「山登りを始めて23年になリますが、私の知人も3名、山で先に逝ってしまいました。
今回の原稿の事故直後は、彼女が異国のジャパユキさんということもあり、いろいろ考えさせられました。
遠い異国で若い命を落とされて、本当に残念です。
事故から1年半がたち、自分でも冷静に当時を振り返ることが出来るようになりました。
アマチュア無線は楽しみながら行うのが一番です。
お守リとしては活躍する場のないことを願っています。」
「非常 非常 非常。こちら富士山 富士宮口7合目。遭難者あり。富士宮警察山岳救助隊に、連絡してくださる方、交信お願いします」
*年5月*日、午前7時45分。アマチュア無線FM430MHzメインチャンネルのアナウンスである。山行記録から当日の記録を転記してみる。
5月*日(日) 午前2時目覚まし時計が鳴ったが、無意識に音を止めて寝込んでしまった。気がついた時には午前3時50分。あわてて、昨日より準備していたザックを車に積んで出発。4時8分だった。途中のコンピニで朝食と行動食を買い込んで、明るくなり始めた車の少ない道を富士山目指す。裾野市須山(富士サファリバークの近く)で、初めて富士山と対面。非常にきれいだ。1時間少々のドライプで、富士宮口5合目駐車場に着く。登山口に一番近い場所に、***ナンバーの白い車があったのでその横に車を止める。 ポットの湯で作ったカップラーメンの食事を車中で食ぺる。外は風が非常に強く、15m位は吹いている様だ。停まっている車がグラグラ揺すられて気分が悪くなってしまう。すっかり明るくなった午前6時、ザックを背負い山頂を目指す。
夏道は3分の1位雪の下になっている。6合目の小屋の横から8合目まで統いている雪渓に、6本爪のアイゼンを付けて登りだす。雪渓はどこでも歩けるが、斜面が急なために自然にジグザグの登高となる。一定角度でくるぶしを曲げているので、少々足首が痛くなってしまう。新7合目の小屋は、半分以上が雪の中に埋もれている。夏道から50m東側にある雪渓を2分の1程登った時、上の方からなにやら叫ぴ声が聞こえる。落石かと上部を見て身構えるが、風が鳴っているだけである。そこから20分程登って小休止。下を見ると6合目の雪渓の取り付きに、スキーヤーが一人登って来るのが見え、自分一人ではないと安心する。この時期のスキーヤーは、一般のゲレンデスキーヤーではなく、山屋以上の経験がある者が多いからだ。
さらに20分ほど登った時、突然左手の夏道の方から、男性の助けを求める声が西風に乗って耳に入る。自分の所から50mほど西側に行った、岩影の方向である。異常な様子にすぐに男性の方に向かう。そこにいたのは、ガタガタ体をふるわせている男性と、岩間に体を入れて、手足を伸ばしてうつ伏せになっている、小柄な女性の二人だった。この時期にては、身に着けている物が夏山登山のそれである。水筒もなけれぱ食料もザックすらない。運動靴にジャンバー姿である。男性に「どうしたんだ」と聞くと、「昨夜からここで夜を明かして、腰が痛くて歩けない」との事。雪が腐っている昼間に8合目まで登ったが、寒さで雪がアイスパーン化して下れなくなったらしい。女性の体をたたきながら「大丈夫か」と声をかけると、「ウー」と声にならない声を発する。意識が無く非常に危険な状態だ。自分のダウンジヤケットを着せて、430MHzのメインで前項の非常通信となった。
すぐに応答してくれた***局(藤沢モーピル)に、富士宮の山岳救助隊に連絡を要請する。ひとりではどうしようもないので、雪渓を登ってくるスキーヤーに協力を要請する。男性の方は、付き添いがいれぱ何とか歩ける状態だったので、二人のスキーヤーと共に先に下りてもらう。他のスキーヤーがスキーでそりを作り、もう一人が夏道のロープを10mほど3本切ってくる。しかし、この時点で彼女の瞳孔が開いてしまったのに気付く。だめかもしれない。開いたままになってる瞼を閉じてやる。一刻も早く下ろそう。彼女の体をツエルトでくるみロープで固定して、もう一人と雪渓まで運ぶ。火山礫の上はアイゼンを付けているので非常に歩きにくい。雪渓からスキーのそりに彼女を乗せて滑らすつもりがうまく滑らない為、直接ツエルトのままで、ロープで確保しながら下ろす。滑り出すと、あっという間に七合目から六合目の小屋の横まで下ってしまう。このあたりで、通信の相手をロケの関係で***局と変わってもらう。6合目の小屋で、担架になる看板に彼女をのせて歩き始めた時、5合目から登ってきた山岳救助隊と合流。すぐに救急措置をするが、間に合わなかったようだ。非常通信を終了する事を***局に告げる。午前9時56分だった。
足取り重く5合目に向けて、観光客の多くなった道を進む。5合目の登山道入口では、救急車が、大勢の観光客と共に待機していた。彼女を乗せると、すぐにサイレンをならして下山していった。私達「にわか救助隊」の6名は、登山指導所にて名前を記入し簡単な事惰聴取を受けて、20分程でご苦労様となった。私の車の横に停めてあった遭難者の車に、救助隊員が乗り込んで救急車の後を追っていった。
この事故から私が感じ、また反省した点を山における非常通信という立場から考えてみた。非常通信を出すに当たって確認しておく事として
1、自分の名前、住所、電話番号
2、遭難者の名前、性別、年齢、住所、電話番号
(メモにとって読み上げたほうがペター)
3、遭難場所の詳細
(これは以外に難しい。初めての山域とか、雪山では目印になる物が必要になる。
山の場合、尾根等に行政区の境があり、警察の管轄も変わるので注意が必要)
4、遭難者の容態
(脈の有無、意識の有無、外傷の有無等。)
5、ヘリが飛ぺるかどうかの判断
(これも難しい。今回の現場では風速10〜15m程の強風が吹いていたのと、
富士の独立峰としての突風を考えて無理と判断したのだが、
はたしてどの程度までならOKなのか。
ヘリの性能の差もある事だし、いまも不明である。)
以上の5点を中継局に伝えれば第1報はOKと思う。後は警察の指示待ちとなる。
またバッテリーの消耗を防ぐ上でも、小出力でも交信出来る局に変わってもらうのも重要なことだ。非常通信に遠慮は無用である。救助隊も非常通信した周波数帯の無線機を持っているので、交信範囲にはいれば直接交信ができる。今回は救助隊との交信は無かったが、心強い装備である。
交通事故の110番通報や、火事の119番通報と同じで場数(?)が必要なのかもしれないが、このような場数はできればしたくない。しかし全く可能性として無い訳では無いので、日頃から山の情報の収集や知識の修得に勉めなけれぱならないと思う。 山と無線の本来の楽しみとはちがう、もう一つの側面として心の隅に記憶していただければ幸いである。これから本格的な冬山シーズン。安全で、楽しい無線運用を心がけよう。