎。裏切られ、狂えばいい…………」
無理な反魂によって自分の持てる力以上の妖力を使い果たした水狐が、がくりと膝をついた。
「……あやめさん!!」
大神が差し伸べた腕の中で、抱きとめられたあやめの形。水狐の妖力が尽き始め、反魂しきれなかったあやめの肉体がどろどろと腐り、崩れ始めた。
「あやめさん…………」
大神が抱きしめればその肋骨はへこみ、肉はひしゃげて皮膚がずるりと剥がれ落ちる。
「……アナタは、本当は死にたいんでしょう?ずっと。この女を、殺したときから」
水狐が自分の吐く血にむせながら、大神をあざけるように笑う。
「そうやって戦って、死ねるのを待っているんでしょう………?このヒトのところに、行きたいって」
自分は、死に近づくために戦っているというのか。あやめの元へ行くために。
ぐずぐずと崩れ落ちていくあやめの身体を愛しげに抱きしめ、大神はただ祈った。
「望みどおり、殺してあげるワ。そのヒトのところへ、行きなさい!」
地中から大型の魔操機兵が現れ、水狐を取り込み鈍く動き出す。
マリアの声が響く。赤い光武と桜色の光武が、大神を守るように水狐との間に滑り込んできた。
「大神さん!!あたしたちを見てください!」
大神が顔を上げたとき、その腕の中から既に人の姿をしていなかったものが、すうと消えた。
「マリア、カンナ、さくらくん、みんな………、そうだな。俺たちは、守りたい人がいるから、戦うんだ」
白い光武が主を迎え入れ、白々と明ける空に花組の勇姿が踊った。 |