| 45.親切な色白のなんとか |
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乾いた金属音と同時に、水分が揺れ動く音がした。乱暴に、だが規則的に、何かを投げ入れる音。監房の食事だ。 待ちきれないとばかりに飛びつく者、食欲と言う言葉を失ったかのように興味を示さない者、無言で投げ入れられる食事に彼らは様々な反応をした。 眠りから覚めたその囚人は、飛びつくわけでもなく、ゆっくりと金属製の食器を引き寄せ、丁寧に食べ始めた。 ほとんどの時間を壁に寄りかかり呆けているか、横になり寝ているかのその囚人は肌が白く、若いせいなのか体つきも弱弱しかった。 「おい、お前。」 色白の囚人に、話しかける声がある。向かいの監房の囚人であった。 その囚人は、腕も太くかなりがたいが良い。食事も、早く食べれば食べるほど食料が自分の筋肉になると信じているかのように、荒々しく貪っていた。先ほどかじったパンがまだ口の中に入っている状態で喋ったため、パンくずが床へと飛ぶ。 反応しない色白の囚人に対し少し苛立ったように、彼は先ほどよりも大きめの声で再び呼びかけた。 色白の囚人は小さく「なに?」とつぶやいたが、視線は元のままであった。 「お前、なんか面白いあだ名で呼ばれてるらしいな。そうだ、”万年なんとか”っていったな。」 色白の”万年なんとか”は、無言で皿に残っている水分をすすっている。 「すかしてんじゃねえよ、さてはもう生気残ってねえな?今にも死にそうだもんなそのツラ。まあよ、俺はこんなとっからはすぐに出てやるぜ。こんなシケたとこで死ぬのはまっぴらだ。」 「へえ、出るの。どうやるかは知らないけど、やってみるといいよ。」 「出る」という言葉に”万年なんとか”は、はじめてまともに言葉を返した。笑顔とまではいかないが、口角は嘲るように上を向いている。 食料を平らげた豪腕の囚人は、手に持っていた食器を床に叩きつけるように置いた。 「なんだてめえ、馬鹿にしてんのか。それともあれか、自分が出れねえからひがんでんのか?」 「別に。あんたが出ようとして落ちて潰れようが、興味ない。」 「落ちる?何言ってんだお前。」 ”万年なんとか”は、いまだに残っている水分をすすりながら言った。 「ああ、あんた連れてこられる時に目隠しされたか気絶でもした?ここ、空の上だから。出ようとしても降りるすべがない。落ちて、潰れて死ぬよ。」 「空?浮いてるってことか?馬鹿いってんじゃねえよ!そんなことありえるはずねえ。」 「親切心で教えてあげたんだけど、そんなに潰れたいならまあ、好きにすればいいよ。」 その夜、一人の囚人が脱獄し、外に広がる空と下に続く無限の闇に呆然としているところを捕獲され、特別独房へと収監された。 空き部屋となった向かいの監房を眺め、色白の囚人は「だから言ったのに」とつぶやいた。 「私は、どこにも行きません、イリキ様・・・。」 痛む腕を押さえながら、祈るように言葉をつなく。 「貴方がまた気づいてくださること、貴方にお力添えできること、それだけを信じております。」 そして、色白の囚人は再び眠りについた。 |