あいつは夜毎やって来た。
何が目的なのか、俺にはわからない。
夜になると窓からするりと入ってきて、俺のベッドの上に座り込む。
何も言わないくせに、目を見ただけで、一緒に寝よう、と訴えているのがわかるのだ。
溜息をつきながらも、まんざらでもないので一緒に寝てやることにしていた。
「ん〜、大神のベッドはあったかいなぁ♪」
「……そりゃ、こんなに密着してればな…」
そして、朝起きると決まって俺の隣はもぬけのから。
夜にここに来ること以外、俺はあいつのことを何も知らなかったのだ。
昼間は何か仕事をしていたのかもしれないし、もしかしたら他の誰かの部屋に行っていたのかもしれない。
「なあ、おまえって普段何をしてるんだ?帝劇の中をうろうろして……」
「えっ?!…まあまあまあ、そんなことはどうでもいいじゃあないか、大神ぃ。こうして一緒にいられるんだしぃ♪」
あいつが来ない夜は、妙に心配でつい夜空の月を見上げた。
一度、血まみれでやってきたことがあったからだ。
身体中を調べたけれどどこにも怪我はしていないようだったので、とりあえず帝劇の皆には見つからないように一緒に風呂に入った。
それにしてもあのときは、俺が裸なのをいいことに、身体中を舐めまわすものだから随分と難儀した……
「……どうしたんだ、大神ぃ。考え事か?」
「…ん、ああ、いや………ちょっとな」
あるときを境に、奴はまったく姿を見せなくなった。
そう言えば、絶対に声を出さなかったあいつが最後に、一声鳴いたのを聞いた気がする。
「……おまえがここに来るようになる前、夜になるとここに通ってくる奴がいたんだ」
「な?!なんだってぇ?!おっおっおっ大神ぃ〜そんな奴がいたなんてぇ〜……ヨヨヨヨヨ」
最後にあいつは、何と言っていたのだろう?
猫語のわからない俺には、到底見当もつかないのだが……
「鼻水を垂らすな。猫だよ、猫」
「…な、なんだぁ、そうかぁ。だったらそうだと最初から言えよ〜大神ぃ〜…人が悪いなぁ〜」
加山がここに来るようになってから、ぱったりとあいつは来なくなった。
白い毛皮の、猫にしては随分と優しげな顔をした……
誰かの家で飼われて、幸せに暮らしていてくれれば良いが、と思う反面、胸が少しちくりとする。
「顔に出てるぞ、大神ぃ。……オレがいるから、寂しくないだろう?」
「な、何言って………」
急に優しく抱きしめられて、耳元で囁かれる。
寒い夜に、抱きしめてくる腕があることを、俺は嬉しく思う。
名前もつけなかったあいつが、寒い夜に誰かに抱きしめられているように。
幸せにしているようにと、俺は加山の腕の中で思った。
「………説得力ないかな」
「ん?何のことだ〜大神ぃ♪」