アニマルウオツチングの山 愛鷹 黒岳 


     私の職場は、年明けから仕事量が多くなり、残業60〜70時間/月のぺ-スがここまで続いている。そんな訳で、今年のGWは3運休しかとれなかった。ストレスが溜まりにたまって、ここらでのんびり楽に山岳移動できる所は無いかと、地図とにらめっこ。そこで見つけたのが愛鷹連峰黒岳。愛鷹連峰の中では、最後のペディションアワードのポイントだ。駐車場から、登り1時間余というのも少々疲れ気味の体には良い条件だ。

       5月3日

     平日の朝と同じ時間に家を出る。三島から須山に向かい、40分程で登山口の愛鷹神杜前の駐車場に到着。久しぶりのオーバー10Wの為に、バッテリーが重い。20kg以上は軽く見積もってもありそうだ。重登山靴でバランスが丁度良い。
     神社の裏から30分も登ると、かわいい愛鷹山荘の前に出る。いつきても所有者の人柄が随所に表れた山荘だ。ここからワンピツチで、越前岳との分岐の尾根に出る。尾根の北側から、このすぐ下のクレー射撃場の発砲音と、富士サファリパークの音楽が風 に乗って聞こえてくる、GWの山だから、またそれも良しとしよう。
     15分も急坂を頑張ると富士山の展望所に出るが、パスして山頂に向かう。

     黒岳山頂はマイナーな山らしく、人出の多い山頂につきもののアブ類が全く居ない。山頂一帯は山桜とスミレの群生で、空も大きく明るくのびのびした雰囲気だ。リニアアンプを使っての430FMでのQRV。持ってきた花見用の酒を飲んでからの運用で、全く効率が 上がらない。10局程で、早々とQRTして昼寝をする。
     下界は風が強いようだが、ここは全く別天地で2時間ほどうとうとしてしまった。山桜は花が半分、葉桜が半分で半月ほど前ならさぞかし満開の花見が出来ると思う。

       5月4日

     2日続けて同じ山に登った事は、今回が初めてである。今日はアワードハントをしっかりすぺく酒なしである。パンドは6mSSB。
     昨日の荷物より8kg以上軽くなった背負子と、ピブラムを張り替えたばかりの軽登山靴で、一気に山頂まで登る。昨日とちがうのは 空の色。天気が下り坂のため、高い所に薄い雲が一面に張りつめている感じだ。しかし富士山はしっかりと全容を見せているので、1日な んとか持つであろう。
     羽生市からでていたJ*1G*X/1に声をかけて、56をもらう。10時22分からCQを出す。1O局目に 7*3L*F Zさんに呼ばれる。昨年秋から6MにQRVしたが、その運用の80%以上の確率でQSOしている。よほど縁があるのか、10分以上の長話しになってしまった。最後は静岡市の安倍奥の山伏岳から J*2Q*U/2 Tさんに呼ばれた。梅が島ではなく、井川から林道を上がって北とのこと。南アルプス南部の山々もかなり開発されているな、と感じながらQRTする。帰ってからログ帳で調べたら1年ほど前の深夜、430FMで初QSOなのに山の話で盛り上がって、1時間近くもラグチューした人だった。

     帰りは、富士サファリパーク方面の道を下ってみる事にする。まだどの地図にも道は載っていない道だ。
     2分ほど進むと「ハイキングコース終了点」と記入した道標がある。ということは「これ以上登るとサファリパークのエリアを出ますよ。」ということか。裏を返すと、この道を下っていけば、サファリパークの中に入れるということになる。と、ここまで考えがまとまった時には、足はズンズン下に歩き出しているのだった。なにやら関所破りをしている様で、ワクワクしてくる。
     ところがそこからわずかに下ったところで、家族連れが休んでいるではないか。より正確な情報が得られるかもしれないと、声を掛けてみる。この道の出発点はサファリパークの料金所の手前、つまり取り付け道路からとの事。先ほどまでのワクワクした気持ちは、一気にしぼんでしまった。この道を下ったとしても、サファリパークに入場する事で大渋滞中の十里木街道を歩くのは得策ではないと判断して、来た道を戻ることにする。
     もう一歩も登りたくないと言う家族連れに、「あと5分も登るとサファリパークが一望のところがありますよ」と伝えて黒岳に向かって歩き出した。少し登ったところで、後から私を呼び止めるかわいい声がする。小学校四年生くらいの先ほどの家族の女の子が、おにぎりを差し出して食べてくださいと言う。何だか少々気が引けたが、もらえる物は何でも受け取る主義の私は、ひとつ頂くことにする。
     歩きながらそのおにぎりを食べていると、家に残してきた小五と中一の子供たちの事を思った。2年ほど前まではどこに行くにも一声掛けれぱついてきたのが、最近では自分たちの世界を作り始めて、家族で出かける事より友達と出かけることの方が多くなってしまった。子育ての一番楽しい時から、精神的なバックアップだけですむ関係になって行く事は少し寂しい気もするが、反面こうやって自分の時間をエンジョイ出来る事は、子供達の成長に感謝しなければならないと思う。

     そんなことを考えている内に展望所に着く。ペンチが数個、富士山に向かって並べてあり富士を取り巻く山々の中でも、もっとも近い展望所の一つである。ここから見る山体は、残雪の力強さと山麓の緑の柔らかさとのバランスの妙に、艶っぼさを感じてしまう。その上、 ここは富士サファリパークの外野指定席でもある。もちろん無料である。7〜9倍の倍率の双眼鏡があれば、大型の動物ならその生態を十分観察することが可能だ。
     左のエリアではライオンが5〜6頭、草むらに寝そべっており、中央のエリアでは、パッファローがノソノソ散歩している。地上では広い と感じるパークも上から見ると何とゴミゴミしている事か。
     それにこの車の多さはどうだ。
     料金所ゲート前では五列程の車がつながり、通常の駐車場もすでに満車。広大な芝の臨時駐車場にも車が溢れている。その芝の上に、シートを敷いてくつろいでいる家族連れも多く見られる。
     日本のG.Wの風景が目の下に展開する。こうして、この風景を双限鏡で見ていると、その映像が ドラえもんの「どこでもドア」の扉の向こう側の世界の様な気がしてくる。
     ボーと双眼鏡を覗いていると「あ、ここじゃないの」と先ほどの女の子の声。急に扉を閉められたような空白の時。

     我に返っておにぎりのお礼を言って、扉のこちら側に向かって急な下り坂を歩き始めた。


1996年5月3〜4日

山と無線 26号投稿

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