| 44.つながり |
|
一人の囚人が、物思いにふけっていた。ふけるも何も彼らには、食事・就労を除いて、それ以外にやることがないのだ。 監房がいくつも並ぶそのスペースは廊下のように縦長で、両端に向かい合うように鉄格子が設置してあった。昼間であるのにも関わらず、照明がほとんどないため部屋の奥まではよく見えない。 中央の通路はよく掃除が行き届いているが、監房の中は砂埃だらけであった。無限にあるそれらは囚人が動くごとに宙に舞い、場合によっては小ぎれいな廊下へと、またある場合は監房の壁高く設置されている手のひらほどの小窓から外へと、気力を失った旅人のようにふらふらと動いていく。 無限にある砂埃。大抵の人間はそれがつもることを嫌い、窓を開け放ち外へと追い出す。追い出された彼らは、次はどこへ行くのだろうか。大気をさまよい、そしてめぐりめぐって再びどこかへつもる。 無限にある砂埃。彼らは自ら望んで生まれてきたのではない。気づいたらこの世界に投げ出され、何がなんだか分からないうちに疎まれる。そして迎え入れてくれる場所は、どこにもない。 ![]() 昔は、自分は愛されているのだと思っていたかった。人は、皆あたたかいものだと思っていたかった。親子には、目に見えなくとも、言葉にしなくとも、たいていのことじゃ切れないようなつながりがあり続けるのだと、そう思って信じていた。 父が、いなくなるまでは。 これといった確証がない状態で、たやすく「信じる」なんて言葉を使ってはいけない。 人と人とのつながりは、長い間の積み重ねでやっとできるが、ちょんと触れば千切れるほどやわく、はかないのだ。 「・・・っ」 右腕に痛みが走った。肩の付け根をぎゅっと握り、痛みをこらえる。今日はいつもより少し昔のことを考えすぎた。 囚人は腕につながれた鎖をじゃらんとならしながら、額にてのひらをあてて、大きくため息をついた。はじめは耳に響くこの音が嫌で仕方がなかったが、慣れてくれば自分の体の一部のような、たとえば骨がたまにポキッと鳴るような、そんな感じがしてくるものだ。 鎖は石の壁に頑丈に繋がれている。自分が10人で引っ張ってもびくともしないような頑丈さだ。 「こんなに厳重に監禁しなくても、逃げやしないって。・・・・行くあてなんて、ないもの・・・。」 鎖を手のひらに乗せてみる。ずっしりとした重みと、冷たい感触が伝わる。 この鎖は今、自分とこの石の壁とを、しっかりと結び付けている。そうそう、千切れない。囚人は壁を見つめた。そして、ふっと笑いながら言った。 「壁なんかと固い絆があってもねえ。」 鎖を手のひらから滑らせると、床に落ちる音と、鎖同士がこすれる音がした。手のひらにはまだ鎖の冷たさが残っていた。 「つながりが・・・ほしい・・・」 囚人は眠りについた。 |